落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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今回の~あらすじィ!
爛達の前に絢瀬が憎むべき相手が現れる。そして、爛の代表戦の第11試合目は爛がよく知っている相手だった。




第30話~綾辻絢瀬と倉敷蔵人~

 絢瀬に声をかけたのは、自身の胸部に髑髏の刺青がある身長の高い男だった。その男を絢瀬はよく知っている。そして、それはもちろん、爛と一輝も知っていた。その男の名は『倉敷蔵人(くらしきくらうど)』。詳細は後程話そう。倉敷が話しているなか、周りに倉敷と同じような服を着た男達が爛達がいるテーブルに集まる。そして、爛は倉敷達の方は見ずに、絢瀬の方を見ていた。無論、絢瀬は何かを堪えていた。それを見た爛の行動は決まっていた。

 

「悪いな。連れが嫌がっている。離れてもらおうか。」

「んだテメェ!?」

「ナマいってんだったらコロスぞぉ!」

 

 取り巻きが爛にそう言うが、爛は相手にはしない。するつもりなどない。攻撃をしてくるならば別だが。爛のこの行動は、一人の男の相手だ。爛は倉敷の顔を見ていた。すると、倉敷は爛に不思議なことを尋ねてきた。

 

「テメェ、剣客だな?」

「・・・・・・」

「シカトか。まぁ、そんなコタぁ別にどうでもいい。」

 

 倉敷は爛達の近くにいた家族客のテーブルからビール瓶とグラスを取り上げ、グラスにビールを注ぎ込み、爛の目の前に滑らせた。

 

「悪ぃな。食事の邪魔してよ。懐かしい顔だったもんなんでつい気安く話しかけちまった。コイツは詫びの印だ。受け取ってくれ。」

「・・・俺は酒を飲まない。が、まぁ詫びの印はもらっておくよ。」

 

 爛は倉敷が滑らせたグラスを取ろうとすると、倉敷はビール瓶で爛を強打しようとした。

 

「爛!!」

「宮坂君!」

 

 瞬間、爛の姿が消えた。倉敷が振るったビール瓶は空を切り、爛が座っていた椅子で割れていった。

 

「ッ。」

「その振り、遅すぎるぞ?」

 

 すると、倉敷の後ろから爛の声が聞こえた。爛は少し笑みを見せながら、倉敷達を見ていた。

 

「いつの間に!?」

「爛・・・。本気でやるつもりなのかい?」

「いや、そんなことはしないよ。殺し合いはしない方なんでね。」

 

 一輝は爛が固有霊装(デバイス)を顕現するとなると、止めることはほぼ不可能だと知っているからこそ、爛に尋ねた。しかし、爛は霊装を顕現するつもりなどないらしい。しかし、その事について、黙っていることができない少女がいた。

 

「君達・・・。消し炭になりたい覚悟はあるかな?」

 

 爛を攻撃しようとしていたことから、六花の怒りは最大限にまで達していた。六花は雷の力を見せながら、大量の殺気を向ける。

 

「止めろ、六花。」

「爛・・・。」

「でもは無しだぞ。これは、俺のやるところだ。お前は下がってろ。」

 

 爛は六花達を巻き込まないようにし、爛は倉敷達と対峙する。

 

「オレァよ、テメェみたいな剣客をぶっ壊すのが大好きなんだよ。さあやろうぜ。持ってんだろ霊装を!」

 

 倉敷が取り出したのはまるで白骨のように輝きのない白のノコギリ刃を持つ野太刀。彼は破軍学園と同じ東京にある騎士学校『貪狼(どんろう)学園』の制服だ。彼の霊装を見た爛は好戦的な笑みを見せた。するとーーー、

 

「悪いな。あいにく、お前より死にたがりのやつが居るみたいでな。そっちを始末してからで良いか?」

 

 爛は六花の殺気とはまるで話にならない殺気を倉敷達にぶつけた。絢瀬はもちろん、一輝達でさえ一歩身を引いてしまう。それだけの殺気を、彼は発しているのだ。つまるところ、彼らでさえ一歩身を引いてしまうほどの殺気を、爛にとって話にならない取り巻きは、

