「ふむ、まさか龍馬の息子に会いに行くとはな。龍馬も悲しんでいることだろう。孫が息子から虐待されていることをな。」
謎の男は海を渡りながら、そう呟いた。因みに、船は使っていない。
ならばどうやって渡っているのだろうか。
男の足元を見てもらいたい。
男は雷で足場を作り、それで移動しているのだ。
男が地に足を降ろす。場所は近い。男はそのまま何事もなく歩いていく。誰にも気づかれることなく。
「旦那様、こちらでございます。」
横から、女性の声が聞こえる。男は無言のまま頷き、その女性の方へと歩く。
「すまぬな。足となってもらって。」
「いえ、私の仕事はこれですから。何より、彼と彼女からのお願いですから。」
女性は車に乗り込み、男も同じように車に乗り込む。それを確認した女性は車を走らせる。
「それで、あの二人は順調に進んでおるのか?」
「ええ、二人とも、しっかりと駒を進めています。」
女性の言葉に、嬉しそうに頷く男。これほどの常識はずれな行動を起こせるのは、一人しかいないと言ってもいい。
「旦那様、そろそろでございます。」
「む、助かったな。であれば、奴の孫に会ってくるといい。奴の孫であれば、理解もしてくれるであろう。」
「了解しました。それでは、お気を付けて。」
「うむ。」
男はとあるところで降りると、女性に礼を言う。女性は車のドアを閉め、また車を走らせる。
男の目の前には、そびえ立つ大きなビル。いや、ビルというよりかは、連盟の建物と言った方が分かりやすい。
男は躊躇することなく、建物のドアを素手で破る。
それと同時に、やはり警報が鳴り響く。
「む、対応は速い方か。だが、儂相手では遅すぎるな。」
男は
「遅いな。」
男はそう呟くと、雷を刀に纏わせ、相手に向けて刀を振るうことで、斬撃を発生させ、攻撃してくる連盟の人間を斬っていく。
すると、連盟の人間が、撤退していく。それを見た男は、霊装を持ったまま、歩いていく。
「迎え撃つのであれば押しとおる。逃げるのであればこちらは何もせんがな。」
支部連盟の支部長である黒鉄厳は、ここに誰が来ているのかを知っていた。
「赤座、早急に撤退させろ。」
「しかし・・・。」
「聞こえなかったのか。撤退させろ。」
「わ、分かりました!」
赤座はすぐに厳の言葉を聞き、行動に移す。
厳は焦りを感じていた。連盟に来たのは、どんなことをしても、来ないとも言っていいほどの男。しかし、その男が来たということは、誰かの伝を使って、来たということ。
厳は、それが誰なのかを、分かってしまったからだ。黒鉄家とはなんの関係のないはずのところからであると。出来たとしていても、情報を送ることは不可能に等しいはずだと言うのにも関わらずに、だ。
男はとある一室のドアの前で立ち尽くしていた。それは、待つ人物が居たからだ。
「あぁ、やっぱり。早いもんですね、『
男を雅と呼ぶ少年───、爛は雅の方へと歩く。
雅・・・、『葛城雅』は第二次世界対戦にて、日本を勝戦国に導いた三人の英雄の一人。雷の力にて常識を逸した情報伝達などを駆使し、敵国をボコボコにしたとの記述がある。
因みに、雅が使う刀の霊装の名前は、妖刀『村雨』。爛のとは違い、実際の村雨である。
「そう言うお前の方こそ、早かったのではないか?」
「少し事情が変わりましてね。片付けなきゃ行けない優先度が上がったからですね。」
爛は霊装を持ったまま、雅の方に近づく。雅は、爛が持っている霊装が、ほとんど持つことのない霊装であることに気づいた。
「『閃飛燕』ではないか。『雷白鳥』は使わんのか?」
「こんなところで本当の霊装を持ったところで、対策なんて立てないに等しいです。何しろ、この刀は、幻想の刀ですから。」
爛は肩を竦めながら話す。爛の持っている『閃飛燕』と呼ばれた刀は、血が染まったかのように真っ赤な装飾しか塗られてしかいない。
「む、では行くか。」
「分かりました。」
雅と爛は雷を纏う。雅は黒い雷を纏い、爛は閃飛燕を持つことで発動できる赤い雷を纏う。
「では、先に行かせてもらいます。」
「うむ。」
爛は扉の前に立つと、刀を振るう。すると、目の前の扉が粉々に刻まれていた。
厳の方でも、扉が粉々になったことを見ていた。だが、そこから出てきたのが爛であることは、分かっていなかった。
「・・・・・・。」
爛は無言になりながら、厳の前に歩いていく。その後ろ隣には、雅が歩いていた。
「・・・そう言うことか・・・。」
爛がそう呟く。六花が足止めしていたはずの赤座が居ることに、何か気づいていた。
「・・・お前さんは分かっているのかの。」
「・・・・・・。」
「やっていることは、どうなっても自業自得の話だ。」
「えぇ、もちろんです。」
厳は既に分かっていた。一輝を魔導騎士にさせないように妨害するためには、邪魔となる者は始末しなければならない。特に、爛は人ではないから。人でないことを公表さえすれば、爛は嫌われ者になる。しかし、それだけで折れる爛でもない。だからこそ、妹である沙耶香の狙ったのだ。
・・・それも、幼いときに。それが逆に、自分達を追い詰めることなってしまったのだ。それに関して、まだ話すべきではない。
「であれば、何故ここに爛がいるのか、儂が居るのかを知っておるか?」
「・・・・・・。」
雅は厳に問うが、厳は黙ったまま何も言わない。
「分からんようじゃな。なら一言いってやろう。無能な人間はたくさんいるが・・・
