落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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爛がチートになってきた……。
まぁそれなりに代償は払うけど……。


第57話~隠されたものと超えた限界~

 聡美との再会から、一週間半。

 選抜戦は次々と進み、ついに七星剣武祭代表者が決まる戦いの始まり。

 参加している六花はすぐに試合を終わらせ、一輝が戦う会場へと急いでいた。

 

「爛!」

「来たみたいだな。」

 

 六花は一輝の試合を見に来た爛たちの所へと行き、席に座る。

 右側の方には試合の終わったステラたちも座っていた。

 

「仕事はどうしたの?」

「……ん?あぁ、投げ出してきた。」

 

 六花の言っている通り、爛はとある仕事を頼まれていた。……が、爛はそれを投げ出して一輝の試合を見に来ていた。

 

「報道も来ているみたいだ。連盟も居るな。」

 

 颯真は空を見ながらそう言った。上空にはヘリが何機かあり、連盟もいることから、報道になると考えていいだろう。

 

「仕方ないよ。だって、『雷切(らいきり)』と『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』が戦う訳だし。」

「そうですね。……ご主人様は如何様にお考えですか?」

 

 明が訳を話すと、タマモは納得するようにそう言い、爛にどのように戦いが進んでいくかを尋ねる。

 

「どうだろうな……。刀華の《雷切(らいきり)》は、一輝の第七秘剣をも超える速さ。

 一輝が自分自身の限界を超えなければ、刀華の《雷切(らいきり)》の速さには敵わないだろうな。」

 

 爛は腕を組ながら、冷静な目付きでそう言った。

 

「?マスター?」

 

 総司は一輝の試合での事を冷静に言った爛を見ると、何故かぼうっとしている様子に見受けられ、爛に声をかける。

 

「………あ、いや、何でもない。……少し考え事をしていてな。

 ………席を外す。ここには戻らないだろうが、一輝の試合は見ている。」

 

 爛はそう言うと、席から立ち上がり、会場から出ていってしまった。

 その言葉には、微かな違和感を持っていた。

 

 

 

 

「………………………………。」

(何だ。一体、何が俺の中に?俺の知っているものとは、全く違うもの。………一体、俺の体に何が起きている?)

 

 爛は会場の外にいるなか、自身の体に疑問を持っていた。

 

「行くぞ、刻さ………っ!?」

 

 爛は自身の右手を見た。固有霊装(デバイス)を顕現する解きに現れる、右手の光が消えていたのだ。

 

(どういうことだ……?霊装を顕現できない。まさか………、俺の中に何かが本当にあるのか………?)

 

 爛の疑問は、深まっていくばかりだった。

 霊装の顕現が不可能になっている今、一輝が戦ったあとに控えている戦いが不可能になる。そうなれば、七星剣武祭に出れるものも出れなくなってしまう。

 

(…………すまん。俺は………出れないかもしれない………。)

 

 爛はそう思うが、すぐに首を横に振り、その思いを振り払う。

 

(………いや、俺は……出なくてはいけないんだ。例え、物理であろうと……戦って勝ってみせる!)

 

 爛はそう誓うように右手を握りしめると、木に向けて拳を当てようとする。

 

「無駄ァ!」

 

 爛の声とは違う声で、木は何も施していない爛の拳で崩れ去っていった。

 

「……………………っ!?」

 

 爛は背後の居る者に異質なものを感じた。

 ニンゲンとは違うもの。操り人形のように爛の背後に佇んでいる。

 爛はそれを気配で感じとると、背後の方を向く。

 

「っ、こいつは………?」

 

 背後に居たのは、爛に宿っているように背後から現れていた。その姿は、黄金に輝き、ニンゲンとは似ているものがあるが、違う形をしていた。

 

『私は『ゴールド・エクスペリエンス』。貴方のスタンド。』

「ゴールド・エクスペリエンス……?スタンド……?」

 

 爛の背後に居たものは『ゴールド・エクスペリエンス』というスタンド。

 爛は聞いたこともないことに、疑問を持った。

 

『そして、貴方に伝えなければいけないことがある。』

「俺に、伝えなければいけないこと?」

 

 ゴールド・エクスペリエンスは機械音のような声で、淡々と爛に話す。

 

『貴方の中には、もう一つの力がある。』

 

 爛は何も言わずに、ゴールド・エクスペリエンスの声を聞いていた。

 

『それは『波紋』。』

「波紋………?」

 

 爛は同じように疑問を持った。

 

『波紋は生命エネルギー。生命エネルギーを力としたもの。貴方にはそれも備わっている。』

 

 波紋の生命エネルギー。莫大な生命の力を持っている爛には、最高の力となるだろう。

 

「………俺は……、本当に宮坂の子供なのか?」

 

 爛は聞いていたことに、根底のものを疑ってしまう。だが、爛が宮坂の子であることは間違いない。

 

『貴方は宮坂の子だ。そして、宮坂はジョースターの血筋であり、誰にもわからないものだ。』

 

 ゴールド・エクスペリエンスから話されたことに、爛は目を疑う。

 

「まさか……、父さんたちは……、黙っていたのか!?」

 

 爛はそう言うと、顔を俯かせた。

 

「いや、そんなことはどうでもいい。自分の中にあるものに気づくことができたことは良しとしよう。」

 

 爛はそう言うと、俯かせていた顔をあげる。

 

