Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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ども、ウェズンです。
ネロ祭始まりましたね。私はどうにかスパルタクスを令呪二つ犠牲にして倒しました。
そして、今回のネロ祭でガチなカルナやアルジュナが二人揃って来ないか震えています。他にもキングハサンなんかもグランド携えて来ないか震えています。


第二十六夜-英雄王-

 士郎は目を剥く。目の前には、剣が体を貫かれ鮮血を飛び散らしているイリヤスフィールがいる。

 そして、そのイリヤスフィールも何が起こったのか理解できていなかった。ただ、急に後ろから剣が突き刺さってきたということ以外は。

 

「――えっ? あっ…ああぁ、カフッ…!」

 

 イリヤスフィールはそのまま前に倒れる。口から血を吐き出しながら背後にいる存在に気付き、そちらに目を向ければ、

 

「…なに。あなたは、誰…? あなたなんて、知らない…」

 

 イリヤスフィールは一瞬だけその赤い瞳にその人物を写すと、絶命してカクンと首が垂れる。

 

「………………」

 

 士郎はただ目の前の状況に驚いているばかりだった。イリヤスフィールは死に、セラもリーゼリットも剣が至る部位に何本も刺さり死に絶えていく。

 凛はエミヤに護られ無事に済んでいる。そして士郎もエミヤに護られ、目の前まで迫ってきた剣が弾かれる。

 士郎は眼前を遮っていた物が無くなり、ようやく先に誰かがいるのが判った。

 

「…!! …なんだ…! アイツは…!!」

 

 震える声を出し、視線の先を見るといたのは、極めて独特な雰囲気を持つ男だった。金色の鎧を見に纏い、金色に輝く髪をオールバックにし赤い目をした不敵な笑みを浮かべるその男は、とてもただの人間とは言えない。かといって、サーヴァントというにもどこか異質な気配がする。

 あの男からは王という風格が異常なほどに漂っている。そこに存在するだけで格の違いを思い知らされているような気分である。

 

「…我が誰かだと? ハッ、不躾な輩よな。先に名乗るのが我への礼儀というものではないか」

 

 言葉の端々から判る自分こそは唯一無二の存在だと豪語する傲岸不遜の態度。よほど自身の実力に自信があると見える。

 

「………………」

 

「…黙りとは、随分と礼儀を弁えていないのか、それか我に恐れをなしているか。まあどちらでも良い。動かぬというならばそこで大人しく待ってろ」

 

 カツカツと音を立てて士郎の方へと歩き出す。士郎は目の前の男が何者かも判らずただじっとしていると、

 

「全く、随分と傍迷惑なことをしてくれたな。英雄王」

 

 エミヤが男、英雄王の前に立ち塞がる。

 

「…貴様のその手に持つ剣は紛い物か。で? そのような贋作を持って何故我の前に立った。よもやそれが我への献上品というのではあるまいな」

 

「フッ、無論これが献上品の訳がない。もとより、英雄王ともなればこの程度の剣いくらでも持っていよう。今更差し出したところで意味などない」

 

「フン、判っているではないか。ではそこを退けろ。一度だけ待ってやろう。今の我は気分がいいのでな」

 

 英雄王のその不敵な笑みに対抗するかのようにエミヤも返すと、

 

「ほう、彼の英雄王にしては随分と寛大だ。だが、生憎そういうわけにはいかないのでね。…貴様に聖杯を渡すわけにはいかん」

 

 宙に剣を投影する。

 

「…なんだ。存外に物分かりのいい雑種かと思えば、やはりただの愚かな贋作者(フェイカー)だったか。

 よかろう。ならば、我への不敬、そして醜い贋作を見せたその頭蓋、全て砕いてやろう!!!」

 

 突如英雄王が叫べば、宙に黄色い波紋のような歪みが見え、そこから何十何百の武器を覗かせる。

 

「――な、なんだありゃ!?」

 

 反射的にあれら全てを解析した士郎は驚愕せずにいられない。英雄王が出した武器、あれらは全て宝具だ。通常、英霊が持てる宝具の数は決まっている。だが、あれほどの数を持つ英霊など聞いたことがない。

 

「さあ、せめてその死に様で我を興じてみせよッ!! 『王の(ゲート・オブ)――」

 

「―――全工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)

 

 エミヤはそれに対抗して自身も大量の武器を投影し、二人はお互いに構えると、

 

「――財宝(バビロン)』ッ!!」

 

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層射(ソードバレルフルオープン)!」

 

 全てを飛ばす。飛んでいった武器はお互いにぶつかり合い、相殺される。

 