 

「ひ、ヒイイィィィィィ!!」

「な、な、何て、殺気なんだよ・・・。」

「こ、殺されちまう・・・。」

 

 腰を抜かすのが結果だ。しかし、倉敷は腰を抜かすこともなく、爛の殺気を感じ取ったことでもっと戦いたいと思ってしまった。

 

「とまぁ、状況が状況だ。俺は、お前のところに行こう。場所はーーー」

 

 爛が口にした言葉は、絢瀬にとって悪夢のような光景を思い出させるところだった。

 

「『旧・綾辻道場』だ。お前が道場破りをしたところなんだろう?ならば、俺はそれを取り戻そう。絢瀬に思い出の場所を返すために。」

「ッ!!??」

「爛ッ!?」

 

 驚きでしかなかった。爛は知らないはずだ。綾辻道場は倉敷に道場破りでなくなっていることは知らないはずなのだ。絢瀬にとって悪夢のような出来事、光景であるのに、道場だけは自分達の誇りだと、今でも思っていたのだ。すると、倉敷は自身の霊装を解いた。

 

「ハッ、だったら、そこで待っててやるよ。テメェら、行くぞ。」

「あ、クラウド!」

 

 倉敷は踵を返しながら、店内から出ていった。爛はそれを見ていると、後ろからとある声が聞こえた。

 

「流石だね☆やっぱり、格が違うわ。」

「流石、と言うべきでしょう。我らが姫の二人を破った人なのですから。」

 

 一輝達が声が聞こえた方向を向くと、そこには爛の一回戦目の相手をしていたカナタと身長の低い、まるで保育園児のような低さの男の人が話しかけてきた。すると、爛はその二人を知っているため、後ろは向かずに話した。

 

「カナタと『泡沫(うたかた)』か。」

 

 爛はその名を言うと、カナタと泡沫の方を向く。紹介をしておこう。最初に話しかけてきたのは泡沫。御祓泡沫(みそぎうたかた)だ。刀華と愛華の幼馴染みであり、カナタとも仲のいい関係だ。それに、爛のことも知っている。

 

「イッキ、こいつら誰?」

「爛の一回戦目の相手だったカナタさんは知ってるよね。その隣にいるのは御祓泡沫さん。生徒会副会長だ。」

 

 ステラはまだ生徒会役員で会っていない泡沫は分かっておらず、一輝から説明を受けていた。爛は絢瀬のところに行き、話していた。

 

「絢瀬、大丈夫か?俺はお前のことを言ってることにもなってるから気になるんだが・・・。」

「大丈夫だよ。それよりもありがとう宮坂君。でも、どうしてあんなこと言ったんだい?」

「道場のことか?」

「うん。普通ならば知らないはずなのに、何で宮坂君は知ってるのかなって。」

「黒乃からだ。俺は絢瀬の悲しむ顔は見たくない。だからあんなこと言ったんだよ。」

 

 爛にとって、これは大切なこと。自分の教えで剣の実力が伸びたことに喜んでくれた絢瀬の笑顔を、爛は忘れることはできない。だからこそ、爛は分かっていた。出来ることならば、この笑顔を守ってあげたいと。すると、ステラは爛にこんなことを聞いてきた。

 

「さっきの男は・・・。」

「あの男は貪狼学園の三年・倉敷蔵人。去年の七星剣武祭ベスト8。剣士の間合いを制することができ、剣士タイプの圧倒的な強さから『剣士殺し(ソードイーター)』と呼ばれている。何にせよ、あいつは相当な男だ。むやみやたらに攻撃をしていたなら、俺は八つ裂きになってただろうな。」

「爛でさえああも言わせるほどの男だ。自分から首を突っ込まない方が良いよ。」

 

 爛は彼の霊装を見たことで、彼がどんな伐刀者(ブレイザー)なのか分かっていた。彼は紛れもなく、強い。爛はあの時間だけでどれ程の相手か見極めていただけなのだ。

 

