転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

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時期はセル戦の後、番外編2の後日くらいの頃。


8・瑠璃色の地球(前編)

 オルニトミムス。

 オルニトミムス属非鳥類型獣脚類の恐竜。

 学名の意味は「鳥(ornith)に似たもの(mimus)」

 成体で全長約3.5メートル前後。

 三本指の脚、細長い腕、長い首、鳥のような頭をもち、口には歯がなくくちばし状で、水鳥のように植物を漉き取って食べる草食性の恐竜。

 最大の特徴は体表面を覆う羽毛で、特に雄は非常に鮮やかな色彩をもち、水辺の巨大宝石とも称される。

 

「あー、雌が去っていってしまいました。

 どうやらカップリング失敗みたいですね。

 残念です」

 そのオルニトミムスの雄の求愛ダンスを望遠スコープ越しに、まるでお見合いおばちゃんのような気持ちで観察していたアタシ、逃げるように(逃げてるんだけど)走り去った雌の姿を確認すると同時に、はぁっとため息をつきました。

 

「いつまで見ているつもりなんだ。もう行くぞ」

 そんなアタシの後ろから、呆れたような声がかかります。

 

「はいはい、わかりました。もう移動ですね」

 これだから、連れてきてもらうの嫌なんですよ。

 自分のペースで観察できないから。

 レコーダーのスイッチを切って振り返ると、人形みたいに整った顔をした長い黒髪の少年が、座っていた岩から立ち上がるところでした。

 人造人間17号。

 別の歴史ではこの世界を滅亡寸前にまで追い込んでいる筈の存在であるその人は、こちらの歴史ではこの王立自然公園の動物保護区で、密猟は絶対に許さない優秀な保護官として日々活躍しています。

 そのお仕事のついでに時々、アタシが研究の為に対象の観測地点に行くのに同行してくれるわけですが。

 アタシの方から頼んだわけではなく、むしろむこうが、

 

「オレが連れていってやるから絶対一人で行くな!」

 って強く言ってくるからやむなくそうしてるわけで。

 一応保護区内のあちこちに、研究所に許された観測ポイントが点在し、研究員は決められたルートを専用車で行って、そこから今みたいに望遠スコープでの観察や定点カメラの映像チェックをするくらいで、そこに居るぶんには全然危険でもなんでもないんですよ?

 確かに保護官に同行してもらえば、それ以外の場所からの観測が可能というメリットはありますけど、アタシ、自分が研究してる対象の危険は知ってますからね。

 そもそも不用意に近づいたりしませんよ。

 そりゃ本心は近くで見たいですけどね。

 例えば今回のオルニトミムスは草食恐竜ですけど、草食動物=大人しいではないですから。

 むしろ大型の生き物ならゾウとかサイとかカバみたく、攻撃的なやつの方が多いです。

 何せ常に捕食される危険の中にいる生き物ゆえにただでさえ警戒心強いですし。

 自分や群れにとっての危険因子と判断したら、それを排除するのになんの躊躇いもないんですよ彼ら。

 よく飼いならされてる筈の象が飼育者を踏み殺す事件とかありますけど、あれ多分、ある瞬間にふと、疑問を感じるんだと思うんですよね。

 なんでこんなひ弱な生き物に従ってるんだ俺、自分の方が強いだろって。

 身体の大きさって立派にアドバンテージですからね。

 人間はもっと、自分より大きな生き物は警戒すべきです。

 …ここまでしっかりと危険を理解した上で行動しているアタシに対して、

 

「何かの拍子にアタマに血が上れば、おまえは絶対に自分の力量もわきまえず、無謀な行動に出るに決まってる」

 とか、すごく失礼だと思いませんか。

 ええ、目の前の男が言った言葉ですよ。

 アナタ誰ですかアタシの母親ですか。

 いつからそんなオカン属性ついたんですか。

 どSで性格もクチも悪くて更にオカン属性まで加わったイケメンって、そろそろプロフィールがゲシュタルト崩壊起こしてきてませんか。

 そういえば先月最初の休日に、書類の整理をしていたらいきなり、

 

