活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。
「ふぅ……」
パーティが終わり、選手が止まるホテルの一室にやって来た爛は一息つく。
いつもの生徒服に戻っていた爛は、部屋の中へと入った。
「おかえり~♡」
中に居たのは六花だった。
爛の帰りを待っていた彼女は爛の胸に飛び込む。
「っと。危ないぞ? こうやって受けて止めてるからいいかもしれないが、受け止めなかったらそのまま落ちるぞ?」
「爛が受け止めてくれるって分かってやってるもん。爛だって、受け止めないっていう選択はしないでしょ?」
「確かにそんなことはしないが……」
苦笑を溢した爛はそのまま六花を抱えて、ベッドの上に座る。
暫く、六花は爛に抱きついたまま、温もりを感じていた。爛は眉間にシワを寄せて、難しい顔をしていた。それを見た六花は、人差し指を爛の額に当てる。
「あんまりそういう顔しちゃダメだよ?」
少し驚いた顔をした爛は、顔に出ていたのかと六花に尋ねると、何も言わずに頷く。
「考えるのはいいけど、抱え込まないでね。相談くらいなら聞いてあげるから」
「あぁ……ありがとう」
心配をしている六花の頭を撫でる。
幸せそうな表情を浮かべ、そのまま撫でられている六花を見た爛は、とても愛しいと感じた。
爛はあの日から誓っていた。
六花のこの笑顔を守ると。守るためには、如何なることでもすると。そのためならば、この命を捧げることができる。
いつのまにか、爛は六花を力強く抱き締めていた。
「爛?」
「もう暫く……このままにさせてくれ」
爛の言葉を聞いた六花は頷き、身を委ねることにした。
十分ほどすると、爛は抱き締めている力を弱めた。
「……終わり?」
「あぁ」
六花が尋ねると、爛は頷く。六花も渋々抱き締めるのを止めた。
「そういえば、団体戦の相手は何処だろ?」
「まだ見てなかったのか?」
「うん」
「………………………」
何故、対戦相手の学園を知っていないのか。いや、六花らしいと言うべきなのか。
まぁ、それでも良いか。
爛はそう割り切った。
「初戦は暁だぞ?」
「……嫌だなぁ」
爛が言った対戦相手に、六花は苦笑を浮かべるのは尤もだと爛も思っていた。七星剣武祭、強者たちが集うなかでも、戦闘技術、異能の扱い、戦いに関しては一流といってもいいだろう。
「まぁ、何とかなるだろ」
「その辺は変わらないね」
爛の軽い言葉に、苦笑を浮かべていた六花は笑みを溢した。いつもと変わらない爛に、少し安心したのだろうか。
爛はだけど───と言葉を続けた。
「だけど……一輝とかステラは恐ろしいと感じるな」
その表情は苦虫を噛んだような顔になっていた。
六花は分かっていた。爛が一輝とステラを恐ろしいと思っている理由を。
魔力の乏しい一輝が、体術と剣術だけでここまで登り詰めるのを間近で見ている。そして、魔力を振り絞る
逆に、魔力を大量に持っており、十年に一度の天才と言われるほどのステラは、
「颯真は?」
「────────────」
追撃かの如く、六花は颯真の名前を口にした。
名前を聞いた爛は苦笑を浮かべ、六花から視線を逸らした。
「颯真は?」
「同じことを言わないでくれ……分かってるから」
ニッコリとした可愛らしい笑顔で六花は、爛の視線を入ると、爛は参ったようにため息をついた。
「颯真は……
「爛もやっぱりそういう風に見えたんだね」
難しい表情をしながら、爛は考え込む様子を見せた。異能が変わっているように見える、という爛の言葉に六花も頷いた。
「……困ったなぁ」
爛にとって、颯真の情報が少ないのは困るのだ。颯真は爛との戦いにおいて、一番苦戦する相手であると思っているからだ。
颯真は異能の風と剣術で、ステラほどの魔力量、珠雫ほどの魔力制御が出来るわけではない。
しかし、颯真には一撃必殺の技がある。油断をすれば即負けてしまうほどの技があるのだ。
「顔と言葉が合ってないよ」
六花の言う通り、爛は笑み浮かべながら言っていた。
「まぁ、楽しみではあるんだ。全力で戦える相手は、あまり居ないからな」
確かに爛が言ってる通り、全力で戦える相手は少ない。全力を出してしまえば、周りに被害が及びかねないのだ。爛は全力を抑えながら戦わないといけない。
「それじゃあ、僕と当たったら?」
爛が考えたくもないことを言った。爛にとって、六花は七星剣武祭で当たりたくない相手の一人なのだ。
「そうしたら……俺は……」
爛は六花を傷つけることはしたくない。
「そんなに心配しなくてもいいよ。決勝戦になれば、話は変わるけど、ね」
肩を竦めながら言う六花に、その通りだと頷く。
「とにかく、今日はもう寝ようか」
爛が提案すると、六花は頷く。
それぞれ寝間着に着替えて、ベッドへと入る……が、爛があることに気づく。
「……あれ、六花って俺と同じ部屋だったか?」
「何言ってるの? 理事長にそう頼んだでしょ?」
「いや、俺の記憶にはないんだが……」
確認をとってみるしかないかと考えた爛は、生徒手帳を開く。
「……黒乃より颯真に聞いた方が早いか」
