落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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今回のあらすじ。
倉敷の《神速反射(マージナルカウンター)》を遠距離攻撃ではなく、剣技で攻略すると宣言した爛。彼が《神速反射》を攻略するために使った剣技とは。




第38話~剣士殺しの弱点、そして・・・~

「ハハッ!そいつぁ面白ぇ。だがな、折角答え合わせをしたんだ。ソッコーぶっ倒れんじゃねぇぞ!《蛇咬(へびがみ)》!」

 

 倉敷は爛に容赦のない突きの攻撃をする。しかし、《神速反射(マージナルカウンター)》の効果もあり、同時に二連続の攻撃となっていた。

 

「二連攻撃!?」

 

 六花は倉敷の出した突きのスピードの速さに驚き、爛のことを心配する。爛は後ろに下がりながら、防ぐこともせず、ステップだけで倉敷の突きの攻撃を軽々と避けていく。

 

「遅い遅い!」

 

 爛はそこから、一瞬の隙をつくことで、倉敷の横に動きだし、刻雨(こくさめ)を振るう。

 

「残念!まだまだ行くぞ!」

 

 倉敷はそれを驚異的な速さで避け、同じように《蛇咬》を爛に繰り出す。

 

「さて・・・、そろそろやるとするか・・・。」

 

 爛は倉敷の攻撃を避けながらそう呟くと、一気に踏み出す。すると、爛の姿が一瞬にして消えていく。

 

「何っ!?」

 

 倉敷はあの連撃のなか、爛が一瞬にして姿を消したことに驚く。そして、爛が姿を消したその後、倉敷の背中が斬られる。

 

「ガッ・・・!?」

 

 倉敷は突然背中から斬られ、後ろを向いて爛を探すが、爛はすでにそこには居なかった。

 

(もういねぇだと・・・!?)

 

 そして、倉敷の体は次から次へと切り刻まれていく。音も聞こえず、姿も見えない状態で、どこからともなく斬られていくことは、剣士としては恥と同じになる。動いているのに音が聞こえないのは、力のロスがないことだ。力のロスがあるからこそ、音がなってしまう。力を最低限に抑えることで、音をなくすことができるのだ。そして、倉敷の前に爛が立っていた。

 

「どうだ?どこからともなく斬られていくことは。避けないとお得意の反射神経は無駄だぞ?」

 

 爛は倉敷を挑発している。得意な反射神経を封じられている中で倉敷が対抗できることはほぼ無くなったに等しい。ただ、そんな状況にあるのに、倉敷は───、

 

「ハハッ・・・、確かに今の速度の《神速反射》はお前の剣についていけねぇ。けどよ、オレだって負けられねぇことがあるんだ。」

 

 笑いながら、爛にそう言った。爛も同じように笑うと、確かめるように倉敷に尋ねる。

 

「最後に一つ、聞きたいことがある。」

「あぁ?」

「俺が、俺達が憧れていた、あの剣士は、今の俺達のように笑えていたか?」

「こんなアツい死合いを楽しめねぇヤツが、『最後の侍(ラストサムライ)』なんて呼ばれることはねぇだろうが。」

「そうだな・・・。」

 

 爛と倉敷は向き合い、共に笑いながら言った。

 

「「じゃあ、まだ続けても構わないな(ねぇよな)?」」

 

 二人はそう言い、一気に走り出した。そして、爛は倉敷の《神速反射》を攻略した剣技を使い、倉敷を斬ろうとする。

 

「ッ!あぶねぇ!」

「今の避けるとはな。何となく分かったか?」

「おう、直に斬られちまったからな。分かってきたんだよ!」

 

 倉敷が大蛇丸(おろちまる)をあるところで振るう。すると、途中で大蛇丸が何かに止められる。止めた先には、爛がいた。

 

「喰らえ!《蛇咬》!」

 

 倉敷は先程よりも速さを上げ、四連撃を繰り出す。爛はそれを刻雨を使いながら避けていく。そして、壁際までおされていく爛。倉敷は爛を斬ろうと迫っていく。すると、壁際に置いてある物に足を当ててしまい、体勢を崩す。

 

(しまった・・・!)

