落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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第18話~約束~

『試合終了ぉぉぉ!勝ったのはなんと、Fランク騎士、黒鉄一輝選手!!去年までは授業すら受けることが出来なかった黒鉄選手が、自分達の世代の最強騎士を討ち取り、見事公式戦初白星を上げました!』

 

 一輝の勝利が告げられた後、一輝はフィールドをあとにする。フィールドに残ったのは未だ気絶したままの桐原一人。その桐原も職員の手によりずるずると引きずり出されていく。

 

『今、桐原選手の方もフィールドから去っていきます。今年も七星剣武祭代表の有力候補と思われていた桐原選手にとってはまさかの敗北だったでしょう!よほどショックだったのか、傷を受けたわけではないようですが、未だ起き上がる気配がありません!』

 

 その様子を観客席から見ていた、桐原を応援していた女子が呟いた。

 

「なんか・・・・・・だっさい」

「最後の方、泣いてなかった?痛いのは嫌だーって。」

「正直幻滅・・・・・・」

「帰ろ帰ろ。なんかもう冷めちゃった。」

『あらら、応援団の女の子達がゾロゾロと帰っていきます。うーん困りましたね。誰か友達に引き取ってもらいたいのですが。』

『怪我してるわけじゃないしー、そのうち目ェ覚ますよ。』

『・・・・・・それもそうですね。───えー、それでは、これにて本日の第四試合を終了します。フィールドの清掃後、第五試合を開始しますので、出場される選手は準備をお願いします。』

 

 アナウンスをしてから、マイクを切り、隣に居る寧々に話しかける。

 

「ふぅ。いや、すごい試合でしたね。まさか桐原選手の無傷完勝(パーフェクトゲーム)を支えていた《狩人の森(エリア・インビジブル)》がFランク騎士に破られるなんて。予想もしてませんでした。」

 

 そう言い、寧々の居る方向に目を向けるが、解説席には『満足したから帰る』という寧々の書き置きと、寧々を模した人形が置いてあった。 

 

「もういやぁぁぁぁぁぁぁーっ!誰か実況代わってぇぇぇぇ!」

 

 寧々の職務放棄は公式戦でよくある話で、実況をしている月夜見三姉妹は寧々の職務放棄の被害者なのだ。

 月夜見が悲鳴を上げた頃、観客の生徒達も次々と大闘技場から立ち去っていく。ここに集まった観客の大半が、爛と颯真、一輝達の試合を見に来たのだから当然と言えば当然だ。だが、その流れの中で動かずに足を止めている三人がいた。───颯真と珠雫と、アリスだ。

 

「ここまで露骨に観客が減ると、次に試合をする人が少し気の毒になるわね。」

 

 アリスは人の動きに目をやりながら呟き、

 

「それで、・・・・・・珠雫は一輝達についていかなかったの?」

 

 隣にたつ小柄な少女に尋ねる。アリスの問いかけに珠雫は、小さく首を横に振った。

 

「・・・・・・行っても、三人で話しているもの。」

 

 三人とは一輝と爛、ステラだ。一輝は爛の過去の話を聞くために爛と話すのだ。ステラはすぐに二人の追いかけていき、ステラも話に加わることになったのだ。

 

「そうね・・・でも、彼の話は貴女も聞いた方が良さそうだけどね。」

「どういうこと?」

 

 珠雫の答えに、アリスは爛の話を聞いた方が良いと言ったことに珠雫は疑問を持つ。

 

「あいつは迷惑をかけたくないから、今まで隠してきた。話を聞くことは、あいつに安心感ができるからだ。」

「安心感・・・・・・?」

「あいつが今まで隠してきた。・・・・・・と言うのが答えに繋がるヒントになる。」

 

 颯真はアリスの言ったことを割り込むように話始める。珠雫はしばらく考えると、答えに行き繋がった。

 

「まさか、心から許すことがなかったから・・・ですか?」

「その通り、そうなのならば妹の明にも話しているはずだ・・・って、珠雫は思ったか?」

「・・・はい。」

 

 まさか、私の考えが颯真さんに見抜かれるとは思わなかった。

 珠雫が考えていたことが、颯真に当てられたことに驚いていた。爛が明にも話さなかったことを颯真は爛の性格を知っているから分かることだった。

 

