珠雫との戦いが来てしまったとき、爛は珠雫と戦うべきなのかと考えてしまう。そして、珠雫との戦いのとき、爛は珠雫を斬ることができるのか。それとも、ここで辞退するのか。その二つの考えはどちらも爛の心を揺さぶっていた。
第40話~迷いの剣~
珠雫との選抜戦が当たってしまった。それ以降、爛の目には生気が宿っていなかった。
何故───?
その理由は他でもなく、分かるはずのものだった。
そう、つまり、珠雫と
今の爛には、その駆け引きを楽しもうとする様子ではなく、寧ろそれを恨むような形になっていた。
そして、珠雫との戦いの前、爛は外にいた。生気を宿さずに、ベンチに座っていた。
「・・・・・・」
爛は何も言わずに、ただただ空を眺めていた。何一つ怪しくもない空を。羨ましそうに、爛は見ていた。
珠雫との戦いの時間が迫っているのを見ると、爛はベンチから立ち上がり、そのまま歩き出す。
「・・・・・・」
背後から何かを感じ取った爛は、後ろを振り返り、
すると、爛の目の前に白銀の剣が現れた。爛はそれを軽く流すと、あることを考える。
(今のは・・・。いや、彼女があんなはずがない。)
しかし、すぐにその考えを否定する。
どこからともなく襲いかかる攻撃を、見えているかのように避けていく爛。だが、避けているだけでは、珠雫との戦いの時間に間に合わなくなる。つまり、ここから離れるか、それとも一瞬にして相手の意識を刈り取るのか。
爛は離れる方を選び、霊装を解除した途端、攻撃の量が増えていく。
「チッ・・・。」
爛は舌打ちをしつつも、攻撃を避けていく。しかし、次に避けた攻撃はその次の攻撃を避けることができない。霊装の権限時間を含めると、防ぐことも叶わない。つまり、攻撃を受けることしかなかった。
「くっ・・・。」
爛の左腕が斬られていく。血を吹き出しながらも、後ろに下がっていき、魔力で治療をする。ただ、魔力で治療したとはいえ、応急措置。つまり、珠雫との戦いが終われば、腕の治療をしなければならない。
爛はそんなことを考えつつ、追手を警戒して、破軍の中へと入っていった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
腕を斬られたことのダメージが大きいのか、荒い息をする爛。しかし、すぐ後には珠雫との戦いが控えている。すぐに待機室に向かわなければならない。
待機室に向かう、すぐに第十四回戦が始まる。休んでいる暇などはなかった。
「・・・考えたくもない・・・。」
爛はその一言と共に、ゲートの方へと向かう。
爛達が戦う場所に来ていた観客はほぼ全員だ。それもそうだろう。爛は最強の一角、愛華を下したのだからだ。つまり、Bランク相当の力の持ち主。それに対する珠雫も同じようにBランク。激戦が期待されることでもある。
『さぁ、やって来ました!注目の一戦!選抜戦、第十四回戦目の第十二戦目。誰もが望んでいるであろう戦いの一つ!その戦いが、今!ここで、行われようとしています!実況は月夜見三日月。解説は・・・あれ?どちら様ですか?』
月夜見が見た先には、ここに来るはずの寧々ではなく、香や黒乃でもない女性だった。
『どうも。理事長ちゃんから言われるまま、解説の代理を任された、『葛城
爽やかなスマイルと共に自己紹介をしたのは、六花の姉である椿姫。KOKリーグではAランクにて、日本人初の一位を獲得した
「お姉ちゃん来てたんだ・・・。」
「ツバキさんまで!?」
「ステラ、はしゃぎすぎだ。」
六花は驚きながらそう言い、ステラはまたもや有名な伐刀者と会えたことにより、興奮していたが、颯真がステラに興奮しすぎだと言う。
「でも、どうしてここに椿姫さんが来てるんだろうね?」
「さぁ?また爛にでも聞いてみたらどうかしら?」
「そうだね。また、爛だけが知ってそうだしね。」
驚いていない方は、どうして椿姫がここに来ているのかを考えていた。
そして、各ゲートの扉が開かれ、選手の説明に入る。
『さぁ、赤ゲートからやって来たのは、あの『
珠雫が姿を現す。その目には決意を決めてきた目だった。自分が斬られる覚悟も、斬る覚悟もしてきたと見てとれる。
「珠雫は、覚悟してきたんだね。」
「そうみたいだな。後は爛だが・・・。」
「明ちゃん?」
珠雫の様子を見て、最高のコンディションで来て居るということに、一輝と颯真は期待できると思ったが、六花が明の様子がおかしいことに気づく。明は顔を俯かせ、悲しい表情をしていたからだ。
(お兄ちゃん・・・、大丈夫だから、絶対に来て・・・。)
明は爛のことを心配しており、爛がこの戦いの場へと来るのかどうか、不安だったのだ。
しかし、実況はそのまま青ゲートの解説に入る。
『次は青ゲートから来た選手の登場で───、ってあぁ!』
実況席からは驚きの声が上がる。何事かと、実況席の方を見ると、月夜見は少し震えながら誰かを見ていた。月夜見が見ていた先には、左腕を失った爛が、血をポタポタと溢しながら歩いてくる姿だった。
