中々、文が思い付かず、スランプ気味で時間がかかってしまいました。
今回は短いです。
活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。
「ふぅ……」
一回戦を乗り切った。
その実感が、一息つかせてくれた。
会場の外にあった自販機で飲み物を買う。
だが、心境はあまり良いとは言えなかった。
「………………………………………」
壁に背を預けて、買った飲み物を飲む。
こうして、一人でいる時間はどれくらいになっただろうか。今では、彼女たちと過ごしている時間が限り無く多い。
どれだけ───彼女たちのために走り回っているのだろうか。
そんなことが頭の中を巡る。
あの日から背負い続けている罪と罰。
限り無く続く呪いにも似た悪運が付きまとい、罪が昇華され、消えることはない。
だからだろうか、平凡な毎日なるはずのものがこうして非日常な毎日と化しているのは。
それは恐らく───俺という
多くの罪を犯してきた罪人が地獄へ堕落せず、この現世にいること事態が間違いなのだ。
消えるべき存在なのだ───と世界から、星から疎まれている。
そんなことは百も承知。しかし、ここでなければ意味がなかった。
あぁ───もう
いっそのこと、投げ出してしまえばいい。
だがそれは、今まで歩みを全て無駄にする行為。
『宮坂爛』の今までを───宮坂爛に宿る『魂』を全否定することと同じだ。
それはしたくない。今までを全否定することは自分には出来ることではないのだから。
どんな結末になろうとも、俺は───
「『六花』を幸せにする───だろ?」
「颯真……」
声に出ていたのか。
俺と同じように飲み物を買いに来ていたようで、自販機に小銭を入れていた。
考え込んでいたせいなのか、颯真がどこから来たのかさえ目にも入っていなかった。
飲み物を買った颯真は俺の隣に並んで、壁に背を預けた。
「お前がどれだけ六花のことを大事に思っているかはよくわかる。でも、それは六花の方も同じだ。勿論、リリーや明たちも」
ドクン───と心臓が跳ねるのを感じた。
六花たちが大事に思ってくれている。それだけで、罪悪感が沸いてくる。
どう言葉を返したらいいかも分からなかった。
逃げるようにして、俺は颯真から離れていった。
颯真は最後に───
「あぁ、六花たちならホテルの方でお前を待ってるよ」
姿を消そうとしていたことを察したのか、六花たちの居場所を教えてくれた颯真に心の中で一言だけ言っていた。
ありがとう
────────────────────────
宮坂爛には夢がない。
これはあくまで、音無颯真である俺の見解だ。
爛には『六花たちを幸せにする』という
爛は夢のような言い方をするが、実際には夢ではなく、目的として認識している。
夢のような言い方をするのであれば『六花たちを幸せにしたい』という言い方になるが、爛は『六花たちを幸せにしなければならない』という認識なっている。
爛が変わらない限り、
このままでは必ず誰かが犠牲になる。
あのときに見えたのは数ある終わりの一部。他にもたくさんの終わりが存在するだろう。
俺も腹を括らないといけなくなるだろう。
あぁ、彼女に伝えなければな。
スマホを取り出して電話をする。
『もしもし?』
「颯真だ」
『珍しいね。颯真の方から電話なんて』
「六花の方からも電話は滅多にないからな」
『間違いないね』
はっはっは。
確かに、俺の方からも六花の方からも電話をかけることはない。
お互いに話すことはないし、話すことがあったとしても、直接あって話すことが多い。
まぁ、そんなことより。
「六花、爛を見守ってて欲しい」
『一体、どういう風の吹き回しだい?』
「いつも一緒なのは分かるが、爛を止めるために見守ってて欲しいんだよ」
『どういうときに?』
「あぁ、そうだなぁ……」
今のところ、考えられることはひとつぐらいか。
「あいつが生き急いでるように見えたら、意地でも止めておいてくれ」
『何がなんでも?』
「そうだな。そうしてくれると助かる」
俺でもできることで爛が動くのであれば、俺が代わりにやるだけだからな。
そう難しい話でもない。
俺なんかよりも、六花たちが引き止めやすい。
それだけのことだ。
『分かったよ。でも……颯真も彼女たちの相手をしてあげてね?』
「あぁ、分かってるさ。それじゃあな」
『うん。ありがとね』
礼を言われるのはやはり馴れない。
爛の家で爛の両親から言われて、多少は馴れたとはいえ、まだ申し訳無さがある。
六花は家族を
そして俺も、爛の家に居た。ほとんど、同時期に爛と六花と共に過ごすことになっていた。
そんなのよりもっと非道なものだった。
本当に有り得ることなのか。そう考えれば、必ずこう言える。
確実に有り得ることではない、と。
じゃあ、何だって話になる。
耳を疑うようなものだから、あまり他人には言いたくないものだがな。
父親が愛する家族を殺すことがあり得るか?
答えはNOだ。
頭がイカれてなきゃ、そんな行動は起こさない。
だが、どうやら俺の父親は本当にイカれていたようだ。
思い出すだけでも反吐が出る。
少なくとも、あの日まではイカれていなかった。
「あの日からか……何もかも変わったのは」
何もかも変わったことで、何もかもを失った。
家族という大切なもの。
そして───壊れた。
「ま、それすらも分からないがな」
あの日を迎えたことで性格が豹変したと自分でも思う。
絶望を知ったからこそ変わったのか───
本来の目的を知ったからこそ変わったのか───
どちらにせよ、そうなることは避けられなかっただろう。
「いつか、清算の時が来る。その時が
その時はその時だ。
「───お前はどんな選択をするだろうな? 爛」
楽しみにするとしよう。
ーーー第89話へーーー