───あの日も・・・、あの日も・・・、雨・・・。
一輝達は香と合流し、爛を探すために破軍学園を出る。
山の中に入ったところで、ポツリと雨が降り始めた。
「あれ、雨だ・・・。」
一輝がポツリと呟いたことで、それを聞いた六花、颯真、明、リリー、香は冷めたような顔をした。
「ど、どうしたの?」
あまりそんなことにならないような人柄の五人は冷めたような顔をすることはない。
すると、その瞬間───、
「うわああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!」
爛の叫び声が響いた。
その声を聞くと、誰よりも早く動き出したのは六花だった。
「「「爛!!」」」
「マスター!!」
「お兄ちゃん!!」
五人して同じ方向に走り出した。残りの四人は走り出した五人の跡を追うように走り出した。
爛の叫び声が聞こえたところに、六花達が急いで行くと、頭を抑えながら膝をついている爛の姿があった。
「爛!」
「爛・・・。くっ・・・!」
「爛、しっかりして!」
「マスター・・・。」
「お兄ちゃん!」
六花と香、明はすぐに爛に駆け寄るが、颯真とリリーだけその場に立ち尽くした。
颯真とリリーにとっては、ここまで苦しんでいる爛を見たこともなく、目を反らすことしかできなかった。
「~~~~~~~~~っ!!!」
爛は六花達を見て、怯え始めた。彼には一体何が見えているのか。その事を知っているのは本人の爛でさえ分かることはなかった。
「爛!」
「来るな!来ないでくれ!」
「っ!?」
爛から発された言葉は耳を疑うことであった。何かに怯え、罪悪感や別の感情を持っていることに近い。
この時、誰も気づくことのなかったもの。爛は血のような目をし、血のような深紅の涙を流していることに。
「爛!落ち着いて!僕だよ?分かる?爛!」
「来ないでくれ!」
爛は木に背後を阻まれ、後ずさることなどができなくなった。六花は爛の行動に疑問を持ちながらも、爛に語りかける。
「分かる?僕のこと。なにもしないから。落ち着いて。」
六花はそのまま怯えている爛を抱き締めた。すると、震えていた爛の体は次第に治まっていった。
「六・・・花・・・?」
爛はそう呟くと、六花の腕の中で眠りについた。
「寝ちゃったか・・・。」
「どういうことなんだ?爛がここまで取り乱すようなことは・・・。」
「何か、知ってることはないんですか?」
リリーは明と香に尋ねる。爛のことを近くで見ている姉と妹ならば、爛のことをよく知っているだろうと思ったからだ。
リリーに聞かれた二人は顔を俯かせながら話した。
「爛は・・・。」
「雨の日だと、前の出来事がフラッシュバックするの。」
「颯真君達なら分かると思うけど、爛は幼いときに人が死んでいくのを何度も目にしてたの。それも、大切な貴方達の家族が死んでいくところを。」
「・・・・・・。」
「え・・・?」
爛の過去を知らない一輝達は知っていることではない。ただ、それを知っている六花、颯真、リリーは黙ることしかできなかった。
「お兄ちゃんはみんなを助けようとした。でも、助けられたのは六花ちゃん達だけ。」
「一体、誰がこんなことを・・・。」
明は悲しみに濡れている顔で爛の過去を話していく。一輝達は何故こんなことになっていったのかと思うしかなかった。そして、六花の口から発せられたことは、爛が憎んでいるものであった。
「
「そんな・・・。」
爛が解放軍を憎んでいるのは、妹である沙耶香が死んだからこそ憎んでいるものだと思っていた一輝達は、この話を聞き、爛が本当に解放軍を憎んでいる理由は、六花達の家族を守ることもできずに、目の前で死んでいったのを見てしまったからこそ、解放軍を憎んでいるのだ。
それも・・・、全て雨の日に・・・。
「さく・・・ら・・・。」
「爛?」
「まさか、『
「誰?」
「桜は宮坂家にきた養子なの。敷波家は元々、魔術師の家系なんだけど、彼女の家のみんなも、解放軍に殺されてる。それを、爛は見ているの。」
敷波家と宮坂家は親戚関係であり、交友関係も良いため、出会う回数が多いのだ。因みに、桜の年齢は爛の一つ下のため、十五であり、爛のことを先輩と呼び、慕っている。
「とにかく、爛を運ばないと・・・。」
六花は爛の横抱きで運び始める。それを見た一輝達は驚いた表情をした。
「ちょっ!ア、アンタ・・・!何してるのか分かってるの!?」
「え?爛をお姫様抱っこしてるけど?」
「よくそんなこと言えましたね・・・。」
「六花ちゃんばっかりズルいよ!私にもさせてよ~!」
「爛だったら僕に頼んでる!妹の君に頼むはずがない!」
「ま~た始まった・・・。そこに桜が入ったら・・・。」
六花の行動に全員が驚き、六花に言うステラと珠雫。六花の行動を羨ましそうにする明がいた。それを見ていた香はここに桜がいたらと頭を抑えるのであった。
爛は夢の中にいた。爛から見えている街並みは赤く、夕焼けに照らされているような景色であった。
「────────────っ。」
爛がふと横を見たとき、見慣れた少女が横を歩いていった。
「────────────?」
(声が・・・、でない?)