これには観客席にいる生徒達も、一輝達も、そして、爛の相手である珠雫も驚きの表情をしていた。
『こ、これは・・・!』
「いいんだ。」
試合を中断しようとしたのを、爛は声で止める。何かの感情が含まれた声で言った。どんな感情かは表すことが難しい。悲しいような、寂しいような、それでも、何となく楽しそうな、嬉しそうな表情だった。
「この状態でいい。続けてくれ。」
爛は俯いたまま、そう言った。つまり、ハンデを背負った状態で、しかも剣術家にとっては大事な腕を失った状態で戦うというのは相当不利なものだ。
「爛さん!いくら貴方でもその状態では───」
「だから、いいんだ。珠雫。」
珠雫はこれを中断するべきだと考えている。確かに、この状態であれば、いくつか珠雫は有利だ。しかし、それは自分自身の心が許さなかった。だが、それも爛は止めた。何故なのか。何故あそこまで止めようとするのだろうか。
「止めなくていい。俺がこれを言ったのは、一つだけ、ある思いがあったからだ。」
爛は珠雫に優しい微笑みを見せると、珠雫だけにしか聞こえない声で───
「─────────────。」
珠雫にそう言った。そう、珠雫だけに。珠雫は言葉を失った。彼の言った言葉は負けてもいいと言っているようなものだったからだ。それとも、幻想形態で戦うつもりなのか。
「・・・分かりました。」
「あぁ、すまない・・・。こんな俺のわがままを聞いてくれて。」
「良いんです。お兄様が認めた人なのですから。」
「そんなことを言ってくれてありがとうな。・・・じゃあ、続けてくれ。頼むよ。」
この時、誰もが爛の変化に気づくことはなかった。爛の左目が少しずつ、赤くなっていることに・・・。
『分かりました。ただし、宮坂さん。左腕の傷口が開いたりしたら、すぐに中止しますからね。』
「悪いな・・・、助かるよ。」
(え・・・?何だったの、今の・・・?)
爛から、圧倒的な何かを感じ取った。ただ分かることは、彼が意図的に放ったものではないということ。無意識の内に放っているとしたのなら、何かが爛の身に起きようとしているのだ。
その違和感を、爛本人は感じ取っていた。
(何だ・・・?この感覚は・・・?あの時とは違う・・・、この感覚は・・・?)
自分を染め上げていくような感覚。何かに取り込まれる感覚が、爛を襲った。
『それでは、十二戦目を開始します!』
「飛沫け。
珠雫は小太刀を顕現し、逆手で持ち、構える。
「闇よ、光を侵食せよ。
爛は真っ黒な装飾が施されている刀・・・、雷黒鳥を顕現する。
『
そして、戦いが始まった。
戦いが始まったものの、どちらも動く気配はない。相手を睨むように観察しているのだ。
『っと・・・、どうしたことでしょうか。両者一歩も動きません。』
『互いに七星剣王クラスの実力者ですからね。下手に動いてしまえば、あっというまに倒されるでしょう。』
爛が踏み込もうとした瞬間に、珠雫もすぐさま動く。
「凍てつけ、〈
珠雫は
「っ!」
足が滑る───。爛が見た先には、足元が凍っていた。しかし、対処法を考える隙も珠雫ならば与えるはずもなく、爛の目の前に、頭一つすっぽりと入る水の塊が目に入る。
(珠雫の水は雷が通用しないことは知ってる・・・。だけどな・・・。)
爛はそのまま、珠雫が飛びしてきた水の塊に、雷黒鳥を振るう。雷黒鳥が水の塊に当たる瞬間、水が蒸発していく。
「ん?」
爛は自分の足が動かないことに気づく。自分の足が珠雫の作る氷に捕まえられてしまったのだ。
(流石、珠雫だな。戦略はたててあったか。)
爛はそう思うと、雷黒鳥を構えつつ、雷の力を足に集中させる。すると、氷が徐々に溶けていき、動ける状態になった。
すると、この戦いを見ていた一輝達は二人の戦いを見ていた。
「互角・・・?」
「・・・・・・」
(互角か・・・。)
ステラは少し疑問になりながらも、爛と珠雫との差はなく、互角に思えていた。無論、一輝でさえ、互角とも思っていた。爛が左腕を失った状態での戦いは、爛の戦闘能力を下げることでもある。
そして、別のところで見ていた刀華達、生徒会組は二人の戦いを見ながら話していた。
「互角だね。手を抜いている状態では。」
「そうですわね。しかし・・・。」
「うん。爛君はまだ本気でもない。ましてや、こんなところで本気になることはまずないからね。」
「となると・・・、互角じゃなくて、大差がもうついているってわけだね。」
「そろっと動いてくると思うよ。完璧なものが、あの子を襲うことになるから・・・。」
ーーー第41話へーーー
珠雫戦です!まだ続きがありますが。アニメとかはすごい迫力でしたね!見たときなんかはスゲェ!となりましたが。
珠雫の霊装を顕現するところのモーションはプリキュアとほぼ同じと思った方は、私だけではないはずだ。
ということで、次回をお楽しみに!