落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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どうも。体調を崩しながらも書いてきました。頭を痛いです。インフルエンザとか流行る時期なので気を付けていきたいですね。皆さんもお気をつけて、自分みたくならないように気を付けてください。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第83話~七星剣武祭団体戦開始!~

 七星剣武祭が始まる日、爛は暁学園戦のために朝から湾岸ドーム近くにある日本国内(ナショナル)リーグが所有する訓練場で体の動きを確かめていた。

 七星剣武祭期間中は開放されており、選手たちはここを使うことができる。

 

「…………………………………」

 

 己の固有霊装(デバイス)である刻雨を握り、基本的な動作を確認していた。

 唐竹割り、片手水平、片手袈裟、片手逆袈裟、水平、袈裟、逆袈裟───斬るという一つの行動に全神経を集中させてイメージトレーニングをしながら体を動かす。

 理想の動きを頭の中でシミュレートし、再現する。しかし、理想と現実とは違うもので中々思うようには行かない。少しでも理想の動きになるようにと、神経を尖らせて動いている爛の額には汗が滲み出ていた。

 確認を終えたのか。爛は丁寧な手付きで刻雨を、顕現した鞘に収める。

 

「ッ……ハァ……ハァ……」

 

 基本的な動作を確認しただけなのに、爛の額には大量の汗が流れていた。

 暫く床に正座をしたまま荒くなっている呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。ただ呼吸を整えるだけが爛じゃない。この瞬間でも、七星剣武祭団体戦の開幕戦ともいえる暁学園戦のために極限まで牙を研ぎ澄ませる。

 何しろ、七星剣武祭は油断ならぬ戦い。個人戦で一度でも負けてしまえば一輝やステラ、颯真とも戦うことができない。それはあってはならないことだ。無論、爛とて負けるつもりはない。全力でやるだけだ。

 呼吸を整え、続きを始めようと刻雨を持って立ち上がる。それと同時に訓練場の扉が開かれた。扉を開いたのは誰なのか、大体の予想はつけていた……が、どうやら予想外の人物が、爛の元へと訪れていた。

 

「励んでいるな、爛」

「頑張ってるね」

「えっ……………!?」

 

 思わず困惑の声を出す。来るとは思っていたが、まさかここまで早く来るとも思っていなかった。

 何故なら、ここに来た人物は、爛が知らないとは言わない人物であり、関係の深い者だからだ。

 

「父さん、母さん……!?」

 

 ここに来たのは、爛の父親と母親だ。

 予想外の来客に爛は困惑の色を隠しきれていない。

 慌てている爛に、二人は思わず笑いを溢す。

 宮坂双木と宮坂華楠。この名前を聞いて、知らない者は居ないはずだ。それほどの有名人であり、実力者であることも。

 

「どうして、ここに?」

「それはもちろん爛や六花ちゃん、颯真くんの姿を見るため。テレビとかで見るよりも実際に見た方がいいもの」

「まぁ、あとは……華楠が……な?」

「……………………?」

 

 意味の分からない爛は首を傾げる。しかし、双木の言ったことは、すぐに分かることになった。

 それは、華楠が次にとった行動にある。

 

「ら~ん♪ 会いたかったのよ~♪」

「ちょっ、待って……!」

「ダ~メ♪」

「いや、汗かいてるから!」

「別にいいのよ~。私はそれでも」

 

 汗をかいていることを気にせず、華楠は爛に抱きつく。親として子を思う気持ちもあるだろうが、ここまで息子にデレデレになる母親は居たものかと思う。それも、夫の目の前で。

 

「華楠、爛は開幕戦があるんだ。その辺にしておけ」

「分かったわ。それじゃあ、頑張ってね~♪」

「うん。頑張るよ」

 

 双木と華楠は、爛の様子を見に来ただけのようだ。しかし、お陰で体が少し軽くなったような気がした。

 嵐が去ったので続きを始めようと刻雨を握って、同じように基本的な動作をし、次の確認をしようと体を動かす。二人に会ってからか、体に変化があったようだ。

 

「……どうやら、緊張していたみたいだな」

 

 体が本当に軽くなっている。大会は初めての経験でもあり、強張っていたようだ。

 様子を見に来てくれた両親に感謝をしつつ、爛は体を動かす。特訓の最中は体が軽くとも、実践で元に戻っては意味がない。リラックスをして団体戦に挑むとしよう。だが、リラックスを強要してはいけない。逆に疲労してしまうからだ。

 

「………ふぅ。これで、終わりだな」

 

 やるべきことを終えた爛は霊装(デバイス)の顕現を解除し、持ってきていたタオルで汗を拭く。

 団体戦の開始までもう少し。最高のコンディションで白星を取り、一輝たちの士気を上げていきたいところだ。

 

「………………………………………」

 

 彼女たちが心配だ。いつも隣にいるのが当たり前だったからか、誰もいないと少し寂しさを覚える。とはいっても、この時間と試合の時だけだ。出場しない試合では彼女たちが甘えてくるため、それを相手にすることになるからだ。

 今は自分のことに集中しよう。でなければ、自分を信じて一人にしてくれた彼女たちに顔向けできない。

 

「……よし、行くとしよう」

 

 後は出番を待つだけとなり、爛は訓練場を後にする。

 

「……あ、爛」

「六花? どうしてここに……?」

 

 訓練場を後にした先にいたのは六花。ずっと爛を待っていたようでどうしてここにいるのかと爛は尋ねる。

 すると、何かを躊躇うように顔を俯かせ、暫くしては爛の顔色を窺うように視線を向けるものの、すぐに顔を俯かせてしまう。

 

