落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第54話~覚悟と恥じらい~

「シッ!」

 

 総司が一瞬にして六花の背後に回り、刀を振るう。

 

「ジャマダァ!」

 

 六花は刀を振り向き様に振るい、総司を斬ろうとするのだが、総司は六花の刀よりも低い体位でやり過ごすと同時に刀を振るう。

 

「遅い!」

 

 総司は刀を振るうとバックステップで距離を取る。

 

「そこだ!」

 

 ネロが総司と入れ替わりで六花を攻撃する。

 

「ジャマダッテェ!」

 

 六花は地面に刀を突き刺し、魔力を高める。

 

「イッテルンダヨォ!」

 

 六花の叫びにより、辺りは一瞬にして崩れる。

 

「ッ!?」

「えぇ!?」

 

 リリーたちは落ちることはなかったが、周りにいた総司とネロが巻き込まれてしまい、落ちてしまった。

 

「コワセナイノナラ…………サキニコイツカラコワシテヤル…………!!!」

「ッ!六花……。」

 

 六花は意識を失って倒れている明の方を向く。爛は己の体が戦慄したのを感じると、明を抱き締めたまま、神経を集中させていた。

 

(いや、これは先にやった方がいい。でないと、ネロたちが……)

 

 明を横にさせ、爛が立ち上がろうとしたとき、崩れた穴から二つの影が出てくる。

 

「二人とも!無事だったか!」

 

 爛は二人が戻ってこれたことに、安堵したが、暴走している六花やその六花と戦っているリリーたちのことも心配していた。

 

(俺は……どうすれば……。)

 

 爛が迷っている間、ネロたちは明のところへと行かせないように、六花を止めていた。

 次の瞬間、ネロと総司が動き出す。

 

「我が才を見よ!万雷の喝采を聞け!」

「一歩音超え…、二歩無間…、三歩絶刀!!」

 

 ネロは詠唱する。総司は一歩ずつ進み、詠唱する。そして、三歩で六花の目の前に辿り着く。

 

「《無明(むみょう)…………三段突き(さんだんづき)》!!!!」

「座して称えるがよい……黄金の劇場を!」

 

 総司が宝具を使用し、六花を穿つ。ほぼ同時ではなく、まったく同じタイミングで突きが三回六花を襲う。

 穿つと、ネロの詠唱が終わったのか、周りの景色が変わり、赤と黄金の劇場が見える。

 

「すぐに決めるぞ!」

 

 ネロは赤い剣を構え、六花に向かって突撃する。

 

「《童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)》!!」

 

 交錯すると同時に、ネロは赤い剣を振りきり、六花を切り裂く。そしてそのあと、六花の下側から、炎が吹き出る。

 

「アァァァァァアアアアァァァァァァァ!!!」

「六花………!」

 

 爛はこれ以上、六花が傷つくのを見ていられなくなってしまっていた。

 そして、爛は決心する。自分の手で、六花の暴走を止めると。

 

「明……、少し、待っててな。」

 

 応急処置で腕を傷を抑えた爛は、明の頭を撫でると、横にさせ、立ち上がる。

 

「みんな!時間をとらせてすまない。ここから先は、俺一人でやる!」

『ッ!?』

 

 爛から発せられた言葉に、全員が驚く。

 

「マスター、本当に大丈夫なのですか?」

 

 リリーは爛の辛さを知っている一人でもあるため、爛を心配する。だが、爛はリリーに笑みを見せて話す。

 

「大丈夫だ。……でも、辛いと思ってるよ。だけど、俺はやらなくちゃいけない。」

 

 爛は真剣な表情になり、六花の前に立つ。

 

「なぁ、六花。俺はお前に刃を向ける。お前は……いや、聞いても意味がない……か……。まぁ、いいさ。来てくれ、ゲイ・ボルク。」

 

 爛はゲイ・ボルクを顕現させると、それを握り、体勢を低くする。

 

「その心臓刺し穿つ………。」

 

 爛はそう呟くと、魔力を高める。ゲイ・ボルクに魔力を送り込む。その瞬間、ゲイ・ボルクが赤黒く光る。

 

「《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》!!」

 

 爛はゲイ・ボルクを握り込み、一瞬にして六花を穿つ。しかし、幻想形態で突き刺したため、六花は意識を失うこととなった。真っ白な肌は元に戻り、黒い力は消えていった。

 

「六花……。次…目が覚めた…ときは、いつもの…六花だと…いい…な……。」

 

 爛はそう呟くと、魔力切れを起こして、六花と同じように意識を失い、倒れる。

 

「マスター!」

 

 リリーが一目散に駆け出し、爛の状態を見る。

 

「良かった。意識を失ってるだけですね。」

 

 リリーは爛が死んでいるわけではないのを知ると、爛を抱きかかえる。

 

「とにかく、ここから出ましょう……。」

 

 リリーは周りからの視線が気になっていた。……いや、気になっていたと言うよりも、イライラするように感じていた。

 周りからの目線…、それはやはり、ランクだけで人を見下すような目線でしかなかった。

 好意を寄せているリリーたちからすれば、本当にイライラする目線でしかなかった。

 

