Fate/stay night 槍の騎士王と幼い正義の味方   作:ウェズン

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久々に更新。
ぐだぐだ本能寺復刻万歳!!←復刻前当時はFGO始めていない勢。いろいろ事情があったからネ! 仕方ないネ!
という訳で始まります。


第十五夜-ライダー戦-

「ん〜、アーチャー師匠どこだ?」

 

 あれから士郎は衛宮邸を探し回っていたが、旅館並みに広い屋敷では探す場所が多くなかなか見つからずにいた。

 現在士郎は居間にきたが誰もいない。なので、まだ探していないところを探しに行こうかと思っていたら、

 

「…! 電話? こんな時間に誰だ?」

 

 今現在昼を過ぎ太陽が地平線に近いところまで傾いて来ている時間。基本的にこの時間で平日は誰もいない。ので、滅多にかかることのない時間の筈だ。

 士郎は一旦探すのをやめて受話器を取って「もしもし」と決まり文句で話しかけると、

 

「やあ。久しぶり士郎クン」

 

「…! この声…!」

 

 慎二の声だった。一体なんの話だと思ったが、それはすぐに判る。

 

「…なんの用だ」

 

「ん? なんの用かって? アッハハハ!! 何の用かなんて、そんなの――お前と戦おうって以外何があるんだよ」

 

 つまりは、前回の学校でのリベンジ、ということだろう。

 

「………………」

 

 前回のことを考えれば今回も罠があるだろう。声からも前回のことがなかったかの様に自信に満ちてる。そう考えたら、こちらも凛を連れてくるか何かすれば相手の裏をかくことができると思われる。

 

(けど、なるべくあいつとはおれ自身の手で決着をつけたい)

 

 だが、こうして慎二と対峙するのは聖杯戦争の出来事以外も合わせて今回で三回目。ならば、最後まで自分の手で白黒を決したいものだ。

 

「(…よし!)判った。それで、どこで戦うんだ」

 

「場所は新都の橋。そこで決着(けり)をつけようじゃないか」

 

 慎二が言っている場所は新都とその隣の町を繋げる赤いタイルの橋のことだ。橋の名の通り、あそこは下が川となっている大通りの一本道。つまり、何の邪魔も入らない一対一で決するには最適な場所だ。

 慎二は本気で士郎と決着をつける気なのだろう。ならば、士郎はそれに応えるのみ。

 

「判った。あの橋だな。それじゃ、何時に始めるんだ?」

 

「ああ。それはそっちが決めていいよ。僕はいつでもいいからね」

 

「………」

 

 士郎は少し考える。いつ戦うのかではなく、先程から溢れるほど自信に満ちている慎二の言動についてだ。

 慎二は結果的に見れば学校の戦いは完全敗北したといえる。あの慎二のことだ、それならば報復を考えてもおかしくないとは思っていた。だが、だからといってこの自信はどこからきているのか。

 アルトリア達の戦いを見ていないとはいえ、その実力はライダー、メドゥーサを通してある程度判っている筈だ。いくら何でも慢心しすぎている気がする。

 

「…それじゃ、今日の夜だ。人があまりいない時間、8時頃に始めよう」

 

「いいじゃないか。判ったよ。それじゃ、その時間まで精々楽しい一時を」

 

 そう言って電話を切られ、ツーツーという音だけが聞こえる。

 

「…いよいよ、あいつとも決着をつける時が来たな」

 

 おそらく、これが慎二と最後の戦いになるだろう。だが、勝つ自信はある。相手のサーヴァントは厄介でも、マスターがあの様だ。勝算は十分にあるといえるだろう。しかし、

 

「… 何でだろう。どうも不安だな」

 

 慎二のあまりにも自信と余裕に満ちたあの言い方、元々そうであったものの、どうもあれはそれだけではない様な気がした。

 

「いや、だとしてもアルトリアが負けるわけない」

 

 とにかく、そうとなれば、一旦エミヤのことについては後回しにする。今は、アルトリアにこのことを伝え戦闘準備をしなければいけない。

 

(あと、りんにもこのことを伝えておこう)

 

 いざという時のため凛にもこのことを伝えておこうと思う。それだけ不安が拭いきれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、本当ですか…!?」

 