「どうした? 何言いにくいことがあるなら詳しくは聞かないが───」

「そうじゃないんだ。……ちょっとね、自分の体に───」

 

 違和感があるんだ。

 そう言った六花の表情は不安の色に染め上げられていた。どういうことなのか、爛にも分からない。ただ、六花が感じている違和感は少なくとも影響を与えるものだとしたなら……そう考えるとどうやって動けばいいのか。既に爛の中で答えが出ていた。更には、その違和感の正体を直感だが察している様子を見せた。

 

「ちょっと良いか?」

「う、うん」

 

 爛は六花の体を触る。違和感の正体を察したとはいえ、直感的なものだからこそ、確信を得たいという爛の考えもある。

 そして、確信を得ることが出来たのか。爛は触れるのを止めた。

 

「何か……分かった?」

 

 様子を窺うように尋ねてきた六花に爛は微笑む。

 

「一言で言えば、六花は覚醒した」

「えっ……!?」

 

 何をいっているのか分からない。頭が一瞬で真っ白になった六花は、爛の言葉を意味を理解しながらもどうなっているのかが分かっていないのだ。

 

「頭が追い付かないのは分かる。俺だって気づけなかった。どうやら、あの時に覚醒したみたいだな」

「あの……時……? いつのこと?」

 

 六花の頭の中は未だに真っ白。しかし、思い出したかのようにとある記憶が鮮明に甦る。

 青い空、緑の大地、隣にいるのは見覚えのある少年。少女はこの幸せを失いたくないと願った。その少年と少女は、きっと───

 

「あ───────」

「思い出したか」

「思い……出したよ」

 

 笑みを浮かべた六花を見た爛は嬉しそうに頷いた。

 そして、六花は覚醒をした理由さえも、理解することかできた。

 

「……説明は不要だな」

「……うん。行こう、皆が待ってる」

 

 爛と六花は二人並んで歩き出す。

 

──────────────────────

 

『闘争は悪しきことだと人は言う。それは憎しみを芽生えさせるから。

 平和は素晴らしきことだと言う。それは優しさを育むから。

 暴力は罪だと人は言う。それは他人を傷付けるから。

 協調は善だと人は言う。それは他人を慈しむから。

 良識ある人間ならば、そう考えるのが当然のこと。

 

 しかし、しかしそれでも人は、強さに憧れる(・・・・・・)

 

 誰より強く! 誰より雄々しく!

 何人も寄せ付けない圧倒的な力!

 自分の自己(エゴ)を思うままに貫き通す、絶対的な力!

 憧れなかったと誰が言えよう!

 望まれなかったとどの口で言えよう!

 この世に生まれ落ち、一度は誰もが思い描く夢、

 いずれはその途方もなさに、誰もが諦める夢、

 

 その夢に、命を懸け挑む若者たちが今年もこの祭典に集った!!

 

 北海道『禄存学園』

 東北地方『巨門学園』

 北関東『貪狼学園』

 南関東『破軍学園』

 近畿中部地方『武曲学園』

 中国四国地方『廉貞学園』

 九州沖縄地方『文曲学園』

 そして───新生『日本国立暁学園』

 

 日本全国計八校から選び抜かれた精鋭たち!

 いずれも劣らぬ素晴らしき騎士ばかり!

 されど、日本一の学生騎士《七星剣王》になれるのはただ一人!

 ならば、その剣をもって雌雄を決するのが騎士の習わし!

 

 若き高潔なる騎士たちよ。

 時は満ちた!この一時のみは、誰も君たちを咎めはしない!

 思うまま、望むまま、持てる全ての力を尽くして競い合ってくれ!

 

 ではこれより、第六十二回七星剣武祭を開催します───ッッッ!!』

 

 演出に呼応するように、会場は一気に盛り上がる。

 そんな中、悲しむように爛は周りを見渡していた。

 

「力……か……」

 

 『力』という言葉に反応した爛は、自分の右手を見つめる。その視線には怒りの感情が含まれていた。

 

「……暴力だろうが何だろうが結局、力は身を滅ぼす。人も自分も大切なものも……失うんだ。そして……力を持ったことに絶望する」

 

 力を持っていなければ世界は安定しない。力を持つものが居なければ統制は出来ないのだ。力を恨みながらも力に固執するしかない自分に、爛は吐き気がするほど殺してやりたくなる気持ちに苛まれる。

 それでも、力を持たなければならない理由があるのだ。

 

「爛? もうすぐだよ?」

 

 六花が暁学園戦を控えている爛に声をかける。

 

「ん、もうそんな時間か……ありがとう。行ってくる」

 

 爛は六花の頭を撫でると、控え室へと向かう。

 団体戦の開幕戦は破軍学園対暁学園となっている。

 爛一人に対して、相手は三人であることは確実。名誉を必要としていない勝利だけを求める暁学園。

 爛のように感情で動くことはない。颯真は既に気づいているのだ。爛が一人で戦おうとしている理由は理由もあるが、感情もあるのだと。

 

「………………………ハァ」

 

 溜め息をつく。

 切り替えよう。今は力のことを気にするのは止めよう。戦いはそれに頼らなければならないのだから。

 控え室にアナウンスが流れる。どうやら、試合の開始時間になるようだ。

 

『控え室の選手にお知らせします。団体戦、第一試合を開始いたします。破軍学園代表選手、暁学園代表選手は入場ゲートへお進みください』

 

 さぁ、始めよう。

 待ち続けていた戦いを。

 

 

 ーーー第84話へーーー


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