爛の居る待機室にアナウンスが入る。
「宮坂爛選手、試合の時間になりました。ゲート前までお願いします。」
「・・・もうそんな時間か。」
爛はそう呟きながら、ゲート前まで歩いていく。一方一輝達は大闘技場に入り、席を確保していた。珠雫達も同じく、大闘技場に入っており、一輝達の席の隣に座る。そして、試合が始まる時間になる。
『さあ、注目のカードに入ります!第二試合は意外なカードです!』
「赤ゲート選手入場。」
『赤ゲートから出てきたのは、あの『雷切』と『麒麟』につぐ実力を持っています。校内
出てきたのは、まるで貴婦人のような姿をした人物だ。しかし、彼女はれっきとした実力者、観客席に居る一輝達もそれを察している。学生の身分でありながら、特別召集で実戦の現場にも居る。
「青ゲート選手入場。」
『青ゲートから出てきたのは、あの
『うぃーっす。』
爛のことを興味津々に言う実況の月夜見。それを聞いていたステラはこんなことを言うのだった。
「・・・ずいぶんとした言われようね。」
「仕方ないよ。彼は実際に二人に勝ってるんだから。」
注目されるのも当然だ。月夜見の説明にもあった通り、爛は刀華と愛華に勝っているのだ。否が応でも学園に名は少しくらいは知られているだろう。
「逃げるつもりなどないですか・・・」
「やりたくなかったら、やってないしな。今年ばかりはチャンスを逃したくないんでね。」
「そうですか。」
カナタも気づいてはいる。この闘技場に立った以上、覚悟はもうできていると、なら、自分はその覚悟に応えればいいと。
「参りましょう、フランチェスカ。」
「手加減はしない。行くぞ、
カナタは、レイピア系の霊装を顕現すると、霊装を自身の胸の高さに水平にし、持っていない手を使い、霊装の先端から押していくように砕いていく。すると、フランチェスカは空気中に展開することになり、霊装は見えることがない。爛は霊装を顕現すると、鞘に納める。
『
合図が出たと同時に、カナタは空気中に展開しているフランチェスカを操作し、爛を斬ろうとする。
(決まった・・・!)
カナタはそう思ったが、それは、すぐに覆される。
「えっ・・・!?」
素っ気ない声をあげるのも分かる。爛はフランチェスカの斬撃を止めていたのだ。フランチェスカを止められることはできるが、空気中に展開しているので、止められることはないのだが、爛はその考えを覆すことができるのだ。
「ねぇイッキ、ランは何をしているの?」
ステラがそう言うのも分かる。爛はフランチェスカを止めているが、爛は動くことはなく、たっているのだ。その事にステラは疑問を持ったのだ。因みに、一輝にこの答えを知らない。となれば、一輝がステラに返す言葉は自然と分かるものだ。
「僕にも分からない。爛に聞けばいいんじゃないかな。」
一輝の言っていることは正しい。分からないのなら、本人に直接聞きに行くのも。ただ、半分しか正しいとしか言えない。それは、簡単に人がそれを教えるかどうかだ。教えてもらえないのなら、自分で考えるしかない。カナタは目の前の人間が何をして、見えない霊装を止めることが出来たのか、その事で頭の中が一杯になる。
(何故止めることができたのですか!?何か、彼に何かがあるとしか思えません!?)
爛はバックステップをし、距離を取る。カナタは悩んでいる暇はないと思い、展開した霊装を構える。フランチェスカは空気中に展開しているため、カナタが展開しているところで息なんてしたら、体内にフランチェスカが入っていき、遠隔操作で斬られてしまう。爛は、ほぼ自殺行為だと分かる行動をする。
『宮坂選手、貴徳原選手に向かって走っていく!』
そう、爛はカナタに向かって走るのだ。普通ならば、空気中に展開しているフランチェスカに斬られるか、息をしてフランチェスカを吸い込んでしまい、遠隔操作で内蔵などを斬られてしまう。しかし、爛はそれを打破するものを持っているのだ。
(正気なのですか!?仕方ありません、これも覚悟の一つ。やらせていただきます!)
カナタはフランチェスカを操作し、爛を斬ろうとする。しかし、爛は止まることなく走っていく。すると、爛の姿が消える。
「っ!?」
いきなり爛が消えたことに驚くカナタだが、攻撃をしてくることも踏まえ、自身の周りにフランチェスカを展開し、爛を寄せ付けないようにしていた。しかし、防御に徹してようが、爛には関係がなかった。
───考えは良い。でも、それじゃ俺を止めることはできないぞ。
カナタの耳に爛の声が聞こえたときには、意識を失っていた。そして、爛は
「《捌の剣・
一瞬、闘技場の時間が止まったような気がした。しかし、観客は爛とカナタを見ると、改めて分かる。爛はカナタを下したのだと。そう、爛の実力は本物なのだ。そう思い知らされることとなった。爛はゲートの方に戻っていく。
『き、決まったー!二合で終わってしまったこの第二試合!勝者は、『
観客達は驚愕しかないだろう。たった二合で終わってしまった第二試合。それも、Fランクが実戦を経験しているBランクを下すと言う大判狂わせをしたのだ。そして、爛は『予測不能の騎士』へと、戻ることが出来なくなる。それは、本人はもう分かっている。爛が一輝達のところに戻ろうとするとき、爛は颯真と会う。
「お疲れ、爛。」
「これから試合か。負けるなよ。」
「お前に言われたかないな。まあ、万が一とも考えておく。と言うか、負けるつもりないしな。」
「そうだな。お前なら、行けるだろ。」
爛と颯真は、叩くように右手を合わせ、別れていく。すると、爛は続けて一輝と会う。
「あ、爛。お疲れ様。それと、一つ聞いていいかい?」
「何だ?」
「カナタさんを倒したときに使った剣。あれは何をしているのか教えてもらえないかな。」
「〈影蒼龍〉か・・・一応言っておくけど、これに対応できるのは学園内の生徒では、刀華と愛華だけだ。俺はこの剣では『抜き足』を使用している。」
「抜き足?」
爛は、一輝が自身の言った『抜き足』のことが気になったのに気付くと、爛は抜き足のことについて、話始める。
「古武術の呼吸法と歩法の合わせ技。どういうものかと言うと、自分の存在を無意識に滑り込ませる体術だ。」
「相手にはどう見えるんだい?」
「瞬間的にこちらに来ているとしか。観客から見ると、反応速度が遅くなって見える。」
「成る程ね。ありがとう教えてくれて。」
「いや、それほどじゃない。じゃあな。」
爛は、颯真と一輝の試合を見るために、ステラ達のところに行く。
「お疲れ様、ラン。圧勝だったわね。」
「ん。まあ、いつも通りかな。」
「それをいつも通りだと言うと、おかしいと思われますよ。」
「それは、常人の考え方ね。彼からすると、これが普通ならいいんじゃない?別に迷惑になることじゃないし。」
爛は、颯真が座っていた席に座り、闘技場の方を向く。明は爛のことを心配していた。理由とすれば、ステラ達と話すときに、表情が切羽詰まったような顔だったからだ。だが、爛に問いただしても彼は答えない。
(父さん・・・あの人との約束を、果たさないといけないかもしれない・・・)
爛は、颯真達の心配ではなく、今後のことについて心配していた。
ーーー第15話へーーー