落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第22話~爛のストーカー!?~

 日下部達のとりつきと言う名の拘束から逃れることができた爛は一輝達とトレーニングをしていた。

 

(・・・またか。)

 

 爛は休憩をしているなか、ある方向を一点に見ていた。そこから感じるのは人の気配。まるでここに隠れていますよと言わんばかりに感じていた。一輝は爛があるところだけを見ていることから、爛が気になり話しかける。

 

「どうしたんだい?爛。ずっと同じところを見ているようだけれど。」

「ああ、まあな。俺は誰かにつけられてるみたいだ。」

「まさか、ストーカー?」

 

 爛と一輝の近くにいたステラ達は爛と一輝の会話には参加しなかったが、ステラ達は二人の会話を聞いており、一輝の言ったことが耳に入ったのか、爛と一輝のそばに行く。

 

「ストーカーってあれよね!?一日中その人の後ろをつけまわしたり、勝手に部屋に入ってきたり、手紙にヒゲソリ入れて送りつけたりする、あのストーカーよね!?」

「それ随分と良いストーカーだな・・・」

「ステラさん。カミソリの刃です。ヒゲソリのまま入れてどうするんですか。」

「確かに親切だね。」

「身だしなみに気をつかえってことかしら。」

「ううう、うるさいわね!ちょっと分解し忘れただけでしょ!て言うか今そんなことどうでもいいし!」

「それもそうですね。爛さん。詳しく教えてください。」

 

 珠雫に言われ、つけられているときのことを思い出す。

 

「目線を感じたのはここ最近だよなぁ。」

「何かした?」

「何も。」

「恨まれるようなことは?」

「ないな。」

 

 爛はもう一度目線を感じ、気配を感じている方を向きながらそう言った。そこから感じているのは恨みでも何でもなかった。感じている気から判断すると、爛を見ているのは女性。

 

「アリスは気づいてたみたいだな。俺は放っておいたけど・・・止めないみたいだな。」

「そうね。あたしも分かっていたけど、爛が気にかけないから放っておいた感じね。」

 

 話をしても、予想を立てても、相手がどういう意味で自分をつけまわしているのか、それは分からない。

 

「ランのことが好き・・・とか?」

「俺自身それを信じたくないんだが・・・」

「爛さんは今やお兄様と同じ注目の騎士・・・しかも女性の方に人気がありますからね。それもあり得るでしょう。」

 

 珠雫の言ったことに爛は「はぁ・・・」とため息をつく。爛も一輝と同様に女性に人気がある。爛はその場その場の状況を見極めて、話題を出したり、女性の話についていけることもある。因みに一輝が日下部に爛が人気の理由のことを聞いてみると、守ってくれそうな見た目に優しく包み込んでくれるような笑顔。喜怒哀楽が分かりやすく、爛の表情はどの感情でも可愛らしいとのこと。爛はそれを否定したいのだが。爛自身、人を相手にするのは珠雫やアリスみたいに得意ではなく、苦手な方なのだ。人を追い払うなど、妹が甘えてくることから、そんなことはしないのだ。だからこそ、求めてくれれば爛は出来る限りのことはするのだ。そういう行動が相手に勘違いをさせたのではないのか。ステラ達はそう睨む。・・・が、爛はそんなことはないと思うのだ。気配から感じるに好意ではないのだ。

 

「アイドル気分ではしゃいでるならともかく、分不相応にも私のお兄様に手を出そうと言うのなら、見過ごすわけには行きません。これはもう拷問ですね。」

「いや・・・、一輝じゃなくて俺だからな!?」

 

 珠雫は一輝に手をだすのなら拷問も辞さないと言い、爛は相手が見ているのは自分だと焦りながら珠雫にそう言う。そして、珠雫が取り出したのは羽根箒。爛はそれを見て何か嫌な予感がした。

 

「シズク、羽根箒なんて取り出してどうするのよ。」

「決まっています。捕まえてくすぐりの刑です。」

「・・・・・・珠雫らしくない可愛らしい刑だね・・・。」

「くすぐるのは眼球ですけどね。」

「「「「怖っ」」」」

 

 案の定、爛の嫌な予感は的中。珠雫ならこれはやりかねないから困るのだ。眼球にくすぐられるのはくすぐったいのではなく、痛いでしかない。眼球にくすぐられ続けるのはいつか血の涙でも流すんじゃないかと思うと、ゾッとする。爛はそんなことがないようにと思うのだった。

 

「ま、この事については本人に聞いてみるか。」

「もしかして爛・・・今も?」

 

 爛はある木の一点を見つめる。何もないように見えるが、したの方を見ると、破軍学園の女子生徒が着るスカートの紐の部分が見えているのだ。

 

「朝っぱらからだ。全く・・・俺をつけまわす理由があるのかないのか・・・」

 

 そう、ここ最近と言うのは1週間前からだ。調度、爛と一輝の人気が出てきた頃だ。何かを求めるような目線は、一輝ではなく爛に向けられていた。爛はわざとらしく、追跡者が何処にいるのかと口にする。

 

「ま、何処にいるかは分かるぞ。例えばあの辺りとかな。」

「あの辺り?」

 

 爛が指を指したのは草むらの茂み。確かに隠れるには絶好の場所でもある。一輝が爛の指を指した方に行き、誰かいるのか見に行くと・・・

 

「誰もいないよ?」

 

