落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第19話~爛の右目~

 一輝が桐原と戦い、三日が経った。一輝達はいつもと変わらずトレーニング等をこなしていたのだが、そこには爛の姿がなかった。爛は誰も使っていない訓練場に一人で居た。すると、自身の固有霊装(デバイス)を顕現し、魔力を集中する。すると、爛の体の周りに青い蒸気が発生する。

 

「う~ん、まだここまでしか行かないか・・・七星剣武祭までには最後の方まで行きたいな。」

 

 爛がそう呟くと、発生していた蒸気をなくす。すると、身体中に激痛がはしる。

 

「くっ! ・・・やっぱり、これを使ったあとは休んだ方が良いよな。」

(あれも後一回しか使えないしなぁ。)

 

 身体中にはしる痛みがなくなると、一輝達の方に戻っていく。因みに、今日は爛達の二回戦目。爛は東堂愛華との戦いだ。爛も一輝達のトレーニングに参加し、自分自身のトレーニングも昼までこなしていた。昼は昼食を食べ、二回戦目のためにコンディションを整えていた。

 爛は第四訓練場の待機室に移動していた。一輝達は二回戦目を突破。残りは爛だけになった。一輝達のところでは観客席に座り、爛の二回戦目のことを話していた。

 

「前にも言った通り、爛は一位の二人を倒している。だから、心配することはないんだけどね。」

「そうね。でも、相手はある意味で強敵よ。」

 

 アリスの言ったことに、全員は疑問を持つ。しかし、一輝はすぐに答えにたどり着いた。

 

「相手が、妹だからかい?」

「その通りよ。爛は慈悲深い人。だから手心を加えてくる可能性もあるかもしれないわ。」

「いや、それはないな。」

「どうして?」

 

 颯真は爛がこの戦いで手心を加えてくると言ったアリスを否定する。やはり、前から知っている人は爛のことをよく知っているのかと、思った一輝だった。

 

「あいつは割りきることができる。でも、女は傷つけない趣味かな。」

「と言うことは・・・」

「お兄ちゃんは愛華さんを斬るとき、霊装を幻想形態で斬ると言うことになる。」

 

 ステラの言葉に続くように、明が加えてくる。爛は誰よりも強い代わりに誰よりも優しい。しかし、彼は割りきってこの場に立つ。だから、相手が誰であろうと斬ると言うことになる。しかし、彼は颯真達が言ったこととは違う行動に出るのだった。そして、爛の試合、第五試合が始まる。

 

『これから第五試合を始めます。実況は代わらず、月夜見三日月。解説は宮坂香先生です。』

『よろしくお願いします。』

『香先生はこれから出場する選手とは血縁関係にありますが・・・』

『大丈夫です。平等にジャッジしますから。』

 

 それとそうだ。月夜見の言う通り、香と爛は血縁関係どころか姉弟の関係だ。しかし、香には戦いに関してシビアだから結果的に平等になるのだ。

 

『それでは、選手の紹介に入ります!』

「赤ゲート、選手入場。」

『赤ゲートから出てきたのは『紅の淑女(シャルラッハフラウ)』を一回戦目で破りました!今回はどんな戦い方で会場を驚かすのでしょうか?一年、宮坂爛選手!』

 

 赤ゲートから出てきたのは爛。一輝達から見ても、コンディションは完璧に整えてきているのが分かる。

 

「青ゲート、選手入場。」

『青ゲートから出てきたのは校内序列(ランク)一位!東堂刀華選手の妹であり、『麒麟』の異名を持っています!三年、東堂愛華選手!』

 

 青ゲートから出てきたのは愛華。誰もが見ても愛華は本気で爛を倒しに来ていることが分かる。体の周りには雷が見えているからだ。

 

「随分と本気だな。愛華。」

「本気で来ないと倒されちゃうし。」

「・・・じゃ、今から終了まで敵だと割りきらせてもらう。」

「もちろん。」

 

 二人は霊装を顕現する。

 

「響け、春雨。」

「切り裂け、呉正(くれまさ)。」

 

 愛華は稲妻から自身の霊装、春雨を顕現し、鞘の中に納める。爛は右手に力を溜め、地面に手をつけ、そのまま体勢を高くするのと同時に手を上げていくと、霊装が姿を現し、右手で掴む。霊装は『村雨』と酷似した刀だった。それに会場の誰もが驚愕の表情になる。

 

『な、なんと言うことでしょう!爛選手、一回戦目の霊装とは違う霊装を顕現した!これはどう言うことでしょう?香先生。』

『爛は余りにも力が強すぎるため、霊装で力の制限をかけているのです。彼の本当の霊装はこの選抜戦では見ることがないでしょう。それと、彼は魔力の制限もかけています。魔力を解放したら、私でもどうなるかは分かりません。』

 

 姉の香ですらどうなるかは分からないと言っていることに、会場はどよめきに包まれる。そう、世界序列第四位の人間ですら警戒をすることに、彼はどのくらい強いのだろうかと気になる人も居るだろう。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と共に愛華は跳躍し、爛に斬りかかる。爛は魔力を少し放出し、愛華の攻撃に備える。

 

『愛華選手、いきなりの跳躍だーっ!爛選手に斬りかかる!』

 

 愛華は爛の目の前まで行くと、愛華の体がいきなり滅多斬りになり、バックステップをとる。

 

『な、な、何でしょうか!?いきなり愛華選手の体が滅多斬りに!』

(爛・・・隠すつもりはないのね。)

(今のは・・・一体?)

