Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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第三十一夜-英雄の紛い物達-

「……いやぁ、驚いた。まさかあの魔神達が一気にやられるなんてね。

 流石は彼の聖剣とならぶ聖槍だ。恐れ入ったよ」

 

「…手加減したつもりはありませんでしたが、無傷ですか」

 

 アルトリアの『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』が放たれた後、魔神達は聖槍の光を浴びて消失した。

 だが、魔術王だけは全くの無傷だった。防御で出した結界も傷一つついてない。

 

「無傷、だったのがなんだい。まさかあれで私も死ぬと思ったのかな。だったらその認識は甘いと言っておこう。

 私はあの程度では倒れない。本気で殺したくば、私に特攻でも仕掛けるべきだね」

 

 凄まじい自信、いやそれは最早自明の理とでも言っているようだ。

 士郎は唇を噛む。まさかあの宝具を受けて無傷でいられると思わなかったからだ。それに、よく見たら周囲もクレーターのようなものがなにもない。変わらずの草原のままだ。

 強すぎる。こんなのをどうやって倒せばいいのか。令呪を使うか、いや恐らく無駄だ。いくら令呪で強化できても精々結界を破るだけだ。それでは無駄撃ちになる。

 どうにか確実に奴を倒す方法、もしあるとしたら、

 

「さて、君の力量は理解できた。なので、私は断言しよう」

 

 士郎がそんなことを考えていると、魔術王はゆっくりと目を閉じて開ける。そして、

 

「―――騎士王、君では私は倒せない」

 

「…!!」

 

 魔術王はアルトリアでは倒せないとはっきり言い切った。

 アルトリアは確かにその予感はしていた。だが、こうして断言されて思い知らされた。自分では力不足だと。

 

「とはいえ、私としても君を倒すには少し工夫がいるようだ。

 …そうだね、これならどうだろうか」

 

 魔術王からまた黒い霧が出てきた。

 

「――――アモン、イポス、ナベリウス、フェニクス。そして、バティンもおいで」

 

 耳を疑いたくなるようなことを言ったと思ったら、突然魔術王の側にバティンが表れた。どうやらあの一撃から逃れたようだ。

 

「さあ、今度はこれらを融合しよう」

 

 霧が形成している途中でそう言うと、それぞれが絡み混ざり合う。

 

「私が考えうる中で君に対抗できる最高の組み合わせだ。先程のように宝具で倒せるとは思わない方がいい」

 

 魔術王がそう説明している間にも、魔神は形成されていき、完成する。

 出来上がった魔神は、今までのとはかなり異彩を放つ。もともと特殊な格好だったのがさらに特徴的になった。頭が三つもあり、両側は狐で中心は狼となっており、身体は青く屈強な肉体、背には二対の翼がある。

 二本足でたたずむその姿はおぞましいくらい不気味で不吉なそれは、中心の首を僅かに上げると、

 

「……!! なっ!」

 

 拳がアルトリアを捉えていた。瞬間移動だ。

 

「――アルトリアッ!!」

 

 一瞬の出来事に追い付かなかった士郎は、馬から離れ後方に飛んでいくアルトリアを見た瞬間に状況を理解できた。

 

「くっ…! シロウ!! 逃げて!!」

 

「――あっ」

 

 アルトリアは咄嗟の判断で槍を盾にしていたために大したダメージは無い。しかし、今はそんなことが問題ではなかった。士郎は目の前状況に気づくのが遅かった。あの魔神が拳を振り上げていた。

 

「まった」

 

 だが、魔術王の一言でその動きは止まる。

 

「君が狙うのはあくまでもあのサーヴァントだけだ。その子にはまだ手を出すな」

 

 魔神は拳を戻すと、また瞬間移動でまたアルトリアを殴りにいく。

 

「…………」

 

「おや、助けてあげたのになんだいその目は」

 

「お前、なんで…」

 

「なんでもなにもないよ。君には用がある。言わなかったかい?」

 

 士郎は黙ったまま魔術王を見つめる。

 