「す、すげえ…」

 

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』、英雄王が持つその名の通りの英雄王がかき集めた財宝だ。その数はまさに無限。英雄王自身その数は把握できていないほどだ。英雄王はこれを贅沢にもほどがある使い方でエミヤと同じ戦い方をする。

 後ろで見ている士郎はその戦いっぷりに口をあんぐりと開ける。エミヤと英雄王の戦い方はほとんど同じであり、士郎もできなくない方法だ。だが、これほどの量はまだやったことがなかったので、自身の新たな可能性としてこの戦い方を記録しておく。

 

「…ほう。贋作にしては良くできている。まあ、どれほど精度が良かろうとも贋作である以上、この世に残すことなどないがな」

 

 英雄王はさらに勢いを増す。それに合わせてエミヤも投影を速める。

 現状互角のように見える戦いだが、エミヤは見るからに消耗している。このままでは押し切られてしまう。

 どうにかできないかと士郎もエミヤと同じく投影しようとするが、

 

「衛宮 士郎! 貴様でどうにかなるような相手ではない! 大人しくしてろ!」

 

「! で、でも…!」

 

 エミヤに止められる。エミヤ曰くこの者はいくら規格外な士郎であろうとも倒すには現状不可能だという。

 

「奴の相手は私がする! 安心しろ、奴と私では相性がいい。このまま互角に持ち込み倒してみせよう!」

 

 エミヤはそう言うが、どう考えてもそれは難しい話だろう。互角に戦えているように見えるだけで、英雄王はまだ余裕というような表情で佇んでいるのだから。

 

「――互角だと…? いつ我が、貴様に本気を見せたぁッ!!」

 

 英雄王は吠え立て、先が黄色い楔でできた鎖を何本も出してエミヤを捕らえようとする。エミヤは咄嗟に躱すが、鎖はひとりでに動き追ってくるので、さらに動き回りつつ剣で鎖を断つ。だが、鎖は思った以上に素早い。一本斬れたところで更に追撃が来る。

 

「(…『天の鎖(エルキドゥ)』で捕らえたところでやはり無駄か)フンッ…!」

 

 時に腕に絡みついたが、すぐさま断ち切られたので、英雄王はまた無数の武器を放射する。

 

(…ッ! 互角とは言ったが、やはりそう長くは持ちそうにないな…!)

 

 飛んでくる剣を撃ち払いながらチラリとエミヤは凛を見る。凛は少しだが息苦しそうに呼吸が荒れていた。エミヤへの魔力供給が大きいのだろう。もともと限界に近かったのだ。まだ保てそうとはいえ、このまま戦いが長引けば凛の魔力が枯渇して死に至らしめる可能性がある。

 長期戦はなるべく避けたいところだが、エミヤは英雄王相手ではそうはいかないだろうと考える。ならば、このまま聖杯を置いて撤退するという下策もあるにはあるが、

 

「…アーチャー。命ずるわよ、このまま戦いなさい。私はまだ大丈夫だから」

 

 凛はそれは許さないというように宝石を取り出しつつ言う。エミヤが心配していることが判ったのだろう。

 取り出した宝石を凛は飲み込む。これで魔力を少しでも回復させているようだ。しかし、凛の宝石は先ほどの戦いでもうほとんどなく、後一つとなった。

 その様子を見ていたエミヤはどうにか勝たねば、と思うもののだからと言って気持ちが変わっても戦力差は歴然として開いてしまっている。このままではまずいと顔を歪める。すると、

 

「――投影(トレース)開始(オン)!!」

 

 英雄王に向かって剣が数本飛んできた。英雄王は同じく剣を飛ばし相殺させる。

 誰が飛ばしてきたのかと視線を向ければ、剣を飛ばしたのは士郎だった。

 

「…小僧が。我に刃を向けるなどと赦されん行為を…!」

 

 英雄王は眼光を強くして怒りを露わにする。そして、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を士郎に向けて放とうとするが、その一瞬だけできた隙を突いて、エミヤが至近距離まで近づいて剣を振るう。

 英雄王はそれに咄嗟に反応して『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から剣を取り出して防ぐ。

 

「ぐぅ…! ちょこざいな…! よもや贋作者二人が我に楯突こうとはな…!!」

 

「すまないが、英雄王、貴様を相手に卑怯も何も言っていられないものでね。こちらとしてはこれしか手段は残されてないのだ」

 

