爛が九戦目を終えると、一輝達と合流したのだが、ステラと珠雫がまたもや言い争いをしており、大変なことになっていた。爛は一輝と絢瀬に自室に戻ると言った。絢瀬の指導については明日からと、絢瀬はそれを承諾し、爛は自室へと帰っていった。
自室へと戻った爛は鍵を開けようとしたとき、鍵が開いていることに気づき、まさかとは思いつつ、部屋の中に入っていくと・・・
「お帰り、爛。」
「六花か・・・。黒乃からは明日と言われてなかったか?」
「そうだよ。でも、爛に会いたくなっちゃったから今日来たの。」
「あのなぁ・・・。」
爛の部屋に居たのは『
そして、爛は近くにある椅子に座ると、六花も動きだし、爛の膝の上に座る。
「・・・おい。」
「何?」
「何で俺の膝の上に座るんだ?」
「ダメ?」
六花は爛に上目遣い、少し寂しげな表情をする。爛は日下部の時と同じように「うぐっ・・・」としてしまった。爛は別の意味で精神が弱いのである。
「分かった。だけど、下りてくれと言ったら下りてくれよ。」
「分かって・・・、ねぇ、爛。」
「何だ?」
「他の女の人の匂いがするんだけど・・・、何かしたの?」
六花が爛に目を合わせて言うのだが、爛は冷や汗をかいた。それは、六花の目のハイライトが消えているのだ。爛はここまで死を覚悟したことはなかった。六花は爛が好きすぎるが故に病んでしまったのだ。・・・正直に言うと、爛はドンマイとしか言えないのである。六花が嘘をついて、演技をしていた時もあったのだが。爛からすれば、六花が変わってほしかったところはこれなのである。爛は必死に平静を保とうとしながら、六花に話す。
「い、いや、俺の友人のルームメイトに女性が居るからな。そ、それに、教室にも女性は居るからな!?」
爛は六花を説得しようと、焦りながらそう言うのだが、六花には爛の説得の声が聞こえていなかった。
「爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。・・・・・・」
(こ、怖い・・・。)
六花は爛が自分の物であると、呟き続け、爛はそんな六花を見て、いつ見ても慣れないと思いながら、怖いとも思うのであった。すると、そんな爛を見たのか六花は・・・
「大丈夫だよ。爛は絶対に僕が守るから、ね?だから僕の傍にずっと居てね?」
少しでも期待した自分が馬鹿だったと爛はそう思うしかなかった。昔からまるで変わってない。爛は破軍学園に入学しなければ良かったのだろうかと思ってしまうほどであった。
「爛?」
六花は爛の顔を見ると、何か悩んでいるような顔をしていたため、爛のことが気になり、爛に声をかけた。自分自身がその悩みの中に入っているとは知らずに。
「いや、何でもない。」
爛がそう言うと、六花は爛に抱きつく。しかも、足も使って爛を動けないようにしているため、爛は動くことはできない。いわゆる、だいしゅきホールドだ。
「六花?」
「なんだい?」
「何で、俺にこんなことをするんだ?」
「そっか、爛はこう言うのが嫌なんだね。」
「い、いや、俺は別に───」
「僕がいけないんだよね。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。・・・・・・」
爛の言葉も聞かずに、何度も何度も同じ言葉を繰り返し言う六花。ある意味怖いし、普通に怖い。因みにこれが二回目である。
「六花!そんなことしなくても良いんだって!俺は別に嫌な訳じゃないし。」
爛は恥ずかしながら、六花にそう言った。六花は目をキラキラさせ、抱きついていた力を強くする。もう放さないと言わんばかりに。しかも、六花は「にゃ~」と蕩けた声をあげながら、爛に抱きついている。爛はそんな六花の頭を撫でながら、あることを思い出していた。
それは、沙耶香との事。沙耶香は六花と同じように爛に抱きついていた。甘えん坊の沙耶香は爛にいつもべったりであり、どんなときでもそうだった。すると、六花が爛にこんなことを言ってきた。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「え?」
爛が素っ気ない声をあげると、いきなり視界が傾き、床にぶつかる。すると、六花が爛の上に跨がり、爛の両腕を抑えられ、爛は何も出来ない状態にする。
「え?え?ちょっと待って。これどう言うこと?」
爛が戸惑いの声をあげるのだが、六花はそれに答えることもなく、爛の首筋に顔をうめる。すると・・・
「~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!??」
爛は声にならない悲鳴をあげる。六花が爛の首筋に噛みついたのだ。爛は口をパクパクさせ、酸素を取り込もうとする。
「ぷはっ!」
「ハァ・・・ハァ・・・。いきなりなんだよ。いつもより積極的じゃないか。」
