落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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近況報告・・・
簡単に言ってしまえば、シャドウバースやってました。スミマセン・・・。楽しすぎて書いてませんでした。他にも色々とあったんですけどね。取り合えず、シャドウバースを楽しんでましたと言うことだけです。

今回のあらすじ
ただ単に入れてみたかっただけ、と言うことなので、書いている話と書いていない話がありますが気にしないでください。絢瀬を弟子に特訓を開始した爛達。剣術家である絢瀬は爛や一輝が感心するほどの剣術を持っていた。そして、爛が見つけた絢瀬が悩んでいることの答えとは・・・。




第28話~特訓~

 絢瀬が爛の弟子となり、とある日の放課後。爛達は校舎の裏手にある森の広場で剣の鍛錬を行っている。ここは高く聳える木々の木陰となっており、またコンクリートも少ないのでとても涼しい。蒸し暑い日本の夏入りに、体を動かすにはちょうどいい場所だ。爛もここが気に入っている。何か考え事があればここに来ている。話を戻すが爛の鍛錬は魔力制御も兼ねたランニング。そして、刻雨(こくさめ)を用いた素振りへ。そして、自身の型を振るい続け、雷の分身を作り、刀の打ち合い。そんな爛の隣では一輝とステラが同じように陰鉄(いんてつ)妃竜の罪剣(レーヴァテイン)で剣の鍛錬をし、少し離れたベンチでは珠雫とアリスが素のままの魔力を特殊な粘土に通わせ、手を使わずに整形する魔力制御の鍛錬を行っている。このとき、五人の間には会話などない。普段一輝にじゃれつく珠雫とステラも、この時間は真剣に自らの研鑽に励んでいる。これがこの五人が一緒に行う鍛錬のいつもの光景だ。だが、三日前からその光景に、もう二人新しい人物が加わった。もちろん、絢瀬と六花だ。

 

「フッ、ハァ!」

 

 気合いの入った声と共に、絢瀬の固有霊装(デバイス)、燃えるように鮮やかな緋色の刀身を持つ日本刀・緋爪(ひづめ)が美しい弧を描く。剣を振るうときの絢瀬の表情は、以前医務室で爛を前にしたときのおどおどした頼りないものとはまるで別人。口元を締め、まなじりを上げ、非常に凛々しいものとなっていた。流石、剣士と言うだけあって、男性への苦手意識を剣を握ったときまで引きずることはないようだ。

 

「ッ!てい!」

 

 絢瀬と同じように気合いの入った声と共に、二つの武器を使い分ける六花。その霊装は刀と拳銃の二つ、撃剣・龍(げきけん・りゅう)。刀と拳銃の両方に龍のような装飾が施されている。六花は爛とじゃれつく時の幸せそうな表情とは違い、絢瀬と同じように凛々しい表情だ。それに、剣や銃に関しても、爛や一輝と同じレベルの域まで達している。流石、第二次世界大戦にて日本を勝利に導いた三人の英雄の一人の孫娘である。

 

「フッ!」

「やぁ!」

 

 今、爛と絢瀬は互角稽古をしている。互角稽古とはレベルの高い人間はレベルの低い人間のレベルに合わせ、同等の戦い方をするという方法だ。それを二人に合わせるとしたなら、レベルの高い爛はレベルの低い絢瀬に合わせるために、少しいつもとの動きにハンデをつけて打ち合いをしていると言った方が良いだろう。しかし、流石はあの『最後の侍(ラストサムライ)』と呼ばれた綾辻海斗の娘だ。実質、爛達が教えている生徒達よりレベルが高い。そして、剣を振るうことにして大切なもの。それは

 

 ───決して型を忘れず───

 ───しかし型にはまらず───

 

 それをしっかりと出来ていた。そして、体を運ぶ足捌きも、弧を描く剣筋も、いずれもが淀みなく流れ、途切れるということを知らない。何千回、何万回と型をなぞったのだろう。かといって、型だけの攻撃をしてくるわけでもない。この互角稽古の中で、爛は型の裏をつく意地の悪い攻撃を繰り出しているのだが、そのいずれもが適切な防御を取り、すぐさま反撃に移っている。そんな素直な努力家である絢瀬の一面が観ること(・・・・)ができる。そう、『観ること』だ。そうしたことで、爛は絢瀬が悩んでいることを看破したのだ。