「あいつの性格を考えると、あいつは背負い込むことをする。だから、明には誤魔化している可能性がある。」

「だから、話を聞いた方が良いと?」

「まあ、そんなとこだ。」

 

 颯真はそう言うと、大闘技場から立ち去っていく。

 

「もうこの件に触れるのは止めましょうか。珠雫、一緒に買い物に行きましょ。爛から頼まれてるから。」

「爛さんから?」

 

 珠雫がアリスに問いかけると、アリスは手帳を取りだし、爛から送られていたメールの内容を見せる。その内容は───

 

『アリス、悪いけど祝勝会で食べるものを買ってきてくれないか?俺は一輝と話さないといけないからな。買ってくるものはそっちに任せる。後、ステラは大量に食べるから大量に食材を買ってきてくれ。使った金の方は食べに行くときとかに俺が出すからな。』

 

 と言う内容だった。彼らしいメールの内容だった。

 

「それじゃ、行きましょアリス。」

 

 珠雫は何故か鼻唄を歌いながら、大闘技場をあとにする。アリスも珠雫についていった。そして、珠雫はふと呟いた。

 

「・・・・・・さっきお兄様を侮辱したやつらは、やっぱりまだお兄様の力を信じていないのかしら。」

「さあ、どうかしらね。中にはやっぱり、自分の目で現実を 目の当たりにしても、それを信じようとしない人は居るでしょうね。・・・・・・だけど七星の頂にふさわしい力を持った実力者達は、全員気づいたはず。そして記憶したはずよ。黒鉄一輝と言う騎士の名を。だから一輝はもう、今までみたいなただの『落第騎士(ワーストワン)』には戻れないわ。絶対にね。それも、爛と共に。」

 

 アリスの言っていることは正しい。今日この日を境に、ネットの片隅で『落第騎士』はもうひとつの通り名を持つようになる。

 『戦鬼の剣帝(アナザーワン)

 その通り名は、一輝がただの『落第騎士』に戻れないことを示していた。当然だ。黒鉄一輝は七星剣武祭代表最有力候補の一角を落としたのだから。

 ところ代わって爛達。爛の部屋に入り、一輝とステラは爛の話を聞いていた。爛の過去の話は、とても残酷だった。途中からステラは涙ぐんでいた。

 

「これが、あのときの一連だ。」

「そんな・・・・・・どうにかできなかったの?」

「無理だった・・・間に合わなかったんだ・・・」

 

 爛はそう言うと、爛の部屋にある一枚のアルバムを手に取り、とある写真を見せてくる。

 

「これは?」

「俺と沙耶香だ。これが、沙耶香が生きていたときの最後の写真だ。」

 

 爛が差した写真は爛と沙耶香が写っていた。これが、沙耶香が生きていたときの最後の写真のようだ。そこには、沙耶香が前に、爛が後ろで写っていた。そして、写真には『お兄ちゃん、大好き!!』と言うことが書かれていた。

 

「可愛いわね。」

「そうか・・・ステラも言ったことだから可愛いんだな。沙耶香は。」

「いつもはどう過ごしていたんだい?」

「沙耶香は、いつも俺にべったりだったよ。俺が出掛けるときも沙耶香が隣にいた。どんなことでもな。俺が海外に修行に行ったときには、毎日泣いていたって父さんが言ってたな。だから、俺は沙耶香の隣に居れるようにしたんだ。守れるように・・・大切なものを・・・な。」

「可愛い妹だったのね。」

「可愛さは、俺の姉さんと明の可愛さだったな。三人とも同じような可愛さだったよ。」

 

 爛が懐かしむように言っていた。そして、一輝とステラが爛の方を見ると、爛は涙を流していた。爛の涙は一輝もステラも分かっていた。大切なものを守れなかった悲しみの涙だった。だから、一輝とステラは爛が涙を流していることに触れることはしなかった。

 

「悪い。お前らの前で泣くことなんてなかったもんな。」

「・・・そうだね。」

「苦しいところを見せたな。でも大丈夫だ。吹っ切れたからな。」

 

 爛はそう言うと、笑みを浮かべる。すると、爛の部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「はいよー。」

 

 爛が玄関の方に行き、ドアを開けると、颯真と明が居た。

 

「お兄ちゃん、祝勝会しに来たよ。」

「おう、入れ入れ。」

「じゃ、失礼するぜ。」

 

 明と颯真は部屋の中に入って行く。

 