「リビングに置くソファーとテーブルを選びに行く。

 よくわからないからおまえが選べ」

 と呼び出されて行った先の、アタシがちょっと憧れてる家具ブランドショップのショールームで、偶然ママとバッタリ会って、17号さんを見た途端五体投地しそうなほどアタマ下げだしたママを引っ張って(詳しく説明ができなかったせいか、アタシを姫抱きして連れてきたシーンのインパクトがよっぽど強かったものか、ママ絶対にこの人の事、セルに攫われたアタシを颯爽と助けだしたヒーローだと思ってます)併設のカフェで3人でお茶したんですが、別れる時には完全にうちのママと意気投合してた気がします。

 てゆーか、

 

「娘をよろしくお願いします」

 とか言われて、

 

「任せてください」

 とか答えてたけどまったく余計なお世話ですから。

 

 

「ボーッとするなよ。早くしろ」

「判ってますって…あれ?」

 もう一度だけ生きた宝石を拝もうと望遠スコープを覗き込んだアタシは、そこに見えたものに思わず声をあげました。

 

「どうした?」

「…人が居ます、しかも数人。

 あっち側には観測ポイントはない筈なんで、ひょっとしたらアナタのお仕事じゃありませんか?」

 アタシが言うと、17号さんはアタシの手から望遠スコープを取り上げ、自分で覗いてから、アタシに向かって短く言いました。

 

「…ここにいろ」

「了解でーす♪行ってらっしゃい」

 性格はともかく彼の実力は全面的に信用しています。

 悟空さんが亡くなってしまった今、この世で一番強いのが、今目の前にいる彼でしょうから。

 密猟者はアタシも許せません。

 存分にやってきてください。

 アタシはここで、観測を続ける事にします。

 

 ☆☆☆

 

 そうして、1人で観測を始めてから十数分経過した頃。

 

「!?」

 突然男が現れたと思ったらいきなり後ろから羽交い締めされ、大声を出そうとしたら先に現れた方に口を塞がれて、次の瞬間には猿轡を噛まされていました。

 

「こいつか?」

「間違いない、この女だ。

 この間ヤツと2人で楽しそうに、街で家具なんか見てやがったから、同棲してる恋人ってトコだろうぜ」

「ふん、ガキの癖にやる事はやってるってわけか」

 家具?ああ、あの時の話ですね。

 という事は、彼らの言う「ヤツ」って、17号さんの事ですか。

 え?ちょっと待って?同棲?恋人?

 ……って、ちょっと!

 いやいやいや、そろそろツッコミどころがわからなくなるくらいいっこも合ってませんから!

 てゆーかあの状況、はたからはそんな風に見えてたって事ですか?

 え?え?ひょっとしてママも、それに似た解釈したりしてません?

 特にうちのママ、若干天然だし!

 

「まあこの女、垢抜けねえが胸はデカいしな」

 やかましいわ。垢抜けないとか言うな。

 

「…ん?こいつ、動物学者のマリンじゃないか?」

「誰だって?」

「マリンだよ。

 トカゲとか恐竜とか研究して、Pウィルス発見してワクチン作ったヤツ。

 こないだTVで見た」

 いやいやいやあれはアタシが発見したわけじゃなくて変異の可能性を指摘しただけだし、ワクチン作ったのもアタシじゃなく薬学研究所ですおわり。

 ていうかTVって、確かにこないだニュース番組の、「怖い感染症」の特集で、過去のアタシのインタビュー映像が2分くらい流れてたっておばあちゃんから聞いた気もするけど、ひとをいきなり拘束して猿轡嚙ますような人が、そんなもんで顔や名前覚えてるとか嘘でしょう!

 アタシも一応まだ若い女性なんで、メディアの露出とかは少し考えないといけませんね。

 いや今考えても仕方ないけど。

 

「まあなんでもいいさ。

 ヤツの女には違いないんだ、連れてくぞ。

 この為に戦力が分散する危険を冒してまで、二手に分かれたんだからな。

 あのガキ、今日こそ思い知らせてやる。」

 …えーと。ひょっとしてこの人たちって、さっきアタシが発見した、密猟者と思しき人たちの、仲間なんじゃないでしょうか。

 二手に分かれてまずは17号さんの注意を引きつけてから、別働隊がアタシを確保して…て事は間違いなくアタシ、17号さんに対する人質として使われますよね?

