落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~   作:火神零次

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一輝「第13話だよ。」


序戦の章~七星剣武祭代表選抜戦~ 叶わぬ願い
第13話~選抜戦開始~


 爛が撃ち抜かれて次の日、爛の居る医務室には、エーデルワイスが昨日の夜から居た。エーデルワイスはあのときから爛が心配で眠っていなかった。

 

「爛・・・」

 

 エーデルワイスが爛の手を握っていると、爛の手が弱々しい力で握りかえす。

 

「ん・・・」

「爛!?」

「エ、エーデルワイス。ここは・・・?」

「破軍学園の医務室です。iPS再生槽(カプセル)に入って、撃たれた部分の再生した後、ここに来ました。」

「そうか・・・生きてるんだな。俺は。」

 

 爛はそう言うとエーデルワイスの手をしっかりと握る。すると、爛はエーデルワイスにこんなことを言う。

 

「ありがとう。」

「いきなりなんですか?お礼なんて。」

「今までの恩だよ。ありがとう、エーデルワイス。」

「それなら仕方ありませんね。どういたしまして。」

 

 すると、医務室のドアが開き、入ってきたのは・・・

 

「起きたんですね。師匠(せんせい)。」

「悪いな。お前達に迷惑かけて。」

「いえ、たとえ師匠であろうと破軍学園の生徒の一人。死なせることはできません。」

「そうか。」

 

 爛が外を眺めていると、黒乃が話を始める。それも、今回、爛が撃ち抜かれたことについて。

 

「師匠を撃ち抜いた弾丸は、対称に当たると、GPSをつける弾丸。師匠の位置を特定するためでしょう。」

「そう言うことか・・・ったく、総理も連盟の奴等も解放軍(リベリオン)の奴等も馬鹿としか言えないな。」

 

 黒乃と爛の話に入ることもなく、聞いているエーデルワイス。

 

「師匠を敵にまわすと、必ず『死』でしかないからな。」

 

 それもそうだ。爛は解放軍に良い印象を持っていない。しかもそれが自分を狙っているとなると、爛は真っ向から斬っていくのだ。爛は悪に手を染めるのなら、悪を真っ向から斬り伏せていく方が良いと考えたからだ。そして、仕組まれた戦いもほぼすべては連盟が行ったこと。爛は仕組まれたものはすべてを斬り伏せていく。だからこそ、一輝が魔導騎士を目指すことを許さない一輝の父、厳をよく思っていないのだ。

 

「まあ、GPSを仕込むのは大体何のためか分かったぞ。」

「なんですか?」

「俺の力だ。もし、あいつらが俺に力があると知ればこれをやって来るのはわかる。」

「でも、何で銃弾に仕込む必要が・・・」

「多分、殺せたら殺せられるようにしたんだろう。それだけ、強大な力を持っているからだ。」

「解放軍の可能性はあるんですか?」

 

 エーデルワイスは爛と黒乃が話をしていた中で、国と解放軍が手を組んでいるという言い方をしているため、解放軍がこれをやったのではないかと思い、口にしたが、爛はそれを否定する。

 

「いや、それはないな。解放軍がそんなことをすることはない。いや、できないんだ。たとえ資金集めをしてようがな。でも、これは連盟がやったもんだと思うぞ。」

「どうしてですか?」

「俺は一輝との関係が、一番深い人物だ。俺を殺すことで、一輝が頼れる人間を消すつもりだったんだろう。そうなってくると、一輝を完全に開放することはできないんじゃないのか?」

「どうして、そんなことが?」

「黒鉄厳、連盟の倫理委員会の赤座(あかざ)守は一輝のことをどう思っているのか分かるだろう?」

「まさか!」

 

 厳と赤座は、一輝のことではなく、黒鉄家のことしか考えていない。つまり、一輝を完全に呪縛から開放するには黒鉄家と連盟の支部を潰さなければならない。一輝と珠雫はそれでも黒鉄家は無くなってほしくないと思っているはずだ。だからこそ、一輝を開放するには、一輝の力を全員に認めさせることだ。だが、それをよく思っていない者が多いのだ。

 

「多分、一輝をどん底に落としたいんだろう。それこそ、這い上がることができないところまでな。」

「そんな・・・連盟がそんなことを・・・」

「それをするのが、連盟だ。能力のない者は切り捨てる。それが、黒鉄本家ーーー黒鉄厳のやり方だ。」

 

