今回は短めでござる。
「─────────」
相対する敵は多く、また一人で戦う。
実力も高く、注意が分散する以上、不意打ちには気を付けなければならない。
真っ直ぐ突っ込んでくる敵だとは思ってもいない。だがしかし、爛にとって、赤い刃を向けることはしたくないのだ。
赤い刃は自分を引き換えにするのと同じ。自分が封じ込めてきたものを武器にすること。あの時のように、狂いたくはない。
けと───
「刃引きをしておく。だから───」
けど───
「沙耶香を返せ」
沙耶香を奪ったのだけは───
「……それはできませんねぇ」
許すことができない。
「そうか。……なら」
刻雨を構え、封じ込めている殺気を解放する。
「奪い返すまでだ」
もう、止めることができない。
爛は地を蹴り、一気に駆け抜ける。
「ッ!」
「逃げれると思うな」
とても低く、優しさを捨てた爛が放った一言と共に、爛は一つの斬撃を飛ばす。
真っ直ぐ進んでいくその斬撃は今まで放ってきた斬撃とは違い、どす黒く、何かを含んでいるかのような斬撃だった。
「ッッ────!」
「────────」
長髪の男が斬撃を止める。
爛は動じることはなく、雷を纏い突き進む。
「《
爛の異能である雷は縮地を倍加し、加速する。
「チッ─────!」
何かを感じた。その瞬間、爛の足は石に引っ掛かる。
前のめりに倒れるのを、左手を前にだし、基点とすることで足を前に出し、対応する。
(これは、何か働いてるな───)
あり得ないエラーに爛は何かを勘づき始める。
目の前に、刀を持つ沙耶香が居た。
「────────」
「《
刀を振るう。だがその刃は届かないが、爛は既に気づいていた。
「すまない。沙耶香────」
爛の刻雨が青い雷光を放つ。天下無双の剣を振るい、王として名を馳せた英雄───
「《
沙耶香の刀の前で同じように振るう。爛の刻雨が何かにぶつかる。
しかし、何かは爛の技には敵わず、糸が簡単に切れていくように、沙耶香の刀は切れた。
「ッ──────!」
切り返し、振り上げた刻雨は沙耶香の体を深々と切り裂き、意識を奪う。
(あの男は逃がせないな。しばらくそこで眠っていてくれ)
爛は長髪の男と対峙する。
本当ならばあの
「───
黒鉄王馬、黒鉄家の長男。六花やステラと同じくAランクの騎士。
強さは折り紙つき。一輝曰く、旅に出たとしか聞かされていないが、その強さが今となっては分からない。
「ッッ!」
動かなければ意味はない。逃げられてしまう。
それだけはさせない。
「《
風が圧縮を始め、刃となって爛の首元に牙を向く。
「その程度か?」
爛の瞳が本来の力で牙を向く。
「敵の魂を狩り尽くせ」
闇の鎌となり、圧縮された風を一閃する。
「《
圧縮された風を断ち切り、王馬に刃を向ける。
王馬は真正面からそれを受けて立ち、刀で受け止める。
「チッ───!!」
刃を引き、一気に攻勢に出る。
「フッ!」
刻雨を振るい、首を刈ろうとする。
しかし、王馬はこの程度で負けるような男ではない。やり返す男だ。それを、爛は知っている。
「ハァ!」
刻雨は弾かれる。手元には何もない。しかし、爛はそれでも退くことはしない。まだ手の内が残っているからだ。
右手を握りしめると同時に、爛の中から魔力が波動のように広がった。
「──────ッ!!」
王馬は目を見開く。
右手が黄金に輝き、その光は剣へと変わっていく。
だが、こちらが早い。怖じ気づくことなく、王馬はこのまま爛の首を刈ろうとする。
しかし、それはできなかった。
「甘いっ!」
魔力を感じることはできなかった。
左手に握られていたのは、黒く輝く剣だった。
「星の聖剣よ、哀れな子羊に輝きを!」
爛は叫んだ。その声に反応するように、黄金に輝く星の聖剣は光を纏う。
「─────!」
王馬は後ろに下がる。何が来るかは分かったのだろう。しかし、その距離ではまだ爛の射程圏内!
振るわれる聖剣は魔力の波動を放つ!
「《
逃げることも、防ぐことも不可能な状態で、手札を切った爛は、更に追い討ちを行う。
その追い討ちは、既に放たれていた。
矢は蒼天の空から落ちてくる。
確実に獲物を射抜く
「自らが放つことなく、
夜じゃないから射抜くのには時間がかかるだろうけど……。
そんなことを思いつつ、爛は空を見上げる。それに呼応するかのように何処かで何かが光った。
「さて、追うとするか」
王馬は意識が朦朧とするなか、爛の姿を見ていた。何も敵わなかった。力の差は歴然だった。年齢に差があると言うのに、彼はそれを覆した。いったいどれほど、彼は自分を追い詰めたのか。それが、彼の疑問となった。
「……といっても、建物の中か。まぁ、あいつを探しても、見つけることはできない。残念だったな、お前たちは射抜かれて終わりだ。なのに、俺を止めようとする。
……いや、殺しに来たと言う方が正しいか」
爛は微笑む。
思っていた通りだと。やはり、仕組んでいたのだと、気づくことができたから。
爛は走り出す。戦いへと誘う彼は、人のためではなく、己のために戦いに走った。
ーーー第72話へーーー