落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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まだ、終わらないのだぜ!
長いけど仕方ないのよ。だって、色々とややこしい能力持ちの人たち出しちゃったから。
でもちゃんと書いてあげたいから、エクスカリバーとかで終わらせろよとか止めてね。本当に。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第86話~対決! 暁学園戦3~

「───勘弁してほしいな……その二人の相手は骨が折れるんだ」

 

 爛は戦闘特化とも言える多々良を倒した。

 3対1で圧倒的不利な状況は覆され、爛が優勢をとっていた。しかし、その状況も二人の女によって変わろうとしていた。

 苦笑を浮かべながらも、額には冷や汗を滲ませていた。

 

「貴方がどれだけの実力を持っていても……この二人には勝てない。私の魔力をほとんど使って描いた」

 

 サラの言う通り、サラには簡単な自己防衛しかできないほどの魔力しか残されていない。出来るのであれば、それを利用したいところだが、目の前にいる二人に邪魔をされてしまうだろう。

 

『な、なんということだぁぁっ!? 世界的に有名な犯罪者にして、剣の世界の最高峰に立つ『比翼』のエーデルワイスと『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』ヘルベルティア! サラ・ブラッドリリー選手、まさか、まさかの超大物を具現化してみせたぁぁっ!』

『お、驚きましたね……まさか、こんなことができるなんて……!』

『……あんなん……反則やろ……!』

『こんなの……勝てっこないで……!』

 

 会場全体がどよめく。

 無理もない。最高峰の実力を持つ二人が相手なのだ。流石の爛でも勝機が無いに等しいと誰もが思っている。

 

『もし、『比翼』と『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』の能力が、本人と遜色ないのであれば、勝機はもう……無いでしょう……』

 

 言葉の通りだ。間違いはない。

 だが、そんな絶望的な状況でも、苦笑を浮かべ、冷や汗を滲ませていた爛は、汗を拭い、笑みを浮かべた。

 

「続けるつもりなのですか?」

 

 シャルロットの声が爛の耳に入る。

 エーデルワイスとヘルベルティアに対しての警戒は解かず、二人を見据えたまま言葉を返す。

 

「あぁ、勿論だ。もし、この二人が本人と遜色のないスペックを持っているのであれば、流石の俺でも少しばかりかけていた制限(リミッター)を解かなくちゃいけないがね。それでも……

 勝てない相手ではないさ(・・・・・・・・・・・)

 

 あくまでも、勝てない相手ではないと爛は強気でいった。その精神の強さは評価に値するだろう。だが、そこまで。そうとしか言えない。

 何故そこまで、爛が強気になっているのかが分からないシャルロットは呆れたような溜め息を吐いた。

 

「そこまで貴方が言うのであれば、見せてもらいましょう。決着がつくまで手出しはいたしません」

「この戦いでは傍観者を気取ると。なるほど、それは助かる」

 

 ───こっちの戦いに集中できるからな。

 そう言って、爛は黒鍵を握り直した。

 

「? 何故そこまでして戦おうとするの? 貴方では勝てない」

「言っただろう? 勝てない相手ではないと。厄介な相手ではあるが、「勝てない」とは言ってないぞ?」

 

 サラも疑問に思っていた。勝てないはずの相手なのに、勝てない相手ではないと言えるその精神が分からない。

 

「それに……自分がどこまで強くなっているのか。それを確かめるのにもいいかもしれないからな」

 

 バチバチと爛の周囲に雷が鳴る。魔力をたぎらせていつでも動けるようにしている。

 

「さぁ……行くぞッ!」

 

 深く踏み込み、強く蹴り込んだ。

 先手必勝。

 電光石火の如く駆け、一撃の元に斬ることでサラの魔力によって作られている二人は意味をなさなくなる。スピードにのって二人を置き去りにすれば、ワンチャンスある。

 

『宮坂選手、一気に駆け抜ける! は、速い! 先程とは比べ物にならない速さで全てを置き去りにしようとしている!』

 

 閃光はサラの目の前まで来て───

 

「何……?」

 

 白雷によって止められた。

 動きの止まった爛に、白雷の如く降り下ろされる剣と赤い閃光の如く駆け抜ける刀が閃光を切り裂こうとする。

 

