転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
…えーと。
ほんとこのパターン何度目でしょう。
今アタシは、17号さんに姫抱きされて空を飛んでいます。
アタシの身体の事を気遣ってか、幾らかスピードは落としてくれているようで、セルに担がれて持ってこられた時より遥かに快適ではあります。が。
「おい、ちゃんとしがみついていないと落ちるぞ」
こいつイケメンのくせになんですかこのいい声。
これが間近で聞こえるとか死ねる。超死ねる。
「もうキャラメルシティの上空だ。
あそこの、一番大きな病院だったな」
「は、はい。
…あの、近くで降ろしていただければ、それで充分ですから」
「ここまで来て遠慮する事はないだろう?
ちゃんと最後まで送りとどけてやるよ」
いやいやいや遠慮とかじゃなく。
今多分、病院の方に戻ったら、あの日セルに殺された人たちが生き返ってるわけで。
かなり混乱してるとは思うけど、あの病院は研究所とも懇意にしている病院なので、医師や職員も顔見知りが多く、アタシが居ない事はすぐに判った筈。
そして生き返った中にはママだっているわけで、つか一刻も早くその無事を確認したいから、病院の方に戻ろうと思ってるわけだけど。
そんな中、男の子に姫抱きされて戻るとか、考えるだけで恥ずかしさで死ねます。
幸い生き返った際に神龍さんが体力もサービスしてくれたらしく、昏睡中に一気に衰えた筋力が通常時の感じに戻っていたので、近くで降ろしてくれたら自分で歩いて戻れますから!
そんなアタシの心の叫びに気がついたわけでもないでしょうが、17号さんは一瞬ニヤッと笑うと、何を思ったか飛行スピードを急に上げました。
「ひゃっ…ぎゃ───!!!!」
「もっとしっかりつかまっていろよ。
一気にいくぞ!!」
…絶対楽しんでやがりますこのどSイケメンが。
悪口になってないのがツライ。
この若さで今からこんなだと、この子の将来が思いやられます。
いや人造人間って歳取らないんでしたっけ?
だとしたら、見た目的には成長期半ばの少年なわけだけど、実際の年齢が見た目通りとは限らないんでした。
そういやさっき説教されたし。
でもやってる事はガキっぽいし、よくわかりません。
とりあえずドキドキするのはきっと猛スピードのせいです。そうに違いありません。
アタシはもう大人なんで、吊り橋効果なんかに騙されません。もう大人なんで。
一番入りやすいからとセルが壊したままの、病院の休憩室だった部屋の窓から、アタシを抱いたまま飛び込んでスタッと着地した17号さんを見て、その場にいた数人が目をみはりました。
アタシはその場で17号さんの腕から降りようとしましたが、何故か17号さんはアタシを離してくれず、そのまま歩き出します。
と、17号さんが歩くごとに足元で、ガリッとかパリッとかいう音がしました。
見ると部屋の床全体に、割れたガラス片が散らばっています。
あ…そういう事ね。
うっかり降ろしてもらってたら、裸足で踏んで怪我をするところでした。と、
「マリンちゃん!?」
ガラス片の散乱する休憩室から廊下に出たところで、聞き間違えようもない声がしました。
「……ママ!?」
声のした方に目をやると、ちゃんと、最後に見たあのワンピース姿のママが、こっちに駆け寄ってくるところでした。
アタシの反応に17号さん、多分ですが足元にもうガラスがない事を確認してから、そっとその場にアタシを降ろします。
「マリンちゃん、無事だったのね!
怪物が襲ってきて、目が覚めたら、あなたがどこにもいなくて、てっきりあの怪物に食べられちゃったのかと…!!」
そのアタシに体当たりするように抱きついたママが、そう言いながらえぐえぐ泣きじゃくります。
ええまあ最終的にはアタシもそうなりましたが、先にセルに食われたのあなたの方ですからね?
と心の中ではツッコミ入れつつ、ママの顔を見たらホッとして、アタシの目頭も熱くなりました。
「じゃあな」
一瞬存在を忘れかけていた声に振り向くと、17号さんが背中を向けて、軽く手を振るのが見えました。
「待って!…あの、色々ありがとう」
アタシに抱きついてるママの背中をぽんぽんしながらアタシが言うと、17号さんが歩き出した足を止め、もう一度こちらに向き直ります。
「教えろよ」
「はい?」
「さっき、やりたい事がないのか聞いた時、一瞬何か思い出したって顔をしてた。
あるっていうなら、聞かせろよ」
…意外と鋭いですねこの人。
いやアタシが顔に出やすいだけか。てゆーか…
「…いやです。絶対笑いますから」
「笑わないって。いいから教えろ」
あーもういいじゃないですかアタシの事なんか。
けど、なんでだろう。
聞かなきゃこの人、絶対引き下がらなそうです。
「子供の頃の、つまんない夢ですよ。
…大好きな人と、結婚したいって、それだけ」
アタシの答えを聞いて、17号さんは一瞬なんとも言えない表情を浮かべ、それから再び背中を向けて、
「またな」と言って歩き出しました。
…が!
いやアイツ背中震えてるし!
笑わないって言ったくせに嘘つき!
やっぱり言うんじゃなかった──!!