転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
………………マリンです。
今、セルさんに担がれながら空を飛んでいます。
いい加減このパターン飽きました。
どうしてこうなった。
つか病院から拉致られたので思いっきり病衣姿で、しかも高速移動なんで初夏なのに寒くて仕方ないですが、はいわかってます。
お弁当の分際で文句なんか言いませんよ。
…泣いていいですか。
☆☆☆
「セル…………!!」
アタシがその場にへたり込みながら思わず呟くと、セルさんが少し驚いたように目をみはりました。
こんな非人間的なフォルムでも意外と表情判りますね、この人。
彼の名はセル。
ドクター・ゲロさんが作り上げた、強者の細胞を集めて合成したキメラ型の人造人間です。
この時代では幼生でまだ培養カプセルの中で育成中の筈ですが…あれ、そっちはもう潰してあるんでしたっけ?
まあそれはそれとして、ええと確かミランクスさんが2人の人造人間を倒した更に未来、そのミランクスさんを殺してタイムマシンを奪い、この時代にやってきて…この時代の2人の人造人間を吸収して、『完全体におれはなる!』ってやつでした。
「…ほう。
わたしの名を知っているとは…おまえも孫悟空の仲間か?
コンピューターにはおまえのデータはなかったが」
いやあったら逆に驚きますよ。
びっくりするほど一般人ですから。
つかそもそも『仲間』ではないと思います。
単なる知り合い程度です。
孫悟空さんの『仲間』を名乗れるスペックがあるなら、そもそも今ここにこうしてはいない筈ですしおすし。
アタシが黙っているとセルさん、アタシの目線まで屈み込むと、何を思ったかアタシの身体をまさぐり始めました!
え?ちょっと何!?
「…それにしてはひ弱な身体だな。
気を抑えているわけでもない。
…つまらん、ただの人間か」
…アタシの唯一の自慢のGカップを普通にスルーして、セルさんはこう独りごちます。
良かった、此の期に及んで「ん〜、おっぱい」とか言いだしたらどうしようかと思いました。
…呑気な独白してるとお思いでしょうが、これで結構動揺してます。
つかコイツ、状況的に考えると間違いなくうちのママも、ムシャムシャごっくんごちそうさましちゃってる筈なんですけど、ママの死体を見ていないせいか理性が理解を拒んでるのか感情が状況についてきてないのか、全然実感がわいてきません。
「だが、わたしの名を知っているという事は、まったく無関係というわけではあるまい。
…どうした?怯えて声も出せんか。
怖がる事はないぞ。
おまえもこれから、わたしの一部となるのだからな。
これからわたしが得る究極のパワーの、その礎となるがいい」
弄うように笑いながら、セルさんがアタシの目の前に、例の尻尾をチラつかせます。
それを見て麻痺していた恐怖が一瞬で蘇り、逃げ出そうとしたアタシの肩が、痛いくらいに掴まれました。
ダメだ、もう逃げられない。
と、今まさにアタシの胸元に尻尾を突き刺そうとしたその瞬間、そのセルさんの動きが止まりました。
そしてアタシの身体を掴んだまま、突然立ち上がります。
「この激しい気はあの、神と合体したピッコロだ…!!
あいつがこれほどのパワーで戦う相手は…17号達しかおらん!!
見つけたぞ!!いいタイミングだ……!!」
え、ちょっと待ってもう今そこなんですか!?
だとしたらとりあえず一番欲しいものは見つかったんでしょうから、アタシの事はもう離してください。
一縷の望みに縋ってアタシが暴れると、セルさんの手が一瞬緩みました。やった!
そのまま離れようとしてもつれる脚を、それでもアタシは踏み出そうとしましたが、その動きを予想していたかのようなタイミングで、もう一度捕まえられました。
そのままアタシの身体を小脇に抱え直すと、もう片方の手で気弾をつくり、それで窓を破壊します。
「すぐに行く!!待っていろ!!!
