落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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遅れていてすまない。
FGOのコラボイベントが終わり、虚月館が終わり、復刻が始まり~で忙しかったです。後、リアルでもこのあと忙しくなるので投稿が遅くなっていく……


第72話~爛と巴、積み上げられた復讐心~

 爛が辿り着いた先、それは───

 

「やっぱり、そうか」

 

 破軍学園の裏にある山の中。標的は、そこにいた。

 

「会いたかった。君に───」

 

 標的は、女。傷つけることを好まない相手だが、今は違う。

 

「お前……いや、貴様が───」

 

 爛はあの時、謎の人物が襲いかかったとき、あれは沙耶香なのだと、否定をしながらも気づいていた。

 それに続き、沙耶香を操っている正体らしきものを掴んでいた。

 体型は女性。魔力を隠せるほどの上級者、扱いもAランクと同じかそれ以上。

 ステラは手も足も出ずに負けるだろう。目の前にいる彼女は、最悪自分よりも強い。

 爛の額からは冷や汗が流れ出ていた。気を保ちながら集中していないと、彼女の姿を見失ってしまうほどに、爛は精神的にも追い詰められている。

 

(……だからなんだって言うんだ。こいつは沙耶香を操っている奴で間違いない。

 集中していないと見つけられない───)

 

 爛の目からは光が失われていく。

 今、必要のない機能の全てを削ぎ落とし、目の前の標的に全てを集中させている。

 

「今ここで───」

 

 爛が踏み込もうとした。その瞬間───

 

「……………ッ!?」

 

 目の前にいたはずの女性は消えていた。

 爛は今まで以上に集中させる。血眼になって彼女を探す。今ここでやらなければ、奴を倒さないと。沙耶香が帰ってこない。

 

「─────爛!」

「ッ!? 六……花……?」

 

 隣から声をかけられる。居ないはずの六花が、爛を呼んでいた。

 その声で我に返った爛は、六花を見詰める。冷や汗を流しながら、警戒網を張り巡らし、奴を見つけるために、警戒を解くことはしない。だが、六花の相手をしなくてはならない。

 奴は自分の索敵から逃れ、今は隠れたのだろう。肩で息をしている爛を見て、六花は不安な表情を浮かべる。

 

「爛、大丈夫……?」

「大丈夫だ……大丈夫……心配しないでくれ……」

 

 肩で息をしながらも、不安に刈られる六花を安心させるために、爛は笑みを見せる。

 

「でも、そんなに疲れているようじゃ……」

「平気だ。大丈夫、俺は普通だ……」

 

 すぐにいつもの表情へと戻っていく。

 しかし、六花の不安な表情は変わらない。それを見た爛はため息をつく。

 

「不安か?」

「……うん」

 

 六花は爛が尋ねたことに頷き、顔を伏せる。爛は苦笑を浮かばせると、六花の頭を撫でる。

 

「大丈夫、俺は帰ってくるから」

 

 渋々頷いた様子を見せた六花を見て、爛は六花を置いて先程までいた女を、魔力感知を頼りに走り出す。

 

「ごめんね、爛。約束、破ることになって───」

 

 六花は、爛が持っているはずの神領の扉を開けるための鍵を使って、神領の扉を開け放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───居た」

 

 魔力を感知しながら、止まったところまで走ってきたは良いものの、やはり彼女は居ない。

 集中をし、無意識を無くす。先程は急なことだったが、今では冷静に対処ができている。問題なく彼女を見つけることに成功した。

 

「見つかっちゃった♪」

 

 見つけたことに気づいたのか、彼女は笑みを浮かべて爛の目の前に現れる。

 

「君に会いたかった。さっきは彼女が出てこようとしたから、すぐに逃げさせてもらったの」

 

 敵対する意思はないことを示しながら、爛の隣に立つ。しかし、爛はそれを信じることができなかった。沙耶香を操っているのは間違いなく彼女なのだと。そう実感することができたから。あの時に感じた魔力と一緒なのだ。

