転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

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ひとつ間違ったらなっていた絶望世界を、更にもうひとつ間違ってしまった話(爆)
時系列は悟空帰還から人造人間襲来の間くらいになりますが、未来トランクスが来なかった分岐で。悲恋で不倫。


5・if〜鏡花水月(前編)※スルー推奨

 …なんでこんなことになったんでしょう。

 そもそもは突然瞬間移動で現れた悟空さんの、愚痴なのかリア充の惚気なのかよくわからないお話を、遅いお茶の時間のアテのようにただ聞いて、ツッコミ入れていただけなのに。

 なんで今、悟空さんと2人、アタシの寝室のベッドに、しかも裸で寝てるんでしょうか。

 いや、博士号取得のお祝いとして祖父母に買ってもらった、北の都の有名家具ブランド製超高級ソファーを汚したくなくて、せめてベッドでと主張したのはアタシだけど。

 総合的にはそんなつもりじゃなかったし、かなり強引にコトに及ばれたのも事実だけど、結果的に受け入れてしまったのもアタシ。

 チチさんに申し訳ない。どうしよう。

 

 ☆☆☆

 

 数時間前。

 

「…でよぉ、チチのやつが怒っちまって。

 ああなるとゼッテー敵わねえんだ」

「それだけ愛されてるって事でしょう。

 てゆーか、その状況ならアタシだって怒りますよ」

「えぇ〜、そっかぁ〜?」

「そうですよ。

 そりゃあ修行は怠らない方がいいですけどね」

 悟空さんは帰還してすぐ、スーパーサイヤ人状態での新たな修行を始めました。

 原作の未来トランクスさんが来た時空であれば、確かセルゲームの直前、精神と時の部屋?とかいう、神様の宮殿にある部屋で、行なっていた筈の修行内容です。

 やはり時空も展開も違う流れであっても、同一人物である以上、思いつく事は同じなようですね。

 人造人間の襲来が確定している以上、その事に対して、アタシとしては文句はありません。

 例のワクチンは既に接種済ですから、必然的に、病に斃れなかった悟空さんが、人造人間と戦う流れになるんでしょうし、その為の戦力アップは必要不可欠だと思います。

 でも悟空さんが戦えるのだから、他の戦士の皆さんが亡くなる展開とか考えられません。

 ベジータだって、悟空さんが生きていれば、引っ張られるようにしてスーパーサイヤ人になるでしょう。

 なので未来トランクスさんが来なかった事はむしろ『その必要がなかったから』と解釈していいと思います。

 ただ…ですね。

 

「スーパーサイヤ人状態を今より更に制御する為に、そのままの状態を維持するっていうアイディアはともかくとして、でもそれを夜の生活に持ち込むのは、いくらなんでもやりすぎです。

 チチさんにしてみたら、一番大好きな自分の旦那さんが、違う人になっちゃったみたいで嫌なんでしょう」

 明日も早いしもうそろそろ寝ようかと思ってたタイミングでアタシの一人暮らしの部屋に突然現れ、目の前で金髪碧眼でシュインシュインしてる男が、アタシの言葉に首を傾げます。

 つかひとんちでスーパーサイヤ人やめれ。

 

「よくわかんねえや。

 スーパーサイヤ人になってもオラはオラだぞ。

 確かに最初の頃はかなり、カラダの奥の奥から湧き上がってきたチカラに、ココロが引っ張られる感じがあったけど、今はちゃあんと制御できてっぞ?」

「知ってますよ。

 そういう事じゃなくてですね…てゆーか!

 なんでその話をしに、アタシのところに来るんですか!

 それ夫婦間の一番プライベートな問題で、他人に話す内容じゃないでしょう!?」

「そうなんか?

 マリンおめえ、ケッコンしてねえのによく知ってんな」

「あなたが結婚してるのにわからなすぎなんです!

 …てゆーか今、未婚女性に対して物凄い地雷踏んだ事に気付いてます?」

 ゴゴゴゴゴ…

 

「うわ、なんかおめえも怖えぞ」

「まったく、こんなに常識外れな人が結婚できて、なんでアタシが結婚できないんだろ…」

 あ、思わず前世からの流れで独りごちましたが、今生はまだ20代入ったばかりでした。

 まだいくらでもチャンスはあります。

 ありますけど…何故でしょう。

 この人と話してると、そんな気がまったくしてこないのは。

 

「おめえケッコンしてえのか?