「さて、先程私は騎士王では倒せないと言ったね。何故か判るかい?」

 

 魔術王の言葉にうんともすんともせず黙る。

 

「…騎士王ではね、私を倒すには足りないんだよ。いろいろと足りなさすぎる」

 

 魔術王は唸るように言い、「けど」と続ける。

 

「シロウ君。君なら私を倒すことができる」

 

 士郎は一瞬目を見開くとすぐに戻し、ドゥン・スタリオンから降りて剣を投影する。

 

「……ッ」

 

「…いいね。まだ恐怖心こそ抜けきれていないものの、一抹の希望が見えれば立ち向かう。そうでなくては」

 

 魔術王は自身の魔力をほんの少しだけ放出する。完全な威嚇行為、挑発だ。

 士郎はそれに少し息を飲む。ほんの少しとはいえそれは絶大だ。それでいて、実質まともな一対一の戦闘はこれが初めてとなることもあってその緊張感も今までに無いくらいだ。

 せめてなにかしら言い返せたらよかったが、如何せんそれどころではないと震えてしまっている。

 だが、それで怖じ気づくことだけはない。

 

「さあ、覚悟は決まったかい。なら戦おうか!!」

 

 魔術王は一瞬呪文を唱える。

 

「ッ! うわっ!」

 

 すると巨大な火の玉が三つ空から降ってくる。士郎はそれから逃げると、走り出し魔術王に切りかかる。

 

「上からだけじゃないよ」

 

 だが、魔術王が指を鳴らすと士郎はいつのまにか巨大な水の塊に捕らえられていた。士郎は水から出ようとするが、どういうわけかいくら動いても水を掻き分けることができない。

 このままでは息が続かない。まずいと思った士郎は投影を開始する。

 

「! 氷の剣か」

 

 士郎は投影した剣を振ると、捕らえていた水が凍り、氷が割れて士郎が出てくる。

 

「ウオオオッ!!!」

 

「素晴らしい…! 英雄王の宝具をほとんどの剣を投影できるようになったんだね!」

 

 士郎は再び氷の剣を振るい、魔術王に向かって大地が凍てついていく。

 氷は魔術王に直撃する。だが、すぐに氷は砕け、中から魔術王が新たに魔術を駆使する。

 

「さあ、もっとだ。君の全力はこんなものではないだろう。英霊と同格となったその力、存分に見せてくれ!」

 

 あたりの風景が変わった。急に殺風景でなにもない世界に来た。時空間魔術で移動したようだ。なんの準備もなしで、ましてや宝具もなしでそれが可能というのはさすがは魔術王というだけある。

 

「場所は変えた。あそこでは君も騎士王を心配して本気を出せないだろう?

 ここは私が作った第二の固有結界。ここでは何をしたところでどこにも影響はない。さあ、再開しよう」

 

「…ッ!」

 

 魔術王の一撃一撃はどれも激しい、時には津波のごとく水が押し寄せ、溶岩が襲いかかるそれは天変地異を意図的に起こしているようだ。士郎は投影を行い、太陽の模様が柄に施された剣を振るい津波を蒸発させ、ドリルのような剣を突き立てて大地を裂き溶岩から逃れる。

 

「まだまだ、次はこれだ」

 

 魔術王の手に雷光が収束している。雷撃を一点に集中しているようだ。

 

「彼のインドラにも劣らない雷だ! その身で受けたまえ!」

 

 雷が襲いかかる。自然災害で起こるような雷とは訳が違う。破壊の一撃を一点に集中、収束したことで破滅の一撃となる。

 

「…ッ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 士郎は雄叫びをあげながら投影を開始、一振りの刀を投影する。

 

「でりゃあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 雷撃が当たる瞬間にその刀を振るう。すると、雷撃は二つに別れて士郎を通り過ぎていった。

 

「雷を斬った…! あの刀は…!」

 

 士郎が投影した刀の銘は『雷切』。かつて雷神を斬ったとされる刀だ。

 

「やはり素晴らしい…! こちらも本気を出していかないとね!」

 

