落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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新キャラの登場時間が全然ないというのが現実だった。まぁ、後から出てくるし問題ないか!

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第78話~片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士~

 沙耶香が来たその日の夜。爛は六花たちが眠っているなかで、一人だけベランダに出ていた。

 桜に取り上げられた煙草を手に取り、火をつけた。

 煙草を口に加え、空を見上げる。星がよく見えるものの、月明かりが全くない日だった。

 今日はちょうど新月の日、月は見えない。爛は沙耶香のことで考え始める。

 六花たちには受け入れてもらえたものの、少なくともまだ彼女たちのなかで少し、不安に思っている者もいるだろう。

 爛本人が信じ、沙耶香は六花たちに仲良くなろうとしていた。それでも、沙耶香が襲ってきたということは事実だ。それを受け入れきれないと感じるのは仕方ないだろう。それを、何とかしなけらばならない。

 ベランダにあった椅子に座る。

 

「いつまでそんなところにいるつもりだ、エーデルワイス」

 

 爛は夜空を見上げたまま、エーデルワイスの名を呼ぶ。彼女は壁のところに背を預けていた。爛に居ることがバレたことが分かると、爛の方へと視線を向ける。

 

「気づくのが早いですね……流石、爛です」

 

 笑みを浮かべたエーデルワイスは、爛のとなりにある椅子に座る。

 エーデルワイスは何も話さずに、座ったままだ。爛は彼女が先程、暴走したことに気づいているのであれば、ここに来る他に選択肢はない。

 

「来たのはいいけど、特に振る舞えるものは何もないぞ……」

 

 爛は苦笑を溢しながらも、コーヒーをエーデルワイスに振る舞った。

 コーヒーを飲む前に、エーデルワイスは砂糖を入れようとするが、それを爛が止める。

 

「甘いぐらいに入れておいてあるから、そのまま飲んでくれ」

 

 通りで砂糖が入っているものがないわけだ。エーデルワイスがいつも飲んでいるコーヒーには何故か砂糖の量が多いのだ。苦いのが苦手なのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 カップを取り、コーヒーを飲む。爛の言う通り、コーヒーは甘く、とても飲みやすい。

 そういう爛は、ブラックを飲んでいた。カフェオレなども飲んだりしている爛が、ブラックを飲んでいた。エーデルワイスは見たことがなかったのか。爛に尋ねてくる。

 

「貴方はブラックも飲むんですね?」

 

 エーデルワイスの質問に苦笑を浮かべながら、爛はカップを置き、答えを返す。

 

「俺は基本、ブラックだぞ」

 

 爛の質問に、エーデルワイスは意外だと思った。

 確かに、エーデルワイスの居る前では砂糖をいれたりしているものの、彼女ほど入れるわけではなく、少しだけいれていただけ。それを、彼女は見ていたのだ。

 

「砂糖をいれているところを見ていましたが……」

 

 やはり、エーデルワイスはその事について言ってきた。

 

「あの時は微糖にハマっていたんだ。ただ、目を覚ますのにブラックは飲んでいたけどな」

 

 そういえばとエーデルワイスは思い出す。爛が修行の目的で共に過ごしていたときに、彼が朝にブラックを飲んでいたのを思い出す。微糖の時があったのを覚えているが、甘くしているところは見たことがない。

 

「それに、コーヒーを飲むのはいいが、甘くしないといけないのであれば、ココア辺りでもいいと思うんだが?」

 

 エーデルワイスが苦いのは飲まず、コーヒーを甘くしていて飲んでいることは知っている。無論、飲むなどは言うわけではないが、甘いのを飲むのであれば他にもあるのではないかと思ったのだ。

 しかし、彼女は爛の質問に、横に首を振りながら答えた。

 

「コーヒーを飲めないと大人とは思えないじゃないですか……」

 

 エーデルワイスの返してきた答えに、爛は唖然とした。それは、彼女が持っている偏見だ。別に、コーヒーは飲めなくても、大人と言えるし、ビールとかが飲めないからといってバカにされることもない。なのに、彼女がそういうことを言っているのは、偏見を持っていると言えるのだ。

 

「そういう偏見は持たない方がいいぞ……飲めなくたって、貴女は大人じゃないか。ま、菓子作りでもしているときは子供っぽく見えるけどな」

 

 誤解されてしまうと思いつつ、エーデルワイスに偏見だということを言っていると、彼女は少し怒っているような表情をした。

 

「………偏見を持っているつもりはありません。ただ、私としてはコーヒーを飲めた方が大人っぽいと思っているだけです」

 

 それが偏見なんじゃないのかと思いながらも、爛は彼女が怒っている表情を見た。見たことのない顔で少し可愛いと感じた爛は、微かに笑んだ。

 

「何を笑うんです……?」

 

 どうやら、彼女は真面目に怒っていたようだ。地雷を踏んだなと内心で苦笑を浮かべた爛は、エーデルワイスから視線を外し、コーヒーを飲む。

 

