転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

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注)感染症に関する描写があります。


前後編で終わるかと思ったらなんか無駄に長くなった。
しかし内容はないよう←界王さま大爆笑


6・if〜鏡花水月(中編)※完全スルー推奨

 後日。

 

 カプセルコーポレーションでは、予想通りというかなんというか、若干のひと悶着の後でブルマさんとヤムチャさんが、あの後すぐ破局して。

 

「なんかね、別れるって決めたらスッキリしちゃったわ。

 そーいえばマリン、あんたの博士号取得のお祝い、まだしてなかったわよね?

 こうなったら、あたしの新たな門出と一緒にお祝いパーティー開きましょ!

 もうパァーッとやるわよ!パァーッと!!」

 とかブルマさんに言われましたけど、多忙を理由に丁重にお断りさせていただきました。

 少なくともドラゴンボール関連の知り合いとは、しばらく顔合わせたくなくて。

 何せ悟空さんとそういう関係を持ってしまった罪悪感から、その時期アタシ、絶賛引きこもり中でしたから。

 研究室と自宅以外の場所にはほぼ行かないという意味で。

 とはいえ、博士号をもらう前からずっと声がかかっていた王立自然公園内にある生物学研究所に春から正式に勤務が決まった為、通勤する為には飛行乗用機の免許を取らなくてはならなくなり、引きこもってばかりもいられなくなりましたが。

 というか。

 

 シュン!

 

「オッス!」

「悟空さん…」

 もうこの瞬間移動って特技、どうにかしてください。

 この人、その気になればもう最強のストーカーじゃないですか。

 どんなに接触を断とうとしても、どこに隠れようが居を移そうが、気を探られたら次の瞬間には、もう目の前にいるんですから。

 なので引きこもっててもまったく意味がないと、否応なく気づかされたわけで。

 ちなみに、一般人の気は通常は小さすぎて見つけにくいらしいんですが、悟空さんに言わせると、アタシの気は小さいけど、他の人とはちょっと違うんだそうです。

 どう違うのかまでは、悟空さん本人にも説明がつかないそうですが。

 

「なんか疲れてそうだな」

「寝不足です。誰のせいですか、誰の」

「ハハッ」

 悪びれた様子もなく今日も金色の悟空さんはアタシに歩み寄ると、強引に肩を掴んで自分の方を向かせ、そのまま唇を合わせてきました。

 

(ああ、またいつものパターンだ)

 無駄な抵抗は一切せず、アタシはそこからの流れに身を任せます。

 許されない事をしている自覚はあります。

 終わった後は、必ず罪悪感に苛まれます。

 でも。

 今もそう。求められたら、アタシは。

 悟空さんを、拒めない。

 

 ☆☆☆

 

 初めてこの人と肌を合わせてから、気づけば1年近くが経過して。

 半年あまり前、ブルマさんが『孫くん達には内緒にしといてね』と前置きした上でこっそり妊娠した事を伝えてきて、その際に子供の父親のM字との若干生々しいエピソードも聞かせてくれ、そこは割愛しますが…つか聞きたくなかったわそんなもん。

 それはそれとして今日の昼間、少し早めだけど出産準備の為入院したと、研究所の方に電話がきました。

 順調なら一両日中には生まれる筈です。

 父親には連絡方法すらないらしく知らせていないようですが。

 なにはともあれ、この半年後の人造人間襲来をクリアしたら、この世界は多分、原作軸と同じような流れに入っていくのでしょうね。

 未来トランクスさんの介入がないから、セルが出現するにしてももっと未来になり、その時には完全体に必要なパーツは既に倒されている上タイムマシンもないけど。

 そして他の戦士の皆さんもきっと生きていますから、もし出てきても初期形態のままあっさり倒されてしまう筈で、勿論セルゲームも自爆もないでしょう。

 ああそうなると、セルよりも魔人ブウの方が時期的に先になっちゃうんですかね?

 ダメだ。ちょっと混乱してきた。

 そもそも今、難しい事を考えられる状況じゃない。

 

「なんだよマリン。今日はなんだかノリ悪ィぞ。

 なんか別なコト考えてねえか?」

「…アタシの反応なんて気にしてたんですか?

 いつも、自分がしたいようにだけして、帰っていくじゃないですか?」

 アタシのちょっと棘のある言葉に悟空さんが、ちょっと拗ねたような表情を浮かべます。

 …たく、子供じゃないんですから。

 

「…言ったでしょう、寝不足だって。

 夜になると誰かさんがきて、明け方近くなるまで寝かせてくれないから」

 悟空さんは、いつもチチさんと悟飯さんが眠った後に、瞬間移動でアタシのところにやって来ます。

 正直1年も、よくチチさんに気付かれなかったものです。

 そりゃ最初のうちは拒んだし、抵抗もしましたよ。

 不適切な関係ってわかってますからね。

 でもね、言ってしまえば、生まれる前から知っていて、子供の頃から憧れてたと言える人に、女として求められて、最後まで拒み通せる女がいると思いますか?

