「で、何でアンタがついてきてるのよ……。」
「あ?嬢ちゃん、俺じゃ不足だってか?」
不満な顔をあからさまにしているステラと、その後ろに青い装束の男が歩いていた。
「まぁ、仕方ないよ。爛が言ってたんだから……。」
だが、これには理由があったのだ。
爛がこの男に一輝とステラの稽古をつけてくれと頼んでいたのだ。爛からの説明もあったが、彼は槍の達人でもあり、爛の友人に近いのだ。何故、近いという表現なのかは訳ありだ。
「仕方ないと言われても………。」
ステラはそれでも不満な顔をしていた。多分、自分が想像していたものとは違ったことだろう。
「これでも、槍の達人なんだ。まぁ、犬みたいなものだかな。」
「誰が犬だ!」
「お前だよ。」
「あぁ!?」
爛は彼のことを話しているが、最後に猟犬といったことで、男がそれに食いつき、爛に言い返すのだが、爛はそれを簡単に返してしまった。
「ここだ。ここ、ここ。」
爛が指を指した先には、森。その一言につきた。
「えっと……、ここで?」
「全力を出すには等しいところ。何せ、ここは俺の家の敷地だからな。まぁ、簡単に言えば、キャンプ場。と言ったところだ。」
爛が別に指を指した方には木製の一軒家が建っていた。
「心技体……よくそんなことを聞くとは思うが、俺たちが事前にできるのは『技』だけだ。心と体は実際にやらなければ意味がないからな。」
爛は快晴の空を見上げた。雲ひとつないような空は青く、海のようだった。
「……先に、荷物を置きにいくぞ。」
爛は木製の一軒家に向かって歩き始める。一輝たちは何事もなく爛についていくが、六花だけは何か引っ掛かっていた。
(…………?何か引っ掛かる……。爛の体に何もなければいいけど……。万が一の場合もあるし……。爛に聞いてみるしか……ないのかな……?)
六花はどうにも爛が隠し事をしているのではないかと思い、本人に聞いてみるしかないと考え、爛についていった。
「……爛……。」
六花は爛に声をかける。
一輝たちは自分達の力を強化するために、爛が連れてきた男と手合わせをしていた。六花は時間を見て、家の中に戻ると同時に、爛の部屋に向かったのだ。
「ん、あぁ……六花……か……?」
明らかに、爛の反応が可笑しかった。六花の方を向いているのに、目を開けているのに、ボヤけているわけでもない。そこから、導き出せるのはひとつしかなかった。
「ねぇ、爛……。話があるんだけど……、」
「あぁ。」
六花が爛の反応が可笑しかったことは気づいていた。だからこそ、六花は爛に問う。爛を愛する者だからこそ。
「………爛は…………もう………
眼が見えなくなっちゃったの?」
穏やかだったはずの爛の顔が一変した。真剣な顔となり、六花の瞳を見つめる。だが彼に、六花の顔を見ることは許されていなかった。
「気づいていたのか?」
言葉一つ一つから感じられる感情。それは困惑、絶望……様々な感情が爛を襲っていた。
「……爛の視線を、全くといっていいほど、感じなくなったの……。爛がこれほど僕のことを見つめているのに、爛の視線を感じられなかったから……かな。」
六花は爛に理由を言った。
何故だろうか、六花は話そうとしてきていたのに、重くなるのは分かっているのに、今更になって、体が震えてくる。今すぐにここから逃げろとも本能が伝えている。
だけども、もう退くことはできない。爛の中に入り込んだ以上、この迷路から出るためには、爛の協力が必要なのだが、爛を見つけることができない。
永久に広がっているような暗闇のなかを、手探りで探し続けていた。
「……そうか……。もう、気づかれていたんだな……。」
爛は悲しい顔をした。少しずつかけていたものが、崩れ去ろうとしていたからだ。
「……あの時……、どんな気持ちだったんだろうな……。なぁ……?」
爛はもう一度、六花を見つめる。六花は爛の眼がいつもと違うことに気づいた。
「……爛……。眼が……。」
爛の眼ははもう輝きを失っていた。濁ってしまったのだ。あの時の輝きはもう元には戻らない。それが、あれから続く罪と、取り繕うことのできない二人の約束なのだから。
「………もう。何も見えないと……言えてしまう。真っ黒な世界に白があるだけで………誰かを判断しているのだから。」
爛の声はとても考えられないほどに弱々しいものだった。
「……なぁ、六花……。今お前は、どんな顔をしてる……?やっぱり……、悲しいのか……?それとも……、別のものか……?」
爛は六花に手を伸ばす。その手は温かいとは言えない。ただ、爛が必ず六花に伸ばす手は、左手だ。
「ねえ、どうして爛は右手で僕に触れてくれないの……?何かあるの……?答えてくれる……?」
六花は悲しい顔で爛の左手に触れる。
「……こんな真っ黒な手を……、誰が好むんだ?誰が……、こんな俺を……、こんな………化物……を……誰……が……望……───」
爛の濁りきってしまった瞳から濁った涙が溢れだしていた。
