落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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投稿スピードが落ちてますね……まぁいつものことですけどね。できるだけ投稿ができるように頑張っていくのでよろしくお願いします。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第84話~対決! 暁学園戦~

『皆さん、お待たせしました! 七星剣武祭団体戦の開幕です! 今回の七星剣武祭では団体戦に挑戦しています。今回の反響次第では、次回にも続いていきます。

 ある意味、気になる試合にもなるはずです。開幕戦の選手に出場してもらいましょう!』

 

 実況の飯田アナウンサーの声と共に、入場ゲートの柵が引き上げられる。

 団体戦に挑む選手が入場ゲートから現れた。

 

『赤ゲートから姿を現したのは、新生・日本国立暁学園の選手たち! 『不転』多々良幽衣選手、『魔獣使い(ビーストテイマー)』風祭凛奈選手、『血塗れのダ・ヴィンチ』サラ・ブラッドリリー選手です! 暁学園の力量を測りかねている我々からすれば、団体戦は情報を集めるのに適していると言えるでしょう! 一体どのような力を見せつけ、存在感を引き立たせてくれるのでしょうか!』

『暁学園の選手たちは相当な実力者であることは間違いないはずです。相手側の学園にも頑張っていただきたいですね』

『それでは、暁学園の選手たちの相手をする選手が今入場してきました』

 

 リングに向かって歩いている少年に、観客たちは視線を向ける。

 

『青ゲートから出場してきたのは、破軍学園の選手! 団体戦だというのに一人で暁学園の選手たちを相手にするという根性を持って出てきたこの男! 『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』宮坂爛選手!』

『破軍学園の選抜戦を見る限り、伐刀絶技(ノウブルアーツ)の引き出しは多く見受けられます』

 

 三人に対して一人。団体戦と題されていながらも、一人を選んだ少年、爛の表情は余り良いとは言えない。観客や学生騎士たちからすれば爛の行動は異常とも思える。とはいえ、三人チームというルールにはされていない。

 

『どう言えば良いのでしょうか。宮坂選手、余り良い表情とは言えませんが、それほどこの試合に集中しているということでしょうか』

『何とも言えませんね。仰る通り、集中しているとも言えますし、何か思いを馳せていることも考えられます』

 

 爛の顔に浮かんでいる表情について話している実況と解説に合わせ、カメラの方も爛の表情を映すためにアップにしている。

 確かに、何とも言えない表情となっている。この表情の理由を知っているのは本人のみ。

 

「何ともまぁ……戦いにくい人たちを出してきたねぇ……」

 

 面倒だと思いながらも団体戦で相手となる暁学園の選手を見て苦笑を浮かべた。

 戦いにくいと言った理由は相手となる選手たちにあった。爛が一番戦いたくない女性ということ。破軍学園を襲ったとはいえ、特に何もせずに退いていた者たちだったこと。

 

「一人で出てくるたぁ、良い度胸してんじゃねぇか。あの時と同じだな」

「あの時と同じではあるが……今回の俺はあの時とは違う」

「ギギギ。確かにあの時とはちげぇな」

 

 相手と軽く会話を済ませるがどちらも警戒を解くことはない。どちらも相手の顔色を窺うようにスタートラインに立つ。

 

『では! これより七星剣武祭団体戦第一試合、暁学園 対 破軍学園の試合を開始します!

 Let' s Go Ahead(試合開始)!』

 

 試合開始の合図が鳴り響くと同時に、暁学園側の選手全員が霊装(デバイス)を展開する。それに対し、破軍学園側の選手、爛は霊装(デバイス)を構えることなく、ただ瞼を閉じていた。

 

(舐めてんじゃねぇぞ……!!)

