落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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作者「第16話、やっと一巻が終わりに近づいてる・・・長い・・・」


第16話~爛の過去と一輝の優しさ~

 電話を終え、一輝の試合である第四試合前までに大闘技場に戻った爛。近くの席に座っていた明に颯真の試合である第三試合の結果を聞く。

 

「明、颯真は勝ったのか?」

「勝ったよ。お兄ちゃんは結果は分かってたの?」

「まぁ、推測でしかないけどな。」

 

 第三試合の結果を聞くと、爛は席に座った。次は第四試合。一輝と桐原が対戦する試合だ。正直、ステラ達は心配をしていた。一輝は自信に道溢れていたが、桐原の能力をつい最近見てきたばかりなのだ。しかし、爛は心配をすることはなかった。何故、一輝はあれほどに自信に道溢れ、爛はこの対戦で一輝が一方的にやられるとも言わないのだろう。まるでこの試合。最初から一輝の勝ちが決まってるかのように。

 

『さあ!第四試合に入りたいと思います!第二、第三試合での結果に興奮が冷めないと言ったところですが、第四試合は注目の対戦(カード)です!実況は同じく月夜見半月。解説も同じく西京寧々先生です!』

『よろしく~』

「赤ゲート、選手入場。」

 

 アナウンスとともに赤ゲートが開いていく。そして、フィールドに向かい、手を挙げる。

 

『まず入場してきたのは、二年Cランク、桐原静矢選手!昨年度では一年にして七星剣武祭に出場する快挙を成し遂げ、またその一回戦で優勝候補の一人とまで言われていた文曲(ぶんきょく)学園の三年生をワンサイドゲームで打ち破った昨年度主席入学者!決して無理はせず、勝てる相手から勝っていくそのスタンスと、無傷のパーフェクトゲーム貫く事からついた二つ名は『狩人(かりうど)』!七星剣武祭最有力候補者です!』

 

 月夜見の説明が終わると、桐原に対しての歓声が聞こえた。そのほぼ全てが女子生徒からだった。

 

『流石桐原選手。その容姿の良さで女子受けは抜群です!』

『ウチはもーちょっとワイルドな方が好みだけどねー』

『寧々先生の好みは聞いてません。』

『さいですか。』

 

 月夜見は業務放棄をする寧々を軽くあしらう。そして、青ゲートの選手の説明にはいる。

 

「青ゲート、選手入場。」

『次に入場してきたのは、Fランク騎士!しかし、侮ることなかれ!この騎士は、Aランク騎士であるステラ・ヴァーミリオンを倒した騎士です!強さは本物か!?それともただの『落第騎士(ワーストワン)』なのか!?一年、黒鉄一輝選手!』

 

 一輝が姿を見せると、爛は一輝に声援を送る。

 

「全員、お前を待ってるから、勝てよ・・・」

「分かってる。」

 

 爛が最後に「絶対・・・」と呟いているのが聞こえたのか、一輝は頷く。そして、桐原と対峙する。

 

「おやおや、同じ落ちこぼれからの声援だけで、そんなになるのかねぇ」

「何も分かってない君に、分かるはずのないものがある。」

 

 桐原はニヤリと笑みを浮かべると、爛の方に顔を向け、話始める。爛の悪夢の話を───

 

「それと、宮坂君。君の一番下の妹君の話なんだけど、あれは僕がやったものだよ。」

 

 桐原が極悪非道な笑みを浮かべながら話すのは、爛だけが知っている、あの日の悪夢。その事に爛は絶望の顔をする。そして、爛の脳にあるのは、あの日の最後の妹の声。

 

『爛・・・兄さん・・・』

『もういい!何もしゃべるな!』

 

 灰色の雲が空を包み、雨が降りしきるなか、爛と一番下の妹───沙耶香が血だらけの状態でいた。爛は必死に沙耶香に声をかける。死んでほしくなかった。一緒に生きてほしかった。そんな願いと共に、ずっと───。

 

