落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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今回のあらすじ
倉敷との戦いで、勝利を取った爛。無事に道場も返してもらい、爛のことを労る六花達。すると、爛の生徒手帳からは第十四回戦目の相手を知らせるメールが来ており、それは、爛を苦痛へと誘う戦いの鐘だった。




第39話~取り戻した思い出の場所~

「どうして、宮坂君が・・・。」

 

 爛が綾辻一刀流の最終奥義である《天衣無縫(てんいむほう)》を放つことができたのか、謎でしかなかった。すると、爛が口を開く。

 

「ただの真似事だ。」

「え?」

 

 真似事なのか、絢瀬から見れば完璧に近いほどのものだった。なのにこれが、真似事でしかないのが驚きなのだ。

 

「ホント、ただの真似事だし勝手に編み出したんだけどね。綾辻一刀流の根本を絢瀬の動きで見て解いただけなんだ。」

「何、一輝の《完全掌握(パーフェクトビジョン)》みたいなのは。」

「まぁまぁ、六花さんも分かろうと思えば分かりますから。」

「それ、フォローになってないような・・・。」

 

 爛が言ったことは、ほぼ一輝の戦術に近い。ただ、精度や技術を重ね合わせると一輝の方が上だ。

 

「ガアァァァァァァ!」

「ッ!」

 

 倉敷は倒れることなく、雄叫びをあげながら、立ち上がる。倒れるつもりはないのだろう。荒い息をしながら、爛の方を向く。

 

「・・・テメェの名前は?」

「・・・宮坂爛。」

「ミヤザカ・・・。」

 

 倉敷は霊装を解除すると、道場の出口に向かっていく。

 

「この続きは七星剣武祭でだ。行くぞ。」

「あ、待ってくれよクラウド!」

 

 倉敷は道場を出ようとする。道場は綾辻の元に返ってきた。それに、倉敷の目的も達成された。・・・もう、用はなくなったと考えていいだろう。

 

「クラウド!」

「クラウドが倒れた!」

「救急車を呼べ!」

 

 道場から倉敷の姿も消えたところで、倉敷の取り巻きが叫んでいる。

 

「弱ってるところは人に見せない・・・、か。」

「それをいったら、爛もでしょ。」

「うわっ。」

 

 爛は倉敷のことを言うと、六花から足払いを受けた。避けることはしなかったため、尻餅をついた。しかし、動けないことは爛も同じだ。

 

「まったく、勝てる見込みがあるのなら、すぐにやればよかったのに。」

「無茶言わないでくれ。元々は海斗さんの剣技。そう易々とは編み出すことはできない。それに、ぶっつけ本番だったからな。そのままやってたら八つ裂きにされてたんだ。」

 

 確かにそうだ。爛が使えているのなら、すぐに使っているはずだ。しかし、ただの真似事でここまで至っていること事態が凄いことだ。

 

「綾辻さん、爛の手当を頼めるかな?こういうのは、道場の娘さんの方ができるだろうしね。」

「あ、うん。わかった。」

「僕は学園の方から車を手配してもらうよう連絡してくるから。」

「あぁ、悪い、助かる。」

 

 六花はそう言い、道場から出ていってしまった。

 

「マスター、私も六花さんのところにいきます。」

「そうか、わかった。」

 

 リリーも六花の跡を追うように、道場から出ていってしまった。道場の中にいるのは爛と絢瀬のみ。絢瀬は爛の傷を手当しながら、涙を流していた。

 

「ごめんね、宮坂君。」

「いいんだ。絢瀬が謝るようなことじゃないだろ?」

「でも・・・。」

 

 絢瀬はそれは違うと爛に言おうと、俯かせていた顔を上げると、爛が傷ついた体で絢瀬を優しく抱き締めた。

 

「謝らなくていい。絢瀬はこれを今まで、ずっと自分の中に隠してたんだろ?海斗さんや道場のみんなを失ってから、ずっと。でももういいじゃないか。こうして道場も返ってきた。なら、もう固めていた物を・・・、溶かしてもいいだろ?」

 

 その声が、絢瀬の氷のように固まってしまった心を溶かしていった。何かが溢れるように絢瀬も爛を抱き締め、泣き出した。爛は絢瀬を抱き締めながら、頭を優しく撫で、絢瀬の傍に居た。

 絢瀬は泣き止むと、爛を抱き締めたまま、眠ってしまった。爛は自分の体に包帯を巻くと、絢瀬を頭を自分の膝の上にのせ、撫でていた。

 