「フッ!」

 

 爛は蒼電を身に纏い、両手に一本ずつ握った黒鍵で剣と刀を防ぐ。更には、足元に黒鍵を展開し、足で蹴り上げるようにして黒鍵を腹に向かって飛ばす。

 

「ッ!!」

 

 それに反応した二人は、すぐさま後退。

 サラは既に後退して、爛とは一番距離が離れた場所に立っていた。

 

(チッ、先に二人か……)

 

 骨の折れる相手はできるだけしたくないのだが、この二人が許すわけじゃない。どうにかして、二人を倒してサラを斬る。その方向しかなさそうだ。

 

「シ───!!」

『宮坂選手、蒼雷を纏い、剣の世界の最高峰に立つ二人を相手に真正面から突貫!』

 

 先に狙うのはエーデルワイス。

 左手に握った黒鍵を腹部に向かって突き刺そうとする。

 

「──────────」

 

 防がれた。

 突きと突き。黒鍵の先端に合わせるように剣の先端をぶつけてきた。

 

「フッ!!」

 

 すぐに切り返す。

 黒鍵を縦に持ち、剣の上を滑るようにして斬りかかる。

 

 ───が、それを黙ってみてるだけの二人ではない。

 

「ッ───!!」

 

 ヘルベルティアが側面から斬りかかってきた。

 脳天を割る赤い刀が爛に迫る。

 更に、エーデルワイスのもうひとつの剣が爛の脇腹を狙って放たれていた。

 

「グッ………!!」

 

 すぐにバックステップをする爛。しかし、避けきれずに二つの斬撃が爛に傷をつける。

 傷を押さえている暇など、この二人の前では無いに等しい。後ろに下がった後隙を狙うように駆け出している。

 すぐさま黒鍵を四本展開、先程持っていた二本の黒鍵は残りの黒鍵を持つことができるように持ち方を変えていた。

 合計、六本もの黒鍵を投げるが意味をなさなかった。軽々と避け、更にスピードを上げて迫っていた。

 

「チッ───!!」

 

 勘弁してくれ。そう思いながらも、爛は動き出す。悪態をついている暇があったら戦うしかない。

 

「───ふぅ………」

 

 軽く息を吐いた。

 

 ───構える。

 

 その瞬間、二人の動きが止まった。

 しかし、それも一瞬。すぐさま爛に向かってくる。

 だが、それで構わない。

 詠唱を開始する。

 今振るうことかできる最大の攻撃をするために。

 今一番、信頼の置くことができる常軌を逸した英霊(もの)の力を借りよう。

 

「───投影(トレース)開始(オン)

 

 一秒。

 爛は即座に思考する。

 剣の最高峰に立つ二人には、生半可な攻撃は通じない。寧ろ、自分に反撃が返ってくるといっていい。

 生半可な攻撃をしない剣を投影する(作り出す)

 一撃では超えられない。一撃より二撃、二撃より三撃。数は多ければ多いほどいい。

 それを可能とする方法を検索し、それを再現する。

 

「───投影(トリガー)装填(オフ)

 

 二秒。

 標的は止まっている。

 脳内でイメージをするのは九つの斬撃───

 

(ッ!?)

 

 思考が止まる。

 九つ目の斬撃をイメージすることができない。

 しかし、八つの斬撃でも十分ではある。いらぬ考えは止め、八つの斬撃の位置を把握する。

 

「ッ……ハァ……」

 

 三秒。

 息が乱れる。

 更に、斬撃を重ねる。それを可能とする宝具(剣技)を使う。

 その斬撃を二人にぶつける。

 一瞬の交錯でこの攻撃を全て食らわせる。

 

「───《鬼神解放》、全工程投影完了(セット)……」

 

 四秒。

 赤いオーラが爛を包む。

 十個あるなか、一個だけ枷を外す。

 溢れる魔力を留める。

 

『な、何だぁ!? 宮坂選手、赤いオーラのようなものを纏ったことで魔力が増幅している!?』

『……本来、魔力は増えることのないものです。 それが増えているということは、彼自身、制限をかけているといって良いでしょう。彼が自身の力を抑えるために制限をかけているというのは破軍学園の代表選抜戦で血縁関係にある『無の火力(レミントン)』が言っていましたね』

