落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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今回のあらすじ
絢瀬との対決で爛は自身の体に異変が起きていることに気づいた爛。爛は意識を閉ざし、精神世界に入り込む。そこで爛が見たものは一体・・・。




第33話~爛の精神世界~

「ウォームアップ、手伝ってくれてありがとう。ここからが本番だ。絢瀬。」

 

 爛は絢瀬に向かって走り出す。そして、刀華と愛華での戦いで見せた一瞬にして相手の目の前まで、一息でたどり着くという行動。絢瀬ももちろん、あの場に居たため、その事は知っている。爛は二人との戦いのときと同様に一息で絢瀬の目の前に現れる。

 

「ハァ!」

「ッ!」

 

 絢瀬はそれを見越し、自身の固有霊装(デバイス)緋爪(ひづめ)を振るう。爛はそれを即座に対応し、刻雨(こくさめ)を振るう。そして、二人とも刀を引き、一気に霊装を振るう。その速さは残像しか見えないほどに。それでも一撃を与えることができないため、バックステップをし、距離をとる。

 

(緋爪の能力・・・、多分『傷を開く』能力だろう。となれば、絢瀬からの攻撃は一つも貰うことはできない・・・か。)

「逃げ場はないよ!」

 

 絢瀬は一気に走りだし、爛に対して緋爪を振るう。爛は後ろに下がりつつ、絢瀬の攻撃を捌く。それを見た一輝達は爛の行動に疑問を持った。

 

「どうして、攻めないのかしら?」

「確かに、爛は綾辻さんを超える剣技を持っている。でも反撃もせず、受けに徹しているのは何かを感じてるんじゃないかな。」

 

 一輝の言う通りだ。爛は確かに絢瀬とは比べ物にならないほど力がかけ離れている。しかし、彼が何故受けに徹しているのか、謎でしかなかった。

 爛が受けに徹しながら、絢瀬は大振りの唐竹割りをする。爛はそれを左に避け、そのまま滑る。しかし、それは絢瀬の策の中。

 

(よし!)

 

 絢瀬はかまいたちを発生させる。そのまま、爛が滑っていればかまいたちは爛の背中に当たることになる。しかし、爛はそれを体勢を低くすることで避ける。

 

(なッ!?まさか、ボクのトラップに!?でも確証はないはず、今の内に!)

 

 絢瀬は一気に爛の懐に入り込み、緋爪を爛の左足から逆袈裟斬りをする。爛はそれを回避しようとするものの、しっかりと避けきれず、左肩と左側の胸部に被弾。そして、絢瀬が緋爪の柄を小指で叩く。

 

「ッ!?」

 

 斬られた部分は同じ場所を深く斬られたように広がっていった。左肩から左手首へ。左側の胸部から右肩近くまで開いていった。

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

 血を吹き出しながら膝をつき、絢瀬を見る。今のは絢瀬がしたので間違いない。最初の方で受けた傷よりも深いため、体勢を元に戻すのに時間がかかる。絢瀬がこの時に漬け込んでくることを思いながら、爛は絢瀬に対しての警戒を高める。後一撃でも貰えば、倒れてしまうのが分かるからだ。

 

『な、何だぁ!?今のは!宮坂選手膝をついた!傷が独りでに開いたように見えましたが・・・!』

(今のも・・・、絢瀬のか・・・。)

 

 すると、爛は自分の体の何かに気づく。

 

 ドクン───。

 

(え?)

