活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。
暖かな夢を見ている。大切な家族と楽しく暮らす夢だ。双子の姉とひとつ上の兄、兄の二つ上でもう一人の姉。そして優しい両親。いつも大切にしてくれている家族だ。
でも、それはある事件を通して、家族と離ればなれになってしまった。兄は自分のせいだって言ってるけど、本当は違う。元々、宮坂家には特別な力が備わっていた。それは個人差があって覚醒するものは少ないが、兄は特に力を強く、その力を持っていることも兄は自覚していた。
私は家族と離ればなれになり、追われるように身を隠す生活をしなければならなくなった。
家族から離れたことをいいことに、
私は
最初は意志まで操られたから、精神世界にいる私も操られていた。精神世界での兄は、凄く怒っていた。暫くすると、意志の自由が表れた。
そして、破軍学園襲撃……私は巴という人物に操られ、兄と戦った。私じゃ敵わない相手だ。それを承知で、彼女は私を使った。
その後は巴に刺され、残っているのは兄の精神世界にいる私だった。
兄の暴走を止めるために動いた私は、兄の精神世界から居なくなることになりそうだけど……それは、兄次第になりそう。
夢は終わりを告げようとしている。視界が暗闇に染まっていく感覚がする。
起きたら、何処にいるんだろう。
「……香、…耶香、沙耶香」
とても聞き覚えのある声がした。沙耶香にとって一番会いたい人で、恐れている人でもある。
それは、沙耶香の兄、爛だ。彼女を心配していた爛は沙耶香が眠っているベッドのとなりにある椅子に座っていた。
「……爛兄さん……じゃない、にぃに」
爛は驚いた。精神世界で沙耶香が消えたあとに聞こえてきた言葉に、自分の呼び方が変わっていたことに気づいたが、本当に
沙耶香は体を起こし、爛の方を向くが、少し恐がっている様子を見せる。
「どうした? 沙耶香、何かあるのか」
爛は首をかしげた。爛には全くわかることのないものだが、察することはできるだろう。沙耶香から感じる恐怖が、自分に向けていられることに、爛は異様な気配として感じた。
「……恐いのか」
爛の言葉に沙耶香は震えながら頷いた。爛の瞳が真剣なものへと変わり、沙耶香を射抜くように見詰めているからだ。
溜め息をついた爛は沙耶香の頭に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。
「恐がらなくていい、お前の思ってることはわかる。俺を襲ったことは、覚えているんだろう? それで、自分の意思で体が動かせるようになって、怒られるんじゃないかって思ったんだろ」
爛の言った通りだった。沙耶香は爛から何か言われるんじゃないかとビクビクしていたのだ。
「俺はお前をこの事で怒ったりしないよ」
爛は笑みを浮かべながら、沙耶香の瞳を見詰めた。その目には優しさがあった。沙耶香の目には、そう映った。そして、改めて沙耶香は爛のことを思い出した。
そうだった。この人は、大切にしてくれる人を愛する人で、私の兄。誰もが欲しがるって自慢の兄なんだ。
沙耶香は自然と笑みを溢していた。瞳からは涙が溢れ、心が安らいでいく。
爛は涙の意味を知って、沙耶香を抱き締めた。
「……ねぇ、にぃに」
暫くして、沙耶香は爛に声をかけた。爛は彼女の言葉に耳を傾ける。
沙耶香は、少し言いづらいのか、何とも言えない表情をした。爛は、沙耶香の言葉を待った。早く言えとも何も言わない。ただ、安らかな表情をして、彼女を待ち続ける。
「……大好きだよ」
沙耶香からの突然の告白に驚くものの、爛も沙耶香の言葉に返すものがあった。
今まで、彼女に伝えることのできなかったもの。当時は、その事に気づけない自分がいたが、今ではしっかりと自分の気持ちがわかる。彼女に対して、自分がどんな気持ちを抱いていたのか。彼女が、自分から気持ちをいってきてくれたことに、嬉しさを感じた爛は、自分も伝えようと、口を開いた。
「俺もだ。好きだよ、沙耶香」
沙耶香は、爛からの告白に顔を赤くする。兄も、自分と同じ気持ちでいたことに、驚きがありながらも、それと同時に嬉しさもあった。
「嬉しい……」
爛を抱き締める力が強くなる。爛の温もりを感じていたい。爛の近くに居たい。その気持ちがどんどんと強くなってくる。今まで会えなかった反動が、沙耶香の気持ちを強くさせている。