「う、ぐっ…! オオッ!!」

 

 二人のお互いに災害を巻き起こすこの戦いはもはや神話そのもの。士郎はそれが可能となるほどまで強くなっていた。

 魔術王がさらなる魔術を繰り出す。巨大な竜巻を起こし、さらに炎を追加させる。それに山の如く巨大な剣を二つ宙に投影してぶつけ合わせる。

 炎を纏う竜巻を相殺されたら、次は時空間魔術を発動して上空に空間の穴を開ける。すると、そこから小規模の隕石が大量に降りかかってきた。

 宇宙と繋げた穴から襲いかかる隕石に、士郎はある二つの剣を投影、強化を加え大剣と言える大きさにさせる。そうしたら、士郎は隕石に向かって飛び出す。

 

「う、オオオオォォォォォォォォオオオオオッ!!」

 

 空高く飛んだ士郎は隕石を剣で真っ二つに斬り裂く。続けて襲いかかる隕石も同様に斬り裂いていく。大中小関係なく降ってくる隕石の全てを斬るその様は一見すれば伝説の英雄のようだ。

 

「これでも敵わないというかッ!!! 想像以上だ…!! 君は正しく私と同等と見ていい…! だがッ!!」

 

 士郎が落ちていく場所に空間の穴が開く。

 

「…!!」

 

「いくら君でも宇宙空間に放り出されれば手の出しようがあるまい!!」

 

 宇宙空間は真空であるがために、人間はそこにいるだけで体内の水分が沸騰、蒸発し死に至る。魔術王は士郎がその空間に入るのを見たら、穴を閉じる。

 

「―――――――――――――――――!!!!!!!」

 

 士郎は痛みに叫ぶが、真空では声を出そうとしても出せない。体から水分が蒸発しだし、士郎の体を灼く。だが、

 

「…!? この状態でも生き残るか…!」

 

 魔術を使い士郎を見ていた魔術王は驚愕する。士郎の身体にある鞘に。

 士郎はまだ生き残っていられた。鞘が体を急速再生しているのだ。消えていく水分を補給し、灼ける体を修復していく。

 まだ生きれることがわかったら、痛みを堪えて投影で一振りだけ剣を出すと、一気に虚空に向けて振るう。すると、空間に裂け目が出来て急いでその裂け目に漕いでいく。

 

「! 戻ってきたか。まさか英雄王の宝物庫に空間を斬る剣があったとはね。やはり彼の英雄王も万能に近い人物というわけか」

 

 戻ってこれた士郎は肩で息をし、休みなく襲いかかる魔術に素早く投影を行う。

 

「さあ、次は魔神を使うとしよう!」

 

 黒い霧が発生する。だが、霧は形成される前に魔術王の手に集まる。

 

「―――フォカロル、フラウロスよ! 我が剣となり鎧となれ!」

 

 霧は魔術王を纏っていく。そして、完全に形を成し完成したその姿は、赤と青の二色に分かれた鎧を装着し、両手にはそれぞれ剣を握っている。

 

「な――なんだありゃ!?」

 

 士郎は驚かずにはいられない。先ほどまで魔術師という格好だったのが、急に騎士のような出で立ちになったのだから。

 

「――行くよ」

 

 だが、そんな驚いてはいられない。その一言が聞こえたと同時に投影を開始する。すると、魔術王は自ら飛び出してきた。それも大砲のような勢いで大分距離があったのにも関わらず一瞬にして詰めた。

 士郎はそれに驚きつつも投影が完了した一振りの剣で迎え撃つ。

 

「うっ…! ぐぅ…!」

 

「ボクがキャスターだから接近戦ができないと思ったかい。ダメだよ、中には必ず例外というものがいるものだからね…!」

 

 士郎はキャスターとは思えぬ筋力に動揺を隠せないでいた。なんとか態勢を整えて踏ん張らなければと風圧に逆らう。

 

「素晴らしいな…! それは彼の湖の貴婦人がのちにとある騎士に渡した剣だね!