どうして、こんな自分に構う。
こんな自分を、どうして捨てない。
どうして、こんな自分を好きになってくれる。
どうして、こんな自分についてくる。
爛は誰にも考えられず、そして、誰も耐えられない過去を通し、彼は人殺しを必ずしていた。それも、六花たちのために、自分の手を汚した。なのに、六花たちは自分に構ってくれた。避けるわけでもなく、蔑むこともしなかった。彼は隠れようとした。表に出たくなかった。自分を見捨ててほしかった。だけど、六花は爛を捨てようとはしなかった。だからこそ、爛が六花に対する歪んだ愛情を持ってしまった。
「ダメだよ……爛。そんなことを言ったら……。」
爛が言おうとしていたことを遮り、爛を抱き締める。
「……離れてくれ。こんな俺を……捨ててくれ……。いつか、お前にとって……、俺は要らない存在になる……。」
爛は六花から、離れようとし、腕に力を入れて六花の体を押し退けようとするのだが、六花は力を入れて爛から離れない。
「………嫌だ。絶対にそんなことはない。あり得ない。僕は爛のことが大好きだから………。」
「六花……、止め、んんっ!」
六花は少し拗ねた顔をし、爛に唇を重ねる。爛はいきなり六花が顔を近づけてきたことに驚き、六花の唇に重なってしまう。
「ちゅ……んん……ちゅる……れろ……ら……ん……。」
「んん……ちゅ……ん……んぁ……りっ……か……。」
二人の唇が離れる。その唇からは銀色のアーチが描かれ、二人を繋いでいた。
「……ダメ、爛……。捨ててなんて言わないで……。僕は、爛のことが好きで、それを分かってて、それでも、爛から離れたくない……。僕はもう、爛のことしか考えられないから……。」
六花は涙目で、消えて無くなってしまうような声で、爛にそういった。爛は躊躇いがちにも、右手で六花の頬に触れる。
「言わないでくれ……。俺が……、悲しくなる……。」
爛は六花を心配し、六花の瞳を見つめる。
だが、そんな時間も、すぐに無くなる。
「っ、六花……。離れて……くれ……。」
爛がそう言う刹那、爛の左半身が黒く覆われる。
「コイツ……!六花……早く……離れろ!オルタだ!逃げないと……俺はお前を殺しに来る!何を……している!六花!早く……!チッ!」
呆然とし、固まってしまっている六花を押し退け、爛は離れていく。
「すまない……。俺は……、一旦……お前たちから姿を消すよ……。」
爛はそう言うと、建物から出ていき、森の中へと消えていった。
「爛……。」
六花は爛を止めることなどできず、ただただ、静まったしまったこの時を、呆然としていることしかできなかった。
「ハァ……ハァ……ハァ……。」
爛は森の中を駆ける。殺すことなどできない。ましてや、自分の意思ではなく、偶発的に出てきてしまう殺意で殺してしまうのが。
「ここまで……行けば……。……ぐっ!?」
安堵のせいか、爛は黒く覆われてしまう。覆われていたものが無くなると、爛の姿は変わっていた。
焦げ茶色に肌は変わり、服装も黒の物へと変わっていた。
「ったく、めんどくせぇ。」
爛から発せられた言葉は、その一言だった。
「そこにいるんだろ?久しぶりに会うな。『雪蓮』。」
ーーー第61話へーーー
いやぁ、急な展開でした。原作とは随分とかけ離れてきました。
因みに、また新しいの書こうかなぁ~。と思っています。というか書いてみます。無理だったら消します。はい。
あ、それと爛に対する好感度(ヒロインたち)
爛曰く、歯止めがきかなくなると全員して手がつけられないとのこと。
十段階で決めます。
六花:好感度:10 爛に対する好感度は異常。ときたまヤンデレ化(重度)
リリー:好感度:10 六花と同じ。六花よりはヤンデレ化しない。ただし、一度ヤンデレ化すれば、最悪六花を超えるものが………。
ネロ:好感度:9 好き好き状態。嫉妬深い
玉藻の前:好感度:9 デレッデレの状態。余り嫉妬深いというわけではなさそう。
ジャンヌ・ダルク:好感度:9 聖女がこれで良いのかと言うほどの好き好き状態。爛曰く、幼児退行すると一番手がつけられないとのこと。
沖田総司:好感度:9 中々にデレる。うむ、眼福なり。
清姫:好感度:10 驚異のデレ率。サーヴァントのなかでは誰よりも積極的なため。ただし、嘘をついてしまうと、焼き殺されるのではなく、別の意味で生命の危機に陥るらしい。
明:好感度:9 一番まだマシとのこと。ただし、爛に引っ付くことは誰よりも優れている。
香:好感度:8 姉として、ということから余り爛には引っ付くことはしない。が、たまに、その歯止めがなくなると、幼児退行に入る。
桜:好感度:9 後輩としての力を遺憾なく発揮し、爛の傍にいる。
聡美:好感度:7 やはり、暗い過去を送ってきているせいか、爛に対する気持ちは隠している模様。実際は結構好き好きなのだとか。
次は多分、サブヒロイン……か?