「泡沫・・・。倉敷達がこっちに来ているときには、お前は近くに居ただろう?」

「よく分かったね。やっぱり爛には、因果干渉じゃダメか☆」

 

 泡沫の異能・・・。と言うか、種類しか分からないのだが、泡沫は因果干渉系の異能の持ち主だ。伐刀者には四つの異能の部類に別れる。

 一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》のような身体強化系能力。

 ステラの《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》、爛の《雷鳴閃(らいめいせん)》、六花の《雷撃・蝶(らいげき・ちょう)》のような自然干渉系能力。

 そして七星剣武祭優勝者の諸星雄大(もろぼしゆうだい)の『魔力を喰い尽くす』ような概念干渉系能力。

 その数ある伐刀者の異能の中で最も稀少であり、最強と言われる系統。それが、因果干渉系能力。しかし、一輝の記憶が正しければ、そのどれにも該当しない異能の使い手がいた。それは真壁浪人。一輝があのときの唯一の友人。彼は一輝と同じく落第生と言っていいほど魔術の才能などは持っていなかった。しかし、彼は代わりにどの部類にも当てはまらない異能を持っていた。それは『見たもの全てを自身の手で複製する』ことができる異能。そして、それを『内蔵した世界を行き来できる』と言う能力を持っている。それは、身体強化系でも、自然干渉系でも、概念干渉系でも、ましてや因果干渉系でもない。つまりは系統などと言う部類には絶対に入らない。伐刀者と同じ魂を武器としたものとなる。しかし、普通の伐刀者とは違い、自らを盾にするのと同じなのだ。それをまとめて言ってしまえば、『無限の剣を内蔵する世界(エターナル・ブレイジングワールド)』それが、彼のただ一つの異能。身体強化も使わず、自然干渉も使わない。ただ一つ、無限の武器を使うために魔力を使っている。無論、これは諸星の異能でも喰い尽くすことはできない。それほどの異能だ。

 

「さて、俺らは帰るとするか。」

 

 爛はお代を払い、学園に戻ろうとしたときだった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 一件のメールが届いていた。それは第十一回戦目の相手決定のメール。それは、絢瀬にも届いていた。

 嫌な予感しかしない。

 爛は絢瀬とあたっていないことを思いながら、生徒手帳のメールの内容を見る。そこには───

 

「宮坂爛様、選抜戦第十一回戦は三年一組、綾辻絢瀬様に決まりました。」

(なんて最悪な展開だ・・・!と言うことは、絢瀬も今メールを見ている・・・!)

 

 メールを見ていた絢瀬は爛の顔を見ると、暗い顔をして俯いてしまった。なんと声をかけたら良いのだろう。爛はどうすればいいのか、まったく分からなかった。すると、絢瀬から切り出す。

 

「ご、ごめん!ルームメイトから戻ってこいってメールが来たから、先に戻ってるね!」

「ああ、お代は俺が払う。先に戻ってるといい。」

 

 絢瀬は焦りながらそう言い、逃げるように店内から出ていった。爛は暗い顔をするしかなかった。

 

「・・・・・・俺は先に戻ってる。寄り道して戻るから、六花は先に部屋に戻っててくれ。お代は払っておく。」

「爛・・・。」

「さて、僕達も戻るとするよ。行こう、カナタ。」

「ええ。それでは皆さん。また会う日まで、ごきげんよう。」

 

 爛はすぐにお代を払い、店内から出ていってしまった。泡沫とカナタも爛についていくように学園に戻ってしまった。

 

「・・・僕達も戻ろう。ここに居るだけ駄目だ。」

「あ・・・、イッキ!」

 

 一輝は学園に戻ると切り出し、ステラは一輝を追っていった。六花も何も言わずに一輝とステラについていった。

 絢瀬との関係がここで止まろうとしていた。第十一回戦、爛はどうするのだろうか。

 

 ーーー第31話へーーー

 

 




おう、いきなり暗くなったな。
ただ一人寄り道して戻るといっていた爛。彼はどうなるのだろうか。

次回を、待ってくれ!


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