 そして、それだけじゃない。君はその騎士の技術、筋力を自身に投影した…! つまり、君は自身に英霊を憑依させたも同然!」

 

 凄まじい勢いで突進してきた魔術王はそのまま押し込んでいく。士郎は踏ん張るが勢いを殺しきれない。故に、受け流す。

 魔術王は方向を変えてまた襲いかかる。士郎もそれを迎え撃つために、剣から読み取れる技術を使って戦う。

 

「凄まじい剣戟、剣術。魔神を二体も取り込んだボクを相手に一歩も引かないその力は正に円卓最強と謳われただけはある。そしてその力を扱いきれる君もね!」

 

 とても魔術師とは思えない剣による猛攻を繰り出す。士郎もその剣を撃ち払いながら連続で切り刻む。

 魔術王を片方の剣で風の刃を出し、もう片方であたりを焦土に変える。士郎は風も炎も剣で撃ち払い、突撃していく。それに向けて、今度は炎と風を両方同時に出して凄まじい熱気の業火を生み出す。士郎はそれに立ち向かい、剣に魔力を込めて解放。業火を斬り裂く。

 

「ふっ! これも効かないか。なら――」

 

「――宝具解放…!」

 

「……!」

 

 魔術王は剣に炎と風を纏わせ、士郎は剣を強く握り締めて接近する。

 

「『縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)』――!!」

 

 士郎が持つ剣に魔力を封じ込め、過負荷を与えた状態で斬る、斬撃を開放し放つのを抑えて直接斬る技。それで斬られたものは、

 

「…!! 魔神の鎧が…!」

 

 青く湖のように輝き、切断面から封じた魔力が爆発を起こす。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

 士郎は剣でふらつく体を支える。このように英雄の力を一時的に借り受けることができるようになったが、それによる体への負担は想像を絶する。とくに子供の体ではたいそう響いたことだろう。今こうして立っていられるのも士郎にある信念がそうさせているにすぎない。

 逆に言わせれば、信念あるかぎり倒れることもないということでもある。

 

「まさか、私自身が魔神と融合し、力を増したとしてもなお撃破されるなんてね。君には驚かされてばかりだよ」

 

「く…そっ…。あいつは無傷かよ…」

 

 爆発の煙が晴れると、魔術王はいつもの魔術師の格好に戻っていたが、傷らしきものは何一つ無かった。

 士郎は悔しさに顔を歪める。だが、全く手応えがないわけではない。誰にでも言えるがどれだけ強かろうとも必ず限界はある。まだ魔力は有り余っている。これであれば持ちこたえれる。

 そう希望に思う一方でこのまま倒せなかったらどうしようかという不安も過ぎる。こちらは体が修復されているとはいえ満身創痍に比べてあちらは未だに無傷だ。現状不利と言っていいだろう。

 

(…まだ出せる武器はたくさんある。まだ勝てる…!)

 

 士郎は根性で体を無理矢理立たせる。たとえ不利な状況でもここで立たなきゃこの戦争を終わらせれない。そう思えば、何度でも立ち上がらなければ。

 

「……予想外だ。まさか君がここまで強いとは。…どうやら、私も奥の手を使わなければいけないようだ」

 

「――!!!」

 

 魔術王の言葉に体がぞくりと震え上がる。ここまでやってまだ奥の手があったのかと戦慄がほとばしる。

 

「たったの一度しか満足には撃てないからあまり使いたくはなかった。けど、君に勝つにはこれしかないだろう」

 

 士郎は一体何が来るのか、と思っていると、

 

「…! あれって…」

 

 辺りが明るくなる。急に眩しい光が現れて士郎は一瞬目を伏せる。

 魔術王が出したその光とは、今もアルトリア達がいる場所にあった光輪だった。

 

「…君はこれがなにか判るかな? これは私がこの世界に現れてからずっと創り続けていたものさ。

 これは私の、宝具だ」

 

「…!」

 

 士郎はあの光の輪を前から気になってはいた。まさか、あれが魔術王の宝具だとは思いもしていなかったが。

 