「もっと、一緒に居たい……!」
沙耶香は、心の中に溜め込んでいた言葉を言った。会えていなかった分、その気持ちはとても強いだろう。やっと会えた。会いたかった人に、やっと会えた彼女は、欲を出してしまうのは仕方ないだろう。
爛は、沙耶香の言葉が溜め込んでいたものであったということを察する。会えなかったら、この言葉は言っていないだろうし、こんなにも、力を強めて抱きついてくることもないだろう。
「あぁ、いいよ」
爛はそれを受け入れた。大切な妹に、会いたかった妹に会えたのだ。爛も同じように、彼女と一緒に居たいだろう。
「ありがと……」
沙耶香は爛の胸に顔を埋める。幸せで胸が一杯になっている沙耶香は、爛の胸のところで頬擦りをする。
「……ん、眠ったのか」
沙耶香から、微かに寝息が聞こえる。体重がかかり、爛に体を委ねる形となって沙耶香は眠っていた。
爛は彼女をベッドで横になるようにして、背凭れに寄りかかるように座り直した。
「……結局、何にもしてやれなかった……」
自分は弱いじゃないか。妹の方が、何にもしてやれない兄よりも強いじゃないか。顔が見せられないなんて言うような顔をしてるけど、こっちが顔を見せられないほどだ。
部屋の天井へと顔を上げ、手で視界を覆った。口角を上げなからも、口から出てくるのは後悔の言葉ばかりだ。
「なんて、言ってられないな……」
溜め息をついた爛は、沙耶香の方へと視線を向ける。幸せそうな顔をしている沙耶香に、爛は心が安らぐ感覚がした。
やはり、大切な人が幸せであると、自分も幸せになる。この幸せが続くといいのだが。
沙耶香が起きたあと、爛は黒乃に部屋に戻ると伝え、沙耶香を連れて、自室へと戻る。
六花は既に自室へと戻っており、爛を待っていた。
部屋のドアを開けると、ドタドタと急いでくるような足音がした。
「お帰りなさい! マスター!!」
リリーが飛び込んできた。部屋に戻ってくると、すぐに来てくれるのは彼女だ。いつもは確かに抱き締めに来るが、飛び込んでくるほどのものではない。
それだけ、彼女が爛を心配していたことがよくわかる。
「良かった……起きられたんですね……」
爛を強く抱き締め、消えてしまいそうな声音で言った。どうしようにもないほどに体が恐がっているのが分かった。
リリーは、爛が消えてしまったらどうしようかと思っていたのだ。
「マスター……マスタァ……!」
涙が溢れているリリーを抱き上げ、もうひとつドアを開ける。
「ただいま、みんな」
その一言だけで、六花たちは誰が帰ってきたのかはすぐにわかる。それは、いつものことだ。だが、
「お兄ちゃん! 良かった……」
明はホッとした顔をして、胸を撫で下ろす仕草をし、
「帰ってきたんですね、先輩……」
桜は自分が暴走したあと、戻ってこないのかと思っていたのか、無事にいることに、涙を流し、
「奏者、無事か? 無事だな?」
ネロは平気なのかと何度も尋ねてきたり、
「ご主人様、体は病み上がりみたいなもんなんですから、ごゆっくりしてください」
タマモは普段通りに接してきているものの、心配していることがよく分かる。目に出やすいのがタマモだ。
「あの、マスター? その人は……」
ジャンヌが爛の後ろに隠れている沙耶香に気づく。気づかれたことに沙耶香は体をビクッと震わせる。沙耶香は、彼女たちにも爛を襲っていたということは知っているはずだと思い、何かされるんじゃないだろうかと思っているのだろう。
「紹介するよ、一番下の妹、沙耶香だ」
爛はリリーを離れさせ、隠れている沙耶香を前に出した。そのままにしておくと、怯えてまた隠れそうなので、爛は後ろから沙耶香を抱き締めた。
「そんな怯えなくていい。何かあっても、俺が……な?」
爛は沙耶香を安心させるために声をかける。爛は沙耶香を守ると決めている。それで死んでしまっても、沙耶香を守れるのならばそれでもいいと決めてしまっている。
「っ……うぅ……」
爛の腕を掴んで離さない沙耶香は、六花たちの顔を見ることができずに、爛の顔ばかりを見る。
「ほら、六花たちは怒らないから。怒っても俺が何とかするから」
爛の言葉に沙耶香は、渋々頷いたものの、不安はまだ取り除けていない。後は、六花たちに任せるしかない。彼女たちの反応が、沙耶香の不安を取り除いてくれるものになるはずだ。
「……さ、沙耶香です。にぃにの言う通り、一番下の妹になります……よ、よろしくお願いします」