 誰もいないのだ。爛は残念そうな顔もせず、一輝を見ていた。爛は追跡者が何処にいるのかはわかるのだ。面倒だから言っても良いのだが、爛は焦らしたいと思っているのだが、ステラと珠雫から来る視線が早くしろと言わんばかりの目線に爛はため息をつく。

 

「さて・・・そこに居るのは誰なのかな?」

 

 爛は少し大きな声で追跡者に話しかける。爛が見ているのは、女子生徒の紐がある木のところ。するとーーー、

 

「ひゃわわあぅ!!??」

 

 びょーん!と木のところから弾かれたように飛び出した。敵意は感じられないがつけまわすのは普通じゃない。追跡者の正体はーーー驚いたことに清楚な黒髪の真面目そうな美少女だった。その両手には葉っぱのついた木の枝が握られている。ベタだと爛は思った。

 

「あ、あうあぅ!ちが、これは違うんだっ!ぼ、ボクは、ぅぅう、うわ~~~!!!!」

 

 自分の追跡がバレていないと思っていたのだろうか。爛にそれは通用しない。気配を完全に殺すことができるのであれば見つかることはなかっただろう。突然居場所を言い当てられたことに女子生徒は目を回して動揺。すぐさま爛達から逃げ出す。・・・が、女子生徒が走った方向には小さな池があり───、

 

「きゃああああ~~~~~!?ぎゃふ!?」 

 

 ざっぱ~ん、と慌てていた女子生徒は池を囲む石に蹴躓き、頭から突っ込んだ。その瞬間、「ゴンッ」と生理的嫌悪感を覚える危ない音が響き・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 物言わなくなった女子生徒が爛達に背中を向けたままぷかぷか浮き上がってきた。そして、その女子生徒は動く気配などなかった。多分、気絶しているのだろう。

 

「お、おい!これマズイやつだよ!一輝、医務室確保しとけ!」

「わ、分かった!」

 

 爛と一輝が慌てながらも対応するなか、ステラと珠雫は爛のストーカーで話していた。

 

「あ、あんな綺麗な人が・・・・・・ランのストーカー!?」

「これはこの羽根箒を使うタイミングが思ったより早く来そうですね。」

 

 ステラと珠雫はこの出合いに女の勘がならす警鐘を聞いていた。

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ここはある一つの部屋。明かりは机に置かれた小さな電気スタンドが一つ。そして、個室には椅子に座らされた少女と、少女を囲むように四人の屈強な中年が立っている。男達はいずれもが眉間に皺を刻んだ険しい表情で、怒鳴り声をあげながら少女を詰問する。

 

「正直に言え!貴様は被害者・宮坂爛氏をストーカーしていた!そうだな!?」

「現行犯逮捕なんだ!まさかしていませんなんて言うわけないよな!?」

 

 問い詰める声。顔に向けられる眩しすぎる電気スタンドの光。そのいずれにも気圧されながらも、少女は必死に言葉を作る。

 

「ち、違う!あれはストーカーしていたわけじゃなくて・・・・・・っ。」

「言い訳言うなぁああ!」

「ひっ!」

「お前が一週間彼をつけまわしていたことは明白なんだ!」

「だと言うのにシラを切るか貴様ぁぁぁ!」

「ええい、とにかく拷問だ!拷問にかけろ!」

「や、やめて~~~~~~っ!」

 

 そうして目の前が光に包まれていく。

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーーーはっ!?」

 

 少女はそこで悪夢の世界から目を覚ました。視界に写るのは清潔感のある白い天井。鼻腔をくすぐる薬品の匂いから、ここが医務室だと言うのが分かる。どうやら自分は医務室のベッドに寝かされているようだ。その事実に少女は安堵する。さっきのただの悪い夢ーーー、

 

「蝋燭責め。鞭打ち。爪剥がし。駿河問い。石抱き・・・。」

 

 ぐるりと首を回すと、耳元でブツブツと呪詛を呟く少女と、その隣に椅子で座っているのは少年。

 

「火あぶり。水責め。釘付け。市中引き回し。三角木馬。ーーーあ、起きましたか。」

「今ブツブツ呟いていた言葉は・・・」

「さあ、悪い夢でも見てたんじゃないですか。」

「ん、起きたか。おはよう。と言っても、昼過ぎなんだけどな。気分はどうだ?」

 

 銀髪の少女───珠雫は呪詛を呟いていたのを止め、漆黒の髪で眼帯をつけている少年───爛は少女に気分はどうかと話しかける。

 

「うん、助かったよ。ありがとう。」

「そりゃよかった。流石、珠雫の治癒術だな。一輝、目を覚ましたぞ。」

 

 爛がコントラクトカーテンの外側に向かって告げる。その声に呼ばれて入ってきたのは一輝とステラ、アリスの三人。

 

「随分と大きなコブだったから心配したけど、流石珠雫の治癒術ね!」

「試合の怪我じゃない限りiPS再生槽(カプセル)は使えないからね。珠雫が居たから助かったよ。」

「で、何で俺から目を背けてるんだ?」

 

 爛がその少女を見ると、爛から目を背けていた。 すると、少女は爛の問いにこう答えた。

 

「き、気にしないでっ。す、すごく個人的な理由だから。」

 

 答える少女の声には焦りの色がある。何か後ろめたい事があることから顔を合わせづらいのだろうか。そこのところは追々聞いていくとして・・・

 

「それは後々聞くことにするか・・・一番大切なことを聞くけど、名前は?」

「ぼ、ボクは───」

 

 少女の名前は?

 

 

 ーーー第23話へーーー

 


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