 黒鉄本家はーーー弱肉強食のやり方をしていると言っていい。弱き者は切り捨て、強き者は大事にする。爛達は呆れている。それでも人だと言うのに、厳は何とも思っていない。やり方が卑劣過ぎることから、厳は『鉄血(てっけつ)』と呼ばれる所以なのだ。

 

「ということは・・・」

「ああ、でも、厳は自分から手を汚すようなことはしない。多分、赤座辺りがやったんだろう。」

 

 爛はそう言いながら、ベッドから降りて、立ち上がろうとする。

 

「ああ、選抜戦か・・・」

「はい。師匠の出番はもう少し後です。」

「そうか・・・一輝の試合は?」

「師匠の試合の後なのでまだですね。」

「まだ時間は午前だしな。」

 

 爛は医務室のドアの前に行く。黒乃とエーデルワイスは何も言わない。

 

「黒乃、俺は部屋に戻る。すまないが、後は頼むよ。」

「分かりました。」

 

 爛は医務室のドアを開け、部屋に戻っていく。爛が居た医務室に残っている二人は、話始める。

 

「ありがとうございました。」

「いや、礼には及ばない。ただ、師匠には生きてもらいたいからな。」

「そうですね。お世話になりました。」

「それではな。」

 

 黒乃とエーデルワイスは少しだけ話をすると、エーデルワイスは医務室を出る。黒乃は少しだけ医務室にとどまり、理事長室に戻っていく。

 

「ふう、もう昼か。」

 

 爛は制服に着替え、午後の選抜戦に備えて、刀を振るっていた。爛の持っていた刀は固有霊装(デバイス)ではなく、実際の刀であった。持っていた刀を鞘に入れると、食堂に向かった。

 

「爛ーーー!」

 

 食堂に入ると、爛を呼ぶ声がし、爛が席の周りを見ていると、一輝が呼んでいた。

 

「どうした?一輝。」

「どうしたじゃないよ!傷は治ったの?」

「まあ、iPS再生槽に入ってたからな。傷は治ってるな。」

「因みに、爛?」

「ん?」

「ゲン担ぎかい?それ。」

 

 爛が食べているのはカツカレー。一輝はいつも食べているのはバランスの良い定食。一輝はいつもと違う物を食べている爛に疑問を持ったのだ。

 

「まあ、俺は食べないと動けないから、量のあるやつを食べないとだからな。そう言えば、ステラ達は選抜戦の初戦は無傷で勝ったのか?」

「そう言えば無傷で初戦を勝つんだよね。ステラも珠雫も無傷で勝ったよ。」

「そうか。」

 

 爛はそう言いながら、カツカレーを口にする。一輝も定食を口にする。すると、爛がふと思い付いたのか、一輝に話す。

 

「なあ、一輝。」

「なんだい?」

「打ち合いを後でしないか?」

「別に構わないよ。」

「それじゃあ、食べた後でやるか。」

「そうしようか。」

 

 爛と一輝はそれぞれ食べ終わると、二人は選抜戦で使っていない訓練場に行く。

 

「来てくれ、陰鉄(いんてつ)。」

「行くぞ、刻雨(こくさめ)。」

 

 二人は、霊装を幻想形態で顕現し、霊装を構える。そして、二人が走り出すと、二人とも霊装を振るう。しかし、二人は全力で振るうことはなかった。それもそうだ。この後、爛と一輝は選抜戦があるため、全力で霊装を振るえば、体力を回復しなければならないため、軽く振るっている。

 

「ふっ・・・!」

「はぁ・・・!」

 

 爛と一輝は相手の霊装を捉えるように振るい、自身に刃が当たらないようにする。数分打ち合っていると、訓練場に誰かが入ってくる。

 

「ここに居たのね。」

「ステラ・・・」

 

 ステラは一輝が居ないため何処にいったかと思い、颯真に聞いてみたのだ。颯真に聞いてみた理由と言えば、颯真は風で誰が居るのか分かるのだ。颯真は訓練場に爛と居ると言い、ステラはここに来たのだ。

 

「ランは大丈夫なのね?」

「ああ、大丈夫だ。」

 

 ステラに聞かれ、大丈夫だと答える爛。一輝はステラにこんなことを言う。

 

