落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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嫁編~桜1~と平行して書いていました。
嫁編~桜1~は投稿しました。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


第75話~スターオブベツレヘム

 精神世界で未だに暗闇の中を進んでいる爛は、迷路のような場所で出口を探していた。

 

「どこだ……どこにある……!」

 

 出口が見えない。どこにあるのかも分からない。けれども、この迷路がどれだけ広いかも分からない。

 

「…………………?」

 

 微かに、光が見えた。もしかしたら、あれが出口かもしれない。ただ、光が見えているだけであれは出口ではない可能性がある。

 だが、可能性に賭けてみるしかない。少しでも、この迷路からの脱出ができるのであれば、それに賭けるしかないのだ。

 光が見えた方に爛は走り出す。

 

「あれ……?」

 

 光が消えた。周りを見渡しても何処にも光はない。ここが終わりという訳でもないことは、爛は感じていた。

 

「……どういうことだ?」

 

 今度は別の場所に光が見えた。だがその光は、何かに呼応するかのように、輝いている光の強さが変わっている。

 

「……………………………」

 

 光の方にいっても何の変化も起きない。この迷路を攻略しているという気にさえならない。

 どうやったら抜けられる。この絶望に近い迷路を攻略するためには、どうすればいい。何を信じればいい。見ているものが全てとは言えない。考えろ、何かを見つけなければならない。

 

「……………………え?」

 

 暫くして、光も何も現れなくなった。周りを見ても、光も何もなくなった。また、暗闇に戻った。道標も何もない絶望的な状況。どうしようもできない。もう、お手上げかと思われたその瞬間、爛の耳にある声が届く。

 

『爛!!』

 

 六花の声だ。全体に広がるように伝わった声は、何処からしているのか全く分からない。

 

「六花!? 何処だ、何処にいるんだ!」

 

 爛の声が響くものの、六花からの返答は来ない。ただの幻聴なのか。爛には、それが幻聴ではないと気づいた。

 次の声はないのかと、爛は心配なりながら待つ。

 

『爛、どうすればいいの……?』

 

 響いてきている。六花の疑問が爛の耳に届いている。それが、心の声でもあると気づいた。

 実際には言っていない。暴走した爛を戻そうと、必死に声を出している。

 だがその中で、どうすれば爛が戻ってくるのかという疑問があった。心の中で思いながらも、声を出していたのだ。その声ではなく、心の中の声が、この精神世界に伝わったのだ。

 それに答えることは、爛にはできない。答える術ではなく、答えを伝える方法がないのだ。

 

「気持ちを……伝える……?」

 

 六花の気持ちは、不安でもありながら、希望があった。爛が戻ってきてほしいという願いでもあるものがあったのだ。爛の気持ちは今、どう言うものなのだろうか。

 

「……不安……なのか。俺は、六花を傷つけてしまうのではないかという不安があるのか。そうか……」

 

 ただ、このままでは彼女を心配させるだけだ。結局は何も変わらない。何か、この状況を引っくり返すようなものがあれば、何とか出来るのだが。

 

「………あれは」

 

 片隅に咲くように一輪の花が咲いていた。白い花、とても美しく、心を穏やかにし、誰かに贈るにはピッタリな花。それを、爛は知っている。その花の名前を。

 

「オオアマナか……」

 

 オオアマナという白い花は、爛がよく知っている花だった。爛が思い出したのは、沙耶香が死んだと思っていたときに、彼女の墓参りに持ってきた花だったのだ。

 

「………………………」

 

 こんなにも綺麗な花を、大切に人にでも渡せたら、とても喜ばれそうなものだと重いながら、オオアマナを見つめた。

 ふと、風が吹いた。オオアマナも風に煽られ、花弁が舞っていく。

 

「あ………」

 

 オオアマナの花弁を取ろうとしたときに爛は止まった。オオアマナの花弁が道標のようにならんで落ちていることに気づいた。

 暗闇の中で真っ白なオオアマナはとても分かりやすい目印だ。

 

