落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第51話~英雄と親子の和解~

「ふむ、まさか龍馬の息子に会いに行くとはな。龍馬も悲しんでいることだろう。孫が息子から虐待されていることをな。」

 

 謎の男は海を渡りながら、そう呟いた。因みに、船は使っていない。

 ならばどうやって渡っているのだろうか。

 男の足元を見てもらいたい。

 男は雷で足場を作り、それで移動しているのだ。

 男が地に足を降ろす。場所は近い。男はそのまま何事もなく歩いていく。誰にも気づかれることなく。

 

「旦那様、こちらでございます。」

 

 横から、女性の声が聞こえる。男は無言のまま頷き、その女性の方へと歩く。

 

「すまぬな。足となってもらって。」

「いえ、私の仕事はこれですから。何より、彼と彼女からのお願いですから。」

 

 女性は車に乗り込み、男も同じように車に乗り込む。それを確認した女性は車を走らせる。

 

「それで、あの二人は順調に進んでおるのか?」

「ええ、二人とも、しっかりと駒を進めています。」

 

 女性の言葉に、嬉しそうに頷く男。これほどの常識はずれな行動を起こせるのは、一人しかいないと言ってもいい。

 

「旦那様、そろそろでございます。」

「む、助かったな。であれば、奴の孫に会ってくるといい。奴の孫であれば、理解もしてくれるであろう。」

「了解しました。それでは、お気を付けて。」

「うむ。」

 

 男はとあるところで降りると、女性に礼を言う。女性は車のドアを閉め、また車を走らせる。

 男の目の前には、そびえ立つ大きなビル。いや、ビルというよりかは、連盟の建物と言った方が分かりやすい。

 男は躊躇することなく、建物のドアを素手で破る。

 それと同時に、やはり警報が鳴り響く。

 

「む、対応は速い方か。だが、儂相手では遅すぎるな。」

 

 男は固有霊装(デバイス)の刀を顕現すると、襲いかかってくる銃弾を、一瞬にして切り裂いていく。

 

「遅いな。」

 

 男はそう呟くと、雷を刀に纏わせ、相手に向けて刀を振るうことで、斬撃を発生させ、攻撃してくる連盟の人間を斬っていく。

 すると、連盟の人間が、撤退していく。それを見た男は、霊装を持ったまま、歩いていく。

 

「迎え撃つのであれば押しとおる。逃げるのであればこちらは何もせんがな。」

 

 

 

 

 

 

 

 支部連盟の支部長である黒鉄厳は、ここに誰が来ているのかを知っていた。

 

「赤座、早急に撤退させろ。」

「しかし・・・。」

「聞こえなかったのか。撤退させろ。」

「わ、分かりました!」

 

 赤座はすぐに厳の言葉を聞き、行動に移す。

 厳は焦りを感じていた。連盟に来たのは、どんなことをしても、来ないとも言っていいほどの男。しかし、その男が来たということは、誰かの伝を使って、来たということ。

 厳は、それが誰なのかを、分かってしまったからだ。黒鉄家とはなんの関係のないはずのところからであると。出来たとしていても、情報を送ることは不可能に等しいはずだと言うのにも関わらずに、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はとある一室のドアの前で立ち尽くしていた。それは、待つ人物が居たからだ。

 

「あぁ、やっぱり。早いもんですね、『(みやび)』さん。」

 

 男を雅と呼ぶ少年───、爛は雅の方へと歩く。

 雅・・・、『葛城雅』は第二次世界対戦にて、日本を勝戦国に導いた三人の英雄の一人。雷の力にて常識を逸した情報伝達などを駆使し、敵国をボコボコにしたとの記述がある。

 因みに、雅が使う刀の霊装の名前は、妖刀『村雨』。爛のとは違い、実際の村雨である。

 

「そう言うお前の方こそ、早かったのではないか?」

「少し事情が変わりましてね。片付けなきゃ行けない優先度が上がったからですね。」

 

 爛は霊装を持ったまま、雅の方に近づく。雅は、爛が持っている霊装が、ほとんど持つことのない霊装であることに気づいた。

 