「爛、連絡してきた・・・よ?」

「マスター?」

「ん?どうした?」

 

 六花とリリーが見た先にあるのは、絢瀬に膝枕をしている爛の姿。二人にとっては考え物だ。

 

「何を・・・、しているの?」

「何って、絢瀬が泣いて寝ちゃったから膝枕をしてるんだけど?」

「する必要性は?」

「あるだろ。絢瀬はこれまでのことをずっと耐えてきた。しかも二年間。なら、労らないとじゃないのか?」

 

 爛の言っていることは正しい。それを聞いた六花とリリーはため息をつく。

 

「今回だけだからね。」

「後でしてくださいね。」

「お前ら二人になら、頼んでくれたらやってやるぞ?」

 

 爛はそう言うと、ニカッと二人に笑顔を見せた。すると、二人は頬を赤くする。

 

(どこで顔を赤くする要素があるんだか・・・。)

 

 爛は二人を見ると、苦笑いをしながらそう思った。すると、道場の外から走ってくる音が聞こえてくる。迎えだろうか。

 

「爛ーー!!大丈夫!?」

 

 そう思っていると、爛のところまで一気に駆け寄り、爛に飛び付いて、抱き締めてきた。

 

「香姉?香姉が迎えに来たのか?」

「そうだよ!爛が斬られたって黒乃ちゃんが言うから心配したんだよ!」

「そんな心配ならなくても・・・。取り合えず、退いてくれ。絢瀬に膝枕してたんだから。」

「ご、ごめん。」

 

 爛が苦笑いをしながら香にそう言うと、香は謝りながら爛から離れていなかった。幸い、絢瀬は頭を打つなどもなく、まだ眠っていた。

 

「よし、戻るか。」

「でも、綾辻さんどうするの?」

「それは簡単な話だ。」

 

 爛は立ち上がると、絢瀬のところのに行き───、

 

「こうやって運ぶ。」

「「・・・・・・」」

 

 絢瀬をお姫様だっこの状態にした。すると、二人の目のハイライトが一瞬にして消え去っていった。爛はその事に内心冷や冷やしながらも、学園に戻っていった。

 

──────────────────────

 

 そして、一週間たったある日。絢瀬と研鑽していた場所のベンチに座っている爛達。すると、六花が呟く。

 

「綾辻さん、自分から不正をしたことを実行委員会に言いにいったらしいね。」

「あぁ、選抜戦のエントリーは抹消。十日間の授業参加を禁止の処分。まぁ、俺がいたから、まだこの程度だったんだろう。」

「そうですね・・・。それでも、絢瀬さんは・・・、」

「あぁ、前を向いて歩いていけるだろう。」

 

 もう大丈夫だろう。後は海斗のことがある。すると、爛の生徒手帳に電話の着信がある。

 

「ん?絢瀬?」

「え、絢瀬さんから?」

 

 爛が電話に出ると、聞きなれない声が聞こえてくる。

 

『宮坂爛君かい?話は絢瀬から聞いているよ。早速絢瀬と結婚して道場を継いで』

 

 言葉の途中で何故かものすごい打撃音が聞こえたのは気のせいだろうか。声的に海斗のものであると爛は気づく。

 

『ごめん、宮坂君!父さんが変なこと言ってしまって・・・。』

「いや、ダイジョブ。ただ、オドロイタダケダカラ。」

「マスター?片言になってますよ?」

 

 いきなりの出来事に流石の爛も驚いたのだろう。片言で絢瀬に話していた。

 

『二年ぶりに起きたと思ったら、いきなり宮坂君に何してるのさ!!』

 

 電話から父と娘の喧嘩が。いや、喧嘩と言うより絢瀬は照れ隠しなのだろう。

 

『はははっ。そんな照れ隠ししなくてもいいのだぞ?お前が宮坂君の話をしているときの顔は母さんが父さんにのろけていた頃の顔にそっくりだからな!』

『うわぁああ!!うわぁぁああぁあぁ!!そんなことじゃなくて宮坂君に礼を言うために電話をーーー!!』

 

 なんだこの言い合い。海斗が勝っているように感じてしまう。と言うか、最悪の場合実力行使が来るかもしれない。

 

『好きなら好きでいいじゃないか。父さんだったら二人の仲人も───』

『もう二年くらい寝てろーーーーーー!!!』

『ぐふ・・・、・・・かは・・・。』

 

