落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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お久しぶりです! 色々とリアルが忙しくなっていまして、こんなに遅れてしまいました。ちょこちょこ書いていたんですが他の作品の話も書いていましたから、今まで以上に遅れてしまいました。
ということで、やっと決着になります。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第87話~対決! 暁学園戦4~

 リングを易々と切り取った爛は、人が簡単に押し潰されて死んでしまうような瓦礫を平然と持った。

 

「なるほどな。『ヘラクレス』か」

 

 余りにも異様な光景に、颯真は納得したような表情で呟いた。

 ヘラクレス、ギリシャ神話に登場する大英雄。

 神から与えられた十二の試練を乗り越え、強靭な体を持つ男。

 だが、颯真が知っているヘラクレスは狂戦士(バーサーカー)

 爛曰く、他のクラスにも適性を持つサーヴァントらしい。

 狂戦士(バーサーカー)のヘラクレスは爛が今持っている大剣を易々と振り回し、圧倒的な強さを誇るサーヴァントだ。

 

「となると、お相手は相当キツいな」

 

 ただでさえ、まだ本気すら出してない爛相手に手こずってるんだからな。

 そう思いながら、颯真は結果が見えているような眼差しで爛たちを見つめていた。

 

「ほーら、そーれ!」

 

 瓦礫をシャルロットに対して、容赦なく投げる。

 ヘラクレスを憑依している爛の膂力は強化され、瓦礫を持って投げることなど簡単なことなのだ。

 

「くっ、《一輪楯花(いちりんじゅんか)》!!」

 

 わざと斜めに障壁を展開し、瓦礫を上へとずらす。

 そのまま飛んでいった瓦礫は───

 

「ハァァ!」

 

 誰よりも速く動いた颯真がそれを叩き落とした。

 叩き落とした際に、爛に視線を送った。それは爛も感じ取ったのか。

 

「───颯真も動くなら安心してできそうだ」

 

 周りのことを気にしなくて済む。

 そう思うと、爛の中にある枷がひとつ外れた。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

 大剣を降り下ろし、リングを斬る。

 リングは爛が大剣を降り下ろしたのを中心に、リングが崩壊。

 これぐらいで動揺することはないだろうが、驚きはするだろう。たった一振りでリングを崩壊させる伐刀者(ブレイザー)はそれほどいない。

 

「ッッ!!」

 

 崩壊が続く中、爛はすぐに動き出す。崩壊し、揺れて安定しない足場を軽々と移動する。

 爛はシャルロットの背後に接近。移動する際に取っていた瓦礫を投げる。

 

「ッ、お嬢様ッッ!!」

 

 背後に来たならば狙いはシャルロットに《隷属の首輪》をつけている凛奈のはず。

 だが、爛が狙っていたのは───

 

「主人を守ってる暇はないぞ! コルデー!」

 

 シャルロットだった。

 次々と瓦礫をシャルロットに向けて投げる。

 

「くっ……うぅ……!」

 

 すぐさま障壁を展開し、爛が投げてきた瓦礫から自分の体を守る。

 瓦礫が止んだ瞬間、障壁を解除して凛奈を守ろうと走り出した。

 

「───甘い」

 

 悪寒が背筋を這った感覚がした。

 視線を後ろに向ければ、そこには大剣を既に降り下ろす構えを取っていた爛がいた。

 障壁の展開は間に合わない。すぐにそれを察したシャルロットは凛奈を抱えて、爛の攻撃を辛くも避ける。

 

「お嬢様には、傷ひとつ付けさせません!」

 

 凛奈の前に立ったシャルロットを見て、爛は感嘆する。

 その心意気や良し。

 ならば、此方もその心意気に答えようと。

 だが、その前に片付けるべきものがある。

 

「ならば───」

 

 爛は大剣を手放し、弓を手に取る。

 右手には剣を持つ。

 

「───我が骨子は捻れ狂う」

 

 狙うは一点。

 この距離であれば、数秒足らずで射抜くはずだ。

 

「《偽・螺旋剣(カラドボルグ)》」

 

 爛が放った螺旋剣はあろうことか、シャルロットを射抜くことはなく、誰も居ない空で爆発した。

 

「くっ、うぅぅ……!!」

 

 爆発に吹き飛ばされたのは、姿を隠していたサラだった。

 最初から分かっていたのだ。サラがそこに居ることに。だから、爛は《偽・螺旋剣(カラドボルグ)》を使った。

 しかし、意識を刈り取るところまでは行かなかった。

 そこまでで終わるほど、爛は甘くはない。

 

「ッッ!?」

 

 今度は空に向かって矢を放つ。

 矢は五本に分裂し、縦断爆撃のように矢は爆発した。

 

「なんて……馬鹿げた威力……!!」

 

 主である凛奈を爆発から守る。

 傷ひとつ付けないと豪語したのだ。それに恥じない守りをしなければならない。

 

「───《赤原猟犬(フルンディング)》」

 

 ろくに狙いもつけずに放たれた赤い矢は、シャルロットが張った障壁をないところから、凛奈を穿とうとする。

 

「ッ、───!!」

 

 すぐに気づいたシャルロットは障壁を展開して、凛奈を守ろうとするが───

 

「嘘!?」

 

 まるで意思を持っているかのように、障壁が展開されると、直ぐ様、矢は軌道を変えた。

 まさに猟犬。

 このままではこの猟犬に振り回されるだけで埒が明かない。

 避けるのが無難だろう。

 だが、この赤い猟犬の狙いは凛奈。凛奈の機動力は今は無いに等しい。

 

(この男……それをわかっていて)

 

 してやられたとシャルロットは感じていた。

 あのライオンに向けた虚空の瞳。ぽっかりと空いてしまった穴の中にある深淵を覗いているようでとても恐ろしい。

 

(なら……打ち落とすしか、方法はない!)

