爛は黒乃に言われたことにあることを思っていた。それは爛のルームメイトについてだ。爛が知っている人物であるのだが、その人物にどうも慣れないところがあるというか、振り回されるところがある。
(あいつ、昔と変わってくれてかな。良い意味で。)
爛がこう思うのはルームメイトの行動が、周りの人間からすれば、可笑しいのだ。例えば、爛の目の前にメイド服で過ごしたり、露出度の高い服を着たり、する必要のない奉仕をしてくることから、ある意味で変わってほしいと思っていたのだ。しかし、爛はそれがどうと言うつもりはなかった。いや、思っていてもそれは口に出すことのできない物であった。まあ、それがその人物の性格でもあるため、無理強いはしないとしていた。そして、爛は自分の試合のために集中するのだった。
『さあ興奮が冷めないなか、続いて本日の第八試合だ!燃えるような髪を揺らして、フィールドに現れたのは破軍学園唯一のAランク騎士!〈
ステラは歩く度に炎を撒き散らせ、自身の強さを見せつける。一方で兎丸と入れ違いになるようにフィールドに上がったのは坊主頭の巨漢。
『校内序列第五位『
試合開始のブザー音がなると、『城砕き』砕城は自身の霊装である斬馬刀を回す。
「うおおおぉぉぉおぉぉぉ!」
『おぉっと!開始早々砕城選手が自身の霊装である斬馬刀を振り回す!その霊装から風を斬る轟音が実況席まで届いてきそうな迫力だぁあぁぁ!』
「問おう。貴嬢は某の能力は知っておられるか?」
砕城は斬馬刀を頭の上で回転させながら、ステラに自身の能力は知っているのかと問う。これにステラはこう返した。それはステラのスタイルを知っている爛達ならば当然のことだと予想できる。
「知らないわ。アタシはイッキと違って相手のことは事前に調べないもの。」
一輝は桐原戦のみ調べることはしなかった。彼は自分の洞察力を生かし、《
「フッ。流石は誇り高きAランク。Cランク等眼中にないか。」
「別に油断しているつもりはないわ。結局のところ、この体表戦も、七星剣武祭も、すべてはアタシ達が強い魔導騎士となるための訓練みたいなものでしょ。テロリストの
「その感覚を養うために下調べはしないと。うむ。流石と言うほかあるまい。一年にしてなんと貴き志よ。されど───此度ばかりは貴嬢の気高さは仇ぞ!」
砕城は頭の上で回していた斬馬刀の回転を止め、ステラに向けて構える。そのステラの金色の大剣、
「某の能力は『斬撃重量の累積加算』!振り回せば振り回すほどに重くなる!限界重量ざっと十トン!某の能力を知らずに限界までチャージさせてしまったのは貴嬢の落ち度!」
吠えるように告げた砕城は斬馬刀を唐竹割りの容量でステラに打ち落とす。
「《クレッシェンドアックス》ーーーッ!!」
砕城は嘘などついていない。今、降り下ろされているのは、一撃で地を割るほどの超重量を宿した斬撃。しかし───
「例え、アンタの斬撃が重かろうが、用は当たらなければ良いのね。」
兎丸に劣る理由はそれだ。《クレッシェンドアックス》は確かにこの一撃の威力だけならば最強クラスの攻撃力。しかし、速さがない。兎丸のようなスピードを重視している伐刀者にとっては良い的だ。そして、ステラもまた兎丸には劣るが十分なスピードを兼ね備えている。この程度の斬撃、目を瞑っていてもかわせるに等しい。だがステラは、
「だけど、あえて受けるわ!」
「な、なにぃぃ!?」
ステラは妃竜の罪剣を振るい、砕城の《クレッシェンドアックス》を受け止めた。しかし、それだけではない。受けるだけではなく、ステラは砕城の斬馬刀を力任せに押し退けた。
「ば、バカなぁ!」
自分が力負けをした。その事実に砕城は目を剥き驚愕する。それもそうだ。砕城は今まで自分の霊装を攻略されたことはなかった。そして、砕城は知らない。ステラがただ一度、この学校で戦った一輝との模擬戦の際には、その場に砕城は居なかった。生徒が動画サイトにアップロードした動画しか見ていなかったからだ。そのため、砕城は測り間違えた。ステラが一刀で大地を震撼させるほどの重撃の使い手だと言うことに。