「私は、これを君と戦っている間も(・・・・・・・・・)創り続けていた」

 

 士郎は驚愕する。あれだけ戦っていながらもまだそんなことができるほど余裕があったのかと。

 

「本気じゃなかったのかって? 本気だったさ。ただ私はそれでもできるくらい造作もないことだというだけ。

 終わりにしよう。言っておくが、その程度の回復で凌げるとは思わない方がいい。聖杯から魔力を奪ったこれは絶対破壊の一撃。英雄王の宝具、『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』すらも越える。

 これを防ぐ術は、ない」

 

「…!」

 

 士郎はその言葉を聞いて胸に手を当てる。魔術王が言うようにあれは絶対破壊の一撃。士郎の以上な回復力でも追い付かないだろう。

 そんな一撃であれば避けることも不可能。逃れる方法はない。

 万事休す。そんな言葉しか思い浮かばないが、それでもまだ士郎には奥の手があった。

 

(…けど、これが使えるのはあと一回きり)

 

 士郎はあのとき、夢の中で言われたことを思い出す。

 

『その宝具はとんでもなく強大。けど、その分使用魔力も莫大だ。よって君があと使えるのは一回だけだと思った方がいい。それ以降だと満足して使うには数年以上かかるよ』

 

 士郎は覚悟を決めると、身体中から鳴っている警報を無視して真っ直ぐ向き合う。

 

「これを視てもなお屈するつもりはないと言うか。よろしい、ではその覚悟に免じて最大出力でこの世から痕跡すらも一切消し去ろう―――」

 

 魔術王は手を掲げて目を閉じる。

 

「――――第三宝具、開演」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハァッ!!!」

 

 金属がぶつかり合い火花を散らす。聖剣が鎧を貫き、魔剣が赤い外套を裂く。辺りにクレーターが出来上がる。

 エミヤとジークフリートはお互いに一進一退の攻防を広げる。

 力強い一撃と卓越な技術が籠った剣のぶつかり合いはおよそ互角だった。

 剣圧だけで全てを切り裂きそうな重い大剣の一撃は、しかして避けられる。視界から外れるように動き隙を狙って剣を振りかぶるが、防がれる。エミヤはもともとステータス以上の技術力をもち、それを令呪で補強されている。だが、それでいてもジークフリートは力と業をもって凌駕する。

 

「――――『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」

 

 剣を下段から振り上げ、周囲を破壊しながら衝撃波が襲いかかる。エミヤはどうにか避わすと反撃に入ろうとしたが、

 

「――ムンッ!!」

 

「――!!」

 

 剣が降り下ろされ、第二派が襲いかかってきた。

 

「アーチャー!」

 

「ッ…!! 宝具の二連撃か…!」

 

 二撃目は流石に避けようがなく『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』はエミヤに直撃する。

 

「…!」

 

 煙が立ち込める中、ジークフリートは魔力の消失が感じられなかった。

 煙が晴れる。すると、エミヤは正面に花の形をした盾を一枚構えていた。

 

「くッ…やはり急造で造った盾では大した堅さはないか」

 

 『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を咄嗟に造ったが、大して魔力も込めずに出したためにできたのはたったの一枚。それも投擲に対して有利なだけであってそれ以外ではそこまで強力な盾ではないので防御力はかなり低い。

 だが、どうにか耐えきったエミヤは剣を持ち直す。

 ジークフリートはまさか弓兵があのような盾を持っているとは思っておらず、驚きつつも同じく構え直す。

 

「…ッ、アーチャー」

 

 凛は拳を握り締めながら再び斬り合いを始めるエミヤを見守る。令呪は全て使いきった。ならあとは見ているしかマスターにできることはない。

 それがたまらなく悔しい。ここまできて結局見守るしかできないという、所詮ただの人間でしかない事実が。

 

「………」

 

 凛は懐に手を入れる。そこには昨日即行で作った魔力の宝石がある。しかし、この戦いで使うことはないだろう。なんとも無駄な足掻きをしたものだと自身を嘲る。

 令呪があった手を握る。こうなってはもうエミヤに頼るしかなった。

 