『お前には、一緒に生きてもらいたいんだ・・・お前が居なくなったら、何も守るものが無くなるじゃないか!俺は、お前と共に平穏で暮らしたいんだ・・・なのに、なんで・・・』

『爛兄さん・・・私は・・・悔いはないんだ。十年とちょっとだったけど・・・楽しかった・・・』

『待て沙耶香。逝くな・・・欠けてしまったら、意味がないんだ・・・』

『だから、私の分まで生きて・・・爛兄さん・・・大好き・・・さよ・・・なら・・・』

 

 沙耶香はそう言うと、徐々に体は冷たくなり、爛に体を預けるように、静かに逝った。

 

『沙耶香?沙耶香!逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 爛の悲痛な叫びは、空に響いた。重く、悲しく、そして、何よりも爛が辛い現実だった。爛は一輝の妹、珠雫と会ってから、時折あの日のことが夢として出てくる。今度は、彼の妹を失うのではないのかと、自分のせいで、彼女を失うことになるのではと、自分のせいで、彼女を失うだけではなく、彼達まで失うことになるのではないかと、大事な選抜戦と、七星剣武祭での戦いで、この事を明かせれてしまった爛の精神は、もう、限界に達していた。一輝をも超える限界に。爛はそれを抑え込んでいた。ここで、その扉を無理矢理こじ開けられた悲しみと、絶望と、苦しみは、爛を完全に侵食していった。

 

「・・・・・・なんで、お前が殺った?」

「ん?」

「・・・なんでお前が殺ったのか。聞いてる。」

 

 桐原は爛の質問に、極悪非道な笑みを浮かべ続けながら、答えを口にする。

 

「君の力が、うざかったからさ。その力が!」

 

 桐原は完全に悪人だった。何もかもをかなぐり捨てた笑い声は、大闘技場に響いた。そして、爛に追い討ちをかけるように闘技場内にいる生徒達に言う。

 

「見ろ!あの無様な騎士の顔を!あれが!必要のない力を持ってる人間が絶望に落ちたときの顔だ!アハハハハハハハ!」

 

 まるで、爛が悪いかのように言う桐原を闘技場内にいる生徒達は信用してしまう。実際は───桐原が悪いと言うことよりも、爛が絶望に落ちている顔を面白そうに見ている。桐原が極悪非道な笑みを浮かべていても、爛は学園のないがしろ。爛を信用する者は、ごくわずかだ。そしてこの事は寧々達は知らない。爛は爆発をするはずの心の悲鳴を抑えている。無理矢理───。次こじ開けられてしまえば、爛の心は完全に折れてしまう。アリスが言ったことが、本当になってしまうと言うことだ。

 

「爛・・・」

「・・・・・・」

 

 一輝は爛に声をかけるが、爛は何も反応をしない。しかし、一輝は爛が聞いていると思い、話続ける。

 

「爛、後で君の話を聞くけど、これだけは言わせてもらう。」

 

 自分を離すことだろう、と思いながら、爛は一輝の言う言葉を聞いていた。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の思いを取り戻す。」

「っ!」

 

 空っぽだった心の穴が、埋められていく気がした。爛の中で、凍っていたものが溶けていった。

 

「一輝・・・頼む!」

「わかってるよ。」

 

 爛は、一輝に願うように言うと、一輝は爛に優しく答える。

 

『試合前から大変なことが起きていますが、第四試合に入ります!』

 

 月夜見はそう言うと、二人は自身の固有霊装(デバイス)を顕現する。

 

「来てくれ、陰鉄(いんてつ)!」

「狩りの時間だ、朧月(おぼろづき)。」

 

 一輝は黒い鋼の太刀、桐原は翠色の弓、そして、試合開始の合図が闘技場に響く。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と同時に、桐原はエアピアノをし始める。しかし、ピアノの音はするのだ。すると、桐原の姿が消える。

 

『あーっと、桐原選手、いきなりの《狩人の森(エリア・インビジブル)》だー!黒鉄選手、厳しい状況となるのか!?』

『桐やんの《狩人の森》にはワイドレンジアタックが有効だけど、黒坊が持ってなかったらキツいだろうね。』

 

