Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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どうも、待ってくださった方、もしいましたらありがとうございます。ようやく第六夜です。
みなさんはFGOの福引ガチャはされましたか?自分は無課金勢なのでできませんが、どうか望んだ☆5が出るよう願っています。



第六夜-真名-

 次の日の朝、時間は午前六時を回ったところのようだが、外はまだ暗い。それも当然、今の季節は冬なのだ。雪は見られないが、外の空気の冷たさが、今は冬だと報せる。

 そんな空気の中、衛宮邸では士郎が今起きそうであった。

 

「…んんっ…朝?」

 

 珍しく早起きしたものの、まだ辺りは薄暗く夜明けまではもう少しかかりそうだ。

 もう一眠りしようかと思ったが、時計を見上げれば二度寝できるほど時間はなさそうなので、起きて朝食の準備をするため布団から出ようとしたが、

 

「……そうだった、ランサー…起きてくれないかな…」

 

 今日もランサーにがっしりと体をホールドされており、動こうにも動けない状態だった。

 どうしようかと思うが、とにかくランサーを起こして朝食を作らねばと身動ぎでランサーを揺らして起こそうとする。のだが、夢の中でなのかわからないが、逃げられると思ったのかより腕の力を強められてしまった。これでは余計に動こうにも動けない。

 どうしたものか、とついついため息が漏れてしまうが仕方ない。とにかく出なければ色々まずいともう一度身動ぎで揺らそうと思えば、

 

(―!? ま、全く動けない…!)

 

 思った以上に腕の力を強められ、ついには動けなくなった。何故寝ている状態でこうも力めることができるのか謎だが、そんなことよりも、こうなってしまえばもう大声を出して起こすしかないと、凛が起きないかと心配しつつ、唯一動く頭を少しだけ動かすと、そこにはなんとも気持ちよさそうに眠っているランサーの顔がすぐそこにあった。

 突然ランサーの整った寝顔がすぐそこにあったのに驚き、一気に顔が熱くなって火でも出るんじゃないかというほど顔が赤くなり、先ほどまで起こそうと思っていた筈が、ランサーの寝顔に魅入ってしまった。

 

「――!! これは、ズルいよ…」

 

 いつまでも直視しているわけにもいかず、すぐに戻す。そして、

 

「ん、んんっ、んっ」

 

「のひゃ!」

 

 うめき声を発したと思えば、ランサーは士郎を抱きしめたまま寝返りを打ち、天井が見える体勢になる。

 

「あわわ、あわわわわ」

 

 するとどうだろうか、士郎の頭はランサーの胸を枕とし重力に従って沈んで行く。

 そして、士郎の頭の中は熱で徐々に混乱していき、ついには、

 

「う、あっ」

 

 ショートしてしまい、そのまま眠ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………大丈夫?」

 

「……うん、大丈…夫」

 

 それから夜明け、居間に集まった人たちは、一様にして士郎の心配をする。何故なら、士郎はどうも寝惚けているというか、この世の終わりでも見たようなそうでないような顔のまま朝から変わってないからだ。

 本人は大丈夫と言うが、どう見ても大丈夫ではない。ちなみに、霊体化して見ているアーチャーは昨日の鍛錬がやりすぎたのか、と少し焦り気味でそのようなことを考えていた。

 

(…本当に大丈夫かしら。アーチャーの奴、一体どんな鍛錬施したわけ?)

 

(だ、大丈夫かな士郎くん。倒れたりしないよね? 大丈夫だよね…!?)