爛はその少女の名前を言おうとするのだが、口を開けることは出来ても、声を発することができない。爛は仕方なく、少女の跡を追った。
(早い・・・。走ってるのに、全然追い付けない・・・。大股で歩いて・・・あ~、ないね。)
爛は走っているのにも関わらず、少女との距離はいっこうに縮まらない。しかも、距離は少しずつ開いていっている。
そして、少女は爛の方を向く。
(あ、やっと気づいてくれ・・・、ん?)
爛は少し気になるところがあった。それは少女の瞳の色。その少女の瞳は少し薄い赤みがかった色をしているのに、今回ばかりは、その色が真っ赤に染まっていたのであった。
(何かが可笑しい・・・。彼女はそんな目をしてない。)
爛がそう思っていると、少女は小悪魔のような笑みを浮かべ───、
「やっと、来てくれたんですね。先輩。」
爛の側まで行き、爛の耳元でそう呟いた。今、爛は動くことができなくなっている。何故かはわからない。だが、動くことができなくなっているのは、この少女の力であることは間違いない。
(桜・・・?)
少女───、桜は爛のことを抱き締めると、爛の首筋を舐め始めた。
(い、一体何を・・・?)
快感を誤魔化すこともできない爛の体は、桜の支配圏内。少しでも気を緩めたりしたら、心までもが桜の支配圏内になる。
すると、桜は爛の首筋を丁寧に舐めているのを止めると、爛の首筋に噛みついた。
「─────────────っ!」
桜の歯が爛の皮膚を破り、チャクチャクといわせながら、爛の血を飲んでいく。
しかし、痛みではないなにかが爛を襲っていた。痛みよりも強く感じた他のもの。それは快感。昔から桜に血を吸われ続けていたため、敏感になっていたのだ。
「ん、美味しい・・・。先輩の、美味しいです。」
言えることができないはずの状態で、爛の耳には桜の声が聞こえていた。
「─────────────。」
声がでない。それより、首から伝わる快感に爛の感覚はおかしくなっていた。溶けるような感覚。首が無いように感じてしまう。
もう爛の血はない。しかし、それなのにも関わらず、桜は爛の血を飲もうとしていた。
「───もうなくなったんですか?」
首から顔を離した桜は爛の顔を見ながらそう言った。口から少し流れ出ている赤い液体は爛の血。
「先輩、夜になったら、二人して体を求め愛し合いましょう・・・?」
(・・・・・・え?本気で言ってるのか?いや、桜だし本気で言ってるわけないよな。)
爛は桜が耳元で呟いたことに驚きが隠せず、驚いた表情をする。それを見た桜は、爛の頬を撫でると、また爛の首筋に噛みついた。
「─────────────!」
(いつまでやるつもりなんだ?流石に、目眩がしてくる・・・。)
血を吸われ続けたため、貧血による目眩が爛を襲う。もう爛の血はほとんどないと言うのにも関わらず、桜は喉を鳴らせていく。
「ぷはぁ・・・。最後まで、味わい尽くしますね。先輩。」
爛はその声を聞くと共に、意識を無くした。
「っ!?」
爛が目を覚ました先には、白い天井。薬品の匂いが鼻を擽る。爛の体を伝う汗は冷たく、何かを思わせるような汗でもあった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。」
爛は汗だくになった体を拭こうと、ベットから出ようとするのだが、不意に誰かの寝息が聞こえた。
「?」
「すぅ、すぅ、すぅ・・・。」
爛がベットの左側を見ると、そこで寝ている六花の姿があった。爛は微笑むと、六花の頭を撫で、体を拭くためにベットから出る。
「・・・何だったんだ・・・。桜が居たが・・・。」
爛は先程の夢に出てきた桜のことを呟いた。そしてふと、窓の方を見てみると、見覚えのある姿が見えた。
「桜・・・?」
爛はそのまま破軍学園の外に出た。窓から見ても分かったことなのだが、夜になっていたのだ。
爛は桜を追って、破軍学園から出た。
「桜!」
「先・・・輩・・・?」
ーーー第45話IFへーーー
諸事情により、英雄王、及び颯真の覚醒の前兆はまだ先になります。
ということで、新キャラの桜です!名字のところは、海軍艦艇の駆逐艦『敷波』から取らせていただきました!
何で敷波なのかは特に理由はありません。なので、詮索は不要です。
今回はちょっと短め。
次回は~、桜との出会いの後。再開した珠雫との戦い・・・は多分通常ルートと同じなので次の次は通常ルートの関係であるかないかって感じです。
それでは、次回をお楽しみに!