 ならその辺で適当なやつのマタ、パンパンしてこいよ!

 そしたらケッコンできっぞ!」

 へらっと笑ってとんでもない事言いやがりましたよこの野郎。

 いやアナタ方夫婦の馴れ初めが、まさにそれだったのは知ってますよ、でもね?

 

「その瞬間にアタシの人生終了のお知らせだわボケ──っ!!」

「いやあ、さすがにオラも今はできねえけどな!

 あの頃はオラもガキで、触ってみなきゃ男と女の区別ができなかったかんなぁ。

 ああやって、ただ区別する為に触ってたモンを、あんなふうに使う事ができるなんて、チチとケッコンしてから初めて知っ」

「もうやめてアタシのライフはゼロよ!

 つか国民的少年漫画の主人公のクチからそんな生々しい台詞聞きたくない──ッ!!」

「何言ってんだおめえ?」

「ぜえはあ…な、なんでもありません」

 まったく…夜遅くに一人暮らしの若い女の部屋に押しかけた上、なんつー話をするんですかこのスーパーサイヤ人。

 ってだからシュインシュインすな。

 

「まあいっか。

 ところでよ、さっきの話に戻っけど…」

「戻んのかい!」

「い、いや、おめえの事じゃなくてさ。

 …ブルマとヤムチャはケッコンしねえのかな?」

「あー…あの2人は、ねえ〜…うん」

 トランクスさんが生まれるのが人造人間襲来の半年前だとすると、遅くともこの先半年のうちにブルマさんとベジータが急接近しないと間に合いません。

 ひょっとしたら現時点、お互いに意識はしあってる段階かもしれませんけど(未来トランクスさんの説明では、ブルマさん的に『寂しそうな姿を見て、なんとなく』との事でしたが、たとえ誘ったのがブルマさんの方だったにせよ、何かしらブルマさんに対して感じるものがなければ、あのベジータが誘いに乗るとも思えないんですよね)、ヤムチャさんとブルマさんがまだ関係を解消しないうちにどうこうって事はないと思われます。

 アタシもこの世界で、ブルマさんと友人付き合いして初めて知ったんですけど、彼女って気が多いように見えて、本気で好きになればあれで結構一途なタイプなんですよ。

 という事は、ここ3、4ヶ月の間でヤムチャさんとブルマさんの間に何か決定的な事件が起きて破局、ベジータとそうなるのはその後って事になります。

 13歳の時にあの天下一武道会で知り合ってから、ずっとアタシを妹みたいに可愛がってくれた2人がこんな終わりを迎えるのは、わかっていた事ながら切ないものがありますけど、この別れがなければ、トランクスさんが生まれてこれません。

 ヤムチャさんは犠牲になったのだ。

 スーパーサイヤ人を増やしたい原作者の思惑の犠牲にな。

 

「…マリン。おめえ、なんか知ってんのか?」

 と、覚えず思考に入ったアタシに、悟空さんが不意に訊ねました。

 

「え?」

「いやあ、実はオラこないださ、チチに頼まれて、ちょっと西の都まで買い物に行ったんだけど」

「待ってください。

『ちょっと買い物』のちょっとが壮大過ぎます」

「…飛んで行くのも面倒だったからさぁ、西の都ならあいつらがいると思って、瞬間移動で行ったんだ。

 んで、ブルマの気が見つけられなかったもんで、ヤムチャの気を頼りに瞬間移動したんだけどもさ、あいつ」

「あ、もういいです。なんかわかった気がします。

 その件はそっとしといてあげてください。

 そのうちなるようになる…というか、なるようにしかならないというか」

「なんだよそれ?オラまだなんにも言ってねえぞ」

「だから、言わなくても大体わかりましたってば。

 デート中だったんでしょ?ヤムチャさん。

 ブルマさんじゃない人と」

 アタシが言うと、少しだけ驚いたような顔をして、悟空さんが頷きます。

 