 

(むー、士郎なんか元気なさそうだなー。ここは一発元気が出るように私が喝を入れるか!? …いや、それはまずいか。

 それはそうとー今朝はすごい夢見ちゃったなー。私が神様になって世界を救うだなんてー。テレちゃうな〜。…ちょっと痛い目にあったことも多かったけど。てか、プロレス使う女神って…)

 

(今日もご飯が美味しい…! 素晴らしいです! ジャガイモなんかとは比べものになりません)

 

 皆三者三様、いや四者四様? はいいとして、どうも微妙な空気のまま食事は進んだ。後、ジャガイモはきちんと料理すれば美味しいです。

 

(…今日、学校休もうかな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、登校時間になった士郎たちは学校へ行く支度をした後、ランサーに留守を頼み、出て行く。

 

(結局行くのか…)

 

 少し落ち込み気味な士郎だが、行かなければいけないものは仕方ない。

 と、そんな風に思っていた時だ、凛がごくごく自然に優雅に側まで近づき、こっそりと士郎だけに聞こえるよう話す。

 

「今日の放課後、高校(うち)に来て」

 

 それがどういう意味なのか判っている士郎は少しだけ体を緊張で強張らせる。

 

「…判った」

 

 士郎も凛だけに聞こえるよう軽く頷いて応える。

 

「(よし)それじゃ、行きましょうか」

 

 凛を合図に士郎達は歩き出す。

 歩いてすぐに凛と桜は延々と長くなりそうなほどに話し出し、士郎は桜と手を繋ぎながら少しだけ昨日凛から聞いた話を思い出しながら、学校で何をするのかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、放課後が過ぎ、士郎は高等部の学校へ来ていた。

 

「それじゃ、早速だけどこの学校を覆っているものを引き剥がすためにも呪印を探すわよ」

 

 士郎が学校に辿り着いたら、校門で凛が待っていた。その後、士郎は将来この高校に入る小学生として見学にやって来たということにし、他の学生や教師に見つかっても大丈夫なようにしておく。ちなみに、大河と桜にはすでに話している。大河は少し悩んだ後特別だと意外にもあっさり認めたが、桜はどうも仕方なくという感じだった。

 以上のことを簡単に説明した後、ここに張られているものを引き剥がすためにすることを伝え、早速始めようとしていた。

 

「全部見つけて一斉に剥がすんだね。うん。それは判ったけど、どうやって探すんだ?」

 

「さっき、君はここがどんな雰囲気か言ったか覚えているわよね。つまりはそれよ、それがとりわけ濃いところを探し出せばいいの」

 

 士郎が校門を潜った時、士郎もここの異様な空気に当てられた。その時、士郎はまるでテレビで見たことがある食虫植物に誘われているようだと言った。これに凛は「例えるならウツボカズラかしら」と言ったが、士郎には通じなかった。

 

「なるほど。判った! それじゃ色々と探してみる」

 

 そう言うと士郎は学校の中の探索を開始する。凛は「いざとなったら、令呪でランサーを呼びなよ〜」と駆けていく士郎に向けて言った凛は士郎の背中が見えなくなってから自身も探索を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜む。どこにあるんだろ。その"ジュイン"だっけか」

 

 今現在、士郎は弓道場を探索していた。士郎が初めにここを探したのは、士郎にとってここが一番馴染みがある場所だからだ。

 ここに来てから士郎は今弓矢の練習を行なっているであろう桜達には気づかれないようにこっそりと探しているが、呪印と思いしきものは一つもない。ここには無いと断定できそうではあるので、士郎はそろそろここから離れて別の場所に移動しようかと思っていた時だ。

 

「こんなとこで何やってんだい。そこの君」

 

 唐突に背後から話しかけられ驚き体が跳ねそうになったが、それは抑えて後ろを振り向くと、

 

「君、誰かの弟さんか? だったらダメだよ。こんなところで一人でいちゃ」

 

 そこにいたのは、男勝りな性格が声から滲み出ている女子高生、綾子がいた。無論のこと士郎とは初対面である。

 とにかくだ、この状況はまずいと思う士郎。このままであれば捕まって身動きが取れなくなるかもしれないのだ。士郎は一旦慌てている自分を抑え、凛に言われた通りのことを言う。

 

「あっ、えっと、お、おれ、えっとぼくはショウライここの学校に入ろうと思っているから、ここのセンセーとお話しして特別にって見学をさせてモラッテいます!」

 