 だんだんと怒りがたまってきているのが判る。自身こそが至高の王と言う誇りを持つ英雄王としては士郎たちの行いは反逆のそれ。赦されることではないからだろう。

 そして、エミヤは少しだけ希望が見えた。先ほどの士郎の投擲、エミヤはまだそれを教えてなかったためにてっきりできてもまだ慣れないうちは難しいだろうと考えていたが、今の発射速度を見る限り問題はないように思えた。見誤っていたことに反省しつつも、士郎と共闘すれば勝てなくとも聖杯を渡さずに退かせることができるかもしれない。

 

(さて…小僧と二人ならば奴を撤退させることはできるかもしれんが、それもやはり凛次第か)

 

 それでも、やはり凛の魔力が底を尽きなければの話になる。凛は先程の戦いで大量の魔力を消費しているのにも立っていられるのは凛が優秀な魔術師であるがゆえだ。

 エミヤはどうしたものかと頭を悩ませる。凛の魔力が無くなるのが先か、英雄王が退くのが先か。結果は目に見えているようなものであるが故に解決法も見つけなければいけない。

 

「…! アーチャー師匠っ!」

 

 エミヤが思考していると士郎に呼ばれる。「なんだ」とエミヤは英雄王の前から退いて士郎の側に寄る。

 

「少し試したいことがあるんだ。多分、アーチャー師匠相手ならできると思う」

 

 士郎がそう言うと、おもむろにエミヤの腰辺りに触れる。

 

「――同調(トレース)開始(オン)

 

 一体何をするんだ、とエミヤが思った瞬間、凄まじい魔力が身体中に送られてきた。

 エミヤはこれは、と疑問に思っていると、

 

「今アーチャー師匠におれの魔力をたくさん送り込んだ。

 今アイツに勝つにはアーチャー師匠の力が必要だ。だから、凛のことはおれに任せてくれ」

 

 士郎は強化魔術を応用して、エミヤの魔力回路と自身にある聖杯の魔力を一時的に繋げてそこから魔力を送り込んだ。エミヤの、自身の体だからこそできた芸当だ。他の人ではその体の構造を知らないといけないため解析に時間がかかってしまう。

 

「…フッ。どうやら意識の無い間にまた強くなったようだな。

 了解だ。凛は貴様に任せよう」

 

 エミヤは何か察したのか、それ以上は言わずに英雄王と向き合う。

 

「ほう。聖杯(小僧)から魔力を貰ったか」

 

「ああ。おかげで最高の気分だ。魔力消費もあまり考えずに済む」

 

「…ハッ、その程度の魔力を貰ったところで、我の無尽蔵の財に敵うとでも?」

 

 英雄王は少しだけ眉間に皺を寄せたが、すぐにいつもの不敵な笑みで『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を展開する。

 

「舐めてもらっては困るな。物は使いようだ。大は小を兼ねると言うが、大と小で必ずしも小が負けるとは限らない。貴様こそ慢心を捨てたらどうだ?」

 

 お互いに挑発を繰り返す二人。どうも相性が悪い二人であるようだ。話が噛み合う隙すらもない。

 そのまま睨み合うと再び動き出す。エミヤは先程よりも容赦の無い攻防を繰り出す。投影する数を大量に増やして、自由自在に飛ばしている。

 エミヤと英雄王の戦い方は似て非なる。お互い大量の武器を使った戦法と共通していても、エミヤは技術を大事に大量の囮と攻撃を含ませ、英雄王は力こそが全てと言うように圧殺する、と方向性がまるで違う。それではいくら戦法が同じでも微々たる差は出てくるもの。

 そして、今その差が出てこようとしている。

 

「どうした? もう少し容赦なく来るべきではないかね、英雄王」

 

「ほざけ、雑種がぁ!!」

 

 力と技では必然的に技が勝っていくもの。エミヤは有利に立てている。

 だが、エミヤは決して慢心だけはしなければ、勝つ気も湧かない。判っているからだ。英雄王にはまだ奥の手があることが。

 ただ、それと同時にその奥の手は絶対に使ってこないだろうと言えるだけの自信もある。それは英雄王の性格をよく判っているがゆえだ。

 

(しかし、それもいつまで保つかだな)

 

 とはいえ、相手もバカではない。いざとなれば使ってくる可能性も多いにある。それが来た場合、打つ手なしに簡単に倒されるだろう。ただし、それはエミヤ一人に限った話で言えばだが。

 そうこう考えているうちに英雄王の武器の勢いが強まって来ていた。そろそろ容赦はしないということか、それか早く終わらせたいと思ったか。後者はあり得ないだろうと思いつつ、相手の勢いに合わせエミヤも投影する量を増やす。

 

「…フン。見るに耐えんな」

 