「おめえ、やっぱ知ってたんだな」

「知ってたっていうか(知ってたけど)…その、そんな気がしていただけです」

「そっか。でも、おめえは怒んねえんだな。

 チチに言ったらメチャクチャ怒ってたんだけど」

「え?言っちゃったんですか!?チチさんに?」

「ああ。ヤムチャのやつ、『ブルマには内緒にしといてくれ』としか言わなかったしな」

 出たー言葉通りの解釈ー。

 どこらへんが『オラはクチが固いほうだ』なんですか。

 あ、これは原作軸の方の台詞でしたっけ。

 

「あっちゃ〜…これは決定打ですね〜…。

 多分ですがそれ、直接ブルマさんに言わなくても、チチさん経由で伝わってますよ」

「そーなんか?

 まあ、オラが言ったわけじゃねえし、別にいっか!」

「軽いっすね…いや、うん、いいです」

 まあ、どうせ定められた流れですし。でも思ってたより早かったです。

 

「でもよぉ、なんでヤムチャのやつ、ブルマに内緒だなんて言ったんだろうな?

 たまに他のやつに会うくらいいいんじゃねえか?」

「え?何言ってるんですか。嫌ですよ。

 自分の恋人が自分以外の女と、2人きりでご飯食べるとかだけでも、それ以上の何かあるんじゃないかって疑っちゃう」

 ここらへんの感覚は、やっぱり悟空さんにはわからないポイントなんでしょうかね。

 わかんないから夜更けに、アタシの部屋なんかに雑談しに来てるんだろうし。

 相手してるアタシも大概ですけど。

 そう思いながらも、一応説明は試みます。

 

「メシは食ってなかったぞ。

 2人でクチ、くっつけてただけだ」

「………は?」

「こんなふうに」

 …瞬間、何をされたのかわかりませんでした。

 悟空さんの顔が急に近くなったと思ったら、唇に何か、押しつけられたような感触が来て…え、ええっ!?

 アタシ、もしかして、いやもしかしなくても。

 ちゅー、されてました。悟空さんに。

 

「ちょ!な、な、な…!

 なんでいきなりちゅーしたんですか今!!」

「ん?『ちゅー』つーんか?

 これ、思ったよりキモチいいな!」

 いやキスとか接吻とかベーゼとか、呼び方は色々あるけど。

 ってそうじゃない!

 無邪気な顔で笑ってるけど、とんでもない事態だからこれ!

 

「おいマリン、逃げんなって。

 もういっぺんしようぜ!」

「しません!てか、何考えてるんで…んむっ」

 とにかく一旦距離を取ろうとしていっぱいに伸ばしたアタシの手を、悟空さんのひとまわり大きな手が捉えて引き寄せます。

 目の前が金色でいっぱいになり、再び唇が塞がれます。

 

「ダ、ダメです!

 こんな…恋人同士や、夫婦でするような事を、そうじゃない人と…」

「?オラ、チチとこんな事した事ねえぞ?」

「…嘘でしょ!?」

「ホントだって。

 …チチとはしねえ事だったら、おめえとはしていいんだよな?」

「そういう意味じゃな……っ!!」

 三たび唇が塞がれ、今度は深く、貪るように悟空さんの舌が、アタシのそれを求めてきました。

 耳元でシュインシュインの音が、一際大きく聞こえます…そうか!

 多分ですが今の悟空さん、スーパーサイヤ人常態化の修行が、まだ完了していないんです。

 つまりある程度までは制御できていても、本能に近い部分で軽い興奮状態にはなっていて、しかも修行によってそれが長時間持続していたわけで…うわあっ!

 待って待って待ってこれヤバイ!相当ヤバイ!!

 

「悟空さん!

 今すぐスーパーサイヤ人化を解いてください!!

 お願いですから……!!」

「悪ィな、マリン。なんかもう…止まんねえや」

 その言葉を最後に太い腕がアタシを抱き込み、鍛えられた逞しい胸板が、アタシの上に覆い被さってきました。

 

 ダメだ…もう逃げられない。




公開停止して完全に完結させたつもりが、唐突に絶望時空のマリンの想いを遂げさせてあげたくなった。
悟空はこういった方面の倫理観が薄いタイプじゃないかと思うんで、きっかけになる事があれば、意外と簡単にこうなってた気がする。

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