「ステラ、どうしたんだい?」

「イッキに会いたくて来たんだけど。」

「すっごいストレートだな。だったら、ステラも打ち合いをするか?」

「じゃあ、そうするわ。」

 

 爛と一輝の打ち合いに、ステラも参加し、打ち合いをした。因みに、爛と一輝の試合は爛が試合をしたら、一つ試合を挟んで、一輝の試合がある。そして、颯真の試合はその間にあるのだ。爛は颯真と一輝の試合を見ることはできるが、一輝は爛の試合しか見ることはできない。自分の試合の前には、待機室に居なければならない。

 一輝とステラは爛に霊装を振るうが、爛は霊装を受け流しながら、自身の霊装を振るう。

 

「防御だけに徹するかってんの!」

 

 爛は一旦距離を取ると、霊装を構え、一気に二人との距離を積める。

 

「っ!?」

「速い!?」

 

 爛は霊装を二人に対して交互に振るう。二人は爛の霊装の振るう速度が速く、さばくのが精一杯だ。

 

「っ!」

 

 一輝は爛の霊装を止め、押し退ける。

 

「はあ!」

 

 爛は一輝が縦に振るってきた霊装を、刀に反りながら流していく。

 

「ステラ!」

「はあぁぁぁ!」

 

 ステラは後ろから霊装を振るい、爛を斬ろうとする。

 

「ふっ・・・」

 

 爛は左に跳躍し、ステラの霊装の振りを避ける。一輝とステラは霊装を構え、爛に対応できるようにする。

 

「なっ!?」

「鞘!?」

 

 爛は何と鞘を顕現し、刻雨を納刀し、抜刀できるように刻雨をの柄を握り、伐刀絶技(ノウブルアーツ)の名を言う。

 

「雷撃究極抜刀術《雷鳴閃(らいめいせん)》。」

 

 爛は二人を斬ることなく、二人の間を通りすぎる。

 

「っ・・・」

「ふう、終わりにするか。選抜戦が始まるからな。」

「ビックリしたよ。本当に斬るかと思ったからね。」

「それは悪かった。でも、これは見せた方が良いかと思ってな。」

「それじゃ、ステラも行こうか。」

「ええ、そうしましょ。」

 

 三人は霊装を解除し、爛が出る訓練場に向かう。一輝とステラは席を取っていた。爛は待機室に行っていた。爛が待機室に向かっている途中に爛が知っている人物と会う。

 

「愛華?」

「あ、爛くん。これから試合?」

「まあ、そんなところだ。愛華はどうなんだ?」

「相手が棄権しちゃってね。不戦勝なの。」

「そうか。」

 

 爛と愛華が話していると、二人の手帳が鳴る。二人が手帳を取りだすとメールが届いており、二人が見た内容は───

 

「宮坂爛様、選抜戦第二回戦は三年三組、東堂愛華様に決まりました。」

「東堂愛華様、選抜戦第二回戦は一年一組、宮坂爛様に決まりました。」

「事前情報?」

「事前情報はないだろ?」

「うん。対戦相手の決定はその人の対戦が終わってからだけど・・・」

 

 事前情報は刀華達の時にはなかったのだ。爛は愛華が言ったことにどうして事前情報が来たのか分かった。

 

「成る程な。本当に馬鹿な奴等だな。」

「どう言うことなの?」

「連盟の奴等だ。多分としか言えないがな。今まで通りに選抜戦をやるのなら、代表は六人になる。残りは一敗した奴等の勝負なんだろう。俺がカナタと当たって負けて、お前と当たって負ければ、俺は七星剣武祭に出れなくなる。俺を七星剣武祭に出したくないんだろう。連盟の奴等はな。」

「でも、爛くんは負けることはない。」

「それ、言い切るんだな。」

「その通りでしょ?」

「そうなるな。でも、邪魔をするなら斬り伏せるだけだ。」

「フフッ」

 

 爛は、待機室に入るときの実像形態での注意事項を聞くことなく、承認のボタンが出ると、躊躇わずそのボタンを押し、中に入っていく。愛華はそれを黙って見ていた。爛と愛華は、選抜戦第二回戦で激突することになった。

 

 

 ーーー第14話へーーー

 




爛「第14話、俺の選抜戦の初戦だ。二回戦のことについては、作者の思い付きだ。じゃあな!」

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