 爛にとって見れば、大切な妹を操っている敵。倒さなければならない存在でもある。

 

「貴様は、沙耶香を操っていたな……?」

 

 爛は眉間にシワを寄せ、彼女を串刺しにするかのように鋭い視線をぶつける。

 しかし、彼女はそれを何もなかったかのように爛にすり寄るように、動かない爛の耳元で囁く。

 

「えぇ、そう。私が彼女を操っていた。……もう、君は私の正体を死っているはず」

 

 そう。彼女の言う通り、爛は彼女の正体を知っている。

 

「貴様が、上織 巴(かみおり ともえ)か」

「正解♪」

 

 当ててほしかったことが叶ったかのように満面の笑顔で巴と呼ばれた女性は頷いた。

 

「ねぇ……私のものになって?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、爛の中で何かが切れる。固有霊装(デバイス)を顕現させ、巴を切り払おうとする。

 

「───ハァァァ!」

 

 答えを返さずに溢れでてきた爛の思いが爆発したかのように、巴に追撃をする。

 必死の形相で今ここで殺さなければ気がすまないと言うほどに、爛は怒りの表情を浮かばせていた。

 

「そんなにも、彼女が大切なの?」

 

 爛の霊装(デバイス)の一刀を物ともせずに避け、爛がそれほどまでに沙耶香が大切なことに驚きの表情を浮かべるものの、彼女にとってはそれが好都合。

 爛の此方のものにするには、彼女を利用してしまえばいいと、すぐに巴は閃くのだ。

 

「じゃあ、交渉。彼女を返す代わりに、君が私のところに来て。そうすれば、彼女も君も傷つかずに済むから」

「………ッ!」

 

 爛は交渉の内容を聞くに、彼女を斬ろうと地を駆けようとする。

 だが、すぐに斬らせることを許す巴でもない。既に対処はされている。

 爛でさえ動くことができない鎖のなかに閉じ込めるだけですむ。

 

「クソ……ッ!」

 

 動くことはできない。体に絡められた鎖は、爛を封じ込め、力を発現することすらできない。

 今、優位に立っているのは巴なのだ。一つの言葉で沙耶香の首が飛ぶ。爛を斬ることはないだろう。彼女が求めているのは自分だ。飛ばすとしたら妹である沙耶香の首なのだ。

 爛は今、沙耶香の命を握っている。

 

「分かると思うけど、君の答え方ひとつで彼女の首が飛ぶ。今、君が思っている通りだよ」

「────────」

 

 彼女のとなりに、沙耶香が現れた。それも、暁学園の者たちを連れて。

 

「……無様だな」

 

 意識を刈り取ったはずの王馬が、鎖で縛られている爛を見て発した一言だった。

 

「おやおや、捕まってしまったのですかぁ?」

 

 道化の男が不愉快な声で爛に尋ねた。いや、見てもわかることを聞いてきたのだ。

 

 [黙レ……]

 

 全員が聞こえたこの声は、巴たちを睨み付けている爛から発されたものだ。

 しかし、いつもの爛とは違う。黒い影が爛を包む。

 

「ッ!」

 

 全員が目を剥く。それは、負の感情に囚われた爛が自我を失い、暴走を始めていくものだった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 声にすら叫びにすらならないものが、響き渡る。目の前にいるのは爛ではなく、ナニカだった。

 だがそれはゆっくりと、沙耶香に向かって進みつつあった。少しずつ歩み寄るような、寄り添うような歩みを見せた。

 

「────────」

 

 言葉がでない。誰も、発することができない。ナニカは睨むわけでもなく何かを思うわけでもなく、沙耶香に向かって進むだけだった。しかし、ここで沙耶香を失うことは、巴たちにとって見れば、不都合でしかない。爛を釣るための大切な存在。交渉する切り札になる彼女を失うわけにはいかないのだ。

