落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

6 / 105
第5話です!文の途中で中二病が発動しているので、生暖かい目で読んでください。それでは、どうぞ!


第5話~一輝の実力~

 ステラの右肩に降り下ろされた陰鉄。しかし、斬ることは叶わず、止められてしまう。完全に油断した状況で、防御に集中することは無理と言っていいのだが、一輝の陰鉄は何かに遮られた。それは、ステラが纏っている魔力の壁に。それでさえ、斬ることの出来ない理由は簡単なことなのだ。

 

「駄目だったか。」

 

 一輝の魔力の量が少ないのだ。総魔力量は各々の運命の力と比例するという説がまかり通っているのだ。同じように一輝は、魔力量が少ないため、魔力を自身に纏っているステラを斬ることは出来ないのだ。魔力の壁を打ち破るにはその魔力より、上回っている魔力でなければ打ち破ることは出来ない。ステラの周りにある魔力は可視化されており、その魔力は削がれた部分を補修していた。剣術は一輝が勝っているが、一輝からすれば、完全に魔力が少ないという壁を越えて勝たなければ、本当の勝ちとは言わないだろう。

 

「カッコ悪いわね。こんな勝ち方なんて。」

「陰鉄が君を斬れないと分かっていたんだね。その上で剣撃を挑んだ。」

「ええ、剣でアンタに勝って、アタシが才能だけの人間じゃないことを教えるためにね。でも、認めてあげるわ。アタシは才能のお陰で上がってきたと。だから、最大の敬意を持って、倒してあげる。蒼天を穿て、煉獄の焔!」

 

 ステラを囲むように出来たところに、魔力が集中し、そこから出てきたのは、炎を纏った竜だった。そして、第四訓練場の天井を突き破り、ステラに光が差し込む。それは、ただの炎ではなく、太陽の輝きを思わせる光だった。これだけの力を使うには、大量の魔力を消費するにも関わらず、平然とやってのけるステラに、爛たちは驚く様子もなく見ていた。

 

「あれだけの奴は、久しぶりに見るな。」

「天井を軽々と壊すなんて、デタラメな力だね。」

「それを平然とやるのがAランク(ばけもの)でしょ。」

「それでも、爛君には敵わないけどね。」

「それは無いだろ。」

「いや、爛くんならあり得るけどね。一輝くんは、どうするかな?」

「あいつはあいつなりに戦う。逃げるなんてことはしないだろ。」

 

 ステラは妃竜の罪剣を振り上げ、そこに魔力を集中させる。一輝は逃げることなくステラを見ていた。

 

「確かに、僕には魔導騎士の才能はない。でも、退けないんだ。僕の誓いは曲げることは出来ない。いや、誰にも曲げられない。彼との約束のためにも。彼と対等に戦うためには、逃げることなんて出来ないし、負けることなんて許されない。彼を越えるには、Aランクには簡単に勝たないとなんだ。」

 

 自分が誰よりも劣っているなんて承知の上なのだ。自分よりも上の存在の彼が、どれだけ自分が来るのを待っていることか。彼がどれだけ自分を期待してくれているのか、自分は、彼の期待に応えなければいけない。彼が待っている領域へと進まなければならない。彼と、全力で勝負をするために。だからこそ、先ずは彼女を越えなければならない。全てを越えた先に、彼は待っている。どれだけ周りから自分のことを彼に言われているかも分からない状況だが、彼はそれでも、自分の近くにいた。彼自身、自分と戦うのを望んでいるのかもしれない。彼が『鬼神』とするならば、自分は『鬼神』を喰らう『戦鬼』へと、変わらなければならない。自分を待つ、黒鉄一輝という自分を待つ彼のもとに、宮坂爛のもとに行かなければならない。そして、『鬼神』を喰らった先に、自分が望む世界が待っているのかもしれない。それは長く、辛い道なのも知っている。まだ、スタートラインにやっと立ったことも。戻るなんてことはしない。背くなんてことはしない。ただ、前に進むだけの道しかない。なら、自分は走ればいい。走り続ければ。

