爛と沙耶香は精神世界で戦いを始める。爛は沙耶香が操られていると言うことに気づき、沙耶香を取り戻そうとするが、沙耶香の言動も何もかもがあの時の頃とは違い、まったくの別人に感じた。そして、リリーの口からは、自分が王としてのことが語られる。精神世界から出ようとしたとき、また、爛の体に異変が起きる。そして、爛は自分の力のあることに気づいているとのだった・・・。
「・・・何で、知ってるの?」
「・・・・・・あの時も、俺を襲ってきたのも、お前か?」
沙耶香は爛に疑問の声をあげるが、爛はそれに答えることもなく次の質問を出す。爛はすでに沙耶香が
すると、大量の殺気を爛に向ける。
「何で知ってるのか、聞いてるけど・・・?」
「理由は簡単だ。俺を襲ってきた時、お前の髪を見た。今ここで見たことで、確信が得られたよ。」
爛はそう言うと、同じように殺気を沙耶香に向ける。
「そんなすぐに気づくのなら・・・、今ここで、グチャグチャにしてやる・・・!」
「・・・何て殺気だ・・・。リリー、お前は安全な場所まで下がってろ・・・。死ぬぞ・・・。」
「は、はい。」
沙耶香のあり得ない言動、殺気。それを感じ取った爛はここでは止めることのできないほどの変わりようになっていたことに気づく。爛はリリーに離れるように促す。リリーも二人が発している大量かつ、濃密な殺気に気づいており、爛の言葉に従い、二人から距離をとる。
「逃しはしない・・・、壊し尽くせ、
「・・・それでいいのか?沙耶香。」
「・・・・・・」
爛の問いに答えることはない。いや、変わり果ててしまった彼女に、答えることなどないのだ。それを知っていながら、爛は問う。
「・・・答えを言わないというのならば、刃で答えを聞こう。闇よ、光を侵食せよ。黒刀・
沙耶香は二つの曲刀を。爛は真っ黒に染まった刀を握り、相手と対峙する。そして、沙耶香が踏み出す。
「ッ!」
「ハァ!」
沙耶香の振り、当然爛はそれを弾き返す。しかし、反撃はしない。
「タァ!」
「フッ!」
この攻撃も同じ。一刀目と同じだ。それを、繰り返すことしかしない。
「問おう。何故、お前は俺の精神世界に入ってきた?」
「・・・・・・」
「リリー、お前が入ってこれる理由はある。お前も気づいている通り、お前の鞘は俺の中にある。だからこそ、入り込めた。」
爛の精神世界・・・。いや、誰もの精神世界には入ることなどほぼできない。しかし、爛の体に何か施すのか、よっぽどの影響力のある者であれば、入ることは可能だ。だからこそ、リリーは入り込むことができた。しかし、問題は沙耶香だ。沙耶香は爛の体内にものを施したりなどはしていない。そのため、爛の精神世界に入ることはできない。爛は問う。何故、入ってきたのかと。
「そして、もう一つ。俺が精神世界に来たのは学園で意識を失ったからだ。ここにいないお前達は入れないはずだ。どうやって入ってきた?」
爛はどうやって入ってきたのかを知っている。しかし、可能性でしかなく、確実とは言えなかったためだ。
「何言ってるの?爛兄さんにあげたペンダントから入り込んだ。それだけのこと。」
「・・・そうか、と言うことは、お前達は俺の近くに居たと言うことだな。」
そう、二人は爛と絢瀬の戦いを見ていた。だから、爛の精神世界に入り込めた。
「マスター、私は・・・。」
「言いたいことは分かる。お前の生い立ちは聞きたいこともあるさ。でも・・・。」
爛はリリーに優しい笑顔を見せ、沙耶香の方を真剣に見ながら話す。
「こっちの
爛は沙耶香にそう問う。爛は沙耶香の答えにより、動き方を変えようとしている。そのためだ。
「自分の意思だよ。
「・・・そうか・・・。」
爛は俯き、悲しい顔をした。沙耶香の行動にも、言動にも、何もかもが変わってしまったと気づいたのだ。しかし、代わりにやることもできた。それは、彼女を取り戻すこと。彼女は操られているから、あの言い方をした。今までの沙耶香でもそれは言うのだが、その言い方はないと、爛は断言できた。操られていると分かったのなら、兄としてやることはただ一つ。
「お前が操られているのはよく分かった。なら、お前をその呪縛から開放してやるのが、俺の・・・、兄としての・・・、やるべきことだ。」
爛は雷黒鳥を構え、爛の方から接近する。当然、沙耶香は二つの曲刀、刻想刃を構え、爛の攻撃に対応しようとする。
「ッ!」
「ヤァ!」
爛の振りに片方の曲刀で対応する。しかし、先程の力とは大違いだった。完全に殺しに掛かっている様子だった。
「フッ!」
「っ。」
沙耶香が距離を取り、爛は再び雷黒鳥を構える。沙耶香も同じように構え、二人して踏み込み、相手を斬ろうとする。
「あの時のお前から完全に変わってしまった。何故だ。俺を殺そうとするのならば、幾らでもその機会はあったはずだ!何故、あの時だけ襲ってきた!」
爛は沙耶香に
(マスターの妹様は操られているなかで、必死にそれから抜け出そうとしているのでは?)
