転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
17号さんが保護官になってから、動物保護区での密猟の検挙率が格段に上がったそうです。
本人曰く、
「パトロールといっても、この広大な自然公園内を、闇雲に移動して見回ったって意味がない。
奴らが出没するポイント、奴らが狙う動物たちがいるポイントを、把握しておく必要がある」
ということで、自分が守る動物たちの生態をより深く知るべく、同じ王立自然公園内にあるうちの研究所に、専門家の意見を聞きに通ってくるので、身体能力の高さや飛行移動が可能である故の機動性もさることながら、そういった効率の良さも、好成績に繋がっているようで。
てゆーか、平和な世の中で生きる事を決めたらすぐに仕事を探し始めた事といい、この人の行動、意外と地に足がついてます。
空飛ぶけど(爆)。
そういう冷静な判断はできるくせに、なんでセルに襲われたあの時、ピッコロさんだけじゃなく仲間の16号さんにも散々逃げろって言われてんのに逃げなかったんですか。
ためしに聞いてみたら、
「あの時はアタマに血が上ってたんだ。
絶対にセルのヤロウを、この手で倒さなきゃ気がすまなかった」
という、予想通りの答えが返ってきました。
ガキめ。
あとその時ついでに、
「だとしても、アタシがセルにぶっ飛ばされた時、なんでわざわざ受け止めたんですか」
って聞いてみたら、少し考えてから、
「あれは…なんとなく」とかほざきやがりました。
「だったらオレも聞くぞ。
おまえ、何故あの時、オレを助けようとした?」
…なにを言ってるんでしょうこの人は。
アタシの行動の根底に、例の「孫悟空さんの物語」があった事、アナタ知ってる筈じゃないですか。
前にそれについて話をした際に『自覚のない予知能力が、初恋こじらせた挙句相手(この場合悟空さん)を神格化し過ぎて暴走した結果』みたいな解釈をされてた事が判明して愕然としたけど。
それはともかく最終的には悟空さんが生き残る可能性を信じて(結局は、知識としてその運命を知っていただけで、変える事はそもそも出来なかったんだと、今ならば判るんですけどね)、まずはセルの完全体化を防ごうとしただけ。
そしてあの時のセルがまず欲しがっていたのが、彼にとって強化パーツのひとつであるアナタの肉体だったんですから、結果的にはアナタを助けようとした感じにはなってるかもですが、アタシ的にはそんなつもり、毛頭ありませんでした。
…けど、それ説明するのがめんどくさいので、とりあえずさっきの17号さんの言葉を真似て、「なんとなく」とだけ答えたら、
「なんとなくで命張るな、バカ」
って言われて、その後メッチャ喧嘩になりました。
あ、勿論物理はなしです。
この人が本気になればアタシなんか指ではじかれただけでもあの世に直行ですから、そこだけは感謝してます。
「帰れバカ────ッ!!」
って怒鳴って、応対してやってた研究室から追い出したら、後から研究所の女性職員数名から、
「あんな若い子に声荒げるとか大人気ない」
みたいな事言われました。
どうやらいつのまにかファン増やしてたみたいです。
イケメン爆ぜろ。みんな知らないんです。
コイツ顔はいいけど底意地も口も悪い、自信過剰のくそガキなのに。
そしてそんな事があった次の日に、しれっとした顔でまた来てるんですから、ほんとワケわかんないです。この人。
☆☆☆
「っははは、何それ。面白いじゃん、その女」
「冗談じゃない。
見てるこっちは危なっかしくて、面白がるどころじゃないんだ。
のめり込むと全く身の危険に頓着せずに突進する。
この間だってタロサウルスの生息域と植物分布の関係性を調べるとか言って、1人で湿地エリアに入って行こうとしたのを慌てて追いかけたんだぞ。
オレがいなければあの女、3回は確実に死んでる。
博士だかなんだかと肩書きはご立派なくせに、頭の中身はまるでガキだ」
「ならあんたとお似合いだよ。ガキ同士でさ」
「……うるさい」
「あれ、怒った?なら、これやるよ」
「ふざけてるのか?オレがこんなもの…」
「あんたに着けろなんて言ってないだろ。
彼女にあげなって言ってるの。
どうせあんたの事だから、わざと嫌がる事したり言ったりして、最後には怒らせてるんだろう?
たまにはご機嫌取らないと本当に嫌われるよ?
…まあ、もともとはわたしが可愛いと思って買ったモノなんだけど、似合わないって言われちゃってさ」
「…誰に?」
「………だ、誰でもいいだろ、そんな事///
それより要るの?要らないの?」
「…貰っとくよ。サンキュー、18号」
☆☆☆
…なんだかよくわかりませんが、今日は17号さんがいきなり研究室に入ってきたと思ったら(ちょっと待てセキュリティシステム仕事しろ)、小さな包みをアタシに握らせて、黙ってそのまんま帰っていきました。
いつもは色白な頬に赤みが差していたので、ひょっとすると体調を崩しているのかもしれません。
お大事に。
包みを開けてみたら、シルバーの台に不透明な深い青色に星のような斑点のある天然石が埋められたバレッタでした。
星の入った石って、言葉だけで表現するとドラゴンボールみたいですね。
そういえば髪をまとめる時に使ってるヘアゴム(100ゼニーショップで2本入り1セット。プラスチックの恐竜のチャーム付き)がそろそろへたれかけてきてるんでした。
ハーフアップにまとめた髪からよれたゴムを外し、かわりにそのバレッタを留めると、思った以上にしっくりきました。
うん、気に入りました。
今日からコレ使う事にします。
明日来たら改めてお礼言わなきゃ。
「お疲れ様で〜す…あ、マリン博士、髪留め変えたんですね!
その方が似合ってますよ!
ていうかあの子供みたいなヘアゴムはどうなのって、正直ずっと思ってました」
目ざとく見つけた女性職員が余計な言葉付きで褒めてくれました。
むー。アレはアレで可愛かったのに。
「見せて見せてー。
あ、外さなくていいですよ、それパワーストーンだから、できれば自分以外の人に触らせない方がいいやつ。
そのままそのまま」
「パワーストーン?」
時々聞くけど、アタシ、名前の由来が誕生石のトルマリンって割には、そっち方面あまり詳しくありません。
そう言ったら結構な確率で『3月生まれ?』って間違えられるんで、3月の誕生石にアクアマリンって名前の宝石がある事は知ってますが、本物見た事ありませんし。
「…まあ簡単に言えばお守りですよ。
石によっていろんな効果があるって言われてますね。
それは邪気払いの他に直感力を高めてくれる石。
マリン博士に合ってるんじゃないかな?
いいの選びましたね」
アタシが選んだんじゃないですけど。
でも確かこの人も17号さんファンの1人って事がこの間判明したんで、彼から貰ったものだなんて言ったら、多分大騒ぎされそうです。
それにしても、石になんらかの効果を期待するとか、やっぱりドラゴンボールみたいです。
たくさん集めて願ったらちっさい神龍さん出てこないでしょうか。
「そうなんですか。
この石の名前はなんていうんですか?」
「あら?知らないで選んだんですか?
ならきっと石の方が、マリン博士を気に入ったんですね。
そういう相性って大事みたいですよ。
ああ、この石ですね…
ラピスラズリ、です」
17号、18号の人間だった頃の名前は「ラピス」と「ラズリ」だそうですね。
ちなみに時系列ではセル編の後、マリンが亀仙人さんちに遊びに行って18号さんに会ったのがこの後日となります。
そしてその時にこのバレッタ着けてました。