 道場の中、正座で待っていたアルトリアは誰も連れずに来た士郎を見て「? アーチャーはどうしました?」と聞いたが、士郎がそれよりも、と遮って先程の慎二の会話を伝えた。

 

「あいつ、いよいよおれらと決着をつけるつもりらしい。

 アルトリアは夜までに備えておいて。アルトリアが負けるとは思わないけど、何か嫌な予感がするんだ」

 

「嫌な予感、とは…?」

 

「…判らない。けど、あいつはきっと何か仕組んでいると思う」

 

 士郎は真剣な顔でそう言う。それを見てアルトリアも顔を引き締める。

 

「…判りました。シロウの勘を信じます」

 

「ありがとう。それじゃ、昼がまだだったから作るね」

 

 そう言って、二人は居間へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は経ち、太陽が沈み空気が冷たい時間帯、士郎達は十年前とある英雄同士がぶつかり合った赤いアーチが掛かった橋に来ていた。

 

「…ここだよな」

 

 約束した時間ちょうどにアルトリアを連れてやって来た士郎は周囲を確認する。慎二はまだ来ていないようだ。

 

「そろそろ来ていてもおかしくないんだけどな」

 

 しかし、周囲に慎二はおろか人影すらない。真っ暗な橋では照らす物が街灯だけであるものの、その街灯の数は多いのでこの橋を渡ろうものならすぐにわかる筈なのだが。

 

「…罠の可能性もあるかもしれませんが、前回のことを考えるとその線は薄いですね」

 

「うん。だから、必ずあいつはここに来る」

 

 そう確信しながら士郎はいつでも投影魔術が使えるよう構え、アルトリアは槍を構えて待つ。すると、

 

「あっははははははははハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 どこからともなく高笑いが響いてきた。どこからだと士郎達は周囲を見渡し探していると、

 

「ここだよ、ここ! いやー、待たせてごめんごめん。ちょっとこっちも準備に手間取ったからさぁ」

 

 そう言われ、上を見る。すると、そこには赤いアーチの上に立っている慎二がいた。

 

「あいつ…! いつの間にあんな所を…!」

 

「ククク。そうして馬鹿正直に来てくれたなんてなぁ。てっきり、遠坂も来ると思ったんだけどねぇ。プッククク」

 

 何が面白いのか、慎二は終始肩を震わせて笑っている。士郎はそれに違和感に近い何かを感じていた。前々から上から目線な奴だとは思っていたが、どうもそれが輪にかけて強くなっている気がするのだ。

 

「それなら遠坂諸共葬れたのになぁ、クックク。ああそうそう、さっきも言ったけど、待たせてごめんごめん。そのお詫びと言っちゃあ何だけど、」

 

 スッと片腕を何もない天めがけて上げ、

 

「――すぐに殺してやるよ。やれライダー!!」

 

 そう叫ぶ。すると慎二の背後から羽ばたく音と共に白い何かに乗ったメドゥーサが出て来る。否、あれは白い何かなどではない。あれは――

 

「――あれが…ペガサス…」

 

 初めて見るそれに士郎は見惚れていた。天馬、幻想種と呼ばれる名の通り天駆ける馬。月明かりに反射している純白のみるからに肌触りの良さそうな毛並み、その姿は誰もが人生で一度は見たほうがいいと言えるほど美しかった。

 天馬に跨ったメドゥーサは士郎達に向かって光を纏いプロ野球選手の投げるボールより何倍も速い速度で突撃して来る。

 

「『騎英の(ベルレ)――――」

 

「…!」

 

 あれは避けれない。いや、直撃ならまだ間に合うかもしれない。だが、あれはそれだけではダメだ。直接当たらなくともその余波だけで死ねるであろう威力だ。

 士郎は目前に死が迫っているのを実感する。すると、足が震えるが、ハッとなってそのことに気づき自分の指を噛み震えを抑え、とにかく逃げようと思考を無理やり切り替える。

 

「――――手綱(フォーン)』……!!!」

 

「――ランサー!!」

 

 天馬が迫ってくる前にそう叫ぶ。この状況で助かるにはアルトリアの力を借りて一気に駆け抜けるしかない。士郎に呼ばれたアルトリアは、「はいッ!」と鋭い返事を飛ばした瞬間――『騎英の手綱(ベルレフォーン)』が士郎達の目前まで迫って来た。だが、アルトリアに抱えられ凄まじい速度で移動することで間一髪避けることができた。