 

 爛が思っていたときには遅かった。爛が体勢を崩したときに、倉敷は四連撃をすぐさま爛に叩き込んできたのだ。

 

「がぁ!」

「爛!」

「マスター!」

 

 爛は防ぐことができず、倉敷の四連撃を受けてしまう。よろけたことで、致命傷を防ぐことができたが、傷が深いことにはかわりなかった。

 

「致命傷を防いだか。悪運の強い男だ。」

「何を今更・・・!元々俺は悪運の強い奴だよ。」

「次はこうは行かねぇぞ。なます斬りにしてやるぜぇ!」

 

 倉敷は大蛇丸を大きく振りかぶり、爛に降り下ろす。爛はそれを受け止め、倉敷の刃を受け流していく。倉敷は次々に大蛇丸を振るっていく。爛は自身の体が斬られないよう防ぐことしかしていない。それを見ていた絢瀬が止めようとする。

 

「今止めたら道場は戻ってこないよ、綾辻さん。」

 

 止めにいこうとしている絢瀬を二人の戦いを真剣に見ている六花が止める。

 

「でも・・・!」

「元々、ここに来たのは道場破りをして、道場を返してもらうことじゃないの?」

「それでもいい!今は宮坂君の体の方が大切だ!」

「それだったら、爛の顔を見てみるといいよ。」

「宮坂君の・・・?」

 

 六花に言われ、絢瀬は倉敷の攻撃を防ぎ続けている爛の顔を見る。すると、爛は死ぬかもしれない状況にいるにも関わらず、笑っていた。

 

「わらっ・・・てる・・・?」

「ホント、上をよく目指すよ。爛は。強いやつと戦いたい。そんな思いで、爛は戦ってると思うよ。」

 

 六花がここ最近で、爛が戦いで笑っていることはほぼなかった。けど、爛はこのとき、強い敵と会えたことに笑みをこぼしていたことを見逃さなかった。

 

「ねぇ、綾辻さん。僕達は気になることがあったんだ。」

「え?」

「本当に、『最後の侍』は無念のなかに沈んだのか・・・。綾辻さんは、あの男が来なければとか思ってなかった?」

「そうだ!あの男さえ来てなければ、ボク達は幸せに居れたに違いない!父さんだってきっとそれを望んでる!」

「・・・でもそれは、綾辻さん主観の話でしかないよね。」

「え?」

 

 六花達はずっと気になっていた。何故、あの有名な『最後の侍』が、無念のなかに沈んでしまったのか。あの男が居たからなのか?何が、『最後の侍』を沈めっていったのか。考えても答えはでない。でも、絢瀬の話を聞く限り、それは、絢瀬の主観の話でしかなかったのだ。本当の意思は?誰にもわかることはないが、それに近いことを考えることは可能だ。そして、何よりも大切なのは、彼が剣士であったこと。そこで、六花達は気づいたのだ。本当はどんなことだったのかと。

 

「前は剣の世界で、栄冠を欲しいままにしていた剣士が、ただ何事もなく朽ちていくことを、望んでいたのかな?確かに、それは人それぞれ。でも、海斗さんはそれでも、綾辻さん達に剣を教えていた。それは、何のため?剣を教えるだけかい?」

「!」

 

 六花から言われたことに、絢瀬はあることを思い出していた。海斗から、すべてを通して必ず教えられていたこと。

 

『いいか絢瀬。どんなときにも、誇り高さを忘れるな。俺達の剣は人を殺せる力だ。お前達の異能は人を超えた力だ。だからこそ、誇り高さを忘れちゃいけない。そいつをなくしたら、それはただの『暴力』だ。常に礼節を重んじ、弱きを助け悪を憎め。決して力に溺れることなく、どんな相手にも正々堂々立ち向かえ。他人にも、自分にも、恥じることのない騎士になれ。』

 

 それが、海斗から言われ続けていた言葉だった。だからこそ、倉敷が道場破りに来たときは、言われた通りに倉敷を憎んだ。そう、悪を。ただそれは、ある一つの間違いを起こすことになる。倉敷の剣には誇りもなにもない。確かにそうだ。でも、倉敷には求めていたことがあった。それは、強者。強者を求めて、戦い続けてきた人間だ。そしてそれは、海斗にとって光とも言えるようだった。

 

「確かにあの男には何の誇りもない。でも、海斗さんは、ただ朽ちていく自分に、価値を見いだしてくれた相手に、何もせずに帰すのかい?確かにしてはいけないことだ。でも、それは剣士としてのプライドが海斗さんを、戦いの場へ導いてくれたんじゃないのかい?たとえどんなことでも、剣士として、自分の強さを、価値を。」