「『閃飛燕』ではないか。『雷白鳥』は使わんのか?」

「こんなところで本当の霊装を持ったところで、対策なんて立てないに等しいです。何しろ、この刀は、幻想の刀ですから。」

 

 爛は肩を竦めながら話す。爛の持っている『閃飛燕』と呼ばれた刀は、血が染まったかのように真っ赤な装飾しか塗られてしかいない。

 赤火刀(せきかとう)閃飛燕(せんひえん)は、爛の本当の霊装である。が、刀本体の力でさえ危険視されているほどであり、その一振りで三大属性である、火・水・雷全てを操ることができる。幻想の刀であるが、過去に存在していた刀でもある。しかし、その代償は計り知れなく、ただ危険であることしか分からない。

 

「む、では行くか。」

「分かりました。」

 

 雅と爛は雷を纏う。雅は黒い雷を纏い、爛は閃飛燕を持つことで発動できる赤い雷を纏う。

 

「では、先に行かせてもらいます。」

「うむ。」

 

 爛は扉の前に立つと、刀を振るう。すると、目の前の扉が粉々に刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 厳の方でも、扉が粉々になったことを見ていた。だが、そこから出てきたのが爛であることは、分かっていなかった。

 

「・・・・・・。」

 

 爛は無言になりながら、厳の前に歩いていく。その後ろ隣には、雅が歩いていた。

 

「・・・そう言うことか・・・。」

 

 爛がそう呟く。六花が足止めしていたはずの赤座が居ることに、何か気づいていた。

 

「・・・お前さんは分かっているのかの。」

「・・・・・・。」

「やっていることは、どうなっても自業自得の話だ。」

「えぇ、もちろんです。」

 

 厳は既に分かっていた。一輝を魔導騎士にさせないように妨害するためには、邪魔となる者は始末しなければならない。特に、爛は人ではないから。人でないことを公表さえすれば、爛は嫌われ者になる。しかし、それだけで折れる爛でもない。だからこそ、妹である沙耶香の狙ったのだ。

 ・・・それも、幼いときに。それが逆に、自分達を追い詰めることなってしまったのだ。それに関して、まだ話すべきではない。

 

「であれば、何故ここに爛がいるのか、儂が居るのかを知っておるか?」

「・・・・・・。」

 

 雅は厳に問うが、厳は黙ったまま何も言わない。

 

「分からんようじゃな。なら一言いってやろう。無能な人間はたくさんいるが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前さんはそれ以下の人間じゃ。」

「!!!」

 

 雅の一言により、厳は驚いたような顔をした。今まで黒鉄家のために走ってきた厳の人生全てを否定するように、雅はそう言った。

 

「どういうことなのですか!?彼のどこが違うというのですか!?───!?」

 

 赤座は雅に反論するが、それを遮るかのように、赤い刃が赤座を襲うのであった。

 

「黙ってろクソジジィ。今すぐ俺の前から消えろ。無愉快だ。吐き気がする。ヘドが出そうだ。今すぐに切り刻みたいぐらいにな。」

 

 爛は容赦なく赤座に向けて、赤い刃を振り降ろす。赤座は怖じけ、すぐにここから逃げ出していった。

 

「チッ、逃げ出したか。まぁいい。後で殺るだけだ。」

 

 爛は赤座の逃げていった方向を睨みながら、そう吐き捨てた。

 

「お前さんは、間違えている。それは絶対に言えることじゃ。人間性の欠片がないとも言える。親として、自分としての判断ではなく、家のことだけを考えた結果、それがこうなるのじゃ。お前さんは、過ちを繰り返しやっていたのじゃ。」

「・・・・・・。」

 

 厳は黙ったまま、雅の話を聞いていた。こればかりは何も言えない。言い返すこともままならない。

 

「・・・家や連盟、秩序の為に人を殺すということは、感情があったとしても、無いに等しい。あったとしたら、どこかの感情が消え失せてるはずだ。・・・俺のようにな。」

 

 爛は雅の言葉に付け足すように、厳にそう言った。

 ここで引っ掛かるのは、爛の感情が消え失せていると言うことだ。どう考えても、感情はあるはずだ。現に、怒りや悲しみ、喜びなどは、見ていたはずなのだから。

 