 

「…! まだ向かって来る…!」

 

 あの宝具の的から外れそのまま何もないところにぶつかると思ったが、橋に当たる直前、方向を切り替えあの速度を維持しながら追って来る。やはり、生き物であるがために弾道ミサイルのようにはいかない。

 士郎はアルトリアに抱えられながら肩越しに追って来るメドゥーサを見る。真名を以って放たれた天馬の速度は凄まじく、このままでは追いつかれてしまうのが判る。士郎はどうすれば、と考えるが、何も思いつかない。士郎の投影魔術程度ではあれの速度を僅かに落とすことも敵わない。

 このままでは徐々に追い付かれてしまう。

 

「さあ、終わりです」

 

 そんなことを思っている隙にメドゥーサからそんな言葉が聞こえたと思ったら、天馬は一度羽を大きくバタつかせさらに倍ほど加速して来た。あれが全力ではなかったようだ。さすがにこの速度では最早数秒も逃げれない。

 

「――くっ!」

 

 追いついた天馬はその光でアルトリア共々士郎を飲み込んだ瞬間――

 

(――ダメだ、死ぬ…!)

 

 ――閃光と共に爆発が巻き起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文字通り高みの見物をしていた慎二は橋が決壊するほどの爆発を見て顔を笑顔で歪める。

 勝った。これは確実に勝ったと思ったのだ。メドゥーサが乗る天馬は神代から持ってきたもの。その神秘は破格のものだ。あれでは士郎は確実に死んだだろう。アルトリアにしても、いくら規格外とはいえあの一撃を食らえばタダでは済まない。ならば、あとはじっくり痛めつけて自分のモノにしてしまえばいいだけだ。

 

「クッ――ククッ――アハ、アハアハハハハハハハハハハハ‼︎!!」

 

 慎二はそう思うと笑いが止まらないでいた。ようやく忌々しい子供(ガキ)が死んでくれたのがよほど嬉しいらしい。

 そして、何よりそのサーヴァントを奪えるのが嬉しいのだ。あのサーヴァントが士郎にとって大切な存在だと知っているから、それを自分が取り上げられることの何という快感か。

 

「ハハッ、ハハハハ。ああ、最高だ。全く、素晴らしいよ、本当にあの人は――!!」

 

 これ見よがしに令呪がある手を広げながら天を仰ぎ見そう言う。

 

「さて、そろそろあいつのサーヴァントとできれば令呪も取りたいところだけど、あれ体残ってるか?」

 

 そう言いながら慎二はアーチの上を移動し始める。

 が、ピタリとその足が止まる。何故止めたのか、それは煙の中で何かが動いているのに気づいたのだ。慎二はメドゥーサか、と目を凝らして見ると、それはメドゥーサではなかった。

 

「…!? ウソだろ、おい…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

 メドゥーサの宝具が当たる瞬間目を瞑っていた士郎は死んだと思っていたが、手に硬く艶やかで無機質な感触がし、体は上下に揺れている。体の熱もある。

 一体何があったんだと思い徐々に目を開けてみると、目の前には鎧を着た馬がいた。

 

「…え?」

 

 士郎は状況が飲み込めずにいた。メドゥーサの宝具で死んだと思えば、いつの間に自分は馬に乗っている上に、こんなにも無傷なのかと。

 すると、「大丈夫でしたか?」と上から凛としたいつもの声が聞こえた。士郎はそちらに振り向くと手綱と槍を握っているほぼ無傷の鎧を着たアルトリアがいた。

 

「アルトリア…。この馬って…もしかして、…」

 

 アルトリアが乗っている馬はどう考えても今どこからか調達して来たものではないだろう。ということは、これはアルトリア、アーサー王の馬ということになる。

 史実においてアーサー王の馬といえば二頭いる。その名はそれぞれラムレイとドゥン・スタリオン、今乗っている馬はその内のどちらかだろう。

 

「しっかり掴まっていてくださいね。――駆けろ…! ドゥン・スタリオン!」

 

 アルトリアは士郎にそう忠告した後に自身が騎乗している馬、ドゥン・スタリオンに鞭を打ち加速させる。

 

「―! 来た…!」

 