 英雄王はポツリと零す。その目にはエミヤを侮蔑していることが伺える。負けると判っていながら戦っていることが英雄王には滑稽でしかないのだ。

 英雄王はまだ余力を残している。それは奥の手があるということではなく純粋にまだ手加減しているという状態だ。

 ただ、それも飽きたのか、それかこのままでは一向に終わる気配がないと思ったのか、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を全て閉じる。

 急に攻撃が止んだのでエミヤは訝しみ動きを止める。

 

「このような舞台で使うものではないが、奴のこともある。そうも言ってられん」

 

 英雄王は『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を一つだけ開くと、そこから複雑な形状の鍵を取り出した。

 士郎はなんだあれは、と首をかしげる。あれも何かの宝具なのだろうか気になる士郎は解析しようとしたが、その前に英雄王は鍵を回す。

 

「…!!? な、なんだ…あれ…!?」

 

 英雄王が鍵を回すと、一本の剣が…否、あれは剣と言っていいのかわからない。刀身は円錐の筒の様であり、よく見れば三本続けて繋がっている。そして、紅い奇妙な模様が輝いている。

 士郎は目を見開く。英雄王の持つあの剣は一体どういうものなのか調べようとするが、いつの時代のものか聖杯で判るだけで、その構造や仕組みはノイズが入るばかりで何一つわからない。

 聖杯の記録でもっても判るのはいつの時代のものかまで。こんなことは初めてだった。士郎は一度聖杯の中身を覗いたことがある。その中には様々な英霊たちの記録と武器があったが、士郎はそのほとんどを読み込んでいた。なのにも関わらず全く解析できない武器があろうなどと予想だにできなかった。

 故に士郎は恐怖に襲われる。全く読み込めないのはその神秘を表しているだけでは無く、その強大さを示しているのだ。士郎はあれから何が放たれるのか警戒していると、

 

「――一掃せよ、エア」

 

 その命令が聞こえた瞬間―――凄まじい暴風がアインツベルンの城を破壊した。

 

「うわあぁ!!!」

 

 その暴風に士郎は巻き込まれ、宙高く浮いてしまうが、凛を抱えたエミヤがすぐに助けてくれ、そのまま落ちてくる瓦礫を避けながら城の外へと脱出する。

 明るくなりかけている外に出た後も、あれだけ大きかったアインツベルン城は脆くも崩れ去り、大きな瓦礫の山だけがそこに残った。

 

「うっ…なんだよ、あの剣」

 

「…あの剣は奴の切り札だ。まさかこんなにも早く使ってくるとは」

 

「ちょっと。私も下ろしてよ」

 

 エミヤは倒壊したアインツベルン城を見る。まだ英雄王は出てきていないが、死んだと言うことだけはないだろう。それだけは断言できる。

 

「……………」

 

 英雄王が出てくることに警戒しつつ、エミヤはあることを考える。それは英雄王の行動についてだ。

 エミヤは英雄王の行動にどこか焦りがあるように感じたのだ。なぜならば、奴が城を倒壊させるのに使ったあの剣は奴の切り札であると同時に奴の一番のお気に入りである。そんなものを士郎たち、奴にとっての醜い雑種相手に早く終わらせたいと言わんばかりに放つ。そんなことはあり得ないとエミヤは疑問でならない。

 一体何があの英雄王を焦らせているのか。とそこでふとあの存在を思い出した。

 

(…! まさか、魔術王の存在か…!)

 

 そう、それはいまだに様々なことが不明である魔術王。エミヤはその魔術王が英雄王を焦らせているのではないかと考える。

 確かにそれならば納得がいく。魔術王の実力は定かではないものの、ああして相対しただけで判る絶大な気配。あれは英雄王と同等かそれ以上だろう。

 英雄王はその魔術王の存在に警戒している。それは間違いない。そのためにも聖杯を早く回収して魔術王も討つつもりなのだろう。

 

「…全く。奴の唯一の弱点である慢心が薄れているなどと、笑い話にもならんな」

 

 慢心を捨てろ、とは言ったものの実際には捨てて欲しくなかったエミヤは溜息をつく。

 

「…? アーチャー、さっきから何難しい顔で呟いているのよ」

 

「いや、少しまずいかもしれないと思ってな。奴を相手にするならランサーを待ったほうがいいだろう」

 

「…確かに。なんか訳わかんないくらい武器出していたし、変な武器で一気にこの城を壊したんだものね。ランサーと合流した方がいいか。

 …ねえ、アーチャー。あなたあの英霊のこと何か知っているの?」

 

 凛は立ち上がってエミヤに尋ねる。

 