「っ・・・。」

 

 六花の話を聞いているうちに、絢瀬の瞳からは涙が流れていた。

 そうだ、確かにあの時、彼は笑っていた。倉敷との戦いで。自分の価値を、彼は見いだしてくれたんだ。

 そう考えていると、何故だか、彼が正しいと思うようになってしまう。

 いけないことはわかってる。でも、剣士としてのプライドが、彼の支えになったんじゃないのか。だとすれば、自分の考えはなんだったのだろうか。剣士として、何もわかっちゃいなかった。

 絢瀬は剣士として、何もわかっていないことを痛感した。今戦っている二人も、そして、自分の父も、戦いに楽しんでいるのだ。強い敵がいると言うことを知り、その強い敵を超えていくと言う思いで。

 

「ボクは何も分かってなかった・・・。剣士としての心も、戦いでの考えも・・・。何も・・・。」

 

 絢瀬は膝を崩し、泣き崩れた。リリーは絢瀬を励まそうと、絢瀬の肩に手を伸ばす。すると───、

 

 バキィ!

 

 道場の板が二人の霊装が突き刺さっているために、その部分が破れたのだ。二人は肩で息をしながら、笑いあっていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・、おいしぶといってのにも限度があるぞ。」

「あいにく、俺も負けず嫌いなもんでね・・・。それに、剣でここまで楽しくなったことはなかったからな・・・、止めるのができなかった。」

「楽しいか・・・、ハハッ。テメェも案外イカレてやがる。」

「それはお互い様だろう・・・。」

「それもそうだなっと!」

 

 倉敷は言葉をいい終えると同時に爛の刻雨を払い除けるように自分の手元に戻す。そこで、六花達は倉敷の弱点に気づく。

 

「それが弱点!」

「《神速反射》は速い代わりに、スタミナの消耗が激しい!となれば、マスターに勝機はある!」

 

 そう、体力が人一倍減っていくのだ。速く動く代わりに体力を多く使うため、疲労スピードが速いのだ。

 

「ふぅ・・・、中々楽しかったけど・・・、次で終わりにしよう。倉敷。」

「さっさと終わらせるか・・・!」

 

 爛が倉敷にそう言うと、倉敷は最大級の一撃を繰り出すために構える。爛は絢瀬の方に視線を向ける。

 

「絢瀬、この一撃で、この道場を、二年間を取り戻す!」

「ッ!」

 

 爛は絢瀬にそう言うと、刻雨を構え、構えたまま、走り出す。負けを覚悟の特攻か、それとも別の何かか。すると、爛は刻雨を振り上げ、降り下ろし、刀から腕までをまっずくに伸ばし、走ってくる。

 

(こいつは・・・!あの時、オッサンが最後にオレに見せようとした・・・!)

 

 倉敷は爛がしようとしていることに確信を持つ。単なる特攻ではない。倉敷の心は燃え上がる。倉敷が求め続けたもの、それは、これだった。彼が入院から立ち直り、自分にこれを見せに来るのか、それとも、絢瀬が彼と同等の剣を持ち、自分に挑んでくるのか。倉敷はその時を待ちわびていた。

 

「《八岐大蛇(やまたのおろち)》!!!」

 

 倉敷は全力をもって、爛に対抗する。一瞬にて同時八点連続攻撃を可能にする伐刀絶技(ノウブルアーツ)。しかし、爛は臆することなく突き進む。二人が交錯するとき、倉敷が叫んだ。

 

「待ったかいがあったぞ!二年間!!!!」

 

 そう叫び、二人の体が交錯する。そして、血を流したのは───、

 

「ガッ・・・。」

 

 倉敷だった。胸に左からの袈裟斬りが、綺麗に刻み込まれていた。

 

「ッ!!間違いない!今の技は・・・!」

 

 絢瀬は目を見開く。今、爛が使った技は、あの時、海斗が見せてくれた。まだ未熟な自分に、その技を教えてくれていた。

 

「最終奥義───《天衣無縫(てんいむほう)》!!」

 

 ーーー第39話へーーー

 

 




ふぅ、書き終えました!爛VS倉敷、終了です!

次回は次の章に入る話とこの決着の続きの話になると思います!やはり、天衣無縫のところはかっこいいと僕は思います!(単なる感想)

それでは、次回をお楽しみに!

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