 すると、鳥が羽ばたく音にしてはやけに大きい音が聞こえ後ろを見ると、メドゥーサがまた天馬で追いかけて来る。まだ真名解放を行なっていないのか、先ほどの速度ではない。とはいえ、こちらは地上を走っているのに対して相手は空中を駆けている。

 

「まずい…! このままじゃあ…!」

 

 今二人は橋から大分遠のいてしまっており、新都の道路を滑走している。そのためカーブするときなどどうしても減速してしまい、その隙に障害物のない空中を走っているメドゥーサは減速することなく追いかけている。このままでは追いつくのも時間の問題かと思われる。

 だが、いくら相手の方が神秘の高い幻獣とはいえこちらとて彼のアーサー王が跨っていた馬だ。その性能はそんじょそこらの馬とは文字通り桁違いだ。

 

「! ドゥン・スタリオン!」

 

 アルトリアがそう叫ぶと、ドゥン・スタリオンは更に加速していく。

 

「…! やりますね」

 

 メドゥーサはアルトリアのドゥン・スタリオンを見てそう呟いたのち、合わせるように加速する。

 

「う、わ…(なんてスピードだ…! こんなの車よりも全然速いよ…!)」

 

 士郎の思うように、もうすでに速度は時速約150km…いや、更に加速していっている。とても馬が出せる速度とは思えない速さだが、天馬も負けず劣らず食らいついていく。

 こんな速度であれば、アルトリアは無事でも士郎は大丈夫なのかと思われるが、士郎は多少風が当たる程度でなんともなさそうである。

 

「…このままでは埒があきませんね」

 

 メドゥーサはこのまま速さで競い合っていても勝負がつかないと思い、目のバイザーを取り外し、初めて露出した目を士郎達の方へ向ける。

 

「…! あの目…! アルトリア! 気をつけて、石にされる!!」

 

 いち早く気づいた士郎が焦るようにそう叫ぶ。だが、アルトリアは少しだけメドゥーサの方を振り向いただけでなにか対応するつもりは無いらしい。

 

「ご安心を。あれは私には届きません」

 

「え?」

 

 アルトリアがそう言うと、側で何かが弾き飛ばされたような音が響いた。それはあまり大きな音ではないが、高音な音だったので以外に響く。

 

「…! ほう。随分と高い対魔力をお持ちで。ですが…」

 

(くっ…! 石化は逃れましたが、いくらか身体が痺れてきましたね)

 

 アルトリアが石化せずにすんだのは一重に自身の持つスキルにあった。そのスキルとは三大騎士クラスが持つクラススキル、対魔力。対魔力はその名の通り魔術系統の威力を抑えてくれるものだ。

 しかし、アルトリアの持つ対魔力は確かに高ランクだ。凛くらいの魔術ならば傷一つつかないだろうが、メドゥーサが持つ魔眼のランクもかなり高い。完全な石化は避けれても、いずれかのステータスは下がったと思われる。その証拠に速度が僅かに落ちてしまっている。

 

「…といっても、止めれないのでは仕方ありませんね」

 

 メドゥーサは魔眼を出したまま急降下して、士郎達に近づく。どうやら、直接ぶつかるつもりらしい。

 士郎達の横に並ぶとあの杭のような短剣を出して、横にずれていく。アルトリアも槍を小回りが効くように構え、その体勢のままメドゥーサに対抗する。

 

「ハアッ!!」

 

 一度ぶつかり、弾けるようにして離れる両者。速度は全く落ちていない。

 士郎はドゥン・スタリオンにしがみつき目をつぶって奥歯を噛み締めて振り落とされないようにする。

 次々とお互い武器の持ち方を僅かに変えては幾度となくぶつかり合っては弾けて距離を取る。

 

「ンググオオ…!!」

 

 そんな激突を間近で見ている士郎からすれば、まるで嵐か何かだ。そんな九死に一生を得たような感覚が何度も続いている状態、よく気を失わずにいられるというものだ。

 それもこれも士郎が吹っ切ることができたからこそだろう。

 

「くっ…!(先程から思ってはいたが、ライダーの一撃が重い…! ここまで重かったか…?)」

 

 アルトリアはメドゥーサとぶつかり合っている最中、そんなことを感じていた。それは最初メドゥーサに宝具を撃ってきたそのときから感じていたものだ。

 前回、学校で戦ったときはここまで重い一撃は出していなかった。限られた空間の中ということもあったかもしれない。だが、どう考えてもそれだけではない。あからさまに以前よりも大幅に強化している。

