精神世界から無事に現実世界へと戻ってくることができた爛。次は絢瀬の思いを取り戻すために自身の魂を振るう。そして、絢瀬との戦いが終わったあと、爛の寮部屋では、また一つの災難が起きようとしていた。
「《
その一言と共に爛が黒い球体から姿を現す。それも、傷を修復した状態で。
「なっ!?」
絢瀬は驚く。それもそうだろう。深く傷を負っていたはずの爛が、その傷を修復しているのだ。
「これが・・・、彼女の鞘。」
爛はそう呟く。自分の胸を右手で抑え、感覚を集中する。すると、力の元を感じることができた。それは、自分の心臓からだった。
「なるほど・・・、俺の命に元から埋め込まれてたのか・・・。なんともまぁ、人間と異なりすぎるものを持っている『人間』なんだろうな。」
爛は自分の心臓に鞘が元々埋め込まれていたことに気づく。それは何故か?爛からすると、別の目的がまた増えたと感じるのだった。
「絢瀬、お前は、俺の思っていた通りの人だったよ。」
「え?」
突然爛から言われた一言に素っ気ない声をあげる絢瀬。爛は優しい笑顔を真剣な表情に変え、絢瀬に話す。
「絢瀬、今のお前の太刀筋も、呼吸も、何もかもがめちゃくちゃだ。俺の教えていたことはおろか、元々出来ていたことでさえまともにできていない。どれだけ悪ぶった自分を作ろうとしても、魂を欺けることはできない。心が迷っている剣に本当の力は宿らない。」
「ボクは迷ってなんかいない!ボクはもう決めたんだ!」
「絢瀬は、自分が思っている以上に誇り高い人だ。絢瀬と海斗さんが、俺にそれを教えてくれた。」
「二年前に思い知らされたんだ!どれだけ誇り高く戦おうが、負ければ全部台無しなんだって!結果の伴わない綺麗事なんて意味がない!だったら何をしてでも取り戻す!何をしてでも勝って・・・、取り戻すんだ!」
絢瀬は叫ぶ。確かに復讐に走っている者は誰だってそうだ。しかし、それは誰のためにもならない。自分のためにも、人のためにもならない。残るのはただの後悔、それだけだ。爛はそれをよく知っている。
「なら、俺のやることは簡単なことだ。」
爛は持っていた
「この勝負で、お前の思いを取り戻す。」
「黙れぇ!」
「行くぞ、絢瀬!」
その声と共に絢瀬に向かって走り出す爛。絢瀬はバックステップをし、爛から距離をとる。その距離、ざっと百メートル。黒乃がリングを広くしたことで、戦いの幅が広がることになったのだ。爛は魔力を纏わず、生身で絢瀬に突進する。
『宮坂選手ダーッシュ!しかしこれは、魔力を纏っていない!生身の突進です!』
(何っ!?)
生身での突進に動揺する絢瀬。しかし、爛はそれを気にすることもなく突き進んでいく。そして、絢瀬は自身の異能を使えるようにしていた。
(今だ!)
絢瀬は異能である力を使い、突き進んでいる爛に切り傷を与えようとする。しかし───
(なっ!?)
爛は絢瀬のかまいたちに当たる寸前で左側にすぐさま移動。そしてそのまま走り出す。絢瀬は同じようにかまいたちを起こすが、爛はそれを次々と回避していく。そして、絢瀬は爛の体に少しだけ切り傷ができていることに気づく。爛は一輝の《
(なら、回避しきれない様にすれば・・・。)
絢瀬はそう思うが、すぐにできないと判断する。それは、爛が走るスピードを早くしているのだ。それは、自身の異能である雷を足に纏わせることによって足の筋肉をフル稼働させているからだ。
(まだ・・・。)
絢瀬の頭には昔の出来事や海斗、倉敷が頭の中で現れていた。
「まだ終われない!」
絢瀬はそう叫び、
「ハァァァァァァァァァ!」
爛はその煙の中から姿を現し、絢瀬を斬ろうと大振りの構えを取っていた。
「くっ!」
絢瀬はすぐに緋爪を戻し、爛を迎撃する。しかし、爛はそのまま絢瀬を斬るのではなく、空中で停止し、そのまま降り立つ。
「なっ!?」
「甘いぞ、絢瀬。」
爛はそのまま絢瀬を斬る。絢瀬は爛に斬られ、霊装の緋爪を手放し、膝から崩れ落ちる。
『決まったー!宮坂選手の一撃がクリーンヒット!しかし、綾辻選手血を流していません!これは・・・。』
『多分、幻想形態で斬ったんだろうね~。』
『女性は斬らないと言うことでしょうか?』
『いや、爛さんには別の目的があったんだと思うよ。だから、幻想形態で綾辻さんを斬った。それに、私や理事長、西京さんや香さんまで、爛さんは斬ってるからね。』
『「えーーーーーー!?」』
実況の磯貝、会場の全員の声が一致する。爛は折木が暴露した出来事に苦笑いをしながら聞いていた。すると、絢瀬が口を開く。
「どうして・・・?」
「ん?」
「どうして、斬らない?」
「斬っても意味ないさ。それに、今お前は動けない。違うか?」
「バカにして!」
絢瀬は立ち上がろうとする。しかし、立ち上がることができない。幻想形態で体力を削がれていると言う部分もあるのだが、絢瀬には決定的にかけている部分があった。
「っ・・・く・・・。」
立ち上がれない。何度もそうしようとしているのに、立ち上がることが叶わない。何故?どうして?