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》!!」

 

 ステラの意とともに、飲み込まんとする竜が一輝に向かう。一輝は、避けることをせず、陰鉄の切っ先をステラに向けていた。

 

「だから考えた。最弱が最強に勝つためにはどうしたらいいか。そして、至った。《一刀修羅(いっとうしゅら)》!」

 

 一輝から、可視化された魔力が一輝を包む。しかし、ステラにとってはそんなことはどうでもよかったのだ。何故ならば、もうこのフィールド全てが、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔》の射程内だからだ。全てを飲み込み、焼き焦がす。それは正に、竜王の炎と言って良かった。炎の竜が一輝を飲み込む瞬間、一輝が消える。ステラは、感じていた気配が、いきなり消えたことに疑問を持ち、周囲を警戒していると、気配を感じ取った先には、一輝が居たのだ。ステラは一輝の居るところに、《天壌焼き焦がす竜王の焔》を振るうが、一輝は、またしても姿を消し、避けている。そしてステラは、一輝の魔力が上がっていることに気づく。上がることはない魔力が上がっていることに驚いたステラは、そのまま、口にする。

 

「あり得ない!魔力も上がってる!?」

「上がったんじゃない。なりふり構わず『全力』で使っているんだ!」

「だからって!そんなに上がることはないじゃない!」

 

 ステラが一輝の魔力を感じ取っているが、その量は、一輝の元々持っている魔力の2倍を感じ取っているのだ。それに、これだけの魔力を身体能力に割いているため、制限時間がついてもおかしくないのだが、一輝は、ステラが驚く言葉を言う。

 

「僕は疑問に思ったんだ。全力は使うことができない。なら、文字通りの全力が使えたらどうかなって。」

「っ!アンタまさか!」

「思っている通りだ。僕は『生存本能(リミッター)』に手を掛けているんだよ!」

 

 全力は、全ての力を使うこと。しかし、人は全力を使うことは出来ない。それはなぜか?生存本能がそれを邪魔しているから。人は精々、30%しか、力を出すことしか出来ない。稀に『火事場の馬鹿力』が起きるときがあるが、それは、生命の危機に陥ったときに、自然と発動するのだ。常人が生存本能を解放したのなら、その負荷に耐えきれず、重傷を負ったり、最悪の場合、死に至ることもあるのだ。一輝はそこに目をつけ、もし、意図的に生存本能が解放出来たのならと考えたのだ。制限時間はつくものの、誰にも負けないための、最弱(さいきょう)伐刀絶技(ノウブルアーツ)。一輝は迫り来る炎を避けながら、ステラに向かって走る。そして、力強く跳躍をする。跳躍した先には、ステラが居る。一輝は陰鉄を構え、降り下ろせるようにしている。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る!」

 

 一輝は陰鉄をステラの左肩から、斜めに斬るように振るう。模擬戦なので、ステラの体を斬ることはなく、魔力の壁だけを斬っていった。ステラは、模擬戦で致命傷を受けたときに起きる、ブラックアウトでその場に倒れる。一輝は纏っていた魔力を解除する。

 

「凡人が天才に勝つためには、修羅になるしかないんだ。」 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝!」

 

 これを見ていた観客のほとんどは、驚くことだろう。Fランクの人間が、Aランクに勝つことに。爛は笑みを浮かべながら、それを見ていた。

 

「ん、じゃあ一輝のところに行くとするかな。あ、そうだ。刀華、明日いつ頃出ればいいんだ?」

「お昼頃で。」

「了解。じゃあな。」

 

 爛は、そう言いながら跳躍し、一輝のいるフィールドに降り立つ。刀華と愛華は席を立ち、戻っていった。

 

「お疲れさん。いい戦いだったな。」

「いや、そんなことはないよ。」

「謙遜すんなって、刀華と愛華だって、戦いたい顔をしていたからな。」

 