 

 愛華の体が滅多斬りになり、会場はまたどよめきに包まれる。一輝達も何故愛華の体が滅多斬りになったのか、その事について、戦いを見ながら話していた。

 

「今のは!?」

「罠・・・なのかしら?」

「いや、違う。」

 

 爛が罠を仕掛けていることに感じたアリスは罠なのかと口にするが、一輝はそれを否定する。

 

「どう言うこと?」

「彼は罠を仕掛けてない。僕も愛華さんと同じような現象を受けたことがあるんだ。」

「それは?」

「爛が少し魔力を放出しているとき、一定の距離に入ると、彼の意で斬られる。僕は制服の袖を斬られたからね。」

「だから、罠ではないと?」

「その通り。」

 

 一輝言ったことは本当だ。爛は魔力を放出し、魔力を操り、魔力を刃に変えて見えない刃を作り、自分の意で操作することができる。伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《(つゆ)》。これが一輝と愛華の受けた現象の正体だ。爛と愛華は剣戟で戦っていた。

 

「ハァ!」

(やっぱり、俺の視界の右側に陣取っている。)

 

 爛の右目は眼帯で隠しているため、右側の視界が狭い。だから愛華は爛の右側に陣取っている。爛はバックステップをし、愛華との距離を取ると、眼帯をはずす。すると、爛から強い光が放たれる。光は次第に収まっていき、爛の方に向くと、爛の右目が金色に光っていた。

 

「これが、眼帯をつけている理由だ。」

 

 爛が眼帯をしていたのはこの目を隠すためだったのだ。左目が黒く、右目は金色に光っている。ここまで色の差があるのはおかしい。オッドアイでもはっきりと色が違うのはないのだ。爛の場合、右目も左目も力を持っており、何故こういう目になったのか、理由もあった。

 

「爛くん。これで、しっかりと戦える!」

 

 愛華と爛は駆け出し、刀の戦いになる。最初は互角に見えていた二人の戦いも爛が右目を見えるようにしたためか、愛華がおされていく。

 

『愛華選手、爛選手の剣戟に圧倒されていく!防ぐのが精一杯か!?』

 

 確かに防ぐのが精一杯だ。それだけ爛の剣戟は卓越していると言うことだ。爛が霊装を振るっていくと、愛華はそれを避け、カウンターをするのだが、爛の右目の力が最大限にたまると、力を発動する。

 

「っ!?」

『辺りが光で包まれたーっ!爛選手を捉えることができない!』

(この光の中では、俺しか自由に動けない。でも、そこから斬ることはしない。)

 

 光が収まっていくと、爛が愛華の離れたところに居た。すると、愛華は爛に問いかける。

 

「何で、斬らなかった?」

「お前の立場を・・・考えてほしいな。それが答えだ。」

 

 爛が斬らない理由、愛華はすぐに分かった。爛も妹が居た。自分は刀華の妹。妹を斬ることはしないことに気づいた。

 

「まさか、自分が妹だから?」

「そうだな。でも、今度は斬るぞ。」

 

 爛は愛華に宣言をする。勝つために、次は絶対に斬ると、愛華はそれを受け取った。だから、愛華はそれに応えようとする。

 

「なら、私も全力で斬りに行くよ。」

 

 愛華も宣言をする。そして、雷の力をためていく。爛も霊装を構え、愛華に対応できるようにする。

 

「《麒麟》!」

 

 雷を纏った愛華は爆発的な速度で走っていく。爛はバックステップをし、愛華との距離をさらにあける。

 

「《八門遁甲(はちもんとんこう)・第五・杜門(ともん)》開!」

 

 爛の体から青い蒸気が発生する。《八門遁甲》・・・どこかの世界の忍の体術しか使えない忍が長い年月をかけ会得した技。チャクラと呼ばれるものを身体能力強化に運用するが、爛はそれを魔力で応用し、会得をした。しかし、無理矢理力を引き出すことから、一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》を超える疲労がのし掛かり、動くことさえできない状況に陥る。正に諸刃の剣の技。

 

『まさか、この伐刀絶技は!?』

『香先生、何か爛選手のことに気づいたのですか?』

『彼が行ったのは《八門遁甲》・・・私達伐刀者(ブレイザー)には八門だけ、魔力が溜まらないところがあります。しかし、そこに魔力を溜めることにより、爆発的な身体能力、パワーを得ることができます。しかし、代償として自身の体を痛め付けることになります。動けないところまで行くことがあります。そして、最後の八門を開いた場合、使用者はほぼ確実に死にます。諸刃の剣と言うことになりますね。』

(速いっ!)

 

 爛の速度は愛華の《麒麟》をも超える速さで愛華に向かっていく。ぶつかり合う瞬間、爛の姿が消える。

 

「っ!?」

 

 すると、横から爛の蹴りを受ける。身体能力を強化し、さらにはパワーをも兼ね備えた蹴りは人一人を蹴り飛ばすことができる。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

(次で決めないとな・・・)

 

 爛は霊装に力を溜め、一撃で決めようとする。愛華は体全体が痛むなか、なんとか立ち、最後の一撃をしようとする。

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》ーーっ!」

「《雷迅双破(らいじんそうは)》ぁぁぁぁ!」

 

 二人の最大の一撃がぶつかり合う。一瞬、何もかもが止まったように感じられた。止められたのが動き出したように感じたのは、愛華の春雨が砕け散った音を聴いたときだった。そして、愛華が倒れる。

 

『東堂愛華、戦闘不能。勝者、宮坂爛。』

『試合終了ーーっ!第五試合、死闘を制したのは一回戦目で『紅の淑女』に勝利を収めた宮坂爛選手だ!』

 

 この死闘に幕が下ろされた。

 

 ーーー第20話へーーー

 




作者「何か、カオスのような気が・・・しないか。」

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