 ワイドレンジアタック・・・広範囲攻撃のことだ。広範囲攻撃は、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》ならば、桐原は瞬殺で終了する。桐原は、ワイドレンジアタックを持っている相手とは戦っていないのだ。姿を消してしまえば、ワイドレンジアタックであぶり出してしまえばいいからだ。それを一輝は持っていない。だが、それは普通の学生騎士ならば、だ。一輝に向かっていく桐原の朧月の矢。

 

「はあ!」

 

 一輝はそれを切り落とし、矢が来た方向に走る。一輝が走っている方向から来る矢を次々切り落とし、ある場所で陰鉄を振るう。

 

「くっ・・・!」

『あれは、学生服の切れはし!?』

『黒坊は矢が飛んできているのを捉えたら、その矢を逆算して、桐やんの位置を割り出したんよ。』

 

 一輝が有利に見えるこの戦い、桐原はこんなこともあろうかと去年よりも認知不能(ステルス)の能力を上げていた。しかし、一輝には関係がない。どれ程桐原が認知不能の能力を上げていたとしても、一輝の勝ちは揺るぐことはない(・・・・・・・・)

 

「これは参った。黒鉄君は本気で僕に勝つつもりなのかな?」

「そうでなければ、こんなところには立たないよ。」

「聞いておくけど、相応の覚悟はしてきたんだよね?」

「勿論してきたさ。君が気に入らないと言うのなら、好きなだけ矢を放てばいい。僕はそのことごとくを切り捨てよう。」

 

 それを聞いた桐原は、笑いながら一輝に話す。

 

「フフ、フハハハハハハハ。なら、精々頑張ってくれよ。落ちこぼれ。」

 

 そして、見えていた桐原の姿がまた消える。桐原の能力も伐刀絶技(ノウブルアーツ)である《狩人の森》は意味をなさなくなる。

 

「これからハンデとして、矢の当たる場所を教えてあげよう。」

 

 桐原の声が、頭のなかに響くように聞こえてくる。そして、桐原は矢を飛ばすと同時に当たる場所を言う。

 

「まずは右肩・・・」

 

 このまま行けば、一輝の右肩に桐原の矢が当たる・・・はずだった。

 

「へ?」

 

 桐原の素っ気ない声が、聞こえてくる。当たるはずの矢が、一輝には当たっていないのだ。一輝の横を素通りしていったのだ。

 

「やっぱり、矢の方も認知不能化できたんだね。」

「僕の矢は当たるまで視認できないはず・・・だ!?」

 

 桐原から見れば、一輝は自分の姿を見えることはないはずなのに、しっかりとこっちを見ている。まるで、自分のことが見えているかのように。桐原はその事に恐怖をしてしまった。そして、次に桐原がする行動を一輝が話ながら当てる。

 

「君の殺気等は見えているようなものなんだよ。今も君が、三歩僕から離れていったようにね。」

「そ、それがどうした!僕と君には絶対的な差がある!落ちこぼれの君が、僕に勝てるとでも!?」

 

 一輝が言ったことは、図星で、桐原は図星であることを悟られないようにしようとしたが、言葉の言い方でわかってしまう。そして、一輝はただ見えていないはずの桐原を見ながらこう言った。

 

「君は逃げようとしているよね。僕が君が見えているようなものだと言ったから。」

「っ!?」

 

 次々に、桐原が行おうとしている行動を言い当てていく一輝。実況の月夜見と寧々のところでは、一輝の行動を見ていた。

 

『あははは、やりやがったよあいつ!』

『ど、どう言うことですか西京先生!?』

 

 月夜見に説明を求められた寧々は、扇子を口元に持っていき、一輝が行った事の説明をする。

 

模倣剣技(ブレイドスティール)・・・黒坊はお姫様の剣技を盗んだ。それを今、桐原静矢というものに対して同じことを行った。だよね?黒坊。』

「まあそんなとこです。その名も───」

 

 ーーー第17話へーーー

 




作者「次で桐原戦は最後です。」

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