絢瀬は困惑する。立ち上がることができないことに。爛はそんな絢瀬に続けて話す。
「お前は、この意味のない戦いに、本当の魂があるのか?」
(あ・・・、そうだったんだ・・・。ボクは・・・、何も分かってなかったんだ・・・。)
爛の言われたことに、絢瀬は気づいた。この戦いに自分の魂は拒んでいたと言うことに。だから、立つこともできないのだ。勝ちたい。そういう思いが、魂を欺けようとしたことで、その気力も、振り絞ることができない。
「宮坂君の言う通りだよ。・・・・・・ボクの・・・、負けだ・・・。」
『ここで、綾辻選手ギブアップ!一試合目の勝者は『
絢瀬の降参により、爛は第十一回戦を勝ち、第十二回戦に駒を進めた。
「情けないな・・・。捨てることは愚か、貫くこともできないなんて・・・。」
「情けない・・・か。」
絢瀬は悲しい顔をして、自分の過ちを責めた。爛は情けないと言う言葉に反応し、優しい笑みをしながら、絢瀬の頭を撫でる。
「情けなくないさ。絢瀬は。」
「え?」
「確かに何もかもがめちゃくちゃだった。でも、それでも絢瀬は、綾辻一刀流を最後まで捨ててなかった。俺達剣士がプライドを持つのは己の剣だ。だから、それを大事にすることだ。それに、俺も目的があるからな。」
「目的?」
絢瀬は爛の言った目的に疑問を持った。自分のことで何か目的でもできたのだろうか。それとも、何か別のものなのか。そう考えている絢瀬に、爛は答えを言う。
「絢瀬思い出の道場を取り戻すんだろ?俺もやるよ。元々、俺から倉敷に言ったことだからな。」
「でも・・・。」
「でも。じゃないだろ?お前も人を頼ることをしろ。誰だって手伝ってくれる。まぁ、そんなことを言っても威張ってやらない奴は出来損ないとしか言えないがな。」
爛は絢瀬に手を差し出す。
「なぁ、俺は、俺はお前を助けたい。だから、倉敷との戦いは、俺に任せてくれ。友人を助けるために、理由なんて必要ないからな。俺の勝手になってるが・・・、頼むよ。」
爛から言われたことに、絢瀬は涙を流す。絢瀬はずっと溜め込んでいたのだ。自分を助けてくれる人は居ると言うことに、絢瀬は気づいた。そして、絢瀬が目指した剣の道をまた進むことができると思うと、涙が溢れてくるのだ。絢瀬は震える手で爛の手を握る。
「宮坂君、ボクを、助けて。」
爛はしっかりと絢瀬の手を握ると、絢瀬と同じ目線の高さになるように屈み、言葉を発する。
「その言葉が聞きたかった。」
爛は絢瀬に魔力を供給することにより、絢瀬を動けるようにした。
「あ・・・、ありがとう。」
「何、魔力の供給ぐらいはできるさ。動けるよな?」
「うん、大丈夫だよ、宮坂君。」
「それじゃあ、俺は戻るな。」
爛はそう言うと、ゲートの方に向いて、戻っていく。綾瀬も爛と同じようにゲートの方に戻っていく。
爛がゲートの中に入っていくと、そこには六花が居た。
「お疲れさま、爛。」
「ああ、六花も勝ち進めてるな。」
「もちろん。」
「そうか。戻るぞ、六花。」
「うん。」
爛と六花は簡単に話をすると、寮部屋に戻っていく。しかし、爛は寮部屋で大変な出来事に巻き込まれることが起きると言うことは、何一つ想定していなかった。
爛と六花が寮部屋の中に入る。すると、玄関のポーチには一つの靴が置いてあった。
(まさか・・・。)
爛はその時に誰が来たのか考えていると、予想のつく人であることに気づいた。そして、二人が玄関から少し進んだところにあるドアを開けると、そこには黄色い髪を靡かせている少女の姿があった。
「お帰りなさい、マスター。」
少女はそう言って、爛の近くに寄る。爛は驚いた表情で、少女の名前を言う。
「リリー・・・?」
「ええ、そうですよ。」
爛が少女の名前を言うと、その少女はそれで間違いないと言った。
「すぐに会えるなんて思ってなかったよ。本当に近くに居たんだな。」
「はい、マスターの試合を見てましたから。」
「黒乃がよく良しとしてくれたな・・・。」
「色々と話しましたよ?マスターのところに行きたかったので。」
「ホント、捻りなしか。」
爛とリリーは笑いながら話しているなか、六花は突然のことに唖然としていたが、爛がまた別の女性とくっついていることに病んでいた。
「まぁ、黒乃からは何か言われたことでもあるか?」
「いえ、特に何も。」
「ねぇ、爛。その子、誰?」
二人が話しているなか、六花はリリーのことが気になったのか、爛に話しかける。
「あぁ、紹介してなかったな。彼女はリリー・アイアス。俺の友人で、仲の良い一人だよ。」
「マスター、それを言うなら契約者同士ですよ。」
「まぁ、そうとも言うな。」
仲の良い一人だよ。と爛から聞かされた言葉で、六花の目のハイライトが消えていた。しかし、それに気づくことのない二人はそのまま話していた。
「カツラギリッカさん・・・、でしたっけ、これからよろしくお願いしますね。まぁ、それでもマスターは譲れませんけどね。」
リリーも目のハイライトを消して、六花に話す。爛はそれを見て冷や汗をかいた。二人をこのままにしておくとマズイと本能的に感じていたが、この空気に入ることはできないと断言するほど、この空気に入ることができない。
このままどうなってしまうのだろうか?六花とリリーの関係はどうなるのだろうか?
ーーー第36話へーーー
はい、爛が大好きでしょうがない六花とリリーが出会いました。正直、爛のSUN値がみるみる減っていく事態に発展できれば良いなぁと思っています。
次は六花とリリーの続きと、文字数に余裕があれば何か書きたいと思います。
次回をお楽しみに!