心が痛くなるような声音だった。消えていく儚いもののように。
リリーたちは笑みを浮かべた。そして、沙耶香に声をかけようとした時、不意に六花の声が聞こえる。
「君は……爛を───」
次に何を言うのか。爛も沙耶香もすぐに気づいた。とてもキツく当たるような声で、六花が次の言葉を紡ぎ出す。
「襲ったよね」
「六花ッ!!!」
六花の目付きが変わった。殺すような目だ。何も許してくれない目だ。沙耶香は顔を伏せる。六花の言った通りなのには変わりないのだから。
爛がすぐに叫ぶように六花の名前を呼ぶ。爛の目は、怒りの感情が含まれていた。爛の怒声が部屋の中に響き、リリーたちは爛から一歩引くような形になり、沙耶香は自分の目の前に立った爛に視線を向けた。
「沙耶香は自分の意思でやってるんじゃない。それをよく知っているのは俺だ。沙耶香はあんなことをやるような妹じゃない。それに、ただ目の前で起きたことの事実に捕らわれて、それでいて人を責めるのは可笑しい」
爛は六花の言葉に反論のしようがないほどに言った。爛のいっていることは正論だ。沙耶香は自分の意思ではない。六花は沙耶香が爛に襲ったという事実しか知らない。
「でも、僕は……また爛が傷つくのは嫌なんだ!」
六花の心の声が出てきた。爛をとても心配していた。沙耶香が爛の妹とはいえ、確かに沙耶香は爛を襲った。大きな傷は負ってはいないものの、爛は暴走を起こした。それは、沙耶香が大きな傷を負い、それを自分のせいだと追い詰めている爛を、六花は見ていられないのだ。
その六花の心が分かったのか。爛は溜め息をついた。
「……分かった。ただ、沙耶香に関しては───」
「分かってる、僕だって歓迎するつもりだよ……ごめんね、追い詰めるようなことを言っちゃって」
分かってもらいたい。そう言おうとしたときに、六花はそれを遮った。
言いたいことは分かっていたのだ。それは、長い付き合いがあったからだ。
六花は沙耶香を歓迎する気持ちはあった。でも、彼女の意図が読めなかった六花は追い詰めるようなことを言い、意図を知りたがった。六花は頭を下げ、沙耶香に謝った。
「あ、いや……別に……大丈夫」
まだ恐怖が残っているのか。やり過ぎたかと六花は考えた。沙耶香には、六花を恨むつもりなど微塵もない。寧ろ、感謝をしなければならないと思うほどだった。忘れようとしていた過ちを、逃げようとしていた罪を、背負う覚悟の切っ掛けを作ってくれる。
逃げようとしていた自分が間違いだった。結局、自分は大切な兄を傷つけたことには変わらない。変えること出来ないものだ。その罪から何故、逃げていくのか。背負わなければ意味がない。同じことを繰り返すようなものだ。
「本当に、大丈夫?」
六花が顔を俯かせていた沙耶香のことがまだ心配だったのか、もう一度尋ねた。
沙耶香は六花に向けて、瞳を向けた。その瞳を間近で見た六花は、沙耶香の瞳が先程とは違うことに気づいた。力強さがあるというよりも、何かが見つかり、目的を見つけることができたような瞳だった。
「うん、大丈夫だよ。六花ちゃん♪」
笑顔を浮かべた沙耶香は頷いて、六花に飛び込んだ。
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
爛ではなく自分なのかという驚きと、いきなり飛び込んできたことに驚き、沙耶香を受け止めつつも、床に倒れる。
沙耶香は笑顔のままで六花を抱き締め、六花は自分が沙耶香に抱きつかれていることに顔を赤くした。それを見ていた爛はニヤニヤする。
「へぇ、六花は自分よりも小さい子とかが好きなんだ」
「そ、そんなこと……!」
ニヤニヤしている爛に反論しようとするが、既に耳まで真っ赤にしている時点で、否定できないだろうと考えた爛の通りに、六花は何も言えなくなってしまった。
「でも私はにぃにの方が好きだから、六花ちゃんには負けないもんね~」
「むっ、それは聞き捨てならないね。僕の方が爛のことが好きだもん!」
さっきまで一触即発みたい感じだったのに……こんなに仲良くなってねぇ。
そんなことを思いながら、爛は二人の仲睦まじさに笑みを浮かべ、煙草を吸おうとベランダの方へといく。が、桜にその事がバレて煙草を取り上げられ、六花と沙耶香の中に放り込まれ、二人に揉みくちゃにされたそう。
ーーー第78話へーーー
六花と沙耶香は、姉妹といってもいいほどに仲良くなっていきます。
後の詳しいことは活動報告にて……