 

(…通常、英霊のステータスはマスターで決まるもの。だが、ライダーのマスターははっきり言って一般の人と変わらない程度の魔力だったはずだ…)

 

 ならば、何がメドゥーサをここまで強化したのか。一番可能性があるのは何か強化魔術を施したということだ。

 だが、そうだとしてもここまで強くするには相当な実力を持つ魔術師でないと不可能だ。凛と同等の才能を持っているかつ、士郎並の魔力を持つものでないと。

 と考えてアルトリアは一人の魔術師が思い浮かんだ。あの規格外の魔術師ならば可能でないかと。その魔術師とは、

 

(まさか…! 魔術王が…!?)

 

 魔術王である。魔術王ならば、これほどの強化を施せるだろう。何故魔術王が慎二などに手を借したのかは判らないが、現状考えれる可能性はそれだけだ。

 

「ア、アルトリア! アルトリア!! 前、前見て!」

 

「―! くっ!!」

 

 士郎にそう言われたアルトリアはハッとなって前を見る。すると、後十数メートルくらいでビルの一つに突入するところだった。気づいたアルトリアはとっさに方向転換する。

 あのままビルに突撃したとしてもそのまま貫いて進むこともできただろうが、そんなことをしては残業中の社員が中にいた場合、ビルが崩れて死んでしまう恐れがあるのでそれは避ける。

 

(いや、今はそんなことを考えている暇はない。何にせよ、ここでライダーを倒すことには変わりない…!)

 

 考えるのはやめて、今はメドゥーサを倒すことだけを専念する。メドゥーサは変わらず隣で滑走している。

 

「…なかなか決着がつかないですね。やはり、厄介ですね。そのマスター共々」

 

「フッ。負け惜しみか? ライダー。それならば、このまま降参でもするか?」

 

「フフッ、まさか。負けるつもりも降参するつもりも毛頭ありません。私にも叶えたい願いはありますので」

 

「ほう。そのような魔物に堕ちた神でも願いはあると言うか」

 

「…その口振り、私が何者か判っているようですね」

 

 メドゥーサは何かを察したのか、目を細める。

 

「それなら、手加減は一切必要ないですね。では――」

 

「――! 来る…! アルトリア!!」

 

 メドゥーサは唐突に空へと高く飛び、弧を描くように廻ると、光を纏って再び戻ってくる。

 

「ええ、判っていますとも!」

 

 アルトリアがそう言うと、ドゥン・スタリオンは減速した分を取り戻さんがために先ほどよりも速くなっていく。最早周りからでは何が走っているのかすら判らないだろう。

 メドゥーサはその速さに付いて行きつつ士郎達を捉えながら、真名を唱える。

 

「―――『騎英の手綱(ベルレフォーン)』……!!!」

 

 その姿は光の弾丸とでも言うべきか、真っ直ぐに障害物も全て砕きながら向かって行く。

 

「…!」

 

 さすがにすぐに追いつかれないにしても、このままではいずれ当たる。どうにかしないと、と士郎は考えるが、やはり思いつかない。こうなれば、無駄だと判りながらも投影魔術で複製した武器を投げつけてみようかと思う。多少目くらまし程度にでもなってくれれば僥倖だ。

 そう思えば、早速投影魔術で何か邪魔ができそうなものを考える。すると、

 

「…マスター」

 

「! な、なんだ?」

 

 静かにアルトリアが士郎を呼んだ。こんな切羽詰まった状況でもアルトリアは汗一つ流さず凛とした態度を崩していない。

 

「少々危険かもしれませんので、歯を食いしばって捕まっていてください」

 

「え? わ、判った。って、わっ!!」

 

 アルトリアは士郎から了承を得た途端、更に加速したと思えば急に方向をぐるりと変えて、まだそこそこ距離のあるメドゥーサと向き合った。士郎が何をするつもりなんだ、と思っていると隣から何かが輝き出す。

 士郎はなんだと首だけで振り向けば、輝いているのはアルトリアの聖槍だった。そう、アルトリアは宝具を撃つつもりだ。それも今までのように光を放つのではなく、その光を纏ったまま突撃するつもりだ。

 

(…! あれだけの威力を、それも手加減なしで叩き込むつもりなんだ…!)