颯真は頼りになる親友だ。割りと仕組みについても詳しいから、部屋の割り振りを知っていても可笑しくはないだろう。
早速、颯真に電話をかけてみる。
『もしもし?』
「爛だ。颯真」
『どうした?』
電話をかけて、颯真が返事をしてくれた。
すぐに電話に出たことから、暇でもしていたのだろうか。
「参加生徒の部屋の割り振りって分かってるか?」
『一人につき一部屋だったはずだ』
「やっぱりそうか……」
一人につき一部屋ということは、六花の部屋もあることになる。
それを、颯真がしっかりと説明をして否定をしなければ、六花の部屋もあるはずだ。
『話の内容から察するに、お前の部屋に六花が居るんだな?』
「あぁ……」
『爛と六花の部屋は同じだ……理事長の話を聞いてなかったのか?』
「連絡は何も……完全に遊んでたなあいつ……」
してやられた。というわけではないが、黒乃のちょっとした悪戯をしだすようになったのはいつからなんだと本人に聞きたいところだ。
「まぁいい。ありがとな、颯真」
『礼を言われるほどか?』
「いつも頼りにしている親友だからこそ、ちゃんと礼はしないとな」
『ハハッ、違いない』
爛は教えてくれたことに礼を言うと、颯真は言われるほどではないと思っていたようだ。爛が颯真を頼りにしているということを話すと、颯真は少し笑いを溢して肯定した。
『もう時間になるから切るぞ』
「あぁ、おやすみ。颯真」
『おやすみ、爛。いい夢を見ろよ』
寝るときの決まり文句だったかなと爛は颯真の言葉の意味を思い出す。
寝る前に話すことは無くなってきたからか忘れていたか。と思いつつも、別に覚えなくてもいいと言われたような気がする。
「ま、とりあえず、寝るか」
「うん、そうだね」
今度こそ寝ることができると思いながら、爛は二段ベッドの下の方のベッドへと入る。
「それじゃあ、僕も寝るね?」
そう言いながら、六花は二段ベッドの上の方のベッドに入る。
(……あれ? いつもの六花なら、同じベッドに入るはずだが……)
いつもと違うことに戸惑うが、たまには一人で眠りたいのだろう。勝手な解釈だが、教えてくれなければ分からない。そう納得しておこう。
「おやすみ、爛」
「おやすみ、六花」
今日はよく眠れそうだと思いながら、爛は重たくなった目蓋を閉じる。
──────────────────────
ゴソゴソとした物音が聞こえる。
ぴったりと密着し、背中付近に当たる二つの柔らかいもの。
この部屋には二人しかいない時点で誰かはすぐに分かる。
「ん……六花……?」
「あ……ごめんね?」
六花がベッドの中へと入ってきており、背中から抱きついていた。
「一人じゃ、眠れなかったの……」
「……そうか」
罪悪感のこもった声音が耳に届く。
「六花……」
「……何?」
「そっちを向きたい……いいか?」
爛がそう言うと、抱き締めている六花の腕が外れていく。
「ありがとう」
爛は六花に礼を言うと、背中の方にいる六花に、体を向ける。
「…………爛」
「謝らなくていい。別に、一人じゃ眠れなくても怒ることじゃないからな。最近は二人で一緒に寝ることが多くなって───」
「二人一緒じゃないでしょ」
「まぁ、確かにそうだが、こうやって寝ることがおおかっただろう?」
「……そうだね」
二人は一緒に寝ることが多くなっていた。破軍学園に六花が来てから、六花が一緒に寝たいからと、爛のベッドに入ってきているのだ。
爛はそれを拒んではいない。が、温もりを感じていたいと思うこともあったからか、何も言わずに受け入れていた。
それもあってか、六花と爛は一緒に寝ることが当たり前になっていた。
「……ぎゅー」
六花が爛を強く抱き締める。
爛はそれを受け入れ、六花を抱き締める。
「顔、少し赤いよ?」
「………………………」
爛の顔が少し赤くなっていることに気づいた六花は、爛に尋ねるものの黙り込んでしまった。
「ね、教えて?」
六花は更に強く抱き締め、あるものを押し付ける。
「そ、その……」
「ん~? 何~?」
爛の顔が更に赤くなっていく。
爛も言いたくないだろうというのは分かっているが、反応が可愛いからこそ、意地悪をしたくなる。
「そ、その胸が……」
そう。六花は豊満な胸を爛に押し付けていたのだ。意図的にやっているから、爛はそれに反応してしまったのだ。
「も~、ぎゅーってしてるから当たっちゃうのは仕方ないよ。そんな可愛い反応してると、もっと意地悪とか悪戯しちゃうよ?」
「そ、それは、止めてほしい……」
うぅ~と唸っている爛を見て、笑みを溢す。
やっぱり可愛い。もっと悪戯をしたくなってしまうのは、爛の反応が可愛いのが悪いと思いながら、爛の頭を撫でる。
「あうあうあぅ~~……」
六花に頭を撫でられ、耳まで真っ赤になり、顔を見せられないと俯く爛に、これでもかと撫で続ける。
「り、六花ぁ………」
顔が見せられないからか。六花に密着するように抱きつく。
(これ以上悪戯したら、爛が怒っちゃうか……)
爛を怒らせるのは良くないと考えた六花は、爛の頭を撫でるのを止めた。
「ごめんね、悪戯しちゃって。おやすみ、爛」
「うぅ~……今度こそおやすみ、六花」
二人は今度こそ、深い眠りについた。
ーーー第82話へーーー