「ぐぉっ!!」

 

 エミヤが弾き飛ばされる。いくら令呪による強化でもさすがにジークフリートの腕力には敵わない。さらに言うならジークフリートの防御力はやはり硬く、いくら貫けるといってもそれは僅かにでしかない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「…………………」

 

 ジークフリートは一切手を抜くことはしない。あの英雄王とは違う。

 

(くっ…! 流石は大英雄だな。何度後ろを狙っても巧く捌かれる。かといって正面切っての勝負では勝てそうにない。あの威力の宝具を連射されては手の出しようもない。どうするか)

 

 エミヤは思考を止めない。何か方法を見つけねばならない。そうでなければ勝つことはない。

 

「………!」

 

 今度はこちらからだというようにジークフリートが動き出す。

 動き出したジークフリートは容赦なく剣を振りかざし、大地が砕ける。エミヤは反撃するが、すぐに態勢を整えてくる。このままではじり貧となる。向こうにはあの優秀な鎧を持っているのに対してこちらにはなにもない。長引けば長引くほどその差は徐々に開いてくるだろう。

 

(…これしかないか)

 

 エミヤは考えた末、ある方法をとる。だが、その方法を行えば…

 

「…フッ。すまないな、凛」

 

 それでも残る手はこれだけ。エミヤは覚悟を決めた。この一撃に賭けると。

 

「――オオォッ!!」

 

 エミヤは持てるだけの力で反撃に入る。たとえ通じずとも構わない。とにかく攻勢に入って入って攻めまくる。

 

「…!? アーチャー!」

 

 凛はそれを見て嫌な予感がした。なぜなら、エミヤの動きは正に捨て身の戦法。今までの攻撃しつつ防御を崩さない安定した戦い方とは一転、十あるものを全て攻撃に回している。

 自分が傷つくのを厭わない戦いにジークフリードは動揺するが、それだけの覚悟ができたのだろう。一切の隙を見逃さないという目を見てそう思った。

 

「フッ!!」

 

 ジークフリードは大剣を大きく振り上げる。エミヤは避けるが、それだけで凄まじい剣圧に体から血が飛び散った。痛みに苦痛の表情を浮かべる。だが、止まることはない。剣が壊れるのではというほどの勢いで振るう。

 一気に攻勢に入ってからは凄まじいスピードで剣が交わっていた。エミヤは攻撃の手を休めることなく、僅かでも傷を負わせようと徐々に徐々に速くしていく。

 ジークフリードはその剣を凌ぎながら、剣から感じられるものを読み取る。エミヤの剣からは、果てしない努力が感じられた。彼は天才ではなかった。むしろ平凡というべきなのだろう。だからこそ、それを何倍の努力で埋めているのだ。

 それにはどれだけの苦難があっただろうか。挫けそうになったことは決して一度や二度ではないはずだ。何度も挫折を繰り返して、その果てに手に入れた力。それは決して崩れることはない揺るぎない信念が、想いがあったからこそのものだ。

 それに敬意を示さざるを得ない。その道は決して正しくなくとも、信念に生きたその生き様は正しく英雄と言わざるを得ない。

 だからこそ、ジークフリードはそれに全力を持って応えるまで…!

 

「―――邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る」

 

「……!!」

 

「撃ち落とす、 ――『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」

 

 襲いかかる衝撃波。これでまた周囲の剣はいくつ壊されただろうか。この威力は彼の聖剣と同等の威力を持つ。

 これは避けようがない。先ほどよりも一撃の威力を重視しているこの一撃ではあの盾でも防ぎようがない。故に、エミヤはさらに攻撃を加える。

 

「『永久に遥か(エクスカリバー)―――!!」

 

「…!」

 

「―――黄金の剣(イマージュ)』!!!」

 

 片方の剣を振るい、光の斬撃が竜殺しの一撃とぶつかり合う。

 エミヤが出した光の斬撃はジークフリードの魔剣とは対となる聖剣の輝き。威力は互角だろうと、思われた――

 