「えぇ、早く行きましょう。私…ここにこれ以上居ると、人を殺してしまいそうです…。」

 

 ジャンヌは六花を抱えると、暗く重い声でそう言った。

 この感情はジャンヌだけじゃない。ネロもタマモも総司も…誰もがそう感じた。

 総司が明を抱えて、訓練場から出ていく。

 

「……マスター……、貴方は、どうして私たちを庇うのでしょうか?苦しいことも、悲しいことも、様々な負のものを貴方は背負ってきました。ですが、どうして貴方だけなのですか?私たちは、どうしたらいいのですか?マスター……。」

 

 リリーはそう呟き、涙を流す。その涙は抱きかかえた爛の胸に落ちていた。

 

「……え!?」

 

 明を運んでいた総司が驚く。リリーたちは総司の方を見るが、全員が明の状態に驚いていた。

 

「右腕が……!」

 

 右腕が、もとに戻っていたのだ。切断されていた訳でもなく、薄皮一枚すらないような状況なのに、右腕がもとに戻っていると言うことはほぼあり得ない。

 

「もしかして……。」

 

 タマモは明の右腕が治ったことに、何か分かっているようだった。

 

「とにかく、マスターたちをベッドに寝かせないと…。」

 

 リリーたちはすぐに自室の方へと向かい、爛たちを横にさせる。

 爛たちをベッドに寝かせてから、三時間後。

 

「ぅ……ぁ……。」

「マスター!」

 

 爛が目を覚ます。ジャンヌはそれにいち早く気づき、爛の側に行く。

 

「ジャン…ヌ…?ここは……。」

「マスターの部屋ですよ。」

「あぁ……、そうか……。」

 

 爛は目を覚ますと、まだ意識がはっきりとしていないのか、自分がどこにいるのかが分かっていなかった。近くにいたジャンヌの存在に気づくことができたため、ジャンヌに場所を聞く。

 場所を聞くと、爛は安堵したような顔をした。

 

「ありがとう………。」

 

 爛は小さな声でジャンヌに礼を言う。

 

「マスター?何か言ったんですか?」

 

 爛が呟いたことに、ジャンヌは聞き返すが、爛はジャンヌに微笑むと、何も言わなかった。

 

「…………。」

 

 爛はジャンヌをじっと見つめる。

 

「マスター?」

「ん……ジャンヌ。」

 

 爛は両手を広げる。その姿は可愛らしく、顔を赤くしながらジャンヌを待っていた。

 

「マ、マスター?一体、どうしたんですか?」

「ん…ジャンヌたちに構ってなかったから…、今ぐらいなら、構ってやれるから………。」

 

 爛は消えてしまいそうな声で、理由を話す。その理由を聞いたジャンヌは、爛と同じく顔を赤くする。

 

「じゃあ…お言葉に甘えて……。ん……。」

 

 ジャンヌはベッドの上へと上がり、爛を抱き締める。爛も同じようにジャンヌを抱き締める。

 

「やっぱり、マスターの上に上がっても、まだ低いのですね……。」

「ん、まぁ、それだけ身長の差はあるからな……。」

 

 ジャンヌの言っている通り、ジャンヌの身長は159㎝。爛の身長は174㎝。結構な差があるのは確かだ。

 

「………………。」

「……………あの…、マスター?」

 

 爛が何も言わずに、ジャンヌを抱き締めていることに、ジャンヌはその事に驚きと疑問が隠せなかった。

 

「……ん?」

「どうして……、強く抱き締めるんですか?」

 

 ジャンヌはその事を聞くと、爛は先程よりも強く抱き締める。

 

「マ、マスター……。」

 

 ジャンヌは驚いているが、爛が自分を構っていてくれていることで、幸福感を感じていた。

 

「だって………。」

「?」

 

 爛が小さく呟く。ジャンヌは至近距離に居たため、聞こえていた。

 

「失う夢を見たんだよ………。ジャンヌたちを失う夢を……。だから、現実で失いたくないから……。」

 

 爛の声は消え入りそうな声で、悲しい声だった。

 

「マスター。」

「ジャンヌ………?」

 

 ジャンヌは爛を強く抱き締めた。

 

「私たちはここにいます。確実とは言えなくても、私はここにいます。」

「あぁ………うん……ありがとう。」

 

 ジャンヌの言葉で、爛は安心したのか、抱き締める力を弱めた。

 

「ジャンヌ……やっぱり……、まだこのままで……。」

 

 爛は弱めた力をまた強くした。ジャンヌは何も言わずに、爛を抱き締めた。

 

「ジャンヌ…、ありがとう……。」

 

 爛は自分の体をジャンヌに委ねた。ジャンヌは爛が自分に体を委ねて、眠ってしまったことに気づく。

 

「寝てしまいましたか……。私ももう少し、このままで。」

 

 ジャンヌはしばらく爛を抱き締めることにしたため、着けていた鎧を外す。

 鎧を外すと、爛を抱き締め、ベッドに横になる。

 

「お休みなさい。マスター。」

 

 ジャンヌは爛の額にキスをすると、そのまま眠りについた。

 

 ーーー第55話へーーー

 

 




題名を考えるのが……w

コラボ回のネタが辛い……。

次回はほのぼのしたのかな?

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