 それは、全員が脳裏に浮かび上がったことだった。何としても、目の前にいるナニカを止めなくてはならない。歩みを止め、これから逃げなければならない。王馬でさえ、生命本能が訴えていた。

 

 ───これから逃げろ。

 

 さもなくば死ぬぞ。と、訴えているのだ。根底からの恐怖、圧倒的な存在。逃げろと駆り立てる生命本能が感じ取っている恐怖が、巴たちを動けなくさせている。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》……ッ!」

 

 王馬から放たれた伐刀絶技(ノウブルアーツ)はナニカを真一文字に斬ろうと横凪ぎに払われた。

 しかし、それは無意味となる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■」

 

 ナニカの力なのか、いや、そうとしか言えないだろう。伐刀絶技(ノウブルアーツ)を意図も容易く弾き返す。

 そのままの力が倍増され、圧倒的な風の力で王馬たちに迫っていく。

 

「《完全反射(トータルリフレクト)》!」

 

 少女が前に出て、弾き返した王馬の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を同じように弾き返した。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 又もや、叫びにすらならないものをあげ、今度は弾き返すのではなく、取り込もうとする。

 元々が強大でそれを倍増させた技なのにも関わらず、何事も無かったかのように取り込む。

 

「なんだと───!」

 

 驚嘆の声があげられる。想像もしていないことを平然とやってのけるこれは、怪物だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■────」

「ッ!?」

 

 声が小さくなっている。黒い影が灰色に変わりつつあった。

 感じ取れる魔力も微弱になっていく。このタイミングで倒せなければ、何が起きるか分からないが、今、この影を倒すことができるのは今だけだろう。ならば、全力をぶつけるのみ!

 

「■■■■■■……」

 

 影が小さくなっていく。ここから消えようとしているのだろうか。こちらを攻撃もせずに沙耶香へと近寄ることも止め、小さくなっていく。

 

「───そこだ……!」

 

 王馬が突っ掛ける。速い、伐刀者(ブレイザー)からしても、とてつもない速さだ。

 弱まっている最中、追撃を仕掛ける王馬に、一筋の矢が貫く。

 

「ガッ……!?」

 

 とてつもない威力。鍛え上げている体でさえ、簡単に貫かれる。貫かれた場所は、人間が守らなければならない場所である、心臓。常人ならば貫かれて即死だ。

 貫かれた王馬は矢のスピードに吸われるように吹き飛ばされていく。既に衝撃を防ぐ術は奪われている。ほぼ死に至っている体を、どうこうする術は持つことができないのだ。

 風穴が開けられている王馬は木へと叩きつけられ、貫いた矢は消えていく。

 

「■■■■■───!!!」

 

 叫ぶ。何も伝わらないものを伝えるかのように、ぶつけていく。

 黒い影から赤い刃が切り裂く。

 

「…………………!」

 

 次の瞬間、黒い影から赤い閃光が現れた途端、道化の男、伐刀絶技(ノウブルアーツ)を弾き返すことができる反射使い(リフレクター)の少女、巴を吹き飛ばす。

 

「───────────」

 

 沙耶香は立ち尽くした。目の前にいる存在が、自分の兄だと信じることができなかったから。操っている巴が手放したことで、沙耶香は自我を取り戻したのだ。

 赤い閃光の正体は爛だった。しかし、爛は完全に自分の自我を失っている。根底の思いを実行するために力を振るうだけの存在になったのだ。

 大切な妹である沙耶香を守るだけの狂戦士と化したのだ。

 

「爛……兄さん……?」

 

 沙耶香は、爛の姿に目を疑った。肌は焦げた茶色になり、着ていた服は真っ黒で違うものになっていた。持っている刀は赤く、血を帯びたような色をしていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■───────!!!!」

 

 そして、激昂の獣が天に吼えた。

 

 

 ーーー第73話へーーー


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