 

 多々良は戦意を持ってない様子を見せつけている爛を見て、苛立っていた。しかし、既に試合開始の合図は鳴り響いている。容赦をする必要はない。

 

(シャ)ァァァァァァ────!!」

 

 迷いのない突撃。チェーンソー型の霊装(デバイス)、地擦り蜈蚣の刃を引き摺り、リングを砕きながら爛に接近する。

 爛は瞼を開け、格闘術の構えを取っていた。

 

『物凄い勢いで宮坂選手に突撃する多々良選手! 対して、宮坂選手は霊装(デバイス)を展開することなく格闘術の構えを取っています!』

霊装(デバイス)を展開しないのは何かしらの意図があるはずです。もし意図があるのであれば、このまま真正面から突っ込めばとんだ返り討ちに合うはずです』

 

 実況席で話している内容は既に多々良の頭の中に描かれている。どんな意図があってもそれを崩すことはできる。今、爛は多々良に気を取られている。背後から一気に崩すことができる。

 とはいえ、まだ攻撃もなにもしていない。攻撃をして此方が脅威であることを目の前の男に示さねば崩すことはできない。

 

「ギャギャギャァ────!」

 

 力任せに無茶苦茶に己が思うままに振るう。技も優雅も関係ない子供がチャンバラ振るうような太刀筋。

 だが、チェーンソーという凶器であれば話は別。回転する刃は技を必要としない。

 

『多々良選手、防御を度外視して攻めまくる! チェーンソーを振り回し、手数で攻めていく!』

 

 力任せとはいえ、乱舞のように振るわれてしまえば応戦せねばならない。

 それでも爛は剣を抜こうとはしない。

 

(アァ───?)

 

 多々良は違和感を感じた。格闘術の構えを取っていた爛は多々良の攻撃を避けながら、太刀筋を全て目で追っていることを。爛の視線は常に多々良の地擦り蜈蚣の回転する刃に行っている。多々良自身の行動を見ていない。

 

(とんだことをしてくれるじゃねぇか!!)

 

 完全に多々良にエンジンがかかった。それでも、爛は速度が増していく刃を落ち着いて、冷静に次々と避けていく。

 

「あっ───」

 

 爛が声を出す。予想外のことが爛に起きたのだ。後ろに逃げる力が甘かったのだ。これでは後ろに逃げることはできない。完全に多々良に捕捉された。多々良の次の一撃は霊装(デバイス)を即座に展開して防ぐしかない。対して、多々良はそれよりも速く刃を振るえば良いだけ。これで致命傷を負わせることができたら、勝利へと一気に近づく。

 

「もらったぁぁぁぁ───!」

 

 力を込めて踏み込み、地擦り蜈蚣の間合いに爛を入れる。ここで振るえば良い。それで勝負が決まる。

 そう確信した多々良は容赦なく地擦り蜈蚣を降り下ろした。

 もう間に合わない。爛は斬られるだけだ。これで終わり。呆気なく終わってしまうと誰もが確信したその瞬間───

 

「ガッ───!?」

 

 多々良が吹っ飛ばされた。真っ直ぐに飛ばされ、リングの上を砕きながら転がる。

 

『こ、これは一体どういうことでしょうか!? 多々良選手の刃は完全に宮坂選手に届いたと思った瞬間、逆に多々良選手が吹っ飛ばされた!』

 

 一番焦っているはずの爛は、狙い通りと言わんばかりに、平然と立ち尽くしている。

 何からある。誰もがそう考えた。だが、誰も爛がとった行動が分からない。

 しかし、どういう原理なのか。それが分かっているのはその技を知っている者だけ。

 

「なるほど、《空蝉(うつせみ)》か」

 

 颯真は多々良が吹っ飛ばされた方向と砕かれているリングを見て呟いた。

 

「どういう原理なんですか? 見る限りではカウンターのようですが」

 

 行動が見えていても尚、原理は分からない。珠雫は頷いていっていた颯真に尋ねる。

 同じように一輝たちもリングの様子を見ながら、颯真の声に耳を傾ける。

 