リリーはそう思いながら、二人の戦いを真剣に見ていた。
爛と沙耶香が打ち合っているなか、沙耶香の霊装が壊れてしまう。
「・・・・・・」
しかし、沙耶香は倒れることなく、爛の方を見ている。爛は何故、沙耶香が倒れないかを知っている。すると、沙耶香の手に、小太刀があった。
「・・・自分が想像したものを魔力で顕現する。・・・それが、お前の霊装。」
沙耶香の霊装は魂を武器にするのではなく、魂を魔力にし、その魔力を使い、武器を顕現する。そのため、沙耶香の霊装は沙耶香の魔力が尽きない限り永遠と顕現される。
「俺の言った問いに答えろ!沙耶香!」
爛はそう叫びながら、沙耶香に霊装を振るう。沙耶香は爛の霊装の振りに対応するが、爛の問いには話そうとしない。
「ハァ!」
「くっ!」
沙耶香は一瞬の隙をつき、爛の横腹を斬ろうとするが、爛は人知を超えた反射神経より、沙耶香の攻撃を紙一重で止める。
「大分、上達してたんだな。」
爛は沙耶香の実力が上達していることに感嘆の声をこぼすが、沙耶香はそれに反応することはなかった。沙耶香は完全に操られていたのだ。
「・・・貴方に話すことはない。」
「・・・沙耶香・・・、本当に操られていたのか・・・。嘘であってほしかった・・・。またお前と、平穏な日々を暮らせることを誓いたかった・・・。操られていると言うのなら、俺は・・・、お前を取り戻す!」
爛はそう決めた。決めるしかなかった。彼女を助けるか、助けないか。爛には助けないなんてことはしない。するつもりなど微塵もない。だから、助ける道を選んだ。その先に、何があろうと、後悔と助けられなかったことは絶対にしないと誓う。あの時の灰色の雨の中に願いながら。
「ハァァァァァァァ!」
爛は沙耶香に向かって走り出す。取り戻すことができるのなら、今ここで。
「ッ!」
爛は沙耶香の前まで行くと、振り上げていた霊装を叩き下ろす。沙耶香はそれを受け止めるが、一瞬だけ動きが鈍った。爛はそれを逃さず、すぐさま
「ッ!」
沙耶香はすぐにバックステップ。爛の呉正の横振りを避ける。
「・・・・・・」
「・・・もう、このくらいで良いでしょう・・・。」
すると、沙耶香の体が少しずつ消えていく。爛は沙耶香がこの精神世界から居なくなることに気づき、沙耶香のところに走り出す。
「待て!」
「間に合うことはありません・・・、貴方の刃は、私には届きませんから。」
爛が沙耶香に手を伸ばすが、沙耶香を握ることもできずに、握ろうとした手は空を握る。
「っ・・・。」
爛は俯く。また、救えなかった。ただ救えなかったことで悔しかった。自分には救うことはできないのかと、考えてしまう。
「っ・・・、くそ!」
爛は地面を殴る。何度も何度も殴り続けた。悔しさと沙耶香を操られていると言うことに怒りを覚えていた。リリーは見ることしかできなかった。今まで、こんな姿の爛はリリーの覚えているなかで、何もない。
「・・・マスター。」
「リリー・・・。」
リリーはやっとのことで爛に話しかけた。爛はそれにすぐに反応し、膝をついた状態でリリーを見る。リリーは話しかけたのは良いものの、どこから話すべきなのか分からず、会話が途切れてしまった。
「「・・・・・・」」
二人とも話す気配はなく、爛は立ち上がる。そして、リリーの近くまで行き、リリーの頭を撫でる。
「・・・ありがとう、リリー。」
「マスター?」
「ホント、こんな奴をマスターと呼び続けてくれて、俺についてきてくれて、ありがとう・・・。お前が居なかったら、俺は・・・。」
「それを言うなら、私もです・・・。」
「リリー?」
リリーは俯きながら爛に話す。爛は何かあったのかと考えるが、爛の覚えているなかで、それはなかった。
「マスターは知ってませんが、私は王だったのです。自分があの聖剣を宿していると言うことで・・・、私は・・・。」
「リリー・・・。」
爛は知っていないことは確かだ。しかし、爛は彼女が聖剣を宿していると言うことは知っていた。爛はあの時、信じたくないことだが、世界が違うことからあり得てしまうと思ってもいた。その考えていたことが、当たっていたのだ。リリーはその事の負荷に耐えていたのだ。それに気づいた爛はリリー体を包み込むように抱きつく。
「マス、ター?」
「まったく、俺の周りは何で甘えさせないといけない奴らが多いかな。・・・まぁ、それも一つの感情でもあるだろうけどな。リリーも頼れる人が居るのなら、頼ってもいいし、甘えてもいいんだ。負荷に耐えられなくなって心が折れるより良いさ。」
「マスター・・・。」
リリーの瞳からは涙が流れていた。リリーもその事には驚いており、爛は内心で驚きながらも、リリーの意外な一面が見れたことを貴重に思うのだった。
リリーが泣き止むと、爛は離れていく。そして、手を差し出す。
「ほら、帰るぞ。ここにいても意味はもうないからな。」
「はい、マスター。」
リリーは爛が差し出した手を握る。すると、二人が握った手からは、光が溢れ出しており、爛の姿が変わる。
「これは・・・!」
「マスター・・・!」
爛の姿は全身武器のようになっており、体は黒く覆われており、鎧をつけているような見た目であった。
「・・・そう言うことか・・・。大変な残しものまでしていくのか、あのバカは・・・。」
爛はフッと笑い、そう言った。そして、爛はリリーの方を向く。
「さぁ、帰ろうか。俺達を待ってくれているところへ。」
「はい!」
二人はしっかりと手を握り、精神世界から出ると祈る。そして、完全に精神世界から二人が出ようとしたとき、爛はリリーの額に軽くキスをした。
現実世界では精神世界より時間はほとんどかかっておらず、たった数分が経過した時だった。爛を包んでいた黒い球体にヒビが入る。そして、ある言葉と共に、傷を負っていたはずの爛が、傷を修復した状態でいた。
「《
ーーー第35話へーーー
《