 なんていうのは言い訳だろうけど。

 結局は不倫の関係ですものね。

 はいはい軽蔑してください。

 死んだら普通に地獄に落ちますから。

 もうそれでいいです。

 …本当は怖いですよ。

 地獄に落ちることよりも、これまでアタシに親切にしてくれたチチさんを、裏切ってる事実が。

 そのせいかここのところ、体調があまり良くないです。

 特に胃の調子が。

 まだ医者にかかったわけじゃないですけど、絶対これ、寝不足とストレスが原因でしょう。

 目の前でへらっと笑ってるスーパーサイヤ人の、その笑顔が憎らしくも…愛おしい。

 …本当、アタシも大概です。

 

「そっか。なら、今日は寝ていいぞ」

「なんですかその上から目線」

「今日はなんか、やけに突っかかってくんなぁ。

 …オラもさ、実は今日は、あんまり調子良くなかったんだ。

 晩メシも、いつもの半分も食えなくて、チチや悟飯に心配されちまった」

「え?ちょ、だったらなんで来たんですか。

 大丈夫ですか?…って、あ」

 …一瞬心配になるような事を言われてつい動揺しましたが、言ってしまってから気付きます。

 この人の『いつもの半分』は、少なく見積もっても常人の15、6人分くらいじゃないですかやだー。

 

「へへ…やっぱ、マリンは優しいな」

「…っ!な、なに言ってるんです…」

 さっきは拗ねた顔してたくせに、なんでちょっと嬉しそうな顔になってるんですか。

 

「うん、おめえが眠いなら、今日はもう帰る。

 明日また来っからさ。ちゃんと寝とけよ」

 悟空さんは言いながらベッドから離れると、床に脱ぎ捨てた衣服を拾い始めます。

 どうやら今日は帰ってくれるようです。

 よし、今日はゆっくり眠れる…んですけど。

 

「…帰っちゃうんだ」

「ん?」

「いえ何でも。おやすみなさい、悟空さん」

 なんででしょう。

 泣き出す寸前みたいに、鼻の奥がツンと痛みます。

 なんだか顔を見られたくなくて、そして悟空さんが瞬間移動でその場からいなくなる瞬間を見たくなくて、アタシは悟空さんに背を向けました。

 

 わきまえなきゃいけない。

 この人はアタシの人じゃない。

 判ってる。判ってるのに。

 今やその存在すべてを、欲しいと願ってしまう。

 

 こんな気持ちは知りたくなかった。

 こんな真っ黒い、汚れた気持ち。

 

 少しして、後ろから物音がしなくなると、堪えていたものが溢れてきました。

 涙とか嗚咽とか。

 なんだか今日はアタシ、おかしいです。

 と。

 

「意外と意地っ張りだよなあ、おめえ」

 てっきり誰もいないと思っていた後ろから声がして、驚いてアタシは振り返…れませんでした。

 振り返ろうとしたその背中ごと、暖かくて大きなものに包まれたから。

 

「悟空さん……!」

「おめえが居てもいいってんなら、オラまだ帰らねえかんな」

 

 優しくしないで。

 離れたくなくなってしまう。

 だけど。

 

「帰らないで…!

 せめて眠るまで、そばに居てください」

「…いいぞ。

 おめえから『ちゅー』してくれたらな」

 自分からするのは、あまり得意じゃないけど。

 アタシは悟空さんの方に身体を向け直し、腕を悟空さんの首に回して、涙の味のするキスをしました。

 明け方になれば、この人は帰ってゆく。

 だからせめて、それまではアタシのものでいて。

 それは許されてはいけない願い。

 だから、罪を負うのは、アタシ1人でいいから。

 

「初めてだな。

 おめえがこんなふうに、甘えてくんの」

 …悟空さんの胸でひとしきり泣いたら、なんだか急に恥ずかしくなりました。

 なに1人で昼ドラみたく盛り上がってたんでしょう。

 自分が信じらんねえ。

 

「…今日はシュインシュインしないんですね」

 恥ずかしさのあまり顔を上げられないまま、まったく関係ないけど気付いた事を口にします。

 スーパーサイヤ人常態化の修行は続けているらしく、アタシのところに来る時はいつも金髪碧眼でシュインシュインなってるんですけど、なんか今日はうちに来た時から、金髪碧眼は変わらないけどシュインシュインいってなかったんです。

 

「お?わかったか?

 今日は制御が上手くいってて、スーパーサイヤ人になった時の、落ち着かねえ気分が消えてんだ!

 この調子なら…ぐっ………!!?」

「悟空さん?」

 と、言葉の途中で悟空さんが、唐突に呻いて、手で胸を押さえました。

 

「ハァッ、ハァッ…ぐっ……ううっ……!」

「悟空さん!?悟空さんっ!!」

 苦しむ悟空さんの身体から金色の光が消え、アタシの目には久しぶりに映る黒髪が、ベッドのシーツに沈みます。

 

 この症状って……まさか!

 

 ☆☆☆

 

「…検査の結果、孫悟空さんから、ヒト型Pウイルスの反応が出ました」

 大学院で研究をしていた頃から懇意にしている、王立医科学研究所の主任職員が、一番聞きたくなかった検査結果を口にします。

「以前の型から更に変異した新型ウイルスです。

 なので以前のワクチンは、この型には効きません。

 既に発症している以上、長くともあと3日、保てばいい方でしょう。

 あなたも知っての通りこのウイルスは、潜伏期間には感染力がありません。

 孫さんのご家族にも先程検査を受けていただきましたが、お二人とも感染はしていませんでした」

 良かった。チチさんと悟飯さんは無事なんですね。

 

「ですがマリン博士。

 あなたの血液からは、孫さんと同じウイルスの反応が出ています。

 今は潜伏期間ですが、感染した以上、現時点では発症を止める事は不可能です。

 残念ですが、あなたは今から、隔離病室に入っていただきます」

 

 ☆☆☆

 

 新型Pウィルスによる心臓病の発症が確認された後、4日間苦しんだ末に、悟空さんは呆気なく息を引き取りました。

 彼の葬儀には、散り散りになっていた仲間の皆さんが次々に訪れ、早すぎる死を悼んでいたそうです。

 

 アタシも…すぐに行きますね。

 大好きです…悟空さん。

 


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