「覚えておくといいわセンパイ。」
斬馬刀を打ち上げられ、無防備に伸びきった砕城の上体にステラは手を伸ばし、制服の片襟を掴む。そして、口元に残酷な笑みを少し浮かべ、
「力も、異能も、小細工も、全て真正面からねじ伏せる。それができるからこそ、アタシはAランクなのよ。」
その瞬間、砕城の片襟を掴んだ手から爆炎が迸った。襟がちぎれ、砕城の身体が十メートルほど宙を舞い、フィールドに落下する。煤だらけとなった砕城はピクリとも動かない。超至近距離からの爆発に、砕城の意識は砕け散っていたのだ。
『砕城雷、戦闘不能。勝者、ステラ・ヴァーミリオン。』
すぐにその事実を確認したレフェリーのジャッジが入り、この戦いの勝者が確定した。
『ま、またまた圧勝ぉぉおお!!砕城選手、勇猛果敢に『煉獄の女帝』に戦いを挑むも、まるで相手にならず!これが世界レベル!これが最高ランク!強い!強すぎる!』
興奮しながら実況と観客が拍手を送るなか、ステラは悠々とゲートの方に戻っていく。ステラがゲートを越え、待機室に行くと、そこには爛が居た。
「お疲れ、ステラ。やっぱり圧勝か。」
「余裕だったわよ。ランの方も楽勝でしょ?」
「まあな。第六位が相手だろうが余裕だ。」
爛とステラは簡単な会話を済ますと、爛はフィールドに向かって歩き出す。その姿は頂点を目指すために底辺に堕ちた鬼神が動き出した。ということが分かるだろう。それほど、爛の姿は誰が見てもたくましいと感じるほどだった。
『さあ、連続で第九試合だ!赤ゲートより出てくるのは、強者を薙ぎに薙ぎ払いここまで駆けてきた代表戦のダークホース!ここまでの戦績は黒鉄選手、ヴァーミリオン選手と同じように八戦八戦無敗!彼に勝てるものは居るのか!?この快進撃を止められるのか!?否、それはできないと断言させるように、破軍学園の序列一位と三位を薙ぎ倒したこの選手をなんと呼んだか!?『
先程よりも歓声は大きく、熱狂に溢れていた。爛はそんな歓声をどこ吹く風と優雅に歩いていく。そして、青ゲートからも現れる。
『青ゲートからは生徒会役員の一人である選手!破軍学園序列第六位!彼に近づける伐刀者は居るのか!?遠距離の魔法戦に特化している彼の二つ名は『
葵は青ゲートから爛と同じように現れた。爛と葵は開始位置に立つ。
『両者、霊装を顕現し、構え、・・・試合の合図が鳴りました!』
爛は村正に酷似した刀、刻雨を顕現し、鞘に入れ、構えていた。葵の霊装はハンドガン。ハンドガンを握り、構える。そして、爛が刻雨の柄を握った瞬間、葵は一気に距離をとる。爛は動きを止め、葵が行ってくる攻撃に対応しようとしていた。すると、葵がこんなことを聞いてきた。
「初めまして、宮坂君。愛華さんとカナタさんとの戦いは流石ですね。」
「そりゃどうも。」
「因みに聞きますが、貴方は僕の異能は知っていますか?」
「知らないな。」
「そうですか。それが仇にならないことを祈ってますよ!」
そういうと、葵はハンドガンの引き金を数回引く。すると、そこから弾が分裂し、弾から新たな弾が数弾現れた。爛はそれを斬っていき、葵に迫っていく。すると、葵は自身の周りに魔力の弾を展開する。
「《
『で、出たぁ!《毒蛇の魔弾》だあ!触れた部分は侵食され、使い物にならなくなる魔弾!宮坂選手、この魔弾にどう対応するのか!?』
爛は抜刀していた刀を納刀する。葵の《毒蛇の魔弾》が爛に当たる瞬間、爛の姿が消え、葵の前に現れる。すると、葵は倒れ、展開していた〈毒蛇の魔弾〉は消えていく。そして、爛は
「《拾の剣・
『葵透、戦闘不能。勝者、宮坂爛。』
『き、決まったーー!あっという間に終わってしまった!なんと!この八戦の間に、代表戦に出場している生徒会役員、『雷切』を残し、全員一年に破れています!強い!今年の一年は強すぎる!彼達ならば、彼達ならば、破軍学園に七星剣武祭の優勝をもたらしてくれるかもしれません!』
爛は試合を終わらせると、すぐにゲートの方に歩いていく。そして、絢瀬を連れて、一輝達と合流すると、珠雫とステラが言い合っていた。
ーーー第26話へーーー
次回、爛の幼馴染み、登場!