「こっちにいってみるか……」

 

 落ちたオオアマナの花弁を道標に歩き出す爛は、その道中に、六花の心の声をもう一度聞く。

 

『僕は、爛と一緒にいたい………!!』

 

 その心の声に呼応したのか、光が見えた。それは、オオアマナの花弁が落ちている先だった。

 道標なのは間違いないはずだ。それを信じた爛は、走り出した。

 爛の後ろでは、彼を見守るように、後ろに落ちていたオオアマナの花弁が遥か高く舞い上がっていく。

 

(俺を信じてくれ……! 六花!)

 

 一心不乱に走り出している爛に声にするということはなく、ただ六花を信じて走り出すことだけにあった。心の中で、六花の無事を願いながらも、信じてほしいという心があった。

 

(諦めるな! 六花!!)

 

 光が弱くなっているのが見えた。六花の心の声が弱くなっているのに気づいたのだ。

 彼女を奮い立たせるために、爛は心の中での声援を送った。

 

(諦めるな! まだ、希望はある!)

 

 爛の思っている通りだ。希望を見つけることができたのだ。爛は、この状況を何とかする方法を得た。

 

(俺に、賭けてくれ! 六花!!)

 

 後はそれを、彼女たちに信じてもらうだけ。それさえあれば、何とか行ける。

 

「ここは………」

 

 オオアマナの花が咲き乱れている場所についた。そこにいたのは、自分ではなく、沙耶香だった。

 

「爛兄さん……」

「沙耶香……」

 

 オオアマナの花が咲き乱れている中心の場所に、沙耶香は立ち尽くしていた。

 爛に気づいた沙耶香は、視線を向けて、笑みを浮かべた。

 

「爛兄さんは今、暴走しているよ」

「知ってる。何とかしないといけないんだ」

 

 分かりきったことを言った沙耶香は「知ってるんだね」と苦笑した。爛は、暴走している自分を止めようとして、歩き出そうとする。

 

「待って」

「何だ?」

 

 そんな爛を、沙耶香は呼び止めた。振り返った爛は、沙耶香の顔を見た。

 

「私、止める方法を知ってるよ」

「知っているのか?」

 

 真剣な表情で伝えられたことは、爛に関わるものだった。この暴走を止められる方法を知っているのであれば、それは爛自身も知っておくべきものなのだ。

 

「うん。教えても……いいよ」

 

 都合のいいような話になっているが、今は沙耶香を信じるしかない。

 

「教えてくれないか? 沙耶香、その方法を」

「いいよ……でも、暴走が止まったら、この世界じゃなくて現実で、私が戻ってきたことを歓迎してくれる?」

 

 沙耶香は爛の頼みに快く頷いた。その代わりに、現実の方での沙耶香を受け入れてほしいのが、精神世界での沙耶香の願いだった。

 だが、それは爛も望んでいること、頷いた爛を見て、沙耶香は涙を一筋だけ流した。

 

「うん、止める方法を教えるね。止める方法は───」

 

 自分を受け入れ、自分のことを思ってくれている人たちの想いを受け止めること。

 爛には少しだけできなかったことだった。後少しのところだったのだ。心を穏やかにし、自然のように豊かにすることで、しっかりと受け止めることができると、沙耶香は言った。

 爛は、深呼吸をした。先ずは、外側を落ち着かせるために。そして次に、瞳を閉じ、感覚を鋭くする。今感じ得ることができる全てを感じ、受け入れるのだ。

 

「うん、もういいよ。これで、暴走は収まった。六花ちゃんのお陰でもあるけどね。」

 

 沙耶香の声をを聞くと、爛は瞳を開ける。

 沙耶香は既に、足元が光っていた。沙耶香は、六花のお陰で止めることができたと言った。

 

「私は、爛兄さんがこうなったときのためにあったもの。ペンダントがこの効果を持っていたの」

 