「いや、貴女が怒っているのは初めて見たものでね。それに、貴女でも可愛いところは出てくるものだと思っただけだ」

 

 爛の言葉に意外だと思いながらも、同時に恥ずかしいと感じたのか。顔を赤くして伏せた。

 彼女にとって、可愛いと言われることはなかった。爛には何もこのようなことは言われたことはない。元より、自分にはこのようなものがないと思っていたものだから、その手の類いには疎いのだ。

 

「!! 隠れろ」

 

 爛とエーデルワイスのところに来る気配を感じとる。それも、爛の部屋から感じ取った爛は、エーデルワイスを無理矢理隠し、誰が来るのかと待った。いや、爛からしたら、誰が来ているのかは分かっている。

 

「どうした、六花」

 

 六花が来ていたのだ。どうして起きたのか、少し気になった爛は、彼女に尋ねた。

 

「……爛は寝ないの……?」

 

 爛が寝ていないということに気づいていたのか、心配していた六花は、眠そうな顔をしながらも尋ねてきた。

 

「大丈夫、心配してくれてありがとう。でも、今日は少し起きてなきゃいけないんだ」

 

 爛の言葉に六花は少し悲しいのか、不安な表情を浮かべながら、爛に抱きついた。六花にとっては、爛と一緒に眠りたいという気持ちがある。

 

「爛と寝たいのに……」

 

 六花の気持ちはよく分かる。爛でも六花と同じように寝ていたいという気持ちがある。しかし、爛にはやらなければならないものがあるのだ。だから、今日だけは分かってほしいのだ。

 

「ごめんな……俺も一緒に寝てやりたいけど、やらなきゃならないことがあるから」

 

 爛の言葉に渋々頷いた六花は、それでも抱きつくことを止めない。少し疑問を持ちながらも、爛は六花に尋ねた。

 

「ベッドには戻らなくていいのか?」

 

 爛の質問を聞いた六花は、爛のことを強く抱き締めた。この事から察するに、このままでいたいということだ。それに気づいた爛は、何も言わないまま、六花の言うことを待つ。

 

「……このままで寝かせて」

 

 六花は爛に抱きつきたいまま眠りたいということだ。別に問題はないわけではないのだが、それは眠ってくれなければ意味はない。ただ、このまま来ると、六花は頑固になる。彼女の言う通りにするとしよう。

 

「分かった」

 

 爛は六花を抱き締め、彼女が寝れるように軽く揺れる。程良い爛の揺れに、六花はすぐに眠ってしまうものの、爛から離れることはなさそうだ。

 

「無理矢理隠してすまなかったな」

 

 爛は隠れているエーデルワイスに、声をかけた。顔を出した彼女は隠れるのを止めて、爛を抱き締めて眠っている六花のことを爛に尋ねる。

 

「彼女は?」

「目線がキツい気がするんだが、まぁいい。六花だよ、幼馴染み。今じゃ、恋人だけども」

 

 爛の答えに、少し考え始めたエーデルワイス。今のところ、爛が異性に興味を示すことなど無いに近い。ただ、その事を尋ねたときに心を開いた相手にしか興味は示さないと聞いたことがある。そう思い出したエーデルワイスは六花が幼馴染みで恋人であるということに、爛は六花に心を開くことのできる相手なのだと分かった。

 

「そうなんですね……少し、羨ましいです」

 

 エーデルワイスの言葉に、爛はそうだったと思い出した。彼女は今、一人で暮らしている。身近に爛と六花のように繋がっている人がいないのだ。

 

「……すまないな」

 

 爛はエーデルワイスに謝罪した。一人でいる彼女にとってみれば、とても羨ましい存在だろう。

 

「いえ、貴方が謝ることではありません。それに、私が欲したら、貴方は応えてくれるのですか?」

 

 エーデルワイスの言う通り、爛が謝る必要はない。彼女は確かに繋がりというものを求めているものの、爛は求めているものには応えてはくれないだろうと彼女は思っていた。

 

「別にいいとも。求めるのなら」

 

 爛が返してきた答えに、エーデルワイスは驚愕した。冗談でいっているわけではないと気づいている。爛の目は真面目だ。本当にエーデルワイスの求めるものに応える気だ。その心意気にエーデルワイスは笑みを溢した。

 

「フフ、別にいいのです。兎に角、貴方が無事で何よりでした」

「暴走には気づいていたんだな。通りで心配してたわけだ」

 

 エーデルワイスは爛が暴走をしていたことに気づいていたものの、既に爛は学園内にいた。魔力感知で爛の場所を確認して追いかけていた。

 

「心配はしていましたよ」

「今もしてるじゃないか」

 

 エーデルワイスは爛が無事なことにホッとしているのは確かだが、未だに心配をしていると爛は言った。

 しかし、そんなことは思ってもみなかった彼女は、首をかしげた。

 

「無意識にしているんだろうな。心配で仕方がないような目線を向けているのに、気づかないわけないだろう?」

 