「明ちゃんに颯真?」

「イッキ、祝勝会やるの覚えてる?」

「・・・忘れてた・・・」

 

 一輝は明と颯真が来たことに疑問を持ったが、ステラが祝勝会をやるのを覚えているのかと聞いてきたときに、一輝は忘れていた。すると、明はアルバムの方に行く。

 

「懐かしい!沙耶香はいつ見ても可愛いよね。」

「お、沙耶香と爛の写真じゃないか。」

 

 明と颯真は、アルバムに入っている写真を見ていた。颯真にも沙耶香と面識があったようだ。

 

「いつも爛にべったりだったか?」

「そうだよ。颯真はお兄ちゃんほどに好かれなかったけどね。」

「それは面倒だから嫌かな・・・」

 

 すると、部屋のドアが開けられ、中に入ってきたのは荷物を持った爛と、珠雫とアリスだった。

 

「まさかすぐに来るとは思わなかった・・・」

「あら、すぐに買うもの決まったから買ってきたのだけれど。迷惑だったかしら。」

「いや、迷惑じゃないんだけどな・・・」

 

 爛が一輝の方を向くと、相変わらず珠雫とステラが言い合いをしている。ある意味で両手に花だ。

 

「ん~じゃ、作りましょうか。」

 

 爛は料理を始めることにした。爛の部屋は元々は祝勝会をする場所には良いところだった。一輝達は大きいテーブルを囲んで話していた。爛が作ろうとしているのは鍋。まだ4月の肌寒い頃だ。肌寒いだけだから大丈夫。何て考えしてると痛い目にあう。

 一時間ほど経つと、爛が鍋をもって一輝達の方に行く。

 

「何を作ったんだい?」

「鍋。」

「即答だね。お兄ちゃんの料理は久しぶりだから、楽しみだなぁ。」

「爛さんは料理は得意なんですか?」

「まあまあかな。」

「って言うわりに美味しいものを作るよね。」

「うまいものは食べてもらいたいからな。」

 

 そう言いながら、食べれるように準備をする。一輝達は食器棚から皿を取りだし、平等に分けるのだが───

 

「ステラの皿、おかしくないか・・・?」

 

 どんぶり皿だしなぁ、驚くのも無理はない。俺と一輝も驚いてたもんなぁ。

 そんなことを思っていると、一輝が颯真に説明する。

 

「ステラは大量に食べるからね。」

 

 一輝は苦笑いをしながら席に座る。全員が席に座ると、爛が切り出す。

 

「じゃあ、食べようとは思うけど・・・七星剣武祭代表に全員でなれるといいな。」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

「と言うことだ。全員で七星剣武祭に出れるように約束と言うことでも良いか?より一層に勝ちに行くと言うことで。」

「それもそうだな。俺は爛に賛成だ。」

「それは私もかな。お兄ちゃんに追い付かないと。」

 

 爛の言ったことに全員が賛成した。爛は笑みを浮かべると、話始める。

 

「食べましょうかね。」

「「「「「「「いただきます。」」」」」」」

 

 そう言うと、全員は食事を始める。鍋は冬に食べるものなのだが、春に食べるのも良いものだと爛は思った。

 

「ん~、爛さんの料理は美味しいですね。」

「同感だわ。今度教えてもらおうかしら。」

「そこまで行くのか?俺の料理は。」

「行くだろ。店に出せるくらいのうまさなんだからさ。」

 

 珠雫とアリスの感想に、少し頬を赤くする。褒められることには慣れていないのだろうか。

 

「あ、お兄ちゃん頬赤くしてる。沙耶香の時はいつも赤くしてたよね。」

「明!それを言うな!」

 

 明にいじられてしまう爛。頬を赤くすることに、恥ずかしさを感じている爛は意外だった。

 爛の料理を堪能すると、一輝とステラ以外は部屋に戻っていった。

 

「ん?戻らないのか?」

「戻るけど、爛と約束をしたいからね。」

「そうか。で、どういう約束なんだ?」

「七星の頂で全力で戦うことだよ。でも三人だから、どう当たるかは分からない。」

「アタシがランと当たる可能性もあるからね。」

「そうだな。」

「「「約束だ。」」」

 

 こうして、爛達は七星剣武祭に出れるように全力で戦うともう一度決意をした。

 

 

 ーーー第19話へーーー

 


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