お前さんはそれ以下の人間じゃ。」
「!!!」
雅の一言により、厳は驚いたような顔をした。今まで黒鉄家のために走ってきた厳の人生全てを否定するように、雅はそう言った。
「どういうことなのですか!?彼のどこが違うというのですか!?───!?」
赤座は雅に反論するが、それを遮るかのように、赤い刃が赤座を襲うのであった。
「黙ってろクソジジィ。今すぐ俺の前から消えろ。無愉快だ。吐き気がする。ヘドが出そうだ。今すぐに切り刻みたいぐらいにな。」
爛は容赦なく赤座に向けて、赤い刃を振り降ろす。赤座は怖じけ、すぐにここから逃げ出していった。
「チッ、逃げ出したか。まぁいい。後で殺るだけだ。」
爛は赤座の逃げていった方向を睨みながら、そう吐き捨てた。
「お前さんは、間違えている。それは絶対に言えることじゃ。人間性の欠片がないとも言える。親として、自分としての判断ではなく、家のことだけを考えた結果、それがこうなるのじゃ。お前さんは、過ちを繰り返しやっていたのじゃ。」
「・・・・・・。」
厳は黙ったまま、雅の話を聞いていた。こればかりは何も言えない。言い返すこともままならない。
「・・・家や連盟、秩序の為に人を殺すということは、感情があったとしても、無いに等しい。あったとしたら、どこかの感情が消え失せてるはずだ。・・・俺のようにな。」
爛は雅の言葉に付け足すように、厳にそう言った。
ここで引っ掛かるのは、爛の感情が消え失せていると言うことだ。どう考えても、感情はあるはずだ。現に、怒りや悲しみ、喜びなどは、見ていたはずなのだから。
「俺の場合、少しずつ欠けている。ゆっくりと、時間をかけて。」
爛は悲しむような顔をして話す。その話は、嘘ではなく、本当のことであると、爛の顔や言葉の重さから分かることだった。
「それにしても、家の名誉とかだけで一輝の夢を阻むのか?親子の喧嘩にしては、馬鹿馬鹿しいぞ。」
爛は厳のことを睨み付けながら問う。
「・・・どう言うことだ。」
厳は、爛のいっていることがまったく分からず、爛に問うような形となった。
「親子の喧嘩よりも馬鹿馬鹿しいのはな。なんで気にしなくてもいいことを、どれだけ重く見てるんだ?
親は自分の決めた道を子に行かせようとする。だけれども、子はそれを拒む。親の決めた道を歩くもんかってな。
そして、喧嘩になったら親子の殴り合いになるだけ。そんな、どこにでもあるような喧嘩を、お前は家が危ないとか思いながら行動を起こす。
その結果、人を殺そうとするはめになった。自分を追い詰めることにもなるんだよ。
どうだ?話を聞いて。こんなことをやっている自分達が恥ずかしいと思わないか?正直に言ってしまえば、これが世間にバレたら、逆に黒鉄家の名誉に傷がつくと思うぞ?一輝が騎士の世界で活躍するというのであれば、それは、黒鉄家の名誉にも繋がると、俺は思う。」
爛の言っていることに、反論なんて出来るわけがなかった。まったくもって、考え直してみれば、こんなことをやっている自分が恥ずかしいと思うほどに。
「・・・確かにそうだな・・・。俺は馬鹿馬鹿しいことをしていたのか・・・。」
厳は、爛の言ったことが分かったのか、そう呟いた。
爛はそれを聞くと、ニヤリとした笑みを浮かべ、口を開く。
「言ったな?厳。お~い、聞こえてたか?一輝。」
「!?」
爛の言った一言により、厳は驚いたような顔をした。
『あぁ、聞こえていたよ。爛。』
爛の肩に、一羽の烏が止まった。その烏の足には、カメラがついていたのだ。
爛は烏からそれを取り外す。
「・・・やっぱり、この烏は使いやすいな~。」
爛は窓を開け放ち、烏を外に飛び立たせた。そして、持ってきていたノートパソコンにカメラを接続させる。すると、目の前のパソコンの画面に、一輝とステラが映っていた。
「よ~し、見えてるか~?」
爛はパソコンに向けて話す。それが聞こえているのか、一輝とステラは返事をしながら、頷く。
爛はパソコンを厳に向ける。
「お前の言いたいことを、言えばいい。お前の考えが変わったのか、変わらなかったのか。お前の口で、一輝とステラに伝えるといい。ステラは一輝のルームメイト。一輝との関係はある。無いとは言わせないからな。」
爛はそう言うと、厳の部屋から出ていってしまう。雅も、なにも言わずに出ていく。
「・・・一輝・・・。」
『何?父さん。』
「すまなかったな・・・。」
『・・・!』
厳の謝罪の言葉に、一輝は驚いた表情をした。それもそうだろう。厳が一輝に謝ることなど、天地がひっくり返ってもないようなものであるからだ。
「どこにでもあるような喧嘩を、俺は勝手な解釈をして、お前を邪魔していた。」
『・・・・・・。』
「ただ、これからはしないことが言える。祝えるようなこともなにもできない。認められないこともあるかもしれない。・・・お前は、そんな親でいいのか?」
厳から言った言葉は、一輝との和解の言葉であった。黒鉄家の一人の人間として見てくれるというのであれば、それは、一輝にとっては嬉しいことでもある。ならば、彼の答えは一つだけだろう。
『うん。僕はそれで、構わないよ。』
彼の答えは、その一言だけであった。
ーーー第52話へーーー
原作でもあった厳と一輝の和解です!少しはやめ&新キャラ登場の匂いが・・・!?
次回は、なんと!六花と明が戦うのかも?