 

 士郎は実質初めて全力の『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』が目の前で見れると思うと少し興奮して来た。やはり士郎もまだ幼い男の子である。

 

「行きますよ…! 最果てより光を放て…『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!!」

 

 アルトリアが真名解放を行うと同時に、聖槍に溜まっていた光が漏れ出し、それが士郎達を包み、そのままメドゥーサに向かって跳び、閃光の如く突撃する。

 

「…!」

 

 対するメドゥーサもこのまま突撃するつもりだ。速度を落とすこともしなければ、標的をずらすこともない。

 両者は凄まじい速度の中で睨み合い、そして――

 

(ぶ、ぶつかる…!)

 

 ――激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、どこまで行きやがったんだよ! あのバカは…! はぁ、はぁ、」

 

 一方、慎二はメドゥーサに追いつかんがために全力で走っていた。だが、走れども走れども、追いつく気配は一切しない。

 それもそのはず、あれだけの速度で走っていたのだ、短い時間とはいえ走っていった距離は相当なものだろう。

 

「はぁ、はぁ、クソッ。主人を置いていくとか何考えてんだよ…! アイツは…!」

 

 メドゥーサへの悪態をつきながら走っていくと、どこかで大きな爆発に似たような爆音がそう遠くないところで響いた。

 

「! 今のか…!」

 

 明らかに尋常ではない衝撃音。慎二はそこにメドゥーサがいると確信して、急いで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ…! はっ…! ぐっ、くっ…! まさか、私のペガサスが押し負ける、とは。くっ」

 

 あの衝突の後、地に伏すことになったのはメドゥーサであった。アルトリアの全力の『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』によって天馬は完全に消し飛ばされ、自身も咄嗟に躱したと言えど、重傷を負ってしまった。それに対し、アルトリアはドゥン・スタリオン共にまるで無傷だ。これは完全にアルトリアが勝ったと見ていいだろう。

 

「…私の勝ちだ、ライダー」

 

 それを証明するかのようにアルトリアはそう宣言する。

 だが、メドゥーサはそれを否定するように顔を歪め、肩で息をしながら、震えて今にも倒れそうな身体を支えて杭を構える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。…フ、フフッ。"私の勝ち"ですか? それは、…まだ判りませんよっ!!」

 

 こんな状況だというのに、メドゥーサは最後まで足掻き続けるのか、襲い掛かりながら二本の杭を投げる。

 アルトリアは意表を突かれながらも、冷静にそれを槍で弾く。メドゥーサは杭についている鎖を引っ張ることで杭を瞬時に戻し近づいて振りかざす。

 

「ハァアアッ!!」

 

「くっ…! ここまで来てまだ足掻くか! 貴女をそこまで動かすとは…! よほど叶えたい願いとは大きなものなのですね!」

 

「ええ! 私には見過ごせない者がいるんです! この願いを…叶えるまで、私は…! 最後まで戦います!」

 

 二人は武器を交えながらそう言葉を交わす。

 

「いいでしょう…! 貴女のその覚悟、私も負けていられません!」

 

 アルトリアはドゥン・スタリオンから降りて槍を構える。

 

「ハァアアッ…!!」

 

「ハァッ!!」

 

 二人はぶつかり合う。メドゥーサはその満身創痍な身体を無理やり動かし、アルトリアを討取らんとする。アルトリアはそれに対抗し、槍を振るう。

 拮抗はしてない。メドゥーサはすでに死に体だ。対してアルトリアはほぼ無傷。こんなの勝敗が見て取れていた。そして、

 

「ぐっ! …!」

 

「…。ハァアアアッ!!」

 

 身体が一瞬悲鳴をあげ、その隙にアルトリアの槍が天から地へと一直線に振るわれ、メドゥーサは身体の左半分を斬り裂かれた。

 

「――ああ。私の…負け、ですね。フ、フフ。やっぱりダメでしたね。ゴホッ。こんな…英雄などではない身の者が、誰かのために願うなど、ゴホッ、許されるはずが…ないのですね。申…し訳…ゴホッ、ありません。さ…くら…」

 

 身体を斬り裂かれたメドゥーサは血吹雪と共に地に倒れ、最後にそう言い残して粒子となり、この世から消え去った。

 

「…………」

 