 

 ドクン───。

 

(あの時と・・・、これ・・・、同じだ・・・。)

 

 自分自身の心臓の心拍ではなく、別の心拍音が聞こえる。しかも、自分の中から。何故?爛でさえ分からない。ただ分かるのは、あの時と同じということだ。

 

 ドクン───。ドクン───。

 

(抑え・・・、られないか・・・。)

 

 爛にこれを抑えることはできなかった。あの時も、これを止めてくれたのは母しか居なかった。爛は分かっていた。これが来るということを。ノヴァの騎士と同じようなものは、出てきていると言えば出てきている。しかし、それについての研究は進めることができない。それは、その力を持つ人間が死んでしまうと、何故かその力は消失するからだ。

 

(でも、こんなこと言ったとしても、言わなかったとしても、六花はそんなこと許さないだろうな。間に合わなかったら、俺の体を心行くまで堪能するのかな。)

 

 爛はそんなことを考えていた。しかし、爛は考えをすぐに引き戻す。

 

(って、こんなところで死んでたまるか!俺は、六花を明を香姉を守らないといけないんだよ!)

 

 爛はその一心で耐えていた。しかし、爛の体はある異変が起きていた。

 

「くっ・・・、うぅ・・・。」

 

 爛は痛みを堪えるように絢瀬から距離を取り、膝をついていた。

 

「っ・・・、あ・・・、ぁ・・・。」

 

 爛の声が少しずつ小さくなる。そして、爛は糸が切れたように倒れてしまう。

 

(今だ!)

 

 絢瀬はフィールドに倒れた爛を突き刺そうと走るが、爛の体から黒い何かが出てきた。それは、爛がノヴァの騎士という力を発動するときに出てきていた黒の力。それが、爛を包み込み、黒い球体となって宙に浮かぶ。

 爛は意識を失っており、体は黒い球体の中にあった。爛の意識は海の底にあった。爛が目を開けると、意識と同じように海の底に沈んでいる感覚に陥った。

 

(あ・・・、またここか・・・。)

 

 爛はここの世界に来ていたことがある。自分の精神と同じような状況を世界にしたのだろう。となれば、ここは爛の精神世界。爛はあの日からこの精神世界になっていた。

 冷たい感触、何かが包み込むように感じる。まるで、這い上がることのできない底に誘われるように。

 

(前よりも遠のいてる・・・。)

 

 爛は海の中から水面へと見える距離が離れていることに気づいた。何が関係しているのだろうか、爛は思考を巡らす。しかし、何も思い浮かばない。すると、海の底の方から声が聞こえる。

 

『おいで・・・。』

 

 爛を誘うように声を発する。爛の耳元でささやくように言っている。爛の感覚はおかしくなっていた。その声が、傷ついていた心を癒すように聞こえるのだ。

 

『おいで・・・。君にはボクがついてるよ。だから、おいで・・・。』

(何だ・・・、この感覚は・・・。)

 

 後ろを振り向きたくなる。しかし、爛は振り替えることはしなかった。いや、彼の本能が振り替えるなと言っているのだ。爛は本能に従った。

 

『君の望む世界が、この先にあるんだよ?』

(止めろ・・・、それ以上、俺の感情に入り込むな・・・!)

 

 今、爛が居るところはまだ底は見えない。だが、爛を底へ行かせるように、響くように声が爛の頭の中に入ってくる。

 

『君が来てくれれば、死んだ妹も、『彼女達』も、そして、これから起きることも。君が望んだ通りになるんだ。』

(止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロォオォォオォォォォォォォ!)

 

 爛は叫んだ。言葉にはすることはできないが、心の中ではこの声を聞きたくないという感情、あの時のことを思い出させることを止めろという感情、自分が求めた理想郷を思い出させる話を止めろという感情。どれも怒りだ。何も出来なかった自分に対しての。

 

『君は欲しくないのかい?全て自分の思い通りになる世界を。かつての英雄王が求めた理想郷を。自分の手にしたくはないのかい?』

(止めろ。やめろ。ヤメロと言ったはずだ!その理想郷は彼女のためのものだ!俺に、その理想郷は必要ないはずだ! 何故俺にその事を話す!?俺には関係のないことだ!)