 彼女の不安な目線は爛を心配しているものだった。本人は全くその気はなかったのだろう。しかし、無意識にしているものは、本人も気づくことはない。

 

「……そうだったんですね。弟子のことを心配するのが師匠の性ですかね」

「さぁ……どうだろうな」

 

 二人とも、どのようなものなのかは分からない。

 爛が立ち上がり、部屋のなかに戻っていく。エーデルワイスはそれを見ているだけだった。ふと、思い出すか彼女はとある人物のことを思い出す。

 

──────────────────────

 

 とある人物とは色々と縁があるものの、戦うこともなく、共に過ごすことがあるだけ。

 エーデルワイスとは似ている部分が多く、姉妹とも言われたぐらいに。爛とは会ったことがあるらしく、一時期は師事していたと聞いた。

 ただ、その人物の強さは計り知れない。剣術勝負なら互角なのだが、魔術系に関してはとても強い。

 エーデルワイスと同じく狙われている身であるものの、捕まえることを放棄された者でもある。

 確か、名前は───

 

『ヘルベルティア』

 

 二つ名というものはないが、『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』と聞いたことがある。確かに、ヘルベルティアは黄金のような右目と漆黒のような左目を持っている。爛と目のところでは酷似している。

 ヘルベルティアの二つ名を聞いて思ったのだが、何故、『片翼』と『赤き翼』が入っているのだろうか。別にどちらでも問題はないはずだ。なのに、意味もなくつけるのだろう。二つ名というものは他人からつけられるものだ。

 

「何か考え事ですか? エーデルワイス」

 

 あの時の会話を思い出す。今でも鮮明に残っている。考え事をしていた自分に、ヘルベルティアは飲み物を渡しながら尋ねてきた。特に何かを考えていたというわけではない。

 

「いえ、特に考えてないですよ」

 

 当時、エーデルワイスはただひたすらに世界を渡り、鍛えていた爛を拾っている。

 ヘルベルティアは勿論知っている。ただ、爛とヘルベルティアは会うことはなく、避けているようにも思える。

 

「貴女も爛に会ってみたらどうですか?」

 

 その事をヘルベルティアに訪ねてみるものの、彼女は首を横に振った。

 

「いえ、会わなくて大丈夫です」

 

 彼女は隠している悲しみも寂しさもなかった。本当に会わなくても平気だということなのだろうか。

 

──────────────────────

 

「エーデルワイス」

 

 爛の呼ぶ声でエーデルワイスは我に返る。爛が部屋に戻っていたのは見たところ、六花にかけられているタオルケットを持ってくるためだろう。

 

「何か思い出していたのか?」

 

 爛の言葉にエーデルワイスは頷いた。それ以上詮索をしない爛に少し感謝をしつつ、思い出していたことを話し出す。

 

「ヘルベルティアのことを思い出していました」

 

「そうか。ヘルベルティアか……」

 

 爛は懐かしむように言った。以前にもあったことがある爛にとってみれば、また会って話してみたいという気持ちはあったりするのだが。

 

「少し居すぎました。元はといえば、顔をちょっと見るだけだけだったのですが」

 

 エーデルワイスは立ち上がり、笑みを見せた。爛は彼女と同じように笑みを浮かべる。

 

「それでは、また何処かで」

「あぁ、また会おう」

 

 さよならとは言わない。また会えるからだ。エーデルワイスはベランダから飛び降りる。彼女であれば、別に飛び降りても問題ないだろう。

 

「ふぅ、エーデルワイスなら行ったぞ。ヘルベルティア」

 

 爛の言葉を聞いてきたのか、ヘルベルティアが姿を表した。エーデルワイスに似ており、髪は腰ぐらいまで長さがある。

 

「………………………………」

 

 ヘルベルティアは何も言わない。二人が感じ取っているエーデルワイスがこちらの動きに気づかれない距離まで離れると、ヘルベルティアが消えてしまった。それに、何も感じていない爛は、独りでに呟く。

 

「へぇ……そういうことか」

 

 顔をしかめながらも、考え事を始める爛に、電話がかかってくる。

 こんな時間に誰からかと、生徒手帳を取り、電話に応じる。

 

『ルウです。爛さん』

 

 ルウという名前を聞いた爛は、少し安堵した表情をした。知らないものからの連絡ではないことから警戒を解くが、どうしてこのような時間に電話をしてきたのかと思った。

 

「ルウか、どうした」

『作戦の件ですが、爛さんに頼んであるものは回収しましたか?』

 

 ルウの言葉に表情を変えることもなく、爛は顔をしかめたままで頷いた。

 

「あぁ、回収は済んでる」

『では、作戦について決まり次第連絡させてもらいます』

 

 返事だけをすると、ルウの方から通話が終わる。要件だけ言うのは彼女らしいが。と思いつつ、爛は星が煌めく夜空を見つめる。

 

「さて……七星剣武祭、どうなることやら」

 

 爛の呟きは、誰にも聞こえずに消えていくだけだった。

 

 

 ーーー第79話へーーー


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