落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第55話~欠けてしまったもの~

 爛がもう一度眠りについたあと、爛は起きることもなく一日が過ぎる。

 六花たちが、眠りについた真夜中。

 

「……寝たか……。」

 

 そう呟く爛は、自室から出る。右手に赤い槍をもって、破軍学園から出ようとする。その時……

 

師匠(せんせい)!!」

「…黒乃か……。」

 

 爛を追って黒乃が爛を止める。爛は振り向き、黒乃の方を見る。

 黒乃は固有霊装(デバイス)を持って来ていた。

 

「俺を止める気か?……こうしている間にも、一人の命が無くなってるぞ。」

「どういうことです……か……?」

 

 爛はニヤリとした笑みで黒乃を見る。黒乃は何も理解できず、爛に尋ねる。

 

「桐原の命が無くなったな。あぁ。今この瞬間に。俺に協力した者にな。」

「っっっっっっ!!!!????」

 

 爛が非道な笑みを見せながら、嘘を言わずにそう言ってきた。

 それを見た黒乃は全身から汗が吹き出てきた。

 

「一体、どういうことですか!?」

「フッ、何を考えてるんだ?俺に協力した者は『恐怖』って言う感情がないんだわ。それに、俺もそれが欠けてるしな。」

 

 黒乃は驚きを隠せることなどなく、爛は笑みを浮かべたまま話す。

 

「正直、あいつを殺すのは俺の方がいいがな。それより、あいつの方が感情的に強いからな。俺はその後始末だな。後は俺の私情だ。お前には関係ない。人間としてクズの奴には死んでもらったからな。」

「……………………………。」

 

 爛は黒乃に背を向け、破軍学園から出ていく。黒乃は爛の行動に驚きが隠せず、動くことができなかった。

 

「ねぇ………もう、死んでくれない?」

 

 その一言で、桐原は貫かれ、投げ飛ばされる。もう桐原に叫ぶと言う行為は不可能だ。

 

「返して……、沙耶香を返してよ!返して!」

 

 桐原は体を切り離され、皮一枚すらないような冷酷で残酷に切り裂かれていく。

 

「ま、アイツなら容赦なく殺すからな……。沙耶香との仲は、誰よりも強かったからな……。」

 

 爛はそう呟きながら、真夜中の街を歩いていく。

 

「……この辺りでいいか……。」

 

 爛は真夜中の街の裏路地に行き、地面に魔力を使い、何かを描く。

 すると、その描いたものから、一筋の光が一直線に空に向かって上がる。

 

「……来たか。」

 

 爛がそう呟くと、描いたものを消す。そして、建物の上へと跳躍すると、目の前に青い装束と赤い槍を持った男が佇んでいた。

 

「随分と遅かったじゃねぇか。」

「すまないな。少し足止めを食らってな。」

 

 爛は建物の屋上に座り込み、煙草を吸う。

 

「……んて、今日は何のようで呼んだんだ?」

「今回ばかりはお前に頼むことだ。……『あれ』がもう来ているかをな。」

 

 爛から言われた単語に、男は反応した。回していた槍を止めたのだ。

 

「奴と殺るつもりか?」

「……俺の未来は、俺自身の物だ。考えもこのまま行けばの話だろう。俺は偽善だっていいさ。奴の考えと俺の考え。全く違うものだ。俺は俺で、やるべきものがある。だからこそ、奴と殺らなければならないんだよ。」

 

 爛は笑みを見せながら男にその事を話す。その理由を聞いた男は同じように笑みを見せた。

 

「なるほどな。お前がそう言うんなら、俺も協力させてもらうぜ。」

 

 男はそう言うと、吸っていた煙草を投げ捨てる。

 

「……他にもあるが?」

「んだよ他にもあんのかよ。さっさと終わらせてくれ。」

 

 もう終わりかと思っていた男に、爛は間を開けて言うと、男はがっくりしその場に座り込む。

 

「…あいつらたちの特訓相手になってはくれないか?」

「…ハァ?そりゃどういうことだ、おい。」

 

 爛から言われたことに、男は疑問を持ちながらそう言った。

 

「奴等とあいつらでは差が開きすぎているからな。俺だけでは手に負えないからな。」

 

 爛は立ち上がり、槍を回す。男はため息をつくと、槍を爛に向ける。

 

「まぁいいが。俺と手合わせして弱すぎたら、やらねぇからな。素人野郎に教える筋合いなんぞないからな。」

「あぁ、分かっている。」

 

 男は条件をつけて爛に話す。爛はその条件を呑む。

 

「…俺は行かなきゃ行けないところが二つほどある。お前は先にいって事情を話し、あいつらを鍛えてやってくれ。時を見計らい、奴を探してくれ。」

「また面倒な物を使ってきやがって。まぁ、仕事が生き甲斐だからな。いいぜ。」

 

 爛はそう言い、男が返事をすると、爛はそのままおくじょうから飛び降り、居なくなってしまった。

 

「ったく、久しぶりに会ったって言うのによ……。まぁ、アイツもあの身だしな。」

 

 そう言うと、男は姿を消す。

 

 

「……思っていたよりも、早く見つけられたぞ。エーデルワイス。」

 

 森の中を歩いていた爛は後ろの方を向く。そこには、私服姿でいた最強の剣士が立っていた。

 

「気づくの早いですね。」

「あまり俺を舐めない方がいいぞ~。何せ抜き足を作り出した人物から教えてもらったからな。」

 

 エーデルワイスは何も敵意はなく、爛の側に行く。

 

「……あまり言いたくもないが、貴女はそろそろするべきではないのか?」

 

 爛から言われたことに、エーデルワイスは一瞬にして暗く遠い目をした。

 