 ホントに実力行使だった。海斗をベットに倒れさせる姿は赤面しながらのものだろう。よくそんなことができると爛は思ってしまう。

 

『ご、ごめんね宮坂君!ありがとう!それじゃ、さっきのことは忘れてね!』

 

 そう言うと、電話を絢瀬は切ってしまった。すると、爛は生徒手帳をしまうと、遠い目しながら呟いた。

 

「何だろう・・・。意外と海斗さんは生きてたんじゃないのか・・・?そんな感じに思えてきたぞ・・・。」

「奇遇だね、僕も同じことを思ってた。」

「そうですね・・・。」

 

 六花もリリーも同じように遠い目をしながら話していた。

 

「それにしても、まさか一輝達が来ないなんてな。」

「そうだね。・・・やっぱり、人数がいないから少し寂しいね。」

「珠雫さん達も居ませんしね。」

「そうだな・・・。」

 

 三人が会話していると、爛の生徒手帳がまた鳴り始めた。爛が生徒手帳を開くと、そこには選抜戦の件が来ていた。そして、爛の第十四回戦目の相手は───。

 

「宮坂爛様、選抜戦第十四回戦は一年四組、黒鉄珠雫様に決定しました。」

「嘘・・・だろ・・・?」

 

 爛は目を疑った。いや、疑うしかなかった。爛にとって明の次に当たりたくなかった相手、珠雫が相手になっていた。

 それはもちろん、一輝達のところにも来ていた。一輝達のところでは一輝の実力に物を言う連中も居なくなり、平穏な日々を過ごしていたのだが・・・。

 

「そんな・・・、珠雫が・・・、爛と・・・?」

「ウソ・・・。」

「本当よ。今頃、爛のところでもこうなってると思うわ。何よりも当たりたくなかった一人でもあるもの。」

 

 一輝とステラも疑っていた。爛が珠雫と当たることに。つまり珠雫は、全力で爛を潰しにかかる。爛は珠雫を斬ることができるのか、分かるというわけではない。だが、斬ることを躊躇うことはあるだろう。そう考えるしかなかった。そして、珠雫が負けてしまうことでもあると、予言しているようでもあった。何せ、破軍学園の最強を破ることができるほどの力を持っているからだ。

 ここは爛達と同時刻。ここではある一人の少女が大人数を相手に戦っていた。普通ならば大人数の方が勝つはずだ。しかし───、

 

「嘘だろ・・・。本当に勝っちまった・・・。」

 

 訓練場に居る破軍の生徒を相手に、五十人VS一人と言う戦いをしてくれと言ってきたのだ。それにはほんの少し、灸を据えようとしていただけだった。しかし、結果は全滅。たった一人に、水使いの一人に誰も触れることも攻撃することも叶わなかった。ただ、立っているのは『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』の妹『深海の魔女(ローレライ)』・黒鉄珠雫ただ一人。

 

「全然足りないわ・・・。」

 

 ここのフィールドに立っている一人の魔女、珠雫はそう呟いた。正直、珠雫は失望していた。破軍はこんなにも弱くなっているのだろうかと。それを言えるくらい、破軍は弱者のたまり場となっていた。足りるはずもない。

 

「でも、貴方は違うわよね・・・。」

 

 珠雫が生徒手帳のメールを見た先には、対戦相手の知らせ。

 

「黒鉄珠雫様、選抜戦第十四回戦は一年一組、宮坂爛様に決定しました。」

 

 そう、爛が相手。最強を破った新たな破軍の最強がこの魔女の相手なのだ。つまり、珠雫とっても、全力を出すことができる相手でもある。

 

(こう言うのは、お兄様譲りなのかもしれないわね・・・。)

 

 ようやくだった。ようやく、全力を出せる。

 ようやく───壊すことのできる相手が居る。それも、目の前に。

 ここは冷たいはずなのに、体からの熱が止まらない。全力で戦えることのできる相手が居ると言うことに、興奮が止まる気配がない。

 

「ふふふ、あはははは。」

 

 全力で戦える相手、そして興奮の熱が、彼女を次なる戦いへと進んでいく。

 

 ーーー新章・第40話へーーー

 

 




はい、第39話終了でござんす!

そして、次回!新章突入!
爛と珠雫の戦いです!いやぁ、早いなにしてもw

それと報告をば、4月から更新ペースがぐぐぐと結構下がります。正に一ヶ月に1話のスピードで。更新ペースはなるべく早くするので次回を首を長くしてお待ちください!

それでは、次回をお楽しみに!


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