 

 爛は否定する。すると、爛の体から光が放たれる。すると、二つの物が爛の目の前に現れる。それは、ノヴァの騎士の刻印。そしてもう一つ。鞘がないと言われていた聖剣、エクスカリバーの鞘。そして、頭の中に語りかけるように二つの言葉が聞こえる。

 

『貴方は・・・、私の鞘であり・・・、マスターなのですね。』

(止めろ。俺はお前のマスターじゃない。俺は、お前を捨てたとんだ最低な野郎だ。そんな俺に、構うな。)

 

 聞こえてきた声に爛は反論する。しかし、声の出せない状態では話すことなどできない。

 

『今度はしっかりと会えることを願ってますよ。』

(会うと願うな。どれだけ俺が愚か者なのか、お前は身をもって知ることになるぞ。)

 

 爛は思ってしまう。このまま死んだ方がいいのではないか?大切にしている人を助けることも、救うことも出来なかった自分に何が出来るのだろうかと。できることは、自分の存在を消すことしかできない。ならば、その事にすればいいのではないか?爛は海の底に振り返ろうとする。何もできない自分を止める人は今ここにはいない。地獄の門を一人で開きにいこう。誰も知らない、自分を殺したくなるほどの過去を見に。

 爛は振り返ろうとする。しかし、それを止めた者が居た。爛は腕を掴まれた感覚がし、掴まれた感覚がした方を向く。

 

(沙耶香・・・、なのか?)

 

 沙耶香が爛の腕を掴んでいた。そして、別の方からは・・・

 

(リリー!?)

 

 爛に話しかけていた女性の声。それが彼女、リリー。すると、光が現れ、爛達を包む。

 

「ここは・・・?」

「爛兄さんの精神世界だよ。」

「沙耶香・・・。」

 

 爛の後ろから現れたのは妹の沙耶香。すると、もう一人現れる。

 

「マスター、お久し振りです。」

「その呼び方は止めてくれ。俺はお前を捨てたことは違いないんだ。それに、お前のマスターには相応しくない。」

 

 リリーの言い方に爛は自身を自虐するように言う。その事に関しては、後々話をすることになる。すると、爛は二人に聞きたいことができ、二人に話す。

 

「唐突で悪いが・・・、二人は生きてるのか?」

「はい、生きてますよ。」

「・・・・・・」

 

 爛の質問にリリーは答えるが、沙耶香は答えることはない。爛がこの事を聞いたのはあることを確かめるためだった。

 

「沙耶香。」

「何?」

「お前は、あの時死んだのか?死んでいないとしたら、お前は何者だ?」

 

 他人から見れば意味の分からない質問。しかし、爛が聞きたいことに意味はあった。沙耶香はその質問に答える。

 

「死んでないよ。何とか生き残った。」

「俺の目の前で死んだ奴は?お前なら知ってるはずだ。」

 

 そう。爛は沙耶香の死を見ていた。沙耶香が生きていたというのならば、爛が見ていた沙耶香は何者なのか。あの時の事件の被害者である沙耶香なら、知っているはずだと。

 

「カモフラージュだよ。心配かけてごめんね。爛兄さん。」

「はぁ~。カモフラージュか。本当に心配したんだからな。今度からは俺には話してくれよ。」

「もちろん。」

「それと、あと一つ。」

「ん?」

「何故、お前は解放軍(リベリオン)に居る?」

 

 黒乃から受け取ったメールの写真には沙耶香が写っていた。自分の妹を見間違える事などしない爛は、彼女が何故解放軍に居るのか、その事について沙耶香に迫った。

 

 ーーー第34話へーーー

 

 




爛の謎が分かるのは次になります。どうしてもこれが次に関係するので、書くしかなく、区切りが良いのでここで終わらすことにしました。それと、爛とリリー、あれじゃないですからね!?士〇とセ〇バーみたいな関係ですけど、似てますけど、元にしてるだけですからね!?(必死の弁解。意味がない気がするw)

それでは、次回をお楽しみに!ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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