「へ〜。ってことは、小学生のうちから下見か。えらいじゃないか。うちの弟も見習ってほしいよ」

 

 ところどころ声が上ずってしまっているが、それが逆に小学生らしさを出したおかげで誤魔化せたようだ。

 だが、士郎は緊張が解けてない。どうも、直感で彼女には苦手意識があるようだ。

 

「と、そうだ。見学ならちょっと弓道部見に来ない? 少しだけ教えてあげるからさ」

 

 など誘われているが、もちろんのことそんなことをしていられるほど暇じゃない。なので、士郎はきっぱり断ろうとしたが、

 

「あ、えっと、ぼくちょっと忙しく―」

 

「うんうん、見た感じ弓道に強そうだし、決定!」

 

 と強引に話を進められ「え、ちょっ!」と抵抗する間も無く手を掴まれ道場に連れて行かれる。

 

「おーい。いずれここに入る将来有望な子見つけたぞー」

 

「あっ、美綴先輩。休憩はもう十分…って、え? え!? 士郎くん!?」

 

「あっ、さ、さくらねえちゃん」

 

 無理やり入られた道場の中では休憩時間なのか、矢が空気を裂く音はしなくタオルで汗を拭きながら休んでいる人ばかりだった。そして、当然ここには道着を着た桜がいる。

 

「ん、この子もしかして間桐とこの弟? なら丁度いい。ほれ、この子任せたよ間桐」

 

 ぐいっと背中を押され士郎は桜に駆け寄る。

 押し付けられた桜は色々驚いていた。士郎がこの高校を見学に来ることは一応知ってはいたので士郎がいることに驚いたのではなく、まさか弓道部に来たことが何よりも驚き、そして最悪だと思った。

 士郎が自分の部に来てくれる、そのことは素直に嬉しい。嬉しいが、桜には非常にまずい状況だった。

 何がまずいのか、それは慎二の存在だ。慎二もこの弓道部の部員だ。そして、以前士郎は慎二に喧嘩を仕掛けて返り討ちにされていたことは桜ももちろん知っていた。

 だからこそ最悪だ。また慎二が士郎を殴って済むならそれはまだいい、一番最悪なのは慎二に執拗にイジメ倒されたときだ。

 ここ弓道部では妙に退部している人が多い。それもそのはず、慎二が気に食わないからという理由で部員をイジメて退部させているのだ。中にはトラウマになるほどだって人もいた。

 

「…え、えっと、士郎くん。どうして弓道部()のところに来たの?」

 

 とにかくだ、来てしまったものは仕方ない。幸い慎二はまだ来ていない。きっとまだ女子と遊んでいるのだろう。ならば、今のうちに士郎をここから出さなければと思う。せっかく連れて来てもらった綾子には悪いと思いながら桜は士郎がここに来た理由次第では適当に教えてすぐに帰ってもらおうと思う。

 

「えっと、その無理やり…」

 

 少し気まずそうに正直に言う。

 それを聞いて安心した。無理やりというなら帰しやすいだろう。

 

「そっか。なら少しだけにしておくね」

 

 そう言った桜は大河を呼ぶ。

 

(げっ、そういえばここふじねえちゃんが先生だった)

 

 いまさらだが、弓道部は大河が顧問を勤めている。

 桜は大河を呼んで士郎の弓道部の見学を許可してもらおうとしていた。

 その時大河も士郎がまさか自分の部に来るとは思っていなかったのか驚いていたが、綾子からもお願いされ、いいだろうと受け入れた。

 

「それじゃ、見ていてね」

 

 とてもそんなことしている場合じゃないのに、と思いながら士郎は少しの間桜達弓道部を見学するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、なかなか見つからないわね」

 

 一方その頃、凜は学校から出て呪印を探していた。だが、見つかる様子はない。凜はそのまま歩き回っていると、士郎同様弓道場まで来ていた。

 ここは友人の綾子がいて桜、大河がいる。自分と関わりがある人物が全員弓道部にいるということに凛は因縁を感じ得ない。慎二すらも弓道部なんだからますます感じる。自分がアーチャーを引いてしまったのはある意味運命だったのかもしれない。

 それでも、やはり一番引きたいと思っていたセイバーへの未練は無くならないが。

 

(…それにしても、なんの騒ぎかしら?)