 沙耶香が渡してくれたペンダントには、精神世界に潜り込むことのできる沙耶香の特殊な魔力が込められたペンダントなのだ。

 彼女からそれをもらったとき、絶対に無くさないでという言葉があったのを、爛は思い出した。

 

「ねぇ、爛兄さん」

 

 沙耶香が何かを渡してきた。

 爛はそれを受けとるが、首をかしげる。

 

「現実の方にも影響があるから、現実の方で確認してね!」

 

 足元の光が強くなり、爛は目を守るために、手で覆った。

 光が収まり、目を開けると、沙耶香はいなくなり、オオアマナの花の色は赤くなった。

 

「───綺麗だな、沙耶香」

 

 誰もいない場所で、爛は呟いた。言ったことが、返ってくるわけではない。だが、爛の耳には、しっかりと沙耶香の声が聞こえた。

 

 ───そうだね。爛兄さん……いや、にぃに。

 

 爛は光を受け入れた。ここから帰ることができる。爛の手には、沙耶香からもらったものを持って、精神世界から、爛本人の自我が戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爛…………?」

 

 爛の動きがピタリと止まったまま、動くことはなかった。六花たちが声をかけても、何をしても反応を示さない。

 

「ッ!?」

 

 爛から光が放たれる。六花たちは光から目を背け、警戒をしながらも、その光を見ていた。

 

「ぁ…………六………花……」

 

 爛の声が聞こえた。爛の体は膝から崩れ落ちて倒れた。

 

「爛!!」

 

 六花がすぐに駆け寄る。爛の脈を測ると、爛はまだ生きている。爛は、気絶していた。

 

「……良かっ………た……」

 

 六花は安心をしたのか、張り積めていた糸が緩んだのか。そのまま眠ってしまった。

 

「全く……二人して……」

 

 颯真は笑みを浮かべ、沙耶香の方を見る。

 

「あれは………花?」

 

 珠雫が沙耶香の周りに咲いている白い花に気付く。

 

「オオアマナね」

 

 聡美が花の名前を言った。オオアマナの花が爛と六花の周りにも咲き乱れていた。

 

「綺麗ですね……オオアマナ」

 

 総司がオオアマナの花をまじまじと見ている。

 

「……爛、傷が多いな。沙耶香も多い。iPS再生槽(カプセル)に入れよう」

 

 颯真の言葉に頷いた一輝たちは爛と六花、沙耶香を抱える。

 

「これは………?」

 

 ジャンヌが、爛が持っている箱の存在に気付く。それと同時に、察した彼女は箱の中身を空けずに、持っていく。

 黒乃に事を話した颯真たちは、爛、沙耶香をiPS再生槽(カプセル)にて治療。治療後は三人を同じ部屋に入れて、目覚めるまで待つということになった。

 眠っている爛のとなりには、箱が置かれてあった。

 暁学園の襲撃は失敗というよりも、爛の暴走が起きたことにより、参加が認められ、破軍学園に被害はなかったものの、赤い雨、そして、破軍学園の裏にあるところに多くの木が倒れ、オオアマナが咲いていたということは、メディアに報道された。

 未だに起きない爛のところに飾られていた花は、白い花───オオアマナ。又の名を

 

 『スターオブベツレヘム』

 

 

 ーーー新章・第76話へーーー




新章に突入。詳しいことは活動報告を確認すると分かります。

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「紹介するよ、一番下の妹、沙耶香だ」

「えぇ、恩を仇で返させていただきますよ」

「望むところや、黒鉄」

「巴は何処にいる……! 答えろ!」

「俺からすれば、お前もペテンだよ。黒鉄王馬」

「僕は、君とは違う。一緒にしてほしくない」


















「爛を煽るのだけは止めといた方がいい。これは、嘘ではなく、お前らの命を考えた場合だ。命知らずであればやればいい。お前らは生きることはできなくなる。一度、お前らに恨みは持ってるからな、あいつ。






 俺の未来視(ビジョン)は絶対に起こる。考えろよ。親切に教えてやってんだ。でなきゃ、面白くない」

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