時間的には第三試合が始まる前の時間。爛は観客席から立ち、大闘技場から出ていこうとするのを、明が止める。
「どこいくの?お兄ちゃん。」
「用事だ。颯真の試合は結果だけ教えてくれ。」
爛はそう言うと、大闘技場から姿を消す。一方一輝のところでは、
「即決で決めるとは、男だねぇ少年♪」
一輝のことを言っているのだろうか。一輝が声のした方向を向くと、そこには背の小さい人がいた。
「西京寧々さん・・・ですよね?」
「おんやぁ?ウチの名前をご存じで?」
一輝はこの人のことを知っていた。西京寧々、爛の弟子であり、『KOKトップリーグ』と去年のオリンピックの出場者であり、東洋太平洋圏最強と謳われている。一輝は寧々がどうしてここに居るのか、その理由を考えているとすぐに答えに行き当たった。
「もしかして、寧々さんが臨時教師ですか?」
一輝がそう言うと、寧々は口元を隠すように開いていた鉄扇を閉じ、一輝に対して答えを出す。
「その通り、くーちゃん・・・新宮寺のことね。くーちゃんが使えない教師どもを大量に捨てたからねぇ~ くーちゃんが知っている相手を通してウチに来たって話の方がいいかもねぇ。」
一輝は寧々に答えを聞くと、ここに寧々がどうして来ているのか、それを聞こうとする。
「どうして、ここに来たんですか?」
「それはねぇ、くーちゃんが期待している騎士を見ておこうと思ってね。この対戦が終わったら・・・」
何を言ってくるのだろか、そんなことを考えながら聞いている一輝は驚く。寧々が瞬間的にこちらに来たのだ。何故瞬間的にこちらに来ているのか、その答えを探しだそうとしたが、答えはすぐにでた。爛が初戦で決めたときの
「どうよ?二人っきりで夜の特別授業とかは?」
寧々の言ったことに、何を言っているんだ。と聞きたくなる一輝だが、それを抑えていた。
「貴様、ウチの生徒に何してる。」
寧々の後ろからドスの利いた声を発してくる人物は、新宮寺黒乃。寧々は驚き、一輝の後ろに即座にいく。
「びっくりさせないでよくーちゃん。間違えたら殺すところだったよ?」
「貴様に殺されるものか。ところで、試合の監督はどうした?」
「いやー、あまりにもしょっぱい試合をするからさ。くーちゃんのお気に入りの子を見に来た方がいいかなーって。」
正直に話す・・・というか、所々嘘をついているように感じる理由だが、寧々の言った言葉に黒乃は反応する。
「べ、別にお気に入りと言うわけではない!」
黒乃はそう言いながら、寧々の頭を殴る。そうして、一輝の方を向いた顔は恥ずかしいような、彼女の表情の中では珍しい表情をしていた。
「すまんな、黒鉄。こいつのせいで集中を乱してしまったな。」
「いえ、少し驚いただけなので、大丈夫です。」
黒乃が一輝に謝ると、一輝は黒乃達は悪くないように言う。というか、一輝の集中には何も支障はなかった。
「今持って帰るから、こいつの世迷い事の言葉には気にするな。持ち場にもどれ、歩く公然猥褻罪!」
そう言いながら、寧々の着物の裾を引っ張り寧々を引きずっていく黒乃。
「わかったから、着物を掴むな~ これスッゴい高いんだぞ~」
そういうも、黒乃に引きずられていく寧々。一輝は寧々に誘われた答えを返してないと思い、寧々に答えを返す。
「それと、寧々さん。お誘いしていただきましたが、すみません。僕の方では祝勝会をするので、別の時にでも。」
「予約が入ってるのかぁ~ ま、その分を試合で楽しませてよね。少年の試合の監督はウチだから。」
寧々はそう言うと、黒乃の手から外れ、黒乃の隣を歩いていく。一輝は待機室の方へと向かい、自身の第四試合までしっかりとコンディションを整えようと考えていた。同時刻、爛は破軍学園の大闘技場の外に出ていた。大闘技場に見覚えのある魔力を感じたからだ。悪い方向で。