「冗談だ。からかってすまないな。貴女の好きなようにすればいいと俺は思うがね。」

「できれば、私の知っている方の方がいいですからね。例えば、貴方とか。」

 

 爛は遠い目をしたエーデルワイスを見た瞬間に、からかったことに爛は謝罪する。

 すると、エーデルワイスは爛が質問してきたことに答えを返す。

 

「俺には手の余る人になるな。」

「それは、どういうことで言ったのですか?」

 

 爛が言った一言に反応したエーデルワイスは、どう言うことなのかと爛に問う。

 

「別に年齢的な意味じゃないからな。俺には似合わないくらい貴女はいい人だからな。」

「…………///」

 

 爛は笑みを浮かべながらエーデルワイスに問われたことの答えを返す。その事を聞いたエーデルワイスは爛の答えに顔を少しだけ赤くする。

 

「ん?どう……って、何を!?」

「何をって、貴方に本当に手に余るのかと思いまして。今こうしてくっついてるわけです。」

 

 爛はどうしたのかとエーデルワイスに問おうとするが、エーデルワイスは爛にくっついていた。

 

「………今回、あれはいいか……。」

「?何か言いましたか?」

 

 爛が呟いたことに、一部だけ聞くことができたのか、爛に問う。

 

「いや、何でもないよ。」

 

 爛はくっついてきたエーデルワイスを拒むことなく、逆に寄り添う形でエーデルワイスの側に居る。

 

「優しいですね……。貴方は。」

「ん?そう感じるのか?」

 

 エーデルワイスはそう呟いたのを聞いていた爛は、不思議に思いながらもそう言った。

 

「……貴女は寝る場所無いんじゃないのか?貴女の住んでいるところは遠いだろう。」

「確かにそうですね……。」

 

 爛は思っていたことをいうと、エーデルワイスは困ったような顔をして言った。

 

「どうする?野宿でもしてみる?」

「いや、結構です……。」

 

 爛が笑顔で野宿と言う単語を言った途端、エーデルワイスは汗を流して拒否をした。

 

「ま、言うと思ったよ。俺は別に野宿でも何でも良いけどな。」

「貴方は様々なところを旅してましたからね。野宿なんてお手の物かと。」

 

 爛は上を見ながらそう言った。爛の視界に映るのは星の数々。様々な星座が見えていた。

 エーデルワイスは笑みを溢しながらも、爛と同じく空を見上げる。

 

「どうするんだ?エーデルワイス。」

「…私は帰ることにします。良かったら、来ます?お菓子もありますよ。」

 

 爛はもう一度どうするのかとエーデルワイスに問う。エーデルワイスは笑みを浮かべ、爛に来ないかと誘う。だが、爛は首を横に振った。

 

「いや、俺はいい。また行くことになるからな。」

 

 爛は立ち上がり、槍を持つ。

 

「俺は戻る。貴女も早めに行った方がいい。狩ろうとしているやつは俺が始末しておくからな。」

 

 爛は歩いてきた道を戻る。それを見たエーデルワイスは同じように立ち上がり、爛とは反対の道を歩く。

 

「……来たな。」

 

 爛はそう呟く。遠くに見えるのは、最強を狩りにここまで来た腕に覚えのある伐刀者(ブレイザー)だ。

 

「………お前ら、ここに何のようだ。」

「あぁ?ガキに関係ねぇ。俺達は『比翼』を倒しに来たんだ。」

 

 爛はそれを聞くと、持っていた赤い槍を向ける。

 

「だったら、俺を倒してからにしな。そうしなければ、彼女に敵わんぞ。」

 

 爛は笑みを向けて話した。確かに腕に覚えのある伐刀者たち。だが、エーデルワイスの弟子として戦ってきた爛にとっては、百人程度苦でも何でもない。

 

「いい度胸だ!数で勝れるって言うのか!?」

 

 伐刀者たちは、固有霊装(デバイス)を展開する。爛をそれを見ると、槍を構える。

 

「威勢が良いものだ。俺を一人で超えることができるのであれば、彼女には勝てるんだがな。一人じゃ面倒くさい。全員で来い。それでも勝てないがな。」

 

 爛は挑発する。子供が大人に挑発されてしまえば、プライドが傷つくものだ。だからこそ、全員が動く。

 

「ハッ!だったらやってみろよ!」

「来い。真の英雄は目で殺すことができるぞ。」

 

 爛は元々出していた殺気を強くする。その殺気で、人を切ることもできる。いや、その感覚を負わせることができる。

 

「っ、行くぞ!」

「フン。やってみろ。俺を追い込んで見せろ。」

 

 爛は槍を真一文字に振るう。それだけで、赤い閃光が伐刀者たちを襲う。

 

「だが、動くのが遅すぎる。」

 

 爛はそのまま瞬時に動き、伐刀者たちを槍で穿つ。

 

「っ、ハァ!」

 

 爛は容赦なく穿つ。ただ、幻想形態で槍を振るっていた。恨む相手でもなく、自分自身から始末をすると言ったのだ。それなりのことはしておくと。

 

「終わらせないとな。早く。」

 

 爛は跳躍する。赤い槍を構える。

 

「行くぞ。〈抉り穿つ分死の槍(ゲイ・ボルク)〉!」

 

 爛は槍に魔力を込め、投げる。その槍は複数に分散し、伐刀者たちを穿つ。

 

「フン、こんなんだったら彼女には勝てんな。」

 

 爛はそう吐き捨てる。そう言った途端、爛に頭痛が襲う。

 

「ぐ………、なんだ…この痛みは……。」

 

 爛の頭のなかにフラッシュバックが起こる。そのなかには、見たこともない少女がいた。

 

「誰……だ……?」

 

 爛のフラッシュバックで見た少女とは誰のなのか。

 

 

 ーーー第56話へーーー

 

 


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