 

「絢瀬、止めてくれ。」

「ん?」

 

 爛の逆袈裟斬りを滑らせ、受け流すことですれ違い様に爛の首元を斬ろうとしていた絢瀬の緋爪がピタリと止まった。

 

「どうしたの宮坂君。ボクはまだ、その、疲れてないよ?」

 

 突然の中断に絢瀬が戸惑いの視線を向けてくる。少し視線が落ち着かないが初めて会った初日の時のように、首ごとそっぽ向くことはなくなった。流石に三日も一緒に過ごしていれば、慣れてくるものもあるのだろう。

 

「見た感じ、と言うか。調べても分かることだが、確認で聞かせてもらうけど、綾辻一刀流は『後の先(カウンター)』が基本と見て間違いないよな?」

「え?あ、う、うん。そうだけど、宮坂君は打ち合っただけで分かったりするの?」

「まあな。俺は色々と調べてたりしてたからな。時々、自分自身の型とは違ったものの型を振るってみたり、な。それに、絢瀬が悩んでることについて分かったことがある。」

 

 爛が絢瀬に少し笑みを浮かべながら話すと、絢瀬は目を見開く。

 

「ほ、本当!?」

「ああ、もちろんだ。絢瀬が悩んでることは・・・、海斗さんに追い付けないことだろう?」

 

 爛の言ったことに、絢瀬は興奮した面持ちでコクコクと頷く。とにかく、一つ目の門は通ることができた。問題は次のことについて、彼女がどんな反応をするかだ。まぁ、これについての説明は爛はもう思い付いている。すると、絢瀬が悩んでいることについて話してきた。

 

「そうなんだ。どうやっても父さんのようなキレのある動きができるようにならない。父さんの動きは完璧に覚えているはずなのに。」

 

 絢瀬は顔を俯かせる。それだけ悩んでいるのだろう。これから爛が言うことは、絢瀬が確実に爛の言っていることについて否定する。爛はあることを言った。

 

「絢瀬、それについてなんだが・・・。少し、お前にとって悪いことを言うかもしれないが・・・いいか?」

 

 爛は一つ断りをいれた。彼女の返答次第では教えることの幅が変わってくる。

 

「うん。それでもいいんだ。教えてくれないかな。」

「分かった。絢瀬がそう言うなら、教えよう。」

 

 爛は一つ息を吸った。そして、少し間を置いて、絢瀬に真剣な表情で話す。

 

「海斗さんの動きを真似しようとする。それが、何より悩んでいることになる。」

「・・・それは、どう言うことだい?」

 

 すると、絢瀬は俯いた顔を爛に向けた。爛から見えたのは、絢瀬の瞳に映る感情。───怒りだ。それもそうだろう。自分の偉大な父を間違っているような言い方をしているのだ。刺し違えても怒るだろう。それは、彼女がどれだけ海斗のことが好きなのか。よくわかるところだった。

 

(あの人を尊敬していることはよくわかるさ。俺や一輝だって、あの人に憧れていた。)

 

 爛はそんなことを思いながら、絢瀬に自分の言ったことを納得してもらえるように話す。

 

「もちろん、あの人が間違ってる訳じゃない。でも、考えてほしいところは別にあるんだ。」

「それは?」

 

 絢瀬の瞳からは怒りの感情が少し消えていた。爛はそのまま説明を続ける。

 

「知っての通り、性別の差だ。剣術であれば、剣を鍛えることはもちろんだ。しかし、あの人が編み出した剣術は、完璧すぎる(・・・・・)。つまり、元の剣術の完成度が高ければ高いほど、性別の差が大きくなってくる。俺が話してるなかで、絢瀬は性別に差はないと思ってないか?」