「…ああ。知っているとも。奴はこの世の全てを集めたとされるウルクの王だ」

 

 隠すことでもないのか、エミヤは簡単に凛に教える。

 

「…ウルクの王…この世の全てを集めた…それって、まさかメソポタミアに伝わる英雄王、ギルガメッシュのこと…!?」

 

「その通りだ、凛。奴こそは英雄の中の王であり一時期は暴君とさえされた英雄王だ」

 

「まさか、そんな大英雄が…。ってあれ? 待って。さっきの英霊がギルガメッシュって判ってけど、それってどういうこと? ギルガメッシュにアサシンとしての素質があるとは思えないし、アサシンという感じも一切なかった…」

 

 凛の言う通りだ。英雄王、ギルガメッシュはどう考えてもアサシンの素質がある人物ではない。だが、それだとおかしいことになる。こちらが確認できていないサーヴァントはアサシンだけ。だが、ギルガメッシュはアサシンではない。つまり、サーヴァントは全部で八騎いることになる。

 完全にルール違反だ。そもそも八騎目のサーヴァントなんて呼べる訳ない。ならば一体どうしてギルガメッシュは存在しているのか。

 

「…それに関しては後で教えよう。今は奴をやり過ごすことだけを考えておいたほうがいい」

 

「…なによ、ここ最近は隠し事ばっかだったのに、随分と教えてくれるようになってきたわね」

 

「フッ。もう隠すべきことではないだろうとね。それに、これ以上は主従関係が崩壊してしまいそうだと思った故にな」

 

 凛は急に教えてくれるようになってきたエミヤを少し怪しむが、エミヤはそう言うのでいいか、と怪しむのはやめる。

 士郎はそれを見て少し安心していた。士郎としてもこのまま凛に隠し事をしておくのは嫌だったからだ。

 その時、ガラリと音が聞こえた。

 

「話し合いは終わったか? 雑種ども」

 

「…!!」

 

 全員が同じ方向を見る。そこには鎖に繋がれたイリヤスフィールの死体を運んでいるギルガメッシュがいた。やはりと言うか当然と言うか、全くの無傷で。

 イリヤスフィールの死体が確認できたエミヤは聖杯がギルガメッシュの手に渡ってしまったことに悔しく思うが、それも時間の問題だったのだ、仕方ないと割り切る。

 

「どうやら、そこなアーチャーは我のことをよく知っているようだ。ならばもう判るであろう? 如何に抵抗が無駄であるのが」

 

「フッ、もとよりそれは承知の上だ。それでも貴様に屈するわけにはいかないのでね」

 

 エミヤは再三剣を構える。だが、ギルガメッシュは『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を開く様子はない。

 

「…どうした? まさか、このまま勝ち逃げなどとらしくないことをするわけではあるまいな」

 

「フン、ほざくな雑種が。目的のものは手に入ったのだ。最早貴様らに用はない」

 

 ギルガメッシュの言葉に凛と士郎は少しだけ緊張が緩み僅かに息を吐く。もう用がないなら退いてくれるのではないかと、安心できるかと思えば「だが、」と繋げていく。

 

「貴様らをこのまま逃すのはいささか危険だな。特に、そこの小僧」

 

 鋭い殺気が篭った目で士郎は射抜かれ身の毛がよだち、喉が噛みちぎられる錯覚が見えた。くだらない存在としか思っていなくとも、その内に秘めるものの強大さははっきりと判っているようだ。

 

「…ッ」

 

「フン。中身は強大だというのに、器はそのざまか。

 …ああ。そういえば、そこな小僧供はどちらもマスターなのだろう? それに、貴様ら話していたな。ランサーと合流したほうがいいと」

 

 急にそのようなことを言い出したギルガメッシュが何を言おうとしているのか判らない。ランサーと合流しても無駄だと言いたいのかなんなのか。

 エミヤは嫌な予感がした。ギルガメッシュであればランサーが何者かは知っているはず。ならば、いくらギルガメッシュでも油断はできないはずだ。それがあそこまで不敵の笑みでいられるというのは…。

 士郎と凛も一体どういう意味なのか考えあぐねていた。二人は疑問符が浮かぶ。すると、

 

「して、そのランサーとやらは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――こいつのことか?」

 

 ギルガメッシュが見せびらかすように宝物庫から出て来たのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!! ア、アルトリアッ!!!!」

 

 四肢が『天の鎖(エルキドゥ)』で縛られて拘束されたアルトリアだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
イリヤ生存を望んでいた方申し訳ありません。もともとここではイリヤは死ぬ予定だったので。
では、また次回お会いしましょう。

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