『では、宮坂選手はこれで全力を出したということでしょうか?』

『何とも言えませんね。彼がどれだけの制限をかけているかは分かりませんが、霊装(デバイス)にまで制限をかけているほどなのです。全力とは言い難いでしょう』

 

 言っていることに間違いはない。爛は十個あるなかの一個を解き放っただけにすぎない。だがそれが、抑えるには考えられない量だったからだ。

 迫る。

 爛は赤いオーラに加え、更に蒼雷を纏う。

 次元を屈折させ、斬撃を重ね、音速を超え、閃光を超える斬撃を放つ。

 彼が剣技の中で最強とも言えるであろうと考えられる全てを重ねたもの。

 

 これは、彼にしか放つことのできない───最強の必殺技

 

「《是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)》」

 

 一人に対し、二十四もの斬撃を繰り出す。

 計、四十八。神速とも言える速度で繰り出された斬撃は一瞬の交錯で二人を切り刻み、紙屑に変えた。

 

『き、決まったぁぁぁぁぁぁぁ! 一瞬の交錯で! 偽物とはいえ、世界最強を一刀の元に叩き割りましたぁぁぁあ!』

「う、そ……!」

 

 あり得ないものを見たかのような驚愕の表情を浮かべ、爛を見るサラ。

 しかし、それが当然だとわかっている爛は表情ひとつ崩さず、口を開く。

 

「剣を持たない者が、剣を持っているものの最大のスペックを引き出すことはできない。それに、偽物程度で俺を止められると思ってる方が間違いだ」

 

 左手が握っている大剣をサラに突きつける。

 

「ッ……………」

 

 ゆっくりと爛が迫ってくる。

 サラの手は震えていた。

 世界最強すら超える一撃。

 誰もが恐怖さえ覚える姿をサラはあの一瞬で見てしまった。

 

 ───鬼神───

 

 目に見えず、耳にも聞こえず、超人的な能力を持つと言われている鬼神は、霊的な存在と言われている。

 目の前にいる少年は、まさにそれを体現したかのような存在だ。

 神速の剣は目に見えず、音も聞こえない。それでいて、人の身長を超える大剣を平然と持っている。

 

 誰が呼んだか。少年はこう呼ばれた。

 

 ───鬼神の帝王(クレイジーグラント)───

 

 少年───爛はそれに等しい存在と言えるだろう。

 圧倒的な力の前に蹂躙される他しかないのか。

 いや、違う。

 サラにはまだ対抗できるものがある。

 描き出せ。彼を。

 

「《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》───鬼神の帝王(クレイジーグラント)ッッ!!」

 

 比翼の剣技よりも速く、筆を振るう。

 目の前にいる少年を本物と遜色なく描き出す。

 その数、実に四人。

 

「ッ──────」

 

 足を止めることなく、歩き続ける爛は体勢を低くし、一気に駆け出す。

 描き出された偽物の爛が、爛に襲い掛かった瞬間、爛の姿が消える。

 

「ハァァァ!」

 

 一人を一刀の元に斬り、続いて三人を切り捨てる。

 

「ッ…………!」

 

 爛は止まらない。爛を止めることができない。

 サラには、止めることができないのか。

 

「ふぅ───」

 

 足を止める。ここで確実に倒す絶対の一撃を───!!

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟に大剣を突き立てて、何かから自分を守る。

 固い衝撃。しかし、それは重くはない。

 今、残っているのはあの二人しかいない。

 

「ハァ……そうだったな。目の前のことに集中しすぎた」

 

 自分の失態に呆れ、溜め息をつく爛。

 突き立てた大剣の先にいたのは───

 

「忘れてたよ。悪いな、対戦相手だと言うのにな。コルデー」

 

 シャルロットだった。

 

「………………………………」

「……ハァ。だんまりしないでくれるか?」

 

 とても緊張した面持ちで爛を見据えるシャルロットは、既に構えていた。

 対する爛は大剣を握り、ニヤリと笑った。

 

「パワーゲームはお好きかい?」

 

 そう言って、爛は大剣を振り上げて、リングを軽々と斬った。

 

 

 ーーー第87話へーーー


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