「うん。ボクはそう思ってた。」

「もう少し詳しく話そうか。性別が違うことは骨格が違うことでもある。そうなると、筋肉のつき方も大幅に変わってくる。男性のポテンシャルをフルに引き出す動きであるのなら、女性のポテンシャルを同じように引き出すのは確実に不可能だ。さっきも言った通り、元々の完成度が高ければ高いほど、性別による動きの悩みは結果的に出てくるものなんだ。剣の適合は、男性と女性。この二つの間で行われている。だから、適合の差は如実に表れるんだ。」

「あ・・・」

 

 絢瀬の瞳からは完全に怒りの感情は消え、理解の光となっていく。そう、爛は彼女の師を馬鹿にしているわけではない。爛が言いたいのは優れているからこそ、そこにも問題があるということ。爛の剣術の一つである比翼(ひよく)もそうだ。これは、脳の電気信号を変えてしまっているということになる。比翼を使う爛とエーデルワイスは脳の電気信号に戦闘用の電気信号が存在する。それがあるからこそ、二人はこの剣技を使うことができるのだ。それに、この剣技を簡単に使うことができないのは、脳に戦闘用の電気信号を作らなければならないからだ。爛はそれができたからこそ、比翼が使えるのだ。まぁ、剣術に対しては他にも理由がある。それは、元々剣術は男性のために作られたものだからだ。

 

「一応、今の絢瀬の動きをどう矯正すればいいかは俺の方で考えてある。だけど、絢瀬が海斗さんと同じ剣を使うのであれば、俺は無理にすることはない。逆にしないべきだ。メンタルも大切なものだ。それに絢瀬がこの剣を使うことにこだわりがあれば、こだわった方がいいさ。何しろ、この矯正は一度してしまえば(・・・・・・・・)二度と戻らない(・・・・・・・)からな。だから、判断は絢瀬に任せることにするよ。」

 

 現状、絢瀬は男性用に調整された剣術を無理に使っている。そうなると、結果的に力が摩耗されていく。それは、無理にその剣術を使うことによって、体の各部に無理が生じるからだ。爛がこれを矯正することで、これ等の悩みは解決することになる。しかし、そこにも問題がある。爛の言った通り、矯正を一度してしまえば二度と戻らないことだ。そして、一度でその感覚を覚えてしまえば、絢瀬のように鍛錬を積んでいる剣士の場合、二度と元の窮屈な剣技に戻ることはできない。必ず、そのときの感覚を追いかける。だからこそ、爛は本人の意思に従うことにしたのだ。自分の噂を聞き、ここまで来た本人に。

 

「・・・・・・」

「俺は絢瀬の意思に従う。道は、二つに一つだ。」

 

 絢瀬はこの少ない時間、考え込むように俯く。爛はもう一つだけ釘をさしておいた。そして、絢瀬の中では強い葛藤がありありと浮かんでいた。絢瀬は迷いがなくなったような表情で爛の方を向き、

 

「教えて欲しいっ!ボクは、どうしても強くならなきゃいけないんだ!」

 

 真剣な表情で爛の助力を願った。こうなったら、爛は惜しむことなどしない。自分の持てるすべてで絢瀬の体を矯正し、強くさせることだ。絢瀬は自分から、強くなりたいと言ってきたのだ。期待を裏切るわけにもいかない。

 

「分かった。絢瀬が強くなりたいと言うのなら、俺も出し惜しみはしない。」

 

 爛は絢瀬に優しい笑みを見せ、絢瀬の綺麗な腕に触れた。

 

「ふわぁぁあ!?み、宮坂君!?」

 

 いきなり腕に触れられたことに驚いたのだろう。顔を真っ赤にして小さな悲鳴をあげている。しかし、いたって爛は真剣だ。今から爛がすることは、絢瀬の構えに手を加えるのだ。下手な邪念を持ってやってしまえば、矯正はおかしな方向にいってしまう。教える側にミスは許されない。尚更、矯正となれば。だから今の爛に絢瀬の感情に同情している暇はない。

 

「今から、絢瀬の動きを正しい形にする。恥ずかしいだろうけど、我慢してくれ。」

 

 ーーー第29話へーーー

 

 




キリが良かったのでこれにて終わります。


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