「戻ってくれ、ゴールド・エクスペリエンス。」

 

 爛はそう言うと、ゴールド・エクスペリエンスは爛の体内に戻っていく。

 

「………まさか………な……。」

 

 爛は何か思うところがあったのか、そう言いながら会場の方に戻っていく。

 

「………ちょうど始まったみたいだ。」

 

 爛が戻ってくると、一輝と刀華が霊装を展開しており、今にも試合が始まるようだった。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と共に、一輝が動き出す。

 

「《一刀修羅(いっとうしゅら)》ァァァァ!!!」

 

 それを見た爛は、一瞬だけ驚くと、一輝の行動に笑みを溢す。

 

「お兄様!?」

「無謀すぎるよ!?」

 

 爛から離れている席のところでは、一輝の行動に驚いた珠雫と加賀美が驚いていた。

 

「フフッ……。」

「ステラちゃん?」

 

 ステラは爛と同じように笑みを溢す。それに気づいたアリスはステラに尋ねる。

 

「小細工は使わない。それがイッキとなれば……」

 

 ステラは笑みを浮かべながらそう言う。

 

「絶対にこうするだろうな。」

 

 爛も分かっていたように独りでに呟く。

 その声は、一輝も同じだ。

 

「「「真正面から切り伏せる……!!」」」

 

 三人の声は図ったように同じタイミングでそう言う。

 

(逃げ続ければ……この戦いは私が勝つ……。)

 

 確かに、《一刀修羅(いっとうしゅら)》を発動した一輝は、一分もすれば倒れてしまう。

 

(それだけは……できるわけがない!)

 

 刀華は雷の出力を全開にし、刀を構える。その構えは、刀華の二つ名にもあるもの《雷切(らいきり)》。

 一輝は刀を構えると、一気に踏み込み、フルスピードで翔る。

 

 自分の限界を超える………!

 雷よりも速く………!

 光よりも速く………!

 振るのは一刀で充分だ………!

 必要なのは………!

 彼女を超えるという一心だけだ………!

 それ以外必要なものはない………!

 支配してやる………!

 極限の一瞬を………!

 己の全てを………!

 この時のために振り絞る………!

 駆け抜けろ………!

 この全ての一瞬を………!

 極限を………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空白の時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキィ………!!

 

 その音と共に、誰かが倒れる音がした。

 その音は、刀華が倒れたものによるものだった。

 

『き、決まったぁぁぁぁぁぁ!たった一瞬の交錯!たった一振りで!《雷切(らいきり)》が!鳴神が!粉砕されました!リングに佇む勝者は、『落第騎士(ワーストワン)』!いや、『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』!黒鉄一輝選手!』

 

 試合結果を聞いた爛は笑みを浮かべる。一輝が自身の限界を超えたことに、爛は嬉しく思っているのだ。

 

(……そろそろ行くか。)

 

 爛は待機室に入ると、その後ろから気配を感じとる。

 

「どけぇぇぇ!」

 

 後ろから聞こえてきた男の声は、赤座のものだ。刀華が負けたことに焦るものがあったのだろう。だからといって行かすわけにもいかない。

 

「……ゴールド・エクスペリエンス。」

 

 爛がスタンドを呼び込むと、ゴールド・エクスペリエンスが姿を現し、赤座の顔面を殴る。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァ!!!!」

 

 死んでしまうかもしれないほどに殴り続ける。それ故に、爛の黒い感情は刻々と表に出てきている。

 

「……生命エネルギー……、完全消滅を確認。地獄へ堕ちな。赤座。」

 

 爛は赤座が死んだのを確認すると、ゴールド・エクスペリエンスを戻す。

 

「お疲れ様。一輝。」

 

 爛はそう言うと、リングの上へと向かっていった。

 

「……あ、爛………。」

 

 全身から血を出している一輝は、刀を杖代わりにしながら立っていた。

 

「全く……。ちょっと立ってろ。」

 

 爛はそう言うと、波紋を右手に貯め、一輝に胸に手を当てる。

 

「……これは……!?」

「俺の生命エネルギーをお前に与えた。傷も治すように細工しておいたから、早くステラのところに行ってこい。」

 

 爛は生命エネルギーで傷を治した一輝の背中を押す。

 

「………………。」

 

 爛は何も言わずに、会場から出ていった一輝の背中を笑みを浮かべながら見ていた。

 

「………やれやれ………。」

 

 爛は笑みを浮かべながらもそう言うと、リングの中央の方を向く。

 その中央には、爛の姉である香が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッキ!」

「ステラ………!」

 

 ステラは一輝に飛び込むようにして抱き締めようとする。一輝も飛び込んできたステラを優しく受け止めた。

 

「お疲れ様、イッキ。」

「あぁ、ステラの方こそ。」

 

 二人はしばらく、お互いの体温を感じあっていた。

 

「ステラ。」

「何?」

 

 しばらくしてから、一輝はステラの名を呼ぶ。

 

「ステラ。………僕の家族になってくれないか?」

 

 直接聞かれた一輝からの言葉。

 一輝からの告白。ステラは一瞬驚くも、それと同時に涙ながらに答えを出す。

 

「はい。アタシをイッキのお嫁さんにしてください!」

 

 それが、告白されたものの答えだった。

 分かるものには分かる。ただ、知らぬものが多い。二人は、一つめの幸せを貰うのであった。

 

 

 ーーー第58話へーーー


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