落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第66話〜神の技〜

 一枚チップを出す。

 五枚のカードが配られ、それぞれカードを手に取る。

 

「二枚チェンジだ」

 

 男がチップを一枚出し、二枚捨てる。

 それを確認した少年は、二枚カードを配る。

 

「───────────」

 

 爛は手札を見る。

 八が二枚。この時点でワンペアは確実。

 だが他が六、十、二を一枚ずつしかない。

 賭けで三枚を交換するか、それともどれか一つを残し交換するか、二つ残して交換するのか。

 どの可能性にしろ、二つ残して交換はないだろう。

 

「三枚交換」

 

 爛は三枚手札から捨てる。

 同じように三枚配られる。

 手札は、八が二枚、五が二枚、七が一枚。

 それを見た爛は男を見る。

 

「お〜、怖い怖い。その目を見ると、何かいい手が揃ったのかな?」

 

 男はそう言いつつ、自身の手札を見ていく。

 

「そうだな。ここは様子見で、コールだ」

 

 チップを一枚出す。

 

「同じくコール」

 

 爛もチップを一枚出す。

 

 降りない限り、チップは三枚も消費するのか。これはよく考えなければ意味が無いぞ、爛!

 

 颯真はチップの数を見てそう思った。

 六枚手元にあったチップも、今は三枚になっている。

 

「いいだろう。勝負」

 

 男は手札を表の向きにして、自分の手で覆った。

 

「八と五のツーペア」

 

 爛はそう言って、手札を表にしながら、テーブルの上に出した。

 

「お〜確かにいい手だが。残念だ」

 

 男はニヤけた顔で手札を広げていく。

 そこに見えるのは、ジャックとクイーンのツーペア。

 

「私も同じくツーペアだ。だが、私の方がカードが強いな。私の勝ちのようだ」

 

 男はそう言い、チップを取っていく。

 爛の残りチップは三枚。

 次のゲームに負ければ爛の魂は取られる。

 

「NEXT,GAME」

 

 爛はそう言って、チップを出す。

 

「これがラストゲームにならないことを祈るがね」

 

 男はそう言いながらチップを出す。

 それを確認した少年は五枚二人に配る。

 

 ククク、甘いな。少年よ。カードを配っている少年も、見ている全員も、全て私の仲間。イカサマは既に始まっていたのだよ。

 

 男はほくそ笑んだ。全て思い通りに行っているような笑みだったのだ。

 だが爛は全く動じない。寧ろ、のんびりしている。

 

「? 何をしている。さっさと手札を確認しろ」

 

 男は爛にそう言った。

 だが、爛は手札を確認しない。

 

「確認しなくていい。このまま全てのカードを交換だ」

 

 チップを一枚出し、驚くようなことを言い放つ。

 手札の中身を確認もせずに、全てのカードを交換する。それがどれほど危険なものなのか。

 

「ん? 聞き間違いかな? さっき、このままでいいと聞こえたのだが」

 

 男はもう一度尋ねる。

 

「同じことを言わせるな。確認しなくていい。このまま全てのカードを交換だ。そうと言ったはずだが?」

 

 爛はそれでも変わらない。

 自信のある目でそう言った。

 

「早く変えろ」

 

 少年を急かすようにそう言うと、少年は急いで五枚を配る。

 

「何故そんなことが出来る!?自分の魂がかかっていると言うのに!」

「ところで颯真、六花頼みたいことがある」

 

 男は叫びながら言うが、爛は気にもせずに颯真と六花に話をする。

 

「あぁ、何だ?」

「お前達の魂を賭けに出す。俺の魂もな」

 

 爛はそう言い放った。

 だが、爛の意図が分かった二人は頷いて、爛に全て任せることにした。

 

「ついでにレイズで俺の魂のチップを上乗せ、そして六花と颯真の魂のチップ十枚を賭けに出す!」

 

 爛はそう言うと、十枚のチップと自分のチップを前に出す。

 

「なっ──────!」

 

 男は驚く。

 するべきではないことを口にしたからだ。

 

「どうした?早くしろ。手札をチェンジするじゃないのか?それとも、このままやるのか?」

 

 余裕の笑みで爛は挑発をする。

 その笑みはハッタリとしか言えないだろう。

 手札も見ていないのに、余裕な笑みを浮かべていることは出来ないはずだ。

 

「く、いいだろう。その挑発に乗ってやる!三枚チェンジ!」

 

 三枚を捨て、配られた三枚を見る。

 手札はキング四枚、クイーンが一枚のフォーカード。エースではなかったのが残念と言ったところだ。

 

「そして、レイズ!私も同じように全てを賭けよう!」

 

 男はチップ全てを前に出す。

 その数は二十五枚。

 爛の方がチップの量が足りない。

 

「たったのそれだけか」

 