 それまずい。非常にまずい。

『ヤツの女』って情報は確実に間違ってるけど、あのオカン属性、アタシの身を盾に脅されたら、余計な気をまわしかねません。

 なんとかして逃げないと。

 

 ☆☆☆

 

 なんて思ってる間に、後ろ手に腕を縛られて車に乗せられ、連れてこられた先では、既にお仲間さんが17号さんにより倒されて拘束されており、

 

「おい保護官!!こいつを見ろ!」

 なんて言われて、アタマに拳銃突きつけられてるっていうね。

 もう状況がベタ過ぎて現実味がないというか、逆に笑っちゃいそうです。

 何故か猿轡は外されているので、若干堪えるのに苦労してます。

 

「!?」

 でも言われた当人はそうは思わなかったようで、アタシのその姿を見て、驚いた顔をしました。

 そりゃそうか。

 

「てめえの女を殺されたくなかったら手を上げて、その場から動くな!」

「いや誰が誰の女ですか」

 てゆーかちょっと痛いんで、少し緩めてもらえませんかね。

 ダメですか滅べ。

 

「…てか、少しは泣くか叫ぶかしろよお前」

 アタシに拳銃突きつけてる男が、何故か呆れたように言います。

 え?ああそうか。

 猿轡外したのってそういう意図でしたか。

 既にアタシが彼らの手にある以上、17号さんに対しては、その方が心理的にダメージ与えられると思ってるんですね。

 

「…言う通りにしたら、そいつは離してくれるんだな?」

「ちょ、馬鹿ですか貴方は!?

 そんな訳ないでしょう!一旦冷静に考え…」

 ベタ展開ながら若干物騒な方向に入ってきたので、アタシは思わず叫びます。

 と、次の瞬間額に衝撃が走って目から火花飛びました。

 どうやら拳銃の柄で殴られたみたいです。

 

「うるせえ!」

 ってアナタ、さっきは泣くか叫ぶかしろって言ってたじゃないですか。

 せっかくリクエストに答えてあげたのにわがまま坊主かお前。

 てゆーか、女の顔に何て事すんだこの野郎。

 

「やめろ!そいつに手を出すな!」

 …ともあれ、ベタな台詞の羅列に笑ってる場合じゃない事はよくわかりました。

 うー、痛い。

 そうしてアタシが痛みに悶絶してる間に、

 

「いいからさっさと、手を上げろ!」

「まずはそいつを離せ!」

 というやりとりの後、『そっちが先だ』的な言い合いに発展し始めて、ベタ展開が若干グダグダ感を帯びてきました。

 あれ…なんかその言い合いに気をとられてるのか、アタシの頭から拳銃、外れてますよ。

 てゆーか、アタシを捕まえてる手も、ちょっと緩んでます。

 腕が縛られてるので自由が効かないですが、一瞬でもアタシが彼らから離れられれば、そのチャンスを17号さんは逃さないでしょう。

 …逃さないで、くれたらいいなぁ。

 ちょっとセルの時の事が頭をよぎり、それが一抹の不安をもたらします。

 あの時って逃げるチャンスをあげたつもりだったのに、あの人逃げずに逆に助けに入ってきて、結局一緒に吸収されちゃったわけで。

 …考えれば考えるほどいやな予感しかしません。




アタシ的にマリンは自覚するきっかけがないだけで、基本的には悟空の事が好きな筈という感覚が消えなかった。
17号とくっつけるのはもう最初からの決定事項だったので、その為には原作通り悟空には一定期間死んでてもらわなきゃいけなかった。
そしてある意味心を占めていた共通の人を失った同士ごく自然にくっついた感覚でいたので(出会ってから結婚までの期間が結構短いのがその名残)、実のところ最初から決めていたカップリングでありながら、この2人の恋愛期間とかまったくイメージできてなかった。
気の迷いで書いた前回の話でそこ強調されてるように、マリンは恋愛感情的には相当性格ひねくれてるので余計に。
その己の中の矛盾が気になって朝も起きられなかったので思い切って書いてみた。
後悔はしていないが反省もしていない。

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