「居るなら来な。赤座。」
爛はそう言うが、誰も出てこない。爛は試しに言っただけなのだ。見覚えのある魔力と言うのは前にも同じようなことがあったからだ。それが赤座だ。
「はあ、出ないのは分かってる。お前達の作戦は簡単だろうに、何故俺を襲わない?」
爛は虚空に話す。赤座が居るのはわかっているからだ。何も言わずとも誰が来ていることかは、一度感じたことがあれば、次会ったときに変装していたとしてもわかる。
「いやぁ、それは貴方が強いからですよ。」
そう言いながら出てくるのは赤座。中年の太ってる男性だ。爛と一輝からすると非常にうざったらしい奴だ。
「用件はなんだ?」
「用件、とは?」
「とぼけるな。貴様が俺のところまで来たのは何か用件があるからだろう?」
爛が見透かすように言うと、赤座は笑みを浮かべ、爛に話す。
「では用件ですが・・・」
赤座がそう言うと、爛を囲むように連盟の連中が銃を構えて出てくる。爛はそんなことは分かっていた。
「ここで死んでもらいましょう。」
「・・・俺がこんなところで死ぬとでも?」
赤座の言ったことに、少し間をおいて話す爛。爛が連盟を嫌っているのは分かるのだが、何故こんなことをしているのか、それは後々分かることとなる。
「ええ。ここで貴方が銃弾の雨を避けきれなければ、ですがね。」
赤座の卑劣なやり方に、ため息をつく爛。正直言って、連盟にまともな奴が居るのか居ないのか、その辺りを試したくなるようになってきた爛は、口を開く。
「貴様ら、何も分かってないな。」
「どういうことですか?」
爛の言ったことに疑問を持った赤座。それを聞くと、爛はニヤリと笑みを浮かべ、霊装を顕現する。
「悪いが、俺にも霊装の使用許可ぐらい持ってるからな。正当防衛ということで黒乃に話をする。」
「そうですか。ですが、貴方は幻想形態でなくてはいけませんよ。」
「本当にバカだろ貴様ら。
爛はそういい、刻雨を構える。彼は幻想形態ではなく、実像形態で刻雨を顕現していた。
「何故その事を?」
「話すつもりはない。と言ったら?」
爛が挑発するように言うと、赤座は命令を出す。分かりきっている命令だった。
「彼を撃ちなさい。」
そう言うと、周りを囲っていた連中が銃の引き金を引こうとした瞬間。
「ヒッ!?」
「貴様に殺されるものか。こんなことしてると、逆に噛み殺されるぞ。」
一瞬にして、囲っていた連中を殺していた。爛は刃を赤座の首もとまで突き付け、最後に忠告をし、大闘技場とは別の方向に歩いていった。赤座から離れるように歩いていた爛は、元々の目的を達成しようとする。爛の手帳から着信音が発せられる。そして、破軍学園とは別の手帳を取りだし、電話に応じる。
「あー、なんだ?」
『あれは見つかりましたか?』
「まだだ。」
『早く見つけてくださいね。作戦に間に合いませんから。』
「はいはい、分かったよ。」
そう言うと、爛は通話を終了する。一体誰と話していたのだろうか、誰もいないところで話していたことは一輝達と巻き込んでいく。待機室に入った一輝は、桐原との試合で集中していた。一輝は桐原が戦った試合を見ていないのだ。見ていたら一輝の作戦は失敗する。それが例え矢が見えなくなろうと、一輝は桐原に勝てる自信があった。
『アイツの試合は見ないの?』
桐原との試合の映像を見ていない一輝に、ステラは聞いてきたのだ。その答えに一輝はこう返した。
『大丈夫。僕は戦略をたててあるから、負けるかもしれないけど、勝ちに行くよ。』
一輝はそうステラに返した。そこに、アナウンスが入る。
「黒鉄一輝選手、試合の時間になりました。ゲート前までお願いします。」
「それじゃ、行こうか。」
一輝の初めての公式戦。桐原相手にどこまで行くのだろうか。
ーーー第16話へーーー