 アルトリアはそんなメドゥーサに対して何も言わずただ目を瞑っていただけだった。

 

「…さて、戻りますか」

 

 これにて、ランサー陣営とライダー陣営の戦いは幕を降ろす。ランサー陣営の勝利という形で。

 短いようで長らく続いた慎二と士郎、両者の因縁の決着はついた。ならば、もうここに用はない。

 

「…………」

 

 士郎は気を失ってはいないが、ぐったりと疲れている様子だ。言葉は一切出せず、またドゥン・スタリオンの上から動くこともできなさそうだ。

 アルトリアはドゥン・スタリオンに跨り、周辺を見渡す。先ほどの宝具同士の衝突により辺り一帯はヒビ割れ、瓦礫だらけだ。近くのビルは傾き、いつ崩れてもおかしくない状態になっている。ここも後々騒がしくなるだろう。

 そうなる前にアルトリアは移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウソだろ。なんで…っ! なんでアイツ死んでんだよッ!!」

 

 アルトリア達が去ってからしばらく、ようやく追いついたと思った慎二はその惨状を見て絶句していた。ここにはあの忌々しい士郎はおろか、メドゥーサも見当たらなかった。つまり、これはメドゥーサが死に、こちらの陣営の敗北したということを示している。

 慎二は敗北したのが許せないのか、もうすでに去っていったメドゥーサに目一杯悪態をつく。そして、士郎達にも恨みを増幅させる。

 許せない。ここまでコケにした士郎達が許せない、と自分が行ったこと全てを棚に上げ逆恨みにも近い思いを募らせる。

 

「おや、負けてしまったようだね」

 

 すると、慎二の後ろから誰かが声を発した。慎二はバッと振り向くと、そこにいたのは、

 

「!! キャ、キャスター…!」

 

 うっすらと不気味なのかそうではないのか判らない笑顔を浮かべた魔術王だった。

 慎二は魔術王がいたのを見て顔を輝かせる。いや、歪める。

 

「き、来てくれたんだな!? ああ、あんたには感謝の念しかないよ…! 優秀なサーヴァントってのはこうでないと。さあ、早く! 僕にもっと! もっとアイツらを殺せる力――」

 

「――それじゃ、君とはさよならだね」

 

「――を…え?」

 

 慎二は魔術王にもっと、と懇願したが、返ってきた言葉はそんなのとは一切関係ない別れの言葉だった。

 

「え? …え? ま、待ってくれ。一体どういう意味だい? 僕らは協力しているんだよなぁ?」

 

「うん。だから、さよならだって言っているんだよ。君との関係もここまでだ」

 

 それがどういう意味なのか。慎二は一瞬考え、答えが出た。すると、身体が一気に恐怖で震え上がる。

 

「ま、待ってくれ!! ま、まだ、まだチャンスはある!! あんたが僕にもっと力を貸してくれれば、今度こそアイツらを殺してみせるから…! だから…!」

 

「だから、なんだい? 令呪まで渡してもらったのに無様に敗北したのを許してくれって、そう言いたいのかな? だったらそれは無駄だと言おう。何せ、君がここで消える運命は変わらないからね」

 

 そう言って魔術王は手を慎二に向けてかざす。慎二はそれを見てドッと冷や汗が身体中から溢れ出し、体の震えが一層速まる。

 

「ひっ、ああ、い、嫌だ…イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだ…! イヤだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 慎二は顔を恐怖で歪めながら悲鳴を上げ、魔術王から必死に逃げようとしたが、

 

「さようなら、シンジ君。君には何も期待していなかったよ」

 

 詠唱が終わった魔術王の魔術により、塵も残さずこの世から消え去る。慎二の人生最期の瞬間だった。

 

「…ふぅ。少しライダーを強化してみたけど、容易く討ち取られたか。全く、本当に君達は面白いよ。

 さて、マリスビリーにこのことがバレる前に最後のお節介でもして消えるか」

 

 最後に軽く指を振って、この場に残ったサーヴァント同士の戦いの痕跡を消し去り、魔術王は闇に溶け込むかのように消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
え? 士郎とエミヤの話はって? 逆に考えるんだ。ここまで延ばしておけば後々の楽しみが増えると…
という訳なんで、エミヤとの話は次回まで持ち越しとなります。もし期待していた方、申し訳ない。








P.S
沖田さん欲しいな〜

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