 

 弓道場に近づくにつれて騒がしさは大きくなる。いつもなら静かで唯一の音が矢を放つ音のみ。なのだが、弦の音はしてもそれ以上に人の声が大きい。

 

(有名人でも来ているのかしら)

 

 すぐにあり得ないとその考えを捨てて、道場を覗き込んでみると、

 

(…え。あれ、士郎、よね?)

 

 士郎が子供用の道着を着て小さめの和弓の弦を必死になって引っ張っていた。

 

「ふんぎぎぎ…!」

 

「がんばれーしろー!」

 

 そして、その側では大河が応援をして、その周りでは弓道部のメンバーが囲んで自分のことはそっちのけで士郎に声援を贈っていた。

 

「よーし、頑張れー! 間桐弟ー!」

 

「いえ、ですから士郎くんは私の弟では…」

 

「さっきの話じゃほとんどそんなもんじゃん」

 

 その中には綾子と桜も見える。

 

「どういうことよ、これ」

 

 何故一緒に探していた筈の士郎が弓道部に捕まり弓道を教えられているのか。が、理由はなんとなく察した。ともすれば、これは自分にも責任があるかもしれない。凛は士郎を助けるべきかと弓道場の入り口で立ち往生してしていると、

 

「やあ、遠坂じゃないか。今日も僕の練習を観に来てくれたのかい? なら少し待っていて欲しいんだけど」

 

 この前、凛にこっ酷くやられた慎二が性懲りもなく声をかけてきた。

 

「お生憎様、私はあなたを観に来た覚えなんて一回もないし、今後見に来ることもないわ」

 

「ぐっ…そうか、なら何しに来たんだよ。こんなところに遠坂が観に行きたくなるものなんて無いはずだけど」

 

 慎二は自分目当てでは無いと判った途端態度を悪くする。

 

「ちょっと、知り合いがここに来ているからね」

 

 それだけ言うと、もう話すことは無いと言うように慎二から視線を外す。

 慎二はあの凛の知り合い、ということは綾子のことかと道場の中を見ると、そこには人集りができていた。そして、その中心にいる人物を認めた瞬間、慎二は目の色を変えて入り口に立っている凛を突き飛ばして遠慮なく入る。すると、

 

「おいおい、何こんなところに子供(ガキ)なんて連れて来ちゃってんの。邪魔なんだけど」

 

「…! 兄、さん」

 

「…! あいつは、さくらねえちゃんの…!」

 

 慎二は険悪感がたっぷりと篭った目を士郎に向ける。そのことに、桜はまずいと思い咄嗟に無理やりにでも士郎を外に出そうとするが、

 

「…ようやく来たか。安心しな、この通り許可は取ってある。お前が心配に思うことはない」

 

 綾子が手を出して静止させ、慎二に真っ向から立ち会う。

 

「はあ? 誰の許可とか関係ないよ。とにかく邪魔だ。ここは高校生が弓道をする場所だろ、小学生がいていい場所じゃないんだよ」

 

「普段サボってばかりなあんたが言っていいことじゃないね。この子は将来有望な子供だ。なら今のうちに教えといたらここに来たときバケるかもしれないだろ」

 

 お互い一歩も引く気がない口論を開始する。それを見ていた桜はどうしようかと内心ものすごく焦っていたが、

 

「――そもそも、お前にどうこう言われるようなことはない。部長は私なんだ。副は黙っていてもらおうか」

 

「はあ? そんなのどうでもいいじゃん。そもそも、僕らコイツが来た時にはもういないじゃん。そんなことする義理が無いね。ほら、他はどうなんだよ。今コイツ鍛えたって無駄だろ? こんな面倒なことより――」

 

「――いい加減にしなさい。間桐くん」

 