 二人が話していると、そこに救護班が来て、ステラを運んでいった。すると爛のスマホの着信音がなり、スマホを見ると、それは黒乃からの頼み事だった。

 

「どうしたんだい?」

「あー、ちょっとな。ステラのところに行けとな。目覚めるのは夕方くらいだしな。一輝も部屋に戻って体を休めろよ。」

「分かったよ。」

 

 一輝は、一刀修羅を使った反動で、筋肉痛も起きているだろうと思い、休めと促す。爛は、何で時間を潰すか考えながら歩いていた。

 夕方になり、ステラの居る部屋に入ると、ステラは起きており、外を眺めていた。

 

「おう、起きてたんだな。」

「アンタは・・・」

「話してなかったな。俺は宮坂爛。黒乃の師であって、一輝のルームメイトであり、お前さんの腕の術式を着けた人間だ。」

「そうだったのね。ありがとう、アタシの暴走を止めてくれて。」

「いや、大丈夫だ。俺自身、ステラのような奴に会うことはなかったしな。」

 

 素直に礼を言うステラを見て、爛は少し照れくさそうに話す。

 

「それで、どうしてここに?」

「黒乃から、行けって言われてな。」

 

 どうしてここに来たのか問いただすと、理事長の黒乃が言ったことに苦笑する。すると、爛が思い出したかのようにステラに聞いてくる。

 

「そう言えば、腕の術式はどんな感じだ?」

「まだ残ってるわ。使いこなせていないってことね。」

「ん~、いや、それはないな。ステラの本当の能力に気づいているのは俺だけじゃ無さそうだしな。ま、ステラを鍛えてくれる奴は、居るからな。」

「アタシの力は、本当の力じゃない?」

「それに関しては、もう少し、時が経ってからだな。」

 

 ステラは、爛が言ったことに疑問を持ったが、それよりは一輝のことを聞くために、爛に話し掛ける。

 

「ねぇ、イッキのことなんだけど・・・あれでFランクなのは、おかしくないの?」

「やっぱり、そう見えるか。」

「?」

「俺と一輝は、模擬戦をしたことがあるし、それなりに剣を交えてるしな。ステラの言っていることも間違いじゃない。」

「だったら・・・」

 

 ステラが一輝のことを聞いたのは、自分を破った人間なのに、Fランクということだ。あれだけの力を持っているのなら、Fランクではないはずだと、ステラはそう思ったのだ。しかし、爛はそれを打ち消すかのように、ステラに話す。

 

「現に、あいつの力は測れるもんじゃない。あいつは、常識を打ち破ってる。常識では考えられないところまで行ってることもあるんだ。一輝の考え方も、戦い方もな。」

 

 爛から言われたことに、ステラは顔を俯かせる。一輝は、常識では到底考えられない領域まで行っていることに。

 

「とりあえず、あいつの背中を追ってみることだな。それは、お前にとっては、いいことに繋がるはずだからな。」

 

 爛はステラに、留学してきたことの目標を新たに作るように言う。

 

「ええ、そうしてみるわ。」

 

 爛はステラから発せられた言葉に、笑みを浮かべながら、部屋から出ようとすると、何かを思い出したのか、ステラの方に振り向く。

 

「一つだけ言っとく。これから、ステラが来たことを祝うから、一輝とお前の部屋、405号室で待ってるといい。俺が呼びにいくからな。」

 

 そう言い、部屋から出ていく。ステラは、破軍学園の制服に着替え、部屋を出ていく。

 

「ん~と、カレーで良いかな。」

 

 爛は、今日の夕食を考え、買い出しに出掛ける。買う量は、ステラがどれだけ食べるのかと考え、沢山食べてもいいように、いつもより多く物をかごの中に入れているときに、彼の近くに行く人物がいた。

 

「爛か?」

 

 爛に話しかけた相手は一体・・・

 

 ーーー第6話へーーー

 




第5話終了です!第4話での刀華と爛の話しは、第6話辺りで書きたいと思います。第6話でお会いしましょう。それでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。