落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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待たせたな!
今回は短めでござる。


第71話~矢を放つは星座~

「─────────」

 

 相対する敵は多く、また一人で戦う。

 実力も高く、注意が分散する以上、不意打ちには気を付けなければならない。

 真っ直ぐ突っ込んでくる敵だとは思ってもいない。だがしかし、爛にとって、赤い刃を向けることはしたくないのだ。

 赤い刃は自分を引き換えにするのと同じ。自分が封じ込めてきたものを武器にすること。あの時のように、狂いたくはない。

 

 けと───

 

「刃引きをしておく。だから───」

 

 けど───

 

「沙耶香を返せ」

 

 沙耶香を奪ったのだけは───

 

「……それはできませんねぇ」

 

 許すことができない。

 

「そうか。……なら」

 

 刻雨を構え、封じ込めている殺気を解放する。

 

「奪い返すまでだ」

 

 もう、止めることができない。

 爛は地を蹴り、一気に駆け抜ける。

 

「ッ!」

 

 道化(ピエロ)の男は何も変わらないが、何かに気づいたのか。一気に駆け抜けてくる爛から逃れようとする。

 

「逃げれると思うな」

 

 とても低く、優しさを捨てた爛が放った一言と共に、爛は一つの斬撃を飛ばす。

 真っ直ぐ進んでいくその斬撃は今まで放ってきた斬撃とは違い、どす黒く、何かを含んでいるかのような斬撃だった。

 

「ッッ────!」

「────────」

 

 長髪の男が斬撃を止める。

 爛は動じることはなく、雷を纏い突き進む。

 

「《雷足(らいそく)》」

 

 爛の異能である雷は縮地を倍加し、加速する。

 

「チッ─────!」

 

 何かを感じた。その瞬間、爛の足は石に引っ掛かる。

 前のめりに倒れるのを、左手を前にだし、基点とすることで足を前に出し、対応する。

 

(これは、何か働いてるな───)

 

 あり得ないエラーに爛は何かを勘づき始める。

 目の前に、刀を持つ沙耶香が居た。

 

「────────」

「《幻想斬(げんそうざん)》!!」

 

 刀を振るう。だがその刃は届かないが、爛は既に気づいていた。

 

「すまない。沙耶香────」

 

 爛の刻雨が青い雷光を放つ。天下無双の剣を振るい、王として名を馳せた英雄───

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》」

 

 沙耶香の刀の前で同じように振るう。爛の刻雨が何かにぶつかる。

 しかし、何かは爛の技には敵わず、糸が簡単に切れていくように、沙耶香の刀は切れた。

 

「ッ──────!」

 

 切り返し、振り上げた刻雨は沙耶香の体を深々と切り裂き、意識を奪う。

 

(あの男は逃がせないな。しばらくそこで眠っていてくれ)

 

 爛は長髪の男と対峙する。

 本当ならばあの道化(ピエロ)を追い、身ぐるみを切り裂いてやりたいほどだが、目の前の男は追わせてくれなさそうだ。

 

「───黒鉄王馬(くろがねおうま)か」

 

 黒鉄王馬、黒鉄家の長男。六花やステラと同じくAランクの騎士。

 強さは折り紙つき。一輝曰く、旅に出たとしか聞かされていないが、その強さが今となっては分からない。

 

「ッッ!」

 

 動かなければ意味はない。逃げられてしまう。

 それだけはさせない。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》」

 

 風が圧縮を始め、刃となって爛の首元に牙を向く。

 

「その程度か?」

 

 爛の瞳が本来の力で牙を向く。

 

「敵の魂を狩り尽くせ」

 

 闇の鎌となり、圧縮された風を一閃する。

 

「《十六夜の絶対覇者(ツクヨミ)》」

 

 圧縮された風を断ち切り、王馬に刃を向ける。

 王馬は真正面からそれを受けて立ち、刀で受け止める。

 

「チッ───!!」

 

 刃を引き、一気に攻勢に出る。

 

「フッ!」

 

 刻雨を振るい、首を刈ろうとする。

 しかし、王馬はこの程度で負けるような男ではない。やり返す男だ。それを、爛は知っている。

 

「ハァ!」

 

 刻雨は弾かれる。手元には何もない。しかし、爛はそれでも退くことはしない。まだ手の内が残っているからだ。

 右手を握りしめると同時に、爛の中から魔力が波動のように広がった。

 

「──────ッ!!」

 

 王馬は目を見開く。

 右手が黄金に輝き、その光は剣へと変わっていく。

 だが、こちらが早い。怖じ気づくことなく、王馬はこのまま爛の首を刈ろうとする。

 しかし、それはできなかった。

 

「甘いっ!」

 

 魔力を感じることはできなかった。

 左手に握られていたのは、黒く輝く剣だった。

 

「星の聖剣よ、哀れな子羊に輝きを!」

 

 爛は叫んだ。その声に反応するように、黄金に輝く星の聖剣は光を纏う。

 

「─────!」

 

 王馬は後ろに下がる。何が来るかは分かったのだろう。しかし、その距離ではまだ爛の射程圏内!

 振るわれる聖剣は魔力の波動を放つ!

 

「《未来を切り開く最強の聖剣(エクスカリバー)》ァァァァァ!」

 

 逃げることも、防ぐことも不可能な状態で、手札を切った爛は、更に追い討ちを行う。

 その追い討ちは、既に放たれていた。

 矢は蒼天の空から落ちてくる。

 確実に獲物を射抜く弓兵(アーチャー)の理想。掴めてすらいない者たちすら射抜く。

 

「自らが放つことなく、宇宙(ソラ)から放つ。複数の矢ではなく、一本ずつの矢で、お前たちを射抜かせてもらう」

 

 夜じゃないから射抜くのには時間がかかるだろうけど……。

 そんなことを思いつつ、爛は空を見上げる。それに呼応するかのように何処かで何かが光った。

 

「さて、追うとするか」

 

 王馬は意識が朦朧とするなか、爛の姿を見ていた。何も敵わなかった。力の差は歴然だった。年齢に差があると言うのに、彼はそれを覆した。いったいどれほど、彼は自分を追い詰めたのか。それが、彼の疑問となった。

 

「……といっても、建物の中か。まぁ、あいつを探しても、見つけることはできない。残念だったな、お前たちは射抜かれて終わりだ。なのに、俺を止めようとする。

 ……いや、殺しに来たと言う方が正しいか」

 

 爛は微笑む。

 思っていた通りだと。やはり、仕組んでいたのだと、気づくことができたから。

 爛は走り出す。戦いへと誘う彼は、人のためではなく、己のために戦いに走った。

 

 

 ーーー第72話へーーー


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