 と、それまで生徒たちの問題だと傍観を決めていた大河が慎二の言葉を遮る。遮られた慎二は大河に軽蔑が篭った目を向けて、

 

「…なんですか、藤村先生」

 

 そう、敬語なのに敬いが微塵も感じない声で大河の名を呼ぶ。呼ばれた大河は大して気にしてもいないのか普通に応える。

 

「士郎が邪魔なのは判ったけど、何もそんなに挑発的に言わなくたっていいじゃない。

 確かに、間桐くんが士郎のことを嫌っているのは私も知っているし、言っていることは間違ってないよ。でもね、だからといって人を傷つけるようなことを言ったらダメ。言ったら言った分だけ後悔しちゃうからね」

 

 普段のふざけた雰囲気が一切ない教師然とした大河。その言葉は重く、真撃なまでの生徒思いな感情が伝わる。

 そんな大河の雰囲気にさすがの慎二も観念するほかなく、

 

「――チッ、わかりましたよ。それじゃ、今日は帰ります」

 

「あっ、おいっ、間桐!」

 

 綾子の呼びかけにも応じず、不機嫌なまま帰っていく。慎二の敗北だ。

 

「…ふじねえちゃん」

 

 そして、じっとその様子を見ていた士郎は珍しく真面目な大河に感動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! 今日の夕飯おいし〜! どうしたの士郎、また腕上げた!?」

 

「ん、いや、今日はふじねえちゃんに世話になったからちょっとフンパツしただけだよ」

 

 あれから時間が過ぎ、七時を回ろうかとしている頃、衛宮邸の夕食は今までと比べ豪華だった。

 

「本当、ありがとうございます藤村先生。一時はどうなるかと思いました」

 

「ん? イヤイヤ、そーんなに気にしなくていいって〜。先生として当然のことをしただけだからなっ!」

 

 あの後、慎二が帰ってから弓道部はそのまま続け士郎の名目上だけの見学は終わった。

 あの後士郎が慎二に何故あそこまで嫌われているのか、と聞かれたために、その話の過程で桜を守ろうとしていた話をすれば綾子から絶賛の嵐だった。それにより、士郎の弓道部入部はほぼ確定した。士郎としてはどうしてこうなったのかと項垂れていたが、実際弓道をやって面白いと思ったので良しとしよう。

 

「そういえば、士郎君の弓の腕前はどうでしたか? 藤村先生」

 

「んー。それがね、聞いて聞いて、士郎ってば絶対才能あるよ~あれ」

 

 食事中、凜は士郎がどれだけ弓の才能があるか問うてみれば、曰く天才。あのままいけば高一で全道大会優勝間違いなし、と大河は言うが、さすがに大袈裟だろう。

 ただ、弓の才能があるのは間違いないだろう。何故なら弓道を全くやったことがない凜からしても士郎の弓に矢を番えるその姿は才能を感じさせたからだ。

 

(ふむ。丁度こっちのサーヴァントはアーチャーだし、ちょっと弓も教えるようにしておこうかしら。それに、弓なら士郎の能力を考えても相性はぴったりね。あの能力なら矢は無限に出せるということだし。うん、我ながらいいアイディアね。

 …それにしても、妙にアイツと士郎の能力は、こう合うっていうか…一体何者なのかしら? …案外士郎のご先祖とかだったりして)

 

 うんうんと一人なにかに納得しつつ、妙な笑顔を浮かべている凜を見ていた士郎はこの後なにかきつい訓練にでもされるのか、と後の事を考え腹八分あたりまでにして食べ終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう? そのようなことがあったのか」

 

「うん。今日ばかりはふじねえちゃんにお礼言わなきゃって今回は献立少し増やしたんだ」

 

 その後、食事が終わってから凛による魔術の指導を受け、8時を回ろうかというところで魔術鍛錬を終え場所を移動して、今度はアーチャーから戦闘訓練を受けようとしていた。

 そして、先ほどまで士郎が弓道部に体験入部していたことをアーチャーに教えていた。アーチャーは話の最中、さすがだなあの人は、と記憶の奥底にある思い出を見ていた。

 

