落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第52話~譲れない戦い~

 厳と一輝の和解から、次の日。爛にとって、ある意味で辛いものが待ち構えていた。

 それは、六花が戦う相手のことについてであった。その相手は、何と自分の妹である明であったのだ。

 やはり、その時も爛はベンチに座り、生気を感じさせない瞳で空を見ていた。

 

「・・・・・・。」

 

 隣には、六花達が座っていた。生気を感じさせない爛を心配して、六花達は寄り添っていた。

 

「爛・・・。」

 

 まだ試合前ではないため、六花は爛のことが心配になっており、ギリギリまで爛の傍にいることにしたのだ。

 

「・・・六花・・・。お前は・・・、俺のことをどう思う・・・?」

 

 爛は突然に六花に問う。六花は一瞬だけ、驚いた表情をすると、覆い被さるように、爛を抱き締めた。

 

「何を言ってるんだい?僕は爛のことが大好きだ。僕の中にあるものまで、受け入れてくれたんだから・・・。」

「そうか・・・。」

 

 中にあるものまで、と聞くと、爛と六花は悲しい表情をした。一体何があるのだろうか。爛にとっては、いつあれが起きるのかが不安であった。

 

「・・・六花、そろそろ試合だ。・・・行ってこい。俺も行くから。」

 

 爛は六花に笑みを見せると、そう言った。六花は無言のまま頷き、訓練場に向かっていった。

 

「・・・先に行っててくれ。少し用事がある。大丈夫だ、俺もすぐに後で行く。」

 

 爛はベンチから立ち上がると、訓練場とは反対の方を向いて歩き始めた。

 

「・・・奏者・・・。」

「ネロさん・・・。今はマスターをそっとしておくことです・・・。」

「・・・・・・。」

 

 ネロは離れていく爛をみて、追いかけようとするが、リリーは爛の心情を知り、ネロを止める。

 リリー達の心は、もやがかかったようにスッキリはしなかった。

 

(俺は・・・どうしたらいいんだ・・・。ニンゲンとは言えない俺が・・・、まだニンゲンの体を半分は持っている六花達と・・・俺は本当の意味で繋がることができないのか・・・?六花達と居るだけで、体は震え上がる・・・。どうしようもないくらいに・・・。それこそ・・・、もう耐えられないかもしれない・・・本当に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココロガコワレルカモシレナイノニ・・・ドウシタライインダ・・・?)

 

 爛はそう思うしかなかった。ニンゲンからかけ離れた自分が、ニンゲンとしての部分を多く残している六花達と、親密な繋がりを、もっと深めるべきなのか、断ち切るべきなのか。どうしようもないくらいに、爛の心を揺さぶっている。

 

「・・・とにかく、六花達の試合に行こう。・・・明が暴走されちゃ困る・・・。」

 

 爛はそう言い、破軍学園の方を向いて歩いていく。

 

 

 

 

 六花達のところでは、六花は既に待機室におり、リリー達は会場席に座っていた。

 

「マスター・・・、来るのでしょうか・・・?」

 

 ジャンヌは爛が本当に来るのかと心配になっていたのか、そう言ってしまう。

 

「今は・・・、来ることを信じるしかありません・・・。」

 

 総司も割りきっていっているが、爛のことが心配なのかは明らかにわかるほどだった。

 

『さぁ!ここからは注目の戦いです!この戦いの選手は、どちらも七星剣武祭代表の候補!激しい戦いが予想されます!』

 

 アナウンスが入る。そろそろ戦いの始まりのようだ。

 リリー達は、まだ爛が来ていないことを無理矢理隠すかのように、フィールドの方に目を向けていた。

 

『まず赤ゲートから出てきたのは、あの天才騎士、ステラ・ヴァーミリオン選手に次ぐAランク騎士!七星剣武祭優勝者が居る武曲学園から遥々転校してきた騎士。その雷は避けることは叶わず、攻撃を与えることすら叶わず、そのAランク騎士の正体は、『雷撃の女王(ミョルニル)』!葛城六花選手です!』

 

 六花がフィールドに上がるだけで、会場の歓声が沸き上がる。

 しかし、六花の顔はまだ爛が来ていないことによる不安であった。

 

『次に出てきたのは、あの『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』の妹であり、今までの敵を涼しげに倒してきた選手!その実力は、正しく兄と同じものなのか!?それとも、それよりも下なのか!?今、それを見せつけるためにと、葛城選手を倒すために、フィールドにたちます!『砂の戦姫(サンドヴァルキリー)』宮坂明選手!』

 

 明も、六花と同じようにフィールドに上がるだけで、さらに会場の歓声が沸き上がる。

 武曲学園で活躍することはなく、七星剣武祭に出ることがなかった六花も、今は自分の意思で立っている。

 対する明も、兄・爛と共に七星剣武祭に出るためにフィールドに立っている。

 どちらも有名であるのは間違いない。

 ステラに次ぐAランク騎士である六花。

 選抜戦にて強敵を凪ぎ払い、一目置かれる存在となった、爛の妹である明。

 激戦になるのは間違いないと、リリー達は感じていた。だが、明と六花の差は歴然であると考える生徒も少なくはない。

 

「・・・・・・爛は・・・、来るのかな・・・?」

「分からないよ・・・、でも・・・、来るって思うしかない・・・。」

 

 二人は悲しい顔で話す。声も暗い。消えてしまうかのような声は・・・、二人にしか聞こえない。

 

