転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件   作:大岡 ひじき

20 / 35
20・多分ですがあっさり丸め込まれました

「…まったく。

 人の服をビショビショにしやがって。

 よくこんなに泣けたもんだな。感心するよ」

「ありがとう」

「褒めてない」

「知ってます。

 そうじゃなくて…一緒に居てくれて」

「……フン」

 アタシの言葉に17号さんは、ムッとしたような表情で、アタシから視線を逸らしました。

 うん、すっごく迷惑だったとは思ってます。

 ごめんなさい。

 でも、アタシ1人だったら耐えきれず、絶対心が壊れてました。

 多分ですがもう大丈夫。何とか落ち着きました。

 完全に割り切れたわけではありませんが、うん。

 落ち着きました。

 

「ごめんなさい。

 そろそろお姉さんの無事、確認したいですよね?

 多分このタイミングなら、カリン塔付近を飛んでいると思いますよ。

 行ってあげてください」

「…それもおまえの言う『この世界の物語』ってやつか?」

 

 

 …そう。

 ここに至るまでの間、いきなりしがみついて号泣し始めたアタシに戸惑いながら、意外にも何とか宥めようと、言葉をかけてきてくれた(多分離して欲しかっただけだと思う)17号さんに、アタシはすべて話してしまっていました。

 幼い頃から知っていた、希望(ねがい)の珠の物語。

 孫悟空さんと仲間たちの冒険譚。

 途中から絡んできたアタシの人生。

 いつからか、必ず変えようと動いてきた、悟空さんに待つ死の運命。

 結局変えられなかった結末。

 …ただ、何故それを知っていたのかという点だけは、説明する事ができませんでした。

 セルに飲み込まれる前までは、確かに覚えていた筈なのですが、今は何故かそのあたりだけ、すっぱり切り取られたように、記憶から抜けているのです。

 考えても思い出せないものは仕方ないと、今はその問題はわきに置いといてますが。

 ひょっとしたらセルに吸収された一時的な影響で、後からふっと思い出すかもしれませんし、もし思い出せなくても、当面困る事はなさそうです。

 悟空さん風に言うなら『ま、いいか!』です。

 そして一通り話し終え、アタシの涙が止まりかけた頃、17号さんはアタシを見つめ一言、「傲慢だな」と言い放ったものです。

 

「どういう意味…ですか?」

「意味も何も、そのままさ。

 確かに孫悟空の運命を、お前は知っていたんだろう。

 だが、お前本人の運命は?

 それもちゃんと判った上で、孫悟空の運命を変えようとしていたのか?

 さっきから聞いていれば、そもそもがお前の人生、大半が、孫悟空で構成されてると言っても過言じゃない。

 だけど、孫悟空はあくまで孫悟空で、お前じゃないんだ。

 自分すら確立していないヤツが他人を変えようなんて、傲慢以外の何ものでもないだろ」

 そんな事を言われても…アタシの知る『この世界の物語』には、『マリン』の存在なんてなかったんですから。

 ただそう言われて初めてアタシは、他の人のこの世界の歴史は知っているのに、自分の歴史だけは知らないという事実に気付きました。

 そもそも今までそんな事、考えたこともなかったんです。

 

「アタシの…人生」

「そんな大袈裟なものじゃなくてもいいさ。

 当面の目標とか、夢とか、やりたい事とか。

 …何かないのか?」

 …いきなり言われても思いつきませんけど。

 あ、でも…。

 

「…なんてな。

 とりあえずの目標として孫悟空の命を狙って、それを果たさないうちに、その孫悟空にさっさと死なれたオレに、言われたくはないだろうけど。

 これからの目標が欲しいのは、オレも同じさ。

 でもそれだって時間をかけて、じっくり探すのも楽しいんじゃないか」

 そう言って17号さんは、悪ガキみたいな顔で笑いました。

 せっかく綺麗な顔してるのに台無しです。

 でも確かにそうです。

 考えれば子供の頃、目の前にぶら下げた当面の目標の為なら、アタシはいくらでも頑張れました。

 悟空さんを見に行きたくて、お勉強やお手伝いを頑張っていたあの頃の自分を、今思い出すべきかもしれないです。

 まずはその、当面の目標を設定しないといけないわけですけど。

 てゆーかさっき、子供の頃から思っていて、まだ叶えられていない夢が、ひとつだけあったのを思い出しましたけど、そっちはもうそれこそ、ドラゴンボールでも使わないと無理な気がします。

 

「ようやく落ち着いたようだな。まったく。

 人の服をビショビショにしやがって。

 よくこんなに泣けたもんだな。感心するよ」

 気付けばアタシの涙は完全に乾いていました。

 

 

 

「そうか…まあでも、18号を捜すのは別に後でもいいかな。

 というより、オレが今ここからいなくなったら、お前が困るんじゃないか?」

 先の問いにアタシが頷くのを見て、17号さんは少しだけ考えてから言いました。

 その言葉の意味が瞬時にわからず、アタシが聞き返そうとすると、少し馬鹿にしたように笑います。

 

「やれやれ。気付いていないのか?

 ここは無人島なんだぜ。

 乗り物なんか勿論出ていないし、そもそもお前はセルに連れられてここに来たんだろう?

 舞空術も使えないんだろうし、オレがいなかったら、どうやって帰るつもりなんだよ?」

 …17号さんの言葉に、アタシはサーッと血の気が引くのを感じました。

 言われてみればその通りです。

 ドラゴンボールで蘇った人は、基本的には死んだ場所で復活します。

 あの世で肉体を与えられた魂は例外ですが。

 そうそう、ナメック星で命を落としたクリリンさんが蘇って来る際には、事前に魂を地球に移動させる手順が必要だったんでした。

 だから、セルに吸収されて殺されたアタシ達が、ここで生き返ったのもその法則通りなんでしょう。

 そして、アタシがここにいた事を知っているのは、多分ピッコロさんと天津飯さんだけの筈。

 その2人に思い出してもらえなかったら、アタシ多分この島で、サバイバル生活突入です。

 しかもこの島、あの戦いで結構破壊されてますから、更に生存状況が厳しくなります。

 あの緑のナメクジ許すまぢ。

 自然は大切にしろよ!!

 いえごめんなさい許してください。

 お願いだから迎えに来て。

 でなきゃ死ぬ。今じゃなくても絶対死ぬ。

 アタシの想像が絶望的な方向に進んでいったあたりで、17号さんが堪え切れなくなったように吹き出し、その後喉の奥で笑ってるのが聞こえました。

 こっちは真剣に悩んでんのに。滅べ。

 すいませんなんでもないです。




この件も劇中で説明するのが多分不可能なのでここで。
セルに一度殺されて生き返った時、元々この世界の存在である『マリン』だけが再構成され、過労死して転生した40女の部分は、そのまま消滅してしまいました。
それにより転生者であるという記憶はマリンから永遠に失われ、それでも彼女のそれまでの芯となっていた、ここまでの原作知識だけが辛うじて残りました(←ここまで消えてしまったらマリンの人生自体がスッカスカになる)。
そして転生者である記憶を失った結果モブという意識も当然消え、『マリン』は完全にこの世界のキャラクターの1人となって、実は今や望めば物語をいくらでも動かせる存在になりました。
しかし、そうなる直前に歴史の修正力さんが最後のお仕事をした為、ブウ編以降の原作知識も、今はマリンの中から消えております。
意味ないじゃん(爆)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。