「さて、それでは始めるとしよう。今日は私と手合わせだ。無論手加減はするが、少しでも隙を見せれば容赦無く一刀で再起不能にはする。覚悟しておけ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 そう言った二人はそれぞれ竹刀を構える。構えた士郎は早速一撃をかまそうとするが、

 

(うっ、打ち込みたいけど全然隙がない。どうしてだ、今師匠は片手で構えているだけなのに)

 

 相手はサーヴァント。ならば、たとえどんな構えであろうともそこに隙が生じるなどそうそうあるわけない。

 仕方なく突撃しようとしたとしても、言った通り隙を見せればそこに一太刀入れられて地に伏すだけだ。

 とにかく、焦って行動に移すわけにはいかない。一つ一つ動きを見て、僅かでも隙が見えたら後は、

 

「―! せいやっ!」

 

 先制攻撃を仕掛けるまで――!

 

「甘いっ!」

 

 だが、それは簡単に防がれるどころか、カウンターを仕掛けられ、一刀の元士郎は倒れる。

 

「うっ、せっかく隙が見えたのに」

 

「言ったろう、甘いと。あんなものはただの見せかけだとわからんか。お前も戦うのであれば、あれくらい見分けがつかんと命を落とすことになるぞ」

 

 槍のように突き刺さってくるアーチャーの言葉に士郎は挫けず立ち上がって「はいっ!」と威勢良く応える。

 

「よし、ではもう一度だ」

 

「はいっ(強くならなきゃ…! そうじゃなきゃおれは本当にただの…!)」

 

 士郎は心を研ぎ澄まし、アーチャーの動きを見る。その姿を見てアーチャーは思うところがあった。

 

(…いい目をする。最早、私とは別人と思って差し支えないな。この分であれば私のようになることはないだろう。…それに、もしかしたら)

 

 など、思想に耽っていると、

 

「はあっ‼」

 

「! せいっ!」

 

 士郎がここぞとばかりに仕掛けてくる。ハッとなってアーチャーは士郎を軽くいなし、後ろへ転げるように足を払う。

 

「ぐふっ! まいり、ました…」

 

「ふう。では、ここいらで剣の鍛練は終わりだ」

 

 倒され仰向けに倒れこんだ士郎に言うと、

 

「え!? ま、待って、もう今日の訓練終わり!?」

 

「たわけ、誰が訓練が終わりと言った。次は違う事をする」

 

 違うことと言われ、士郎は安心し、何をするんだ、と首を傾げる。すると、アーチャーは竹刀を置いて、「投影(トレース)開始(オン)」と唱えると、

 

「次の鍛練はこれだ」

 

 黒塗りの弓を出す。あのバーサーカーと戦っていたときに使っていた弓だ。

 あの戦いではほとんど見なかったが、士郎はそのときからアーチャーの弓術はすごいと思っていた。そして、今そこにあるあの空気を穿った矢を射った弓を目の当たりにした感想としても、すごいの一言だった。

 一見すればその弓は先ほども言ったようにただ黒いだけのなんら装飾もない弓。だが、その弓は構造がとてもしっかりしているのだ。末弭(うらはず)から本弭(もとはず)まで弦もしっかり張られている。一寸の間違いなくできている丈夫な弓はまさに英雄が使う武器と見ていいだろう。

 

「凜から聞いたが、お前は弓に関しては強いらしいな。それは戦闘においてとても重要なステータスだ。なにか一つでも武器の才能があるというのは戦いで勝つために貴重なものだ」

 

 アーチャーは「では、始める」と言っていつの間にか道場に飾られている弓道で使っている的に向け、手本といい、これまたいつの間にかアーチャーの手にある矢を番えて、放つ。すると、

 

「っおおぉ! ど真ん中に当たった!」

 

 距離にして約七メートルといったところだろうか。こんなものは余裕と一直線にブレず中心に矢が当たる。

 