「とにかく、僕たちがこんな状態じゃ、爛にも心配をかけてしまうよ。」

「だよね・・・。だからこそ・・・。」

 

 二人は真剣な表情へと変わり、辺りの空気を変えた。

 

「「譲ることはできない・・・!」」

 

 二人はそう言うと、固有霊装(デバイス)を顕現する。

 

「遡れ、撃剣・龍(げきけん・りゅう)。」

「佇め、蓮花(れんか)。」

 

 龍、砂から精製された霊装を手に取り、二人はすぐに構える。

 しかし、やはり真剣な表情だとしても、二人はまだ不安を隠しきれなかった。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の音が鳴ると共に、先に明が動く。

 

「っ!」

 

 短期決戦を仕掛けにいった明。だがそれは、間違いであった。それはなぜか?その答えは、六花の霊装にあった。

 

「唸れ、《龍雷(りゅうらい)》。」

 

 六花が左手に握っていた拳銃の銃口を明へと向け、魔力を弾へと集中させ、引き金を引く。その銃口から発射された弾は雷を纏った龍のように、明に襲い掛かる。

 

「!」

 

 明はすぐにそれを避ける。ただ単に突撃していた訳ではない。迎撃するであろうことは分かっていた。

 クロスレンジの領域に入る。どちらとも、刃が届く位置にいる。

 この場合、銃より刃物の方が圧倒的に強い。つまり次に六花が動く行動は見えている。

 

「ハァッ!」

「っ!」

 

 六花は横振りに刀を振るう。しかし、それが見えていた明は屈むことでそれを避け、反撃に出ようとする。

 ───が、何か嫌な予感がした。

 

「っ!?」

 

 すぐに体を右側へと動かす。六花の持っていた銃から、引き金が引かれており、弾が明の左頬を掠めていった。

 流石はAランクの騎士。そう易々とは勝たせてくれないのは当然だ。

 

「こうするしかないかな・・・。」

 

 明はそう呟いた。蓮花を手から離すと、蓮花は弧を描くように六花の側面を狙ってくる。

 それと同時に、明も走り出す。

 

「っ!」

 

 六花は弧を描くように側面を狙ってきた蓮花を、跳躍しながら避けるが、とあることに気づく。

 

(あれは、刀の柄糸!)

 

 明の指先に少しだけ黒く見えたものは、蓮花の柄糸だということだ。

 そして、六花が跳躍している間に、明はすぐに蓮花を手元へと戻し、追い打ちをかける。

 

「くっ!」

 

 六花は追い打ちをかけてくる明に応戦するが、剣撃の途中で明がエルボーを仕掛け、飛ばされてしまう。

 

「っ!」

 

 六花はすぐに動く。目に見えないほどの速さで、明の背後を取る。

 

「《閃光撃神(せんこうげきしん)》。」

「っ!?」

 

 明の心臓を狙うかのように、六花は伐刀絶技(ノウブルアーツ)で突き刺す。普通ならば避けることは叶わないはずの攻撃。

 しかし、明はそれを避けて見せた。

 

「何時の間にそれを使っていたんだい?」

「さっき居なくなったところで、だね。こうなってくるともう、短期決戦しかないし。」

 

 六花は、自分の最速の攻撃を避けることができた明に、なにかを察していた。

 しかし、まだ明のすべてを知っているわけでもない。それは、リリーたちも同じだ。無論、爛も知らない可能性がある。

 

「今のは・・・?」

「何をしたのでしょうか・・・。」

 

 リリー達のところでは疑問に包まれていた。最速であろう攻撃を避けることができたということに。

 

「あれは《戦の乙女よ、全てを蹂躙せよ(エレネクト・ヴァルキリー)》。一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》と同じように、一分間のブーストに近い。」

「!!」

 

 リリー達の後ろで、明のことを話したのは、紛れもなく爛であった。リリー達は、爛が来ないのかと心配していたが、驚いた表情をすると、ホッとした表情に変わった。

 

「少し用事を済ませてきただけだ。本来なら試合が始まる前に手短に終わらせるつもりだったんだけどな。」

 

 爛はそう言いながら、リリーの隣に座る。用事とは一体なんだったのか。そう聞こうとするリリー達だが、次の瞬間、目のハイライトを消した。

 

「ま・す・た・ぁ・♡」

「「「「「「・・・・・・。」」」」」」

 

 それは後ろから爛に抱きついてきた存在だ。

 

「・・・清姫・・・。」

「何ですか?」

「ここは公の場なんだ。場所をわきまえてくれ。それに、お前たちとは契約を切ったんだ。今はマスターじゃない。」

 

 普通ならば、サーヴァントと契約すると、右手の甲にとある赤い模様がつく。

 その模様は令呪と呼ばれるもので、それでサーヴァントに命令をすると、強制的にそうされることになる。つまり、サーヴァントを生かすも殺すも、契約したマスターの手の内なのだ。

 しかし、爛の右手の甲には令呪はついていない。つまり、サーヴァントとの契約はしていないのだ。

 

「そんなことより、今は六花と明の戦いだ。部屋で言いたいこととか聞くからな。」

 

 爛がそう言うと、リリー達は目のハイライトを元に戻した。

 

 六花と明の対決・・・決着は如何に!

 

 ーーー第53話へーーー

 

 




やっと六花が戦ったぁぁぁぁぁぁぁあぁ!

なんかこれだけで満足してしまいそうですw

次回、自分の気分次第では決着は分からないかも・・・!?(まぁそんなことは全然ないんですかねw)

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