爛は息を整えながら、六花にそう尋ねる。すると、六花は少し涙目になり、爛の質問に答える。
「だって、どこかに行ってしまったじゃないか。僕は寂しかったんだよ?爛が四年も会ってくれなかったから、僕はすごく寂しかった。」
二人がいつも会っていたのは二年間。爛の今の年齢は十六なため、今から四年前と考えると、爛は十二の時に六花の前から姿を消しているのだ。
「悪い。あの時は色々と事情があってな。」
「む~。」
爛は六花にそう言うのだが、六花は納得がいかず、抱きつく力をもっと強くする。
「待って。ちょっと痛い。力緩めて。」
「やだ。」
爛はどうしたものかと考え始める。そして、爛はある行動に出る。
「仕方ないな。」
「あっ・・・。」
爛は六花を抱き返して、また頭をなで始めた。そして、爛はこれでいいのかと六花に聞く。
「なぁ、これで良いか?」
「うん。」
六花は幸せそうに爛に抱きつく。とまぁ、爛はこんな再会でこんなことになるのかと思ってしまうほどであった。しかし、久しぶりに会うことができた幼馴染みに会うことができたのは嬉しいことであった。
しばらくこの状態でいた二人は、爛が六花から離れようとするのだが、六花はそれを拒否し、爛は困り果ててしまった。
「六花。」
「何?」
「離れてくれな───」
「嫌だ。」
「え~・・・。」
「離れたくない。ずっとこうしてたいんだ。」
「・・・・・・・・・」
「だから、絶対僕から離れないでね?」
(これ・・・、どうするべきかなぁ・・・。)
六花は爛を束縛するように体にしがみつき、爛は遠い目をしながらどうするべきなのか考える。
「なぁ・・・、黒乃のところに行かなきゃいけないんだけど。」
「む・・・。分かった。理事長のところに行こう。」
六花はしぶしぶ爛から離れ、爛と共に黒乃の居る理事長室に向かう。その時に爛は黒乃に連絡を取り、理事長室に向かった。
黒乃のところでは選抜戦についての書類、七星剣武祭についての書類など、様々なことについての書類を片付けていた。その隣で手伝っているのは爛の姉である香。
「はぁ。」
「何、ため息をついている。あれか?あいつの件か?」
「そうだよ。ホント、六花ちゃんには悩まさせるよ。」
香は絶賛不幸中。この書類の山を片付けた後、爛に甘えようかと思っていたのだが、六花が一日早く、破軍学園に来ていたため、それが出来なくなったのだ。と言うか、それでいいのか?爛からすれば、いい男を見つけろよと言っているところなのだが。すると、理事長室のドアがノックされる。
「香。」
「分かってるよ黒乃ちゃん。どうぞ~。」
香が理事長室のドアに向かってそう言うと、中に入ってきたのは爛と六花。
「で、黒乃。元々、六花は明日からなんだろ?」
「ええ、その通りですよ。」
「はぁ・・・。六花の性格は考えものだな。」
「それどういう意味なの?」
「そのままの意味だ。」
爛は黒乃に六花が破軍学園に来るのが明日のことを尋ねると、黒乃はその通りだと爛に言う。爛はその事にため息をつき、六花の性格は考えものだと言うのだった。
「まぁ、それは良いとしましょう。
「ん?」
爛が黒乃にそういわれ、香の居る方を向くと、香は爛から視線を外し、後ろの方を向く。
「香姉・・・。」
「あいつを何とかしてください。師匠に甘えたいと言っていたので。」
「な、なんでそんなことを言うの!?私は別にそんなことはないからね!」
香は顔を真っ赤にしながら、黒乃が言ったことに反論する。
「香姉!」
「っ!?」
爛は香に近づくと、香に抱きついた。香は何故爛がそんな行動を起こすのか、良く分からなかった。爛からこんなことをするのは無いのだ。香はそれに、驚いたのだ。
「ら、爛?」
「ごめん。姉としても甘えたいときはあるんだよな。俺で良かったら、甘えに来て良いよ。」
爛はそう言った。爛は姉だから大丈夫だろうと思っていたのだ。しかし、黒乃が言ったことに姉でも甘えたいときはあると知ったからこそ言ったのだ。
「爛・・・。爛ーー!」
「え!?香姉!?う、うわ!?」
香は急に爛の方を向き、爛を押し倒す。それを見た六花は・・・
「爛は僕の物なのに・・・。後で僕が抱きつかないと・・・。」
(怖すぎる!!)
六花は香が爛に抱きついていることによく分からない怒りを覚え、それが聞こえていた爛は背筋が凍るほど怖いと感じた。・・・完全に病んでいるとしか言えない・・・。
「爛~。やっぱり、爛は私の自慢の弟だよ!」
「か、香姉!?そんなこと言わないでくれよ!?俺が恥ずかしいから!」
爛は顔を赤くしながら、香を放そうとする。しかし、香は負けじと爛に抱きつき、放れることはしなかった。因みに六花は黒乃に一日早く破軍学園に来たことについての説明は終わらせてあった。
ハチャメチャ過ぎる一日を過ごしている爛。彼はその後どうなったのだろうか・・・。
ーーー第27話へーーー