「今度はお前が射ってみろ。ああ、安心しろここにちゃんとお前用の弓がある」

 

 そう言って手渡される弓は、平安時代で出てくる貴族の子供が使うサイズの弓、雀小弓。威力は弱く飛距離も大したことないが、これならば士郎でも簡単に射てるだろう。

 士郎はアーチャーの動きを真似て弓を構え、一緒に手渡された矢を番える。そして、

 

「…っ! ちょっとだけずれちゃった」

 

 距離約五メートル、真ん中よりも数センチ以上もずれた位置に矢が刺さる。

 

「ふむ。かなりずれたが、なかなかだな。これならばいくらでも修正は効く。凜が言った通りだな」

 

 アーチャーは何か納得できたのかうんうんと頷く。

 

「よし。それでは、お前に弓道を教えよう」

 

 そう言って、アーチャーは基礎から士郎に叩き込み、時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。シロウ」

 

「うん。痛つつ」

 

 そして、時間は十一時を回っていた頃、士郎は自室に入り寝ようかと思っていた。

 そして、自室に入るとランサーが行儀よく正座で士郎を待っていた。その姿はまるで疲れた旦那を癒そうとする奥さんだ。少し年が離れ過ぎている気もしないが。

 

「今日も鍛練を欠かさないで続けて偉いですねシロウは」

 

「あはは、こうでもしないとあんなやつらと戦うなんて夢のまた夢だしね」

 

 ランサーに誉められ素直に喜びたい士郎だが、こんなことで浮かれていては本当に言葉通りになりそうになる。

 そんな士郎を見て、ランサーは少し言いずらそうに声をかける。

 

「…あの、シロウ。少しいいでしょうか?」

 

「ん、なんだ?」

 

 ランサーはどういう思いかわからないが、なにやら神妙な顔で士郎を呼ぶ。それに士郎は笑顔で応えると、

 

「その、突然で申し訳ありませんが、シロウは…聖杯にかける願い事はあるのですか?」

 

「え? 聖杯? なんでそんな、って今それで争っているんだったな。聖杯、か~」

 

 急に聖杯の話を振られ一瞬戸惑うが、それはともかく、正直な話、士郎には万能の願望機と言われても素直に頭に入らない。何故なら、士郎はそこまでして欲しいと思っていないからだ。

 今回聖杯戦争に参加しているのも悪いやつに聖杯を渡さないためだ。自分が手に入れたところで大した願いなど…いや、もしあるのだとしたら、

 

「う~ん。…世界平和とか?」

 

「世界、平和ですか。なんといいますか、いまいちピンとこない願いですね」

 

 ランサーはそんなことを言うが、実際彼女が生きていた時代は平和等とは言えない世界なのだからそう思ってしまうのは仕方ないと思われる。

 

「え~。そうかなぁ。結構みんなが願っていると思うけど」

 

 確かに、士郎の言う通りだ。全世界中とは言わないが、ほとんどの人が平和を望んでいるだろう。…歪んだ形で思う人もいるであろうが。

 とにかくだ、士郎の願いはなんら偏屈もないように思うが、ランサーとしてはどうも不思議というより実感が湧かない。ランサーもかつて平和を望むことはあったが、自分の国を存続させることに精一杯で平和など二の次だったからだ。

 

「…なあ、ランサー」

 

「…! はいっ、なんでしょう」

 

 いつの間にか難しい顔で考え事をしていたランサーに士郎は呼びかけ、ランサーもハッとなって応える。

 

「…ランサーも、さ、その聖杯にかける願い事ってあるのか?」

 

「…私、ですか」

 

 そう言われてランサーは悩む。本来であれば願い事など一つしかない。だが、ランサーとしてはそれが正しいとは思えないのだ。この願いは今までの功績全てを台無しにしてしまうのではと。故に、ランサーの口から出た願いは、

 

「そうですね。でしたら私も同じ世界平和ですね」

 

「えー。ランサーも同じじゃつまんないじゃん」

 

