リアルが落ち着いたと思った……そんな風に考えていた時期が自分に
もありました。
というわけで、滅茶苦茶遅れました。(しかも短め)
「あ、おかえり!」
「ただいま。六花」
戻ってきた爛に抱きつく六花。
だが、彼女は爛をジーッと見つめていた。
「……六花?」
爛が尋ねても、六花は何も言わない。
何がして欲しいのか──彼女が何を考えているのか分からない爛は眉をひそめる。
「分からないの?」
しばらくしても、爛からは何もなかった。
痺れを切らした六花は爛に尋ねた。
「あぁ……」
考えが及ばないことに申し訳なさがあった爛は、少ししょんぼりとしていた。
「一人で戦うからだよ……」
「それは──」
「分かってるよ。全部僕の我が儘なのは───でも、爛が傷つくのは見たくないよ……爛は僕の大切な人なんだよ?」
「……すまない。不安な思いをさせてしまったな」
六花がどれだけ爛のことを思っているのか、それは爛にも痛い程伝わっている。
だからこそ、爛は謝るしか出来なかった。
「不安にさせた分、いっぱい甘えるからね♡」
嬉しそうに頬擦りをする六花。
爛はピッタリと抱きつく立花を拒むことはせず、そのまま受け入れた。
「……く、くすぐったい」
「我慢して」
六花の吐息が首を擽る。くすぐったいと感じるが、六花は抱きつくのを止めることはない。
「ら~ん♡」
「り、六花?」
甘い声で囁く。
甘い刺激、軽い電流が背中を駆けていくように、爛は体を震わせた。
「あ、今ビクッてした」
元々、耳が弱いことは六花も知っていたが、ここまで弱いとは思っていなかったようで、少し意外そうな声音で言った。
「……六花。前々から、お前が耳を弄るからだろう……」
「そうだっけ? 最近は相手にしてくれないから、爛にしたいことも出来なくなったし……これを機に、もうちょっと弄ろうかな~?」
ジト目を向ける爛を尻目に、何処吹く風と知らん顔をしている六花を見て、爛は溜め息をついた。少なくとも、一時間は離してくれないという予測が爛の中にあった。
「六花。やりたいことがあるから、少し移動していいか?」
「やだ」
駄々を捏ねる子供と同じようなことを言う六花。爛にしがみついて離れることはないだろう。それに、爛は無理矢理引き剥がすなんてことをはしない。六花を傷つけたくないという爛の思いが、彼の行動を制限している。
「ただパソコンを弄るだけだ。六花を離れさせようとはしていない。それに……」
「それに?」
「この大会で気になることがあってな。それを調べておきたいんだ」
爛の声音は真剣そのものだった。六花は爛の言っている事の大きさ、または危険性を秘めているということを、爛の声音から察した。
「分かった。でも、僕も見てもいいよね」
「あまり見ても楽しくないものだし、ただ淡々と俺が作業するだけになるかもしれないぞ」
別にいいよ。と涼しいような表情をしながら言った。
爛としては、見られること事態に何一つ問題はないと思っているのだが、たったひとつの懸念だけが爛の頭を離れないでいた。
(翼……お前が生きていることを六花は喜ぶはずだ。だが、それと同時にお前のしていることに絶望するはずだ。もし、六花のことを大切に思うのであれば、手を引くことが必要だ。
お前に、それが出来るのか……? 六花のためだと言い聞かせ、自分の身を犠牲にしていないか……? 理由はどうであれ俺は今、六花と翼は会わないようにしなければな……)
六花の兄、翼に対する漠然とした思いを胸の内に秘めておきながら、爛は七星剣武祭に参加する各校の選手について調べだした。
「ねぇ、爛」
「なんだ?」
「各校の選手を調べて、何を探そうとしてるの?」
「気になることがいくつかあってな。特に……暁学園には気になることが多い」
安心できることはないだろうと舌打ちをしたくなる現状に、爛は不満がありながらも、自分自身でどうにかするしかない状況を嘆きたくなっていた。
七星剣武祭に参加する選手たちの情報は基本的にネット上で出回っている。出回っているといっても、公式サイトと掲示板だけにしか出回っていないが、マスコミがどれだけの収集力があるかが分からない。
自分たちの情報を念入りに確認する。
どこの学園の選手なのか、何年か……能力の開示はしないため、隠しておきたい能力は隠しておけることになっている。一輝のようにまともに使えるものが少ないと、開示されてしまうと強力な手札を開示するということになってしまうのだ。その辺りの格差が起きないようにするための運営側の配慮といったところだろう。
(特に、問題になるようなものは出ていないか……)
出ていたら直談判しに行くところだった。
知られたところで痛手になるようなものはほとんどないのだが、万が一ということもある。
一抹の不安はできるだけ持ちたくなかった爛は、安堵の溜め息をついていた。
暁学園のことを調べても、特に記述されているものはなかった。
当てが外れたというわけではない。もとより開示されている情報は全く当てにしていなかったのだ。別に気にすることではない。
(平賀玲泉……一体何者だ? 思い当たる節があるが……可能性がないわけではないか。あり得ない話でもない)
爛が一番警戒しているのは平賀玲泉という男だ。奴は道化師のような格好をしていた。
あの男からは悪意しか感じられなかった。
何か仕出かす前に
(気のせいであればいいんだがな……)
そう。
気のせいであれば、警戒する理由はない。
だが、気のせいと一言ではすませられない何かがある。
予測することしか出来ない爛は、平賀を相手に後手に回るしかない。
(先手は取れない……か。圧倒的に不利だな。だが……)
してくるであろう手を予測し、対策することしか出来ない。
しかも、思考を読めない道化師を相手に。
(六花……)
爛の手は自然と六花の頭を撫でていた。
(……必ず、守り抜いてみせる)
爛の瞳には決意の色が滲んでいた。
絶対に失うものかと食って掛かりそうな勢いが彼にあった。
もう二度と、彼女に置いていかれないように。
ーーー第90話へーーー