 

 それに怖じ気づいていられない。

 自分は凛奈を守る盾である。

 どんな攻撃にも屈することはしない。

 そんな───最強の盾に。

 

「いいな───そういうの」

 

 その声が聞こえたのは背後からだった。

 本当に羨ましそうで、悲しそうな声音で、よくわからない。何一つ分からない感情。

 そんなことを考えることを放棄したシャルロットは自分のするべきことをする。

 

「───お嬢様ッッ!!」

 

 凛奈を抱えて、爛から距離を取る。

 降り下ろされた剣は空を切る。

 直ぐ様、弓と剣を投影。

 剣をつがえ、放つ。

 追撃だと言わんばかりに爛は何十本にも及ぶ剣を放つ。

 

(───サラが反応をしないな)

 

 

 爛はすぐに殺気を感じ取る。

 シャルロットを相手にしていたのを利用し、魔力を回復していただろう。

 

(やば───)

 

 そんな思考をしている最中、爛の背後に迫る何かに気づく。

 目の前に現れた白い筒のようなもの。

 だがそれは人を殺すには余りにも度が過ぎたものだった。

 

「《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》───トマホーク!!」

 

 至近距離まで近づいた巡航ミサイル(トマホーク)は直撃し、爆発を起こす。

 閃光と爆音、そして灼熱がリングを渦巻いた。

 

『じゅ、巡航ミサイル直撃ィィ!! 観客の皆さんは魔導騎士の方々が守ってくれましたが、直撃した宮坂選手は無事なのでしょうか!?』

『巡航ミサイルは人を倒すには余りにも度が過ぎたものです! 直撃を免れても防御する体勢に入れていなかった宮坂選手は無事とは言えないでしょう……!!』

 

 爆煙により、リングを見ることができない。

 爛が無事なのかは分からない。

 

『あんなん直撃したら死んじまったんじゃ……』

 

 観客の誰かがそんなことを言った瞬間───

 

「ハハハ───」

 

 全員の耳に、爆煙に包まれたリングから、笑い声が聞こえる。

 

「ハハハハハハハハ!! 巡航ミサイルとは驚いたぞ」

 

 爆煙が空に登り、リングが見えるようになる。

 巡航ミサイルが直撃した場所には、桜色の花弁の障壁が爛を守っていた。

 

『な、なんと!! 宮坂選手、巡航ミサイルの直撃を桜色をした障壁を展開して防いでいた!!』

『動きが素早いですね……! 攻撃に置いては手数や宮坂選手自身のスピードに惑わされ、防御は不可能と思える体勢からでも防御することができる……こういった攻防を兼ね備えた選手を攻略するのは大変ですよ……!!』

 

 称賛の声が爛に送られる。

 その言葉により、会場は一気に盛り上がる。

 

「それでは、さっきの礼と行こう。《赤原猟犬(フルンディング)》も粉々になってしまったからな」

 

 赤い猟犬は巡航ミサイルが爛に直撃するギリギリにそれに目標を変え、突っ込んで粉々になった。

 

「4本目の刀。《雷白鳥(らいはくちょう)》」

 

 鞘に白い刀───《雷白鳥(らいはくちょう)》を納める。

 爛が踏み込んだ瞬間、姿を消した。

 いや、姿を消したというのは間違いか。と颯真は視野を広く持つ。

 颯真の視界には堂々と接近している爛の姿が見えている。

 しかし、それをリングの上にいる彼女たちも、観客たちにも見えないだろう。

 爛は今、大軍レベルでの抜き足を使用しているのだから。

 彼女たちが気づくとしたら、その時は───

 

「《拾の剣・五輪の極意(ごりんのごくい)》」

「えっ───」

 

 斬られた瞬間だろう。

 斬られたことに気づいたのは自分が倒れる瞬間。余りにも一瞬の出来事だったが故に、彼女たちが気づくのは遅かった。

 そのままブラックアウトした三人はリングに倒れ込み、爛は雷白鳥を鞘に納めた。

 

『け、決着ーーーー!!! あの一瞬の交錯だけで三人を一気に切り捨てた宮坂選手! 圧倒的不利な状況を覆したその姿は正しく、鬼神の帝王です!』

 

 喝采が巻き起こる中、爛は息を吐いた。

 

(《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》……厄介だな。描いたものが俺だから───いや、彼女だから……か。やれやれ……)

 

 倒れている彼女たちが担架に乗せられ、運ばれていくのを見届けた爛は、そのままゲートの方へと向かって、リングから退場した。


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