 など不満を言う士郎だが、正直安心している。

 もしランサーが世界を脅かすことを願っていたらどうしようかと思っていたのだ。無論、今までのランサーを見ていた自分としてはそのようなことを考えているとは一切思ってもいないが、万が一もある。

 そして、ランサーが言い淀んだ理由も考えてみる。何度か口を開けようとしては閉じていたので、先ほどのこの応えを言うまで妙に時間がかかった。おそらく本当の願いは別なのだろう。だが、士郎がそれを判るはずもない。士郎としても無理やり聞いていい話ではないだろうと思う。

 とそこで判らないことといえば、一つ重要なことをまだランサーから聞いていなかった。

 

「そういえばさ、ランサーってさ、本名じゃなくてクラスっていう名前なんだよな?」

 

「えっ? ああ、はい。確かに私の本来の名ではないですが」

 

 それは名前。彼女達は昔に存在した英雄達だ。ならばそこに名があって然るべし。であれば、ランサーの名前は一体なんだというのか。

 

「それじゃ、本当の名前ってなんなんだ?」

 

「私の名ですか。えっと、その知りたい、のですか?」

 

 少し不安にそういうランサーはどうも自分の名を名乗りたがらない。何がそこまで躊躇させるのか、など考えても仕方ないことだ。と思ったが、

 

「あっ、大丈夫だからっ。まさか戦っている時に名前で呼んだりはしないよ。英霊達の名前がどれほど重要かってのはさしっかり教えられたし」

 

 少し、慌て気味にそう言う。士郎はランサーの真名を知ったら勝手にバラしてしまうのではないかとランサーが危惧していたのではと思ったのだ。

 

「ふふ。判っていますよ」

 

 その姿が可愛らしかったのか可笑しかったのか、ランサーはクスクスと笑う。

 

「あはは。あーえっと、他にもさ、少しおれは思っているんだ。名前ってのは重要なものなんだって」

 

「名前が重要、ですか」

 

「うん。今のおれの名前もさ、全部ジイさんがくれた名前なんだ。これ知った時は驚いたな。この時おれは本当のジイさんの子供じゃないって知ったんだから」

 

「…! 本当の、子供では、ない」

 

 一瞬、ランサーの頭の中にある騎士の顔が思い浮かぶ。かつて、自分を裏切り叛逆をせしめし騎士の顔が。

 

「…大丈夫か?」

 

「えっ。ああ、大丈夫です。少し昔のことを思い出していただけです」

 

 心配して顔を覗き込む士郎に大丈夫だと言う。

 

「そっか、なら続けるけどさ。こんな風にジイさんが遺してくれたのってこの家だけじゃなくて、おれの名前もなんだ。だから、おれはこの名前がすごく大切なんだ」

 

 淡々と語っている士郎の言葉は幼いはずが、どこか重みがある。これが士郎の経験したことなんだろう。そして、その重みはどれだけ士郎が本気でそう思っているのかの裏付けでもある。

 

「…だからさ、おれは知りたいんだ。ランサーの名前が。もちろん戦っている時は呼ばないけど、こうやって二人だけの時は名前で呼びたいなって」

 

「…………」

 

 そう言われてしまえば、もう言う他ないだろう。故に、ランサーは少し考えた後に、

 

「…そうですね。言っても問題はないでしょう。ランサークラスですし」

 

 何か一人言を言ったと思えば急に立ち上がり、高らかに宣言するかの如く、その真名を言う。

 

「わかりました。我がマスターがそのように言うのでしたら、私も名乗らねばなりません。

 私の名は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――アルトリア・ペンドラゴン。アーサー王とも呼ばれしブリテンの王です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。
原作に合わせるのも限界になってきたこの頃、そろそろオリジナルの展開を考えねばなりません。
まあ、もうすでに大まかに考えてはいるのですがまだ時間がかかりそうなので、今度からは投稿がかなり遅くなる可能性があります。大変身勝手で申し訳ありませんが暫し、どうか待っていてくださるとありがたいです。




P.S
新章やったー!

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