「俺の場合、少しずつ欠けている。ゆっくりと、時間をかけて。」

 

 爛は悲しむような顔をして話す。その話は、嘘ではなく、本当のことであると、爛の顔や言葉の重さから分かることだった。

 

「それにしても、家の名誉とかだけで一輝の夢を阻むのか?親子の喧嘩にしては、馬鹿馬鹿しいぞ。」

 

 爛は厳のことを睨み付けながら問う。

 

「・・・どう言うことだ。」

 

 厳は、爛のいっていることがまったく分からず、爛に問うような形となった。

 

「親子の喧嘩よりも馬鹿馬鹿しいのはな。なんで気にしなくてもいいことを、どれだけ重く見てるんだ?

 親は自分の決めた道を子に行かせようとする。だけれども、子はそれを拒む。親の決めた道を歩くもんかってな。

 そして、喧嘩になったら親子の殴り合いになるだけ。そんな、どこにでもあるような喧嘩を、お前は家が危ないとか思いながら行動を起こす。

 その結果、人を殺そうとするはめになった。自分を追い詰めることにもなるんだよ。

 どうだ?話を聞いて。こんなことをやっている自分達が恥ずかしいと思わないか?正直に言ってしまえば、これが世間にバレたら、逆に黒鉄家の名誉に傷がつくと思うぞ?一輝が騎士の世界で活躍するというのであれば、それは、黒鉄家の名誉にも繋がると、俺は思う。」

 

 爛の言っていることに、反論なんて出来るわけがなかった。まったくもって、考え直してみれば、こんなことをやっている自分が恥ずかしいと思うほどに。

 

「・・・確かにそうだな・・・。俺は馬鹿馬鹿しいことをしていたのか・・・。」

 

 厳は、爛の言ったことが分かったのか、そう呟いた。

 爛はそれを聞くと、ニヤリとした笑みを浮かべ、口を開く。

 

「言ったな?厳。お~い、聞こえてたか?一輝。」

「!?」

 

 爛の言った一言により、厳は驚いたような顔をした。

 

『あぁ、聞こえていたよ。爛。』

 

 爛の肩に、一羽の烏が止まった。その烏の足には、カメラがついていたのだ。

 爛は烏からそれを取り外す。

 

「・・・やっぱり、この烏は使いやすいな~。」

 

 爛は窓を開け放ち、烏を外に飛び立たせた。そして、持ってきていたノートパソコンにカメラを接続させる。すると、目の前のパソコンの画面に、一輝とステラが映っていた。

 

「よ~し、見えてるか~?」

 

 爛はパソコンに向けて話す。それが聞こえているのか、一輝とステラは返事をしながら、頷く。

 爛はパソコンを厳に向ける。

 

「お前の言いたいことを、言えばいい。お前の考えが変わったのか、変わらなかったのか。お前の口で、一輝とステラに伝えるといい。ステラは一輝のルームメイト。一輝との関係はある。無いとは言わせないからな。」

 

 爛はそう言うと、厳の部屋から出ていってしまう。雅も、なにも言わずに出ていく。

 

「・・・一輝・・・。」

『何?父さん。』

「すまなかったな・・・。」

『・・・!』

 

 厳の謝罪の言葉に、一輝は驚いた表情をした。それもそうだろう。厳が一輝に謝ることなど、天地がひっくり返ってもないようなものであるからだ。

 

「どこにでもあるような喧嘩を、俺は勝手な解釈をして、お前を邪魔していた。」

『・・・・・・。』

「ただ、これからはしないことが言える。祝えるようなこともなにもできない。認められないこともあるかもしれない。・・・お前は、そんな親でいいのか?」

 

 厳から言った言葉は、一輝との和解の言葉であった。黒鉄家の一人の人間として見てくれるというのであれば、それは、一輝にとっては嬉しいことでもある。ならば、彼の答えは一つだけだろう。

 

『うん。僕はそれで、構わないよ。』

 

 彼の答えは、その一言だけであった。

 

 

 ーーー第52話へーーー

 

 




原作でもあった厳と一輝の和解です!少しはやめ&新キャラ登場の匂いが・・・!?

次回は、なんと!六花と明が戦うのかも?

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