転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

23 / 35
一応これで完結。ありがとうございました。


23・アタシ達は天使でした

 …人智を超えた力が、身体を貫く痛みを確かに感じました。

 瞬時に、自分は死ぬんだと判りました。

 操縦桿を握る手から力が抜け、ジェットフライヤーが傾いて……アタシの命の灯が消えるのと、墜落するのとどっちが早いでしょうか。

 ダメ、まだ死ねない。

 そう思っても、胸に空いた穴からは命がどんどん溢れ出して、アタシの力を奪っていきます。

 お願い、せめてもう少しだけ。

 怖がってアタシにしがみついてくる、この小さな命だけでもアタシが守らなきゃ。

 それができたらいくらでも死んでていいから、今は…今は動いてアタシの身体!

 でも、だけど。

 

 

 落ちていく…!

 

 

 守らなきゃいけないのに…

 

 

 アタシの…大切な…………!

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ……ジェットフライヤーの機体が傾くのを感じて、アタシは慌てて操縦桿を握る手に力を込めました。

 傾いた機体がそれでバランスを取り戻します。

 危なかった。

 操縦しながら白昼夢でも見てたんでしょうか。

 いや違う。アタシは確かに一度死んだ。

 天から何かが確かに、アタシの身体を貫いた。

 その感覚がまだ残ってる。

 そして、絶えた命を再び蘇らせる、その奇跡の力をアタシは知っていました。

 かつて間近に見た事がありました。

 また助けられた。きっとそう。

 だとするとあの人たちは、世界のどこかでまた戦っているのかもしれません。

 でも今は。

 

「トリン。

 ベルト外しちゃダメよ。大人しく座っててね」

「うんっ!」

 アタシの隣で、もうすぐ5歳になる末の息子が、夫によく似た顔で元気にお返事するのを確認してから、アタシは郊外にある小学校に向け、スピードを上げました。

 今は学校にいる上の子たちを迎えに行って、無事な姿を見るまで安心できません。

 何だかさっきからアタマの中に耳障りなノイズが響いてくる気がするけど、今はそんな事構っちゃいられないです。

 夫の安否も気がかりですが、あの人は下手すりゃこの地上で一番強い人です。

 きっと大丈夫。

 だからあの人が帰るまでは、子供達を守るのは、母親のアタシの役目なのです。

 

「ルビー!サファイ!」

 小学校のグラウンドにジェットフライヤーを着陸させ、末っ子を抱いて飛び降りると、アタシは子供たちの名前を呼びました。

 

「ママ!?」「ママー!!」

 と、アタシを呼ぶ、聞き違えようもない声に、アタシは考える間も無くその方向に駆け出します。

 それほど移動しないうちに、見つけました。

 10歳の双子の姉弟。

 正確にはアタシが産んだ子は下の子だけで、この2人は夫がある日突然連れてきた養子なんですが、今はもう関係なく、3人ともアタシの可愛い子供達です。

 

「良かった。

 2人とも無事だったのね…って、何してるの?」

 子供達の元気な姿を確認してホッとしたのもつかの間、アタシは子供達が妙な動きをしているのに気付きました。

 なにやら両手を空に掲げては、

 

「ほんとだ」「グワッとくる」

 とか言い合っています。

 

「聞こえないの、ママ?お空から声がするのよ」

「声?」

「そう、両手を上げろって」

 …なんのことでしょう。

 そう思った瞬間、先程からアタマに響いていたノイズが、急に人の声として、アタシの脳に認識されました。

 この声…まさか!

 

 

 

 

 

 …ち、地球のみんな!たのむ!

 

 たのむから元気をわけてくれ!

 

 みんなの助けが必要なんだ!

 

 空に手を上げてくれ!はやく!…

 

 

 

 

 

 ……悟空さん!!?

 

 間違いない、これは孫悟空さんの声です!

 何故か、なんて判らない。判らなくてもいい。

 悟空さんがどこかにいる。

 悟空さんはまた戦っている。

 アタシたち、地球のみんなの為に、必死で戦って。

 そして今、アタシ達の力を、必要としてくれている。

 涙が溢れて、視界が滲みます。

 でもその涙を拭う代わりに、アタシは…

 

 

 手のひらを、空に掲げました。

 

 

 悟空さん。

 アタシの声が聞こえますか?

 アタシの力を使ってください。

 アタシも一緒に戦わせてください。

 

 

 元気が、力が、想いが。

 空に吸い込まれていきます。

 どこかで夫の声がした気がしました。

 どうせいつもの、ちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべながら、ひょいっと手を上げてるんでしょうね、あの人も。

 気を感じない筈のアタシにも見えます。

 地球の心が、徐々に1つになるのが。

 人の想いが、力になるのが。

 

 

 

 それは、確かに奇跡でした。

 

 

 

 fin




ええと。
勘のいい方はひょっとしたら、一話目に説明されてるヒロインの名前の由来とか、成長してから一応動物学者になったあたりとかで、ヒーローが登場する前に予測はついちゃってたと思うんですが、はい。マリンのヒーローは17号さんでした。
なんのことか判らない方は「17号 その後」とかでググっていただければ、もはやなにひとつ物語が変化していない事実を、改めて目の当たりにする事ができるでしょう。
ついでに言えばマリンの専攻を爬虫両生類学にしたのは、ラストシーンにZでの例の恐竜の卵の話を持ってきて、悟空と2人で見に行かせてチチさんに怒られようと思ってたからなんですが、改めて見てみたら、あの話で悟空につきあったら普通にマリン死ぬ事に気付いてそれは諦めました(爆)
つかもとの構想ではヒロイン設定が全然違ってて、その時点での設定ヒーローがヤムチャさんだったとか今更言えないwww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。