「うぉあッ!」

 

 だが、エミヤが持つのはあくまでも紛い物。聖剣と同等の魔剣に勝てるわけなどない。しかし、これでどうにか死なずには済んだ。片方の剣は壊れてしまったが。

 

(…もう一本は…流石に無理だな)

 

 魔力の関係もあって、これ以上は限界だ。

 そうこう考えているうちに、まだ消えてないことを感じたジークフリードが襲いかかる。エミヤは一本だけで迎え撃つ。

 

「…終わりだ。貴殿はそれ以上聖剣を撃つことはできない。そして、俺はまだ撃てるだけの余裕は十分ある」

 

「……フッ。それで? そんなことで私が、オレが諦めるとでも?」

 

 エミヤは一気に力を込めて引き離す。

 

「見くびるなよ…! 竜殺しッ!! オレを諦めさせたくば、オレを彼の邪竜のように討ってみせろ!!」

 

「…それが貴殿の返礼になるというなら、俺は応えてみせよう」

 

 またさらに激しく交差し合う。最早お互いここで全てを出し合うつもりだ。エミヤは今人生最大の敵とぶつかり合っている。エミヤは先ほどからジークフリードと同じく剣から感じられるものを読み取っていた。そして判ることは、自分と同じ志を持っていたこと。その方向性こそ僅かにズレはあるが、共に正義に殉じるということだけは共通していた。

 エミヤはかつて士郎に言ったことを思い出す。自分の最大の敵は自分自身だと。まさに今がそれだ。だからこそ、負けられない。ここで負けては弟子の士郎に顔向けができない。士郎と凛の約束を果たすには、ここで勝たなければならない…!

 

「オオオオオオオォッ!!」

 

 相手は大英雄、だからなんだ。凶悪な邪竜を一人で倒せる、だからなんだ。自身とは違う真っ当な英雄、だからなんだ…!

 たとえどれだけ強かろうが、ここで負けるわけにはいかない。そのことは何も、何も変わりはしない。

 

「ハアアッ!!!」

 

「『幻想大剣(バル)―――!」

 

 ジークフリートがもう一度宝具を開放しようとした瞬間、周囲の異変に気づいた。

 いつの間にかジークフリートは大量の剣の先を向けられていた。

 

「…これは――」

 

「―――行け!!」

 

 ジークフリートが呆気にとらわれている間に、エミヤは剣の嵐を起こす。

 襲いかかる剣に、背中を重点的に護る。一撃一撃は大した威力はない。どれもランクの低い武器のようだ。何故今さらになってこんなにも大量に剣を出してきたのか。ジークフリートは何が狙いか考える。

 しかし、その前に剣の嵐が止んだ。すると、

 

「『永久に遥か(エクスカリバー)――」

 

「……!」

 

 エミヤが持つ剣が至近距離で輝き出す。

 

「――黄金の剣(イマージュ)』!!!」

 

 唐突にきた光の斬撃。エミヤの右手に持つ剣からの思わぬ一撃にジークフリードは地面から足が離れてしまう。

 ジークフリードから血が大量に出てきた。いつの間にかエミヤの猛攻に傷を負っていたようだ。だが、倒れるほどではない。すぐに態勢を整え、離れた距離なので宝具を放とうとするが、そこで手が止まった。

 

(これが、これが…! 最期の一本だ…!)

 

 先ほどの一撃で壊れてしまった聖剣。これ以上強力な剣を投影しようものなら体が限界を迎えるだろう。士郎ほどの魔力があるわけでもないのに、ここまで無理をしてきたのだから当然だ。それでも、ジークフリードを倒すにはあと一本、あと一本だけ必要だ。故に、エミヤは限界を超えて最期の投影を行う。

 

投影(トレース)開始(オン)…ッ!!」

 

 最期に投影するのは、また同じ星の聖剣。だが――

 

「…ッッッ!! オオオオオオオォ!!!!」

 

 エミヤはさらに弓を出してきた。聖剣を弓に番える。そして唱える。最大の一撃を…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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