 爛はそう吐き捨てると、新たなチップを出す。

 

「──────────!」

「俺の家族全員の魂を賭ける!」

 

 爛はそう言うと、家族全員の名前を紙に書き始める。

 

「おい!良いのか爛!?ここにいない人の魂なんて……」

「俺は、それを賭けても負けないという自信がある。手札は伏せてあるが、俺には手に取るように分かる。貴様の手札もな」

 

 爛は椅子の背にもたれ掛かり、言っていることを変えようとする気はないように見えた。

 

「カードの中身が分かるだと?ハッタリは止せ!」

「ハッタリでもなんでもない。貴様の言うハッタリはイカサマのことかな?」

「────────────!」

 

 男はテーブルを叩きながらそう言うが、爛はような笑みを浮かべて、肩をすくめながらそう言うと、男は何も言えなくなる。

 

「んじゃあ、さっさと終わらせようか。

 俺はコールだ」

 

 爛はそう言いながら、手札を表にするが、自らの手で隠す。

 

「爛、そのカードを信じていいんだな?」

「────────────」

 

 颯真はそう尋ねるが、爛は答えない。

 

「俺と六花は信じてるからな」

 

 颯真はそれだけを言うと、六花のそばに行く。

 

「いいだろう!コールだ!」

 

 男も手札を見せれるようにする。

 

「私のカードは、キングのフォーカードだ!」

 

 そう言いながら、男は手札を見せていく。

 それを見た瞬間、爛は体を震わせる。

 

「爛?」

 

 体の震えを抑えるように体をうずくまる爛を見た颯真は、恐る恐る肩に手をかけようとする。

 

「ア、アハハハハハハハハ!」

 

 爛は狂ったような笑みをする。

 

「キングのフォーカードォ?確かにいい手だな。だが残念!」

 

 爛は手札を広げる。

 そこに写るのは、エース四枚にジョーカーが一枚。この役は。

 

「エース四枚にジョーカーが一枚!ファイブカードだ!」

 

 爛は大きくカードの役を言った。

 それを聞いた瞬間、男は絶望した。

 

「な、な、な、何故だ!?何故、私より強い役を揃えたのだ!?」

 

 確かにそうだ。五枚変えて、役が揃う確率は低い。それも、ファイブカードとなれば。

 

「神の技といったところか。貴様なんぞには到底分かり得まい」

 

 爛は椅子から立ち上がる。

 

「貴様は賭けたな。自身の全てを」

「──────────」

 

 男は息を呑んだ。

 そして、苦汁を飲まされた。

 

「貴様の賭けたものは返す。だが、代わりに一つだけ聞きたい」

「な、何だ?」

 

 男は酷く怯えた目で爛を見る。

 正に蛇に睨まれた蛙。逆らえば爛の手が動くだろう。

 

「ここから帰る方法は?」

 

 爛は剣を取りだし、男に切っ先を向けながら尋ねる。

 

「ヒッ!そ、そこに入ってランダムに出てくる出口を探せばいいです!」

 

 男はそう言うと、爛の剣が動こうとする。

 

「そうか。分かった。ご苦労。精々、あの世で魂を抜き取ったものに謝るんだな」

 

 爛はそう言うと、剣を横に振るい、男の首を撥ね飛ばす。

 

「行くぞ。二人とも」

「あぁ。分かった」

「爛~………」

 

 爛はそう言うと、剣を背負いながら歩き出す。

 颯真はその跡を追うように走りだし、六花は爛の背中に抱きつく。

 

「うわっ!六花!?」

「怖かったんだよ~!爛~僕は怖いの!」

 

 突然重さがかかり、爛は何とか六花を落とさずにバランスを保つが、六花は離れる気がなさそうだ。

 

「仕方ない……よいしょっと」

 

 爛は仕方ないと割り切ると、六花を背負う。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。なれてるからな。姉とか妹とか背負わなくちゃいけなかったりするから」

 

 颯真は爛のことを心配するが、爛は笑みを浮かべながらそう言うと、六花をしっかりと背負いながら歩き始める。

 

 爛の背中、やっぱり暖かい……♡

 このまま寝ちゃおうかな?

 

──────────────────────

 

「最後のやつ、いらなくない?」

 

 一輝は苦笑いをしながらそういう。

 

「いやまぁ、爛がそれだけ六花に愛されてるのは、分かっての通りだと思うけど、この頃から愛されていたって言うのは知らないと思ったからな」

 

 颯真は肩をすくめながらそう言う。

 

「ま、続きの話を聞いてってくれ。

 アイツが伐刀者(ブレイザー)として覚醒する話でもある。

 その時に、ファイブカードが成功した種明かしがされるから」

 

 ーーー第67話へーーー




続けて投稿しました!意外とぬるぬると書けたので。

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