わたしのパワーは、既におまえ達を超えているのだ!!!」
…ちなみに『パワー』の発音がどう聞いてもいちいち『パゥワー』なんですがそんな事はこの際どうでもいいです。
セルさんはアタシを持ったまま、その(元)窓から猛スピードで飛び出しました。飛び立つ際に「ぶるるあぁぁあ」とか叫んでた気がしますが、どんだけテンション上がってるんですか。
「永い間この日が来るのを待っていたぞ!!!
わたしが完全体になる日をな…!!!」
なんかもうメッチャ高笑いしてるんですけどこのセミ。
アタシが連れてこられたのは、方角的には多分武天老師様が住んでいらっしゃる地域の近くにある、小さい無人島の1つだと思います。
そこの岩山の高台に、セルさんはアタシを抱えたまま降り立ちました。
飛行中の揺れからくる若干の吐き気に耐えながらやっとの事でセルさんを見上げ、次に彼が向いている方向に目をやると、マントとターバンを外した本気モードのピッコロさんが、黒髪の小柄な男の子と対峙しているところでした。
「ピッコロさん!」
思わず発したアタシの声に、ピッコロさんが反応します。
「……マリン?」
そして反射的に振り返ったその目が、次には驚きに見開かれました。
「セ…セル…!!!し、しまった……!!!
戦いに気をとられて接近に気がつかなかったか…!!」
そしてピッコロさんの注意がこちらに向いたのに気付いて男の子、おそらく人造人間17号さんが、構えたままこちらを向いて、訝しげな表情を浮かべました。
その後方の少し離れた場所に、びっくりするほど綺麗な女の子と、大柄な男性の姿も見えます。
あちらは18号さんと16号さんでしょう。
「なんだあいつは…胸についているレッドリボン軍のマークからすれば、あいつもドクター・ゲロの人造人間だとは思うが……」
セルさんがアタシと同じ方向を見て独りごちます。
ああ、そういえばセルさんはミランクスさんの時空から来たから、そこに16号さんはいなかったんでしたね。
そんな義理もないからわざわざ教えてあげませんけど。
「まあ、どちらにしても過去のモデルだ。
無視してもよかろう…」
そう1人で結論を出して、セルさんはアタシを持ったまま、ひょいっと岩山を飛び降りました。
いやちょっとほんとにやめて。
そもそも病み上がりで歩くのも一苦労だった上に、病衣のまんまで高速移動して手足が完全に冷え切ったせいでほんとに今動けないんで、抵抗もままならないですけど。
アタシの事お弁当として連れて来たのなら、せめて日当たりのいい平らな場所にレジャーシートくらい敷いてそこに置いといてください。
いややっぱりなんでもないです。
想像したらシュール過ぎて鼻水出て来ました。
っくしゅん。
と、セルさん、一瞬ニヤッと笑ったかと思えば、いきなりアタシを、ピッコロさんに向けてぶん投げました!
ぎゃ──────!!
アタシひょっとしてお弁当じゃなくて投擲用の武器だったんですか!?
いや違うわ!
多分テンション上がり過ぎて、手に持ってた事忘れてただけだわ!!
次の瞬間アタシは、病衣の背中をピッコロさんに掴まれてました。
ありがとうピッコロさん。
それと同時に、セルさん…ああもうコイツにさん付けすんのやめた!
ほんとこのセミむっちゃ腹立つ!
お前は今からアタシの中でベジータと同格だ!
というわけでセルが身体全体から気を発して、その衝撃波で、アタシ達がそれまで居た岩山を粉々に粉砕しました。
ピッコロさんはそれを見て、アタシを掴んだまま呆然としています。
「どうする?ピッコロ…。
ジャマをしたければ、遠慮なくかかってこい」
そのアタシ達の横をセルは悠々と、含み笑いしながら通り過ぎました。
ピッコロさんの指から力が抜け、アタシは当然地面に落とされます。
痛っ!痛い痛いお尻打った。
ピッコロさんヒドス。
もうアタシ緑色のやつは信用しません。
「そ…そこまでパワーアップをしていたとは………
き…貴様いったい、何人の命を犠牲にしたのだ……!!」
「犠牲?
わたしのパワーの一部になれたのは、むしろ光栄というべきだ」
そんなわけあるか。うちのママ返せセミ野郎。