「カウンターで間違いない。違うところと言えば、相手の力を三倍以上にしてぶつけているというところかな」

「三倍以上………!?」

「赤い彗星かな?」

「それは元のスペックがちゃんと出せているから、他と比べると三倍なだけで元のスペックの三倍ってわけじゃないから違うと思うぞ」

「あ、そっかぁ」

 

 三倍以上に引き上げるカウンター。《空蝉(うつせみ)》はステラとの相性はとても良いだろう。元々のパワーが桁違いのステラの剛剣を三倍以上に引き上げ、そのまま打ち込む。防いでも場外に吹き飛ばされる可能性もある。

 余りの出来事に観客たちもどよめいていた。実況席も困惑している。

 唯一、爛や颯真以外で気づいたのは、直接爛から攻撃を貰った多々良だけだった。

 

「てめぇ……何しやがった」

「お前は分かっているだろうに。答える必要性があるか?」

 

 爛は弄ぶように笑みを浮かべた。多々良も分かっている。どのようにして自分を吹き飛ばしたのか。

 

「三倍以上に引き上げて吹っ飛ばすなんざ、道化(ピエロ)でも考えねぇぞ」

道化(ピエロ)じゃないから考えられるのさ。それじゃあ、今度は此方から行くぞ」

 

 爛は霊装(デバイス)を展開する。

 刻雨を構える。力強く踏み込み、リングを砕くほどの力で駆ける。

 

『は、速い! 宮坂選手、リングを砕くほど力強く突っ掛けて駆け出した!』

 

 一歩リングにつけるだけで砕けるほどの力。しかし、裏を返せばそれは無駄な力が多いのだ。

 真っ直ぐに駆ける爛に対して、三人で対抗する。

 

「竦めェェ! 《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》!!」

「ゴォオオオオオオオオオ────!!!」

「───────────」

 

 威圧により足を止められる。

 だがそれは避けることをしようともしなかった爛にはその威圧はあってないようなものだ。

 止められたのは一瞬。誰にも把握できないコンマの世界だけで《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》を乗り越える。

 コンマの世界で乗り越えられた威圧は小さな隙にすらならない。乗り越えられたというよりかは、相手にされていないという想像が相手の脳内を過る。

 青電を刀に纏い、ありとあらゆる物を両断する雷の刃となる。

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》」

 

 見ているだけで感電してしまうかのような青電は、降る下ろされると同時にその出力を更に上げる。

 狙うはただ一人、機敏な動きを可能とする少女───風祭凛奈。

 しかし、モーションがでかすぎる技では簡単に避けられてしまう。《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》は一刀にのみ宿すことができる絶対破壊の青電。無残にも空を切ってしまえば、大きな隙ができてしまう。

 横に回避されたと同時に、反撃をする三人はそれぞれの技を繰り出す。

 

「《色彩魔術(カラー・オブ・マジック)》───赫炎のファイアーレッド」

「《獣王の行進(キングスチャージ)》!!」

(シャ)ァァァァァァァ!!!」

 

 凛奈と多々良の攻撃。爛は壁に打ち付けられる。追撃として、ペンキバケツをぶちまけたかのような量のインクを爛にぶつける。

 そのインクは、たちまち爛とその周辺を火だるまにした。壁が溶解した勢いで、壁の素材が瓦礫となって爛の上に降ってくる。

 

『三人の攻撃が宮坂選手にクリーンヒット! 更には瓦礫が降りかかって姿が見えません!』

 

 審判によるカウントが始まる。十回のカウントの間に戻らねば、場外負けとなる。

 爛が負ける。それはいらぬ心配にすぎない。

 次の瞬間、瓦礫が粉々となって弾け飛ぶ。悠々とした様子で戻ってきたのは───

 

「採点は済んだ。これだけで十分だろう」

 

 スーツのような黒い服を纏い、